僕と姉貴の非日常   作:宵闇@ねこまんま

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天まで届く羽―始まりの朝―

001

 

 昔、何かの漫画のキャラクターが言っていた。

 

「人はいつ死ぬんだと思う?それは人に忘れられた時だ」と。

 

 なんでこんな言葉を冒頭から紹介したのかというと、別に僕が死の瀬戸際で、死にたくない、覚えていてくれと言いたいわけではなく。

 

考えて欲しいのだ。

 

僕はこの言葉をなんとも嘘臭い、もしくは時代にそぐわない、戯れ言だと思っている。

 

現代において、死はそこまで記憶に残るものではなく、忘れられない死、なんてものは死者との関わりが深かった者にあるぐらいであり、それだって死んだことを認められた上での記憶だ。

 

 この言葉がそんな生死に縛られた話ではなく、あくまで存在という概念について言及していることは知っている。

 

 だからって、人は心の臓が止まればただの肉塊、人から肉塊へと存在が移り変わるのだ。

 

多くの人が見ている偉人の存在は、あくまでその人ではなく、抽象化、あるいは理想化、幻想化された存在なのだ。

 

僕はそんなひねくれた見解を持ってしまう。

 

 さて、本題に入ろう。

 

今から話す物語に僕は自分なりの見解を得た。

 

 しかしそれは必ずしも正しいとは限らない。

 

故に聞かせて欲しいのだ。

 

君の『見解』を。

 

僕も話しているうちに新たな見解を見つけるかも知れない。

 

 これは過去との再開であり

 

これは未知との邂逅であるのだから。

 

僕の趣味思考に付き合わせてすまない。

 

まぁ付き合ってくれ。

 

まずは登場人物でも紹介しよう。

 

僕こと

梛川神音(なぎかわ しおん)

 

 

姉貴こと

梛川神那(なぎかわ かんな)

 

 

クラスメイトの

天羽夢亜(てんば むあ)

 

 

 以上三名が主役かな。

 

 まぁサブキャラとして、やたら馴れ馴れしい情報屋や、野球バカなどもでてくる。

 

彼らはいずれにしても主役級のキャラだが、今回は裏方にまわってもらう。

 

 また今度、話そう。

 

 では、始めよう。

 

天までのぼる妖鳥の話を…。

 

002

 

朝、目を覚ますとやけにはっきりとした自分の部屋の天井が見える。

 

 そんなの当たり前だろ?というツッコミが聞こえてくる気がする。

 

 といってもこれが僕の日常であり、実は他人にとっての非日常なのだからしょうがない。

 

普通の人は暗い所に行くと目が見えにくいらしいのだが、僕には、はっきり見える。

 

洞窟だろうがお化け屋敷だろうが、地面に落ちているホコリがはっきり見えるくらい。

 

普通の人は明るい場所と暗い場所では目の中の瞳孔が光の量を調整するのだが、それが極端に速い、と言えば化学的に説明できる。

 

 まぁ怪異の能力に化学のメスを入れるのは無粋、または無駄というものだ。

 

 これは僕の持つ数少ない吸血鬼スキルの『超視力』によるものである。

 

 これで遠くのものがはっきり見え、暗闇でも昼間と変わらず、例えるなら暗視カメラのようにはっきり見えるらしいのである。

 

 らしい、というのは、考えれば分かるが、他人の目線で物が見れるわけではないので断定はできない。

 

全世界が僕に向けたドッキリかも知れないし。

 

 その場合、僕は人間不信ならぬ、世界不信になるだろうから、それは嫌だな。

 

 いつまでも僕の日常を語っていてもつまらないだろうし、そろそろ動きだそう。

 

 ベッドから降りてドアを開ける。

 

季節は夏の始まりを表しているように、徐々に暖かくなってきた。

 

 つまりは初夏だ。

 

5月18日

 

肌寒かったシーズンはとうに過ぎ今は上半身半袖、下半身も半ズボンという格好である。

 

今は比較的過ごしやすいが、もう少ししたらきっと暑さで眠れなくなるのだろうなぁ。

 

 なので、今のうちにこの過ごしやすい気候を味わおう。

 

 なんて、よしなしごとを空想した。

 

腹の虫が先程から僕の腹を食い千切り、日の光を浴びようと必死らしいので、朝食を頂くために自室から出た。

 

 しかし、朝食を手に入れる前にやらなくてはならない僕の日課がもうひとつある。

 

 それは僕の隣の部屋で昨晩も夜更かししていたであろう姉貴を起こすことである。

 

「姉貴ー、朝ダゾー、鶏が叫び声をあげたゾー」

 

 どうにも感情が入らないように聞こえる声で扉をノックしながら姉貴を呼ぶ。

 

「入るよー」

 

返事のない姉貴の部屋に入ると、窓がない真っ暗な(明るく見えるが)部屋の中央のベッドがモゾモゾと動いていた。

 

「んん…、あと五分…」

 

「五分あったらカップラーメンが伸びきっちゃうゾー。起きてー、鶏が必死になって断末魔をあげて姉貴を起こそうとしてるのに姉貴は鶏の気持ちに答えてやらないのかー」

 

別に断末魔をあげている訳ではないだろうし、朝ごはんはカップ麺ではないのだが、まぁ姉貴を起こすためだ。

 

多少の過大表現は致し方ない。

 

「鳥肌はちょっと無理かなー」

 

布団の中から曇った声で返事をする。

 

 というかそんな真面目に返事しなくても…。

 

小学生の頃、友達に「お前血液型何?」と聞かれて「クワガタ」と答えたら「虫ごときが我の視界に侵入するな!」と怒鳴られたことを思い出した。

 

あいつら元気にしてるかな…。

 

話を戻そう。

 

「じゃあ、どうしたら起きてくれる?」

 

 こういう時には、譲った方が早い。

 

 だてに15年間姉貴と一緒に居る訳じゃない。

 

「むぅー、しおんが『お姉ちゃん、起きて。起きないと可愛いほっぺにチューしちゃうよ(はーと)』って言ったら起きるかもー」

 

 …今、確実に調子に乗ったな。

 

 これはお仕置きが必要だね。

 

「姉貴、起きないと朝飯にわさびとカラシと豆板醤仕込むよ?」

 

「はいっ!今起きた!だからわさびとカラシと豆板醤は勘弁してください!」

 

 ガバッと布団から金色の物体が飛び出て来た。

 

「うぅ 、神音たら酷いよ…。昨日の夜は忙しかったんだから…」

 

寝ぼけ眼で抗議するが、効果は期待できない。

 

上半身には何も着けず、パンツのみはいて寝るというアメリカンなスタイルでベッドから飛び出てきたのは、長く延びる金髪をくしゃくしゃにして綺麗な碧眼をこちらに向ける僕の姉、梛川神奈だ。

 

「どうせゲームしてたんだろ。学校も『一応』あるんだから、朝は起きないと」

 

「そうだけど…。お姉ちゃんを激物で脅すなんて…」

 

 この姉、大の辛いもの嫌い。

 

本人曰く、「辛いもの全般は私を殺す為に生まれてきたんだよ!」と。

 

人類の食文化をなんだと思っているのだろう?

 

 そして姉貴にはこの起こし方が一番成功率が高い。

 

何故、すぐにやらなかったかって?

 

 そりゃ、抵抗する姉貴のリアクション見るために決まっているじゃないか。

 

以外とSっけのある僕だったりする。

 

「劇物じゃなくて、食べ物だからね」

 

一応訂正しておいた。

 

「しおんー、今日の天気はー?」

 

「今日は一日中雲ひとつない快晴だそうだよ」

 

「じゃあ、今日も休むね。学校の誰かに言っといてー」

 

 さらにこの姉、晴れの日は学校に行かないときた。

 

 ちゃんとした理由があるんだけども。

 

「とりあえず、朝飯だけでも一緒に食べようよ」

 

朝の食事は家族全員で、というのが我が家のルールだ。

 

「うん、わかった。着替えたら行くねー」

 

腰がしっかりと括れて、豊満な胸に掛け布団を乗せているその姿は、身内ながら惚れ惚れする。

 

「んー、なるべく早くねー」

 

 そう言いながら姉貴の部屋から出ていく。

 

 そして階段を降り家族に、両親に遭遇。

 

 …当たり前か。

 

「神音、おはよう」

 

「おはようございます、父さん」

 

 まずは父さんに朝の挨拶。

 

父さんは見た目はエリート、中身はチート。

 

家族の吸血鬼体質のおかげで昼間でも家は暗い、真っ暗なのだが、昔、父さんに不便かどうか聞いたところ、

 

「こんなの0.5秒ありゃ慣れんだろ」

 

 だそうだ。

 

僕にはよくわからないが、これはすごいらしく、他にもチート話は絶えない人だ。

 

「しおん、おっはー♪」

 

「おはよう、母さん」

 

朝からテンションが高くて、おんぷマークまでつけてる我が母君。

 

たまにこれがダルくなるときがある。

 

(口には出さないけど、出したら父さんに殺される)

 

朝食を作るのは、僕と母さんが代わりばんこにやっている。

 

 なんて親孝行な息子だろうか。

 

今日は僕。いつもどうりトーストにジャム、目玉焼きにハム、野菜。実に家庭的だ。

 

実に家庭的で、日常的だ。

 

 だが言わせてもらいたい。ここまでが日常だ。

 

姉貴が朝飯を食べるためにリビングに来ると、一般的に言う非日常に成り変わる。

 

一般的な非日常がなんなのか知らない僕らからしたら限りなく普通の日常なのだが。

 

003

 

「おはよー、お母さん、お父さん」

 

姉貴が上下黒のスエットを来て階段から降りてきた。

 

服装はだいぶましになったな。

 

 ひと安心だ。

 

「おはよう、神那」

 

「おっはー、かんな♪」

 

丁度、朝飯の用意ができた。姉貴と母さんは少し別メニューだが…。

 

僕と父さんは前述した通りだが、姉貴と母さんにはスペシャルメニューが付く。

 

姉貴達(時々僕も)は牛乳の代わりに赤い液体、…『トマトジュース』、とかではなく、…『血液』だ。

 

これが僕らの日常。

 

血液を不味そうにストローで吸って、トーストをかじる。

 

 そんな朝の食卓。

 

驚かないでほしい。

 

母さんは100%吸血鬼だし、姉貴は70%ぐらいは吸血鬼性がある。

 

故に、なるべく頻繁に血液を得なくてはならない。

 

目安としては2日に一度。

 

最低5日飲ませないと、禁断症状がでる。

 

禁断症状というのはつまり…、『人』を『襲う』という事だ。

 

姉貴も過去に何回かその状態に陥ったが、正直…見ていられなかった。

 

それほどに醜かった。

 

家族が揃った所でいつもの挨拶。

 

「「「「いただきます」」」」

 

…僕らはこの言葉を欠かしたことはない。

 

命の大切さを知っているから。

 

命の尊さを知っているから。

 

 そして、命の重みを『喰らって』いるから。

 

吸血鬼は人間離れしたスキルをたくさん持っている。

 

 しかし、その分エネルギーの消費も激しい。

 

 だから、吸血鬼には『血液』が必要なのだ。

 

心の臓を動かす源が、他者から奪ってでも。

 

―――――――――――

 

 

「ごちそうさま」

 

終わりはみんな食べ終わった人から片付ける事になっている。

 

気づけば時計の針は7時45分を過ぎていた。

 

僕はあわてて学校への準備をする。

 

無遅刻無欠席を目指しているからね。

 

当たり前の事を当たり前にする。なかなか難しい課題だったりする。

 

その五分後、

 

「行ってきます」

 

学校指定の学ランを来て、僕は学校へ向かった。

 




これは僕の処女作(大げさ)であり、いまだ完結していない物語です。
完結していない理由としては、僕のものぐさが原因なのですが。
しかし最近、いい加減完結させねば、と思い立ったのですが、設定等を忘れている部分があると思うので、加筆修正兼内容を思い出すため兼宣伝のために小説家になろうに書いていたものをこちらに週一程度のペースで投稿し、完結へ動き出そうということにしました。
この章は完結し、次章でとまっているところなので、もし続きが気になる方がいたら小説家になろうで見てください。
無事完結できることを願って。

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