視える少年と新たに輝く少女たち 作:黒ニャンコ先生
まあその余韻に浸る間も無く翌日には劇場版SAO観に行ったんですけどねーっ!
「………………」
「なーに黄昏てんだ。似合わねーぞバカみかん」
「涼ちゃん」
どこに居るのかと思えば、こんな所に居たのか……人の居なくなったのステージに立っているチカを見つけ、やっと見つけたことに嘆息すると近づきながらその背中に声を掛けた。
ほんの1時間前まで満員だった横浜アリーナ。今は観客もスタッフも完全に撤収し、残っている人間は誰も居ない。
「……凄いよね」
「あ? 何が」
「チカたち、今日、ここでライブをしたんだよね。ここに来てくれたお客さんだけじゃなくて、ライブビューイングで世界中に居るAqoursのファンに、私たちのパフォーマンスを見てもらったんだよね」
「今更何言ってんだ? 頭でも打ったか?」
「えへへ……打ってはいないけど、今でも夢の中に居るみたいで足元がふわふわ~ってしてる気がする」
「安心しろ、ちゃんとお前の足は2本とも地面に着いてっから」
「そーじゃなくてさぁ……涼ちゃんって幽霊とか見えるのにリアリストだよね」
チカの隣に立ちながら答えていると、俺のリアクションにチカはぷくっと不満そうに頬を膨らませる。
相手が幽霊や妖怪だろうと、見え、触れ、言葉を交わせるんだったらそれは現実だと認識するしかないだろうが。つーか皮肉だってのそれ。
「皆……楽しんでくれてたかな」
「……逆に聞くが、そう言うお前はどうなんだよ?」
「チカは……すっごく楽しかったよ。こんなに大きな会場で歌って、踊って……本当に楽しかった」
「ならそれが答えじゃねーの? 自分たちが楽しくない物を見せたとして、それを見てるギャラリーも楽しめるワケがねーし」
「そっか……そうなんだよね。そうだと、いいな……」
……なんか、こうも大人しいとオレの方が調子が狂ってくるな。
まあチカはチカでAqoursのリーダーとしての重圧を背負いながらこの2日間をやりきったんだ。感慨深くもなるか。
それに実際、オレが見る限りの範囲でもAqoursのパフォーマンスに笑顔を見せている奴しか居なかったし。
「ねえ、涼ちゃん。涼ちゃんはどうだったの?」
「何がだよ」
「チカたちのライブ、楽しんでくれた?」
「あー……まあ普通」
「えぇ~……そこは「凄かった! 感動した!」って言ってよ~」
素っ気無い返しにチカはしょげて、アホ毛までしなってしまう。
まず、チカの例えはオレのキャラじゃねーから絶対に言わない。あとそう言う感想を期待もするな。
「知るかよ。んな事より皆がお前の事探していたんだよ。さっさと合流するぞ」
「はぁ~い……」
意気消沈したチカはがっくりと肩を落としたまま、とぼとぼとオレの後ろをついて歩いてくる。
……ったく。メンドーなヤツだなこの幼馴染は。溜息と共に俺は足を止めた。
「――凄く、良かった」
「……………ふぇ?」
「ほら、さっさと行くぞ」
きょとんと見上げるチカを無視し、再び歩き出す。
しばらくポカーンと間抜け面を晒していたチカだったが、徐々に嬉しそうな顔をしてくると俺の隣に駆けてきた。
「ねえねえっ、今なんて言ったの!?」
「なんにも言ってねーよ。空耳だろ」
「言ったよ! 確かに涼ちゃんが言った! ねぇ、凄くなに? 本当にそう思ってるの!?」
「ッ……っさい黙れ。それ以上言うと絞めるぞ」
「ね~え~~~っ! お願いだからもう一回言って……ぐぇっ!」
「ああ、言ってやるさ。それ以上言うと絞めるってな」
「そっちじゃ、ない……って……! ちょ、絞まってる絞まってる、本気で絞まってるぅぅぅぅ!」
騒ぐチカをヘッドロックを掛け、そのままの状態で引きずってホールを後に。
ああ、さっきのは気の迷いだ。言ってやるんじゃ無かった本当に!
腕をタップするチカの懇願は一切聞き入れず、かと言って失神させないように絶妙な力加減で絞めたまま皆が居る場所へ引きずって行った。
……その後、解放されたチカがまたも虚言を吐こうとしていたので、手加減無しの上段飛び後ろ回し蹴りでKOしたのは言うまでも無い。
※
「え~……横浜アリーナ2デイズのライブ、途中アクシデントもあった物の、どうにか建て直し総じて成功といっても良い内容で終了し――おい、何でオレが音頭とんなきゃなんねーんだ」
「それはほら、どこかの誰かがリーダーを上段飛び後ろ回し蹴りでKOしちゃって出来なくなっちゃったから」
打ち上げ会場で何故かオレが音頭を取ることになり、渋々やりながらもやっぱりこれはおかしいと思い至って思わず突っ込んだ。
そうしたら曜の冷静かつからかうような突っ込みにオレはあからさまに舌打ちをする。
「……時に曜はまだまだ物足りないようだし、その辺全力で走ってきても構わないんだぞ? むしろやって来い」
「りょーうー、せっかくの打ち上げなんだしそう言うのはナシ。良い?」
「チッ……えー、長ったらしい挨拶も苦手だし面倒くさいし、じゃあこのままなんかを祝して乾杯」
『何の脈絡もなしに乾杯しちゃった!?』
うっせー。何で当事者じゃないオレがリーダーの代理でやらなきゃ行けないんだ。そんなのが欲しかったらリーダーが復活した後に言わせてやれ。
肝心のリーダーは隣で未だにのびているが。手加減無しで後頭部に直撃したし、当分意識は戻らないだろうが。
「……未だに思う事があるんだけど、いつも涼くんにあんな風にされるのに、千歌ちゃんも曜ちゃんもよく今まで幼馴染が続いてるよね……」
「お前だって気づいてるだろ梨子。このバカみかんには並みのツッコミじゃ止められないって。そして類友と呼ぶべきか、曜もスイッチ入るとと並みのツッコミじゃ通じない。だから手っ取り早く物理的に沈めるしかない」
「むしろりょーくんがそうするから、チカちゃんも段々暴走がレベルアップしていったんじゃ……」
ボソリと呟いた曜の呟きが聞こえてジロリと睨むと、慌てて目を逸らしてジュースを飲むフリをしてごまかしていた。
一言言ってやろうと思ったが、唐突に鞠莉がオレの隣で失神しているチカをひょいと退かしてしまい、その空いたスペースにちゃっかり割り込んでくる。
「はーい、チカっちはちょーっと退いてねー。ねー涼、私たちのライブはどうだった? 楽しかった?」
「別に。普通」
「んも~ぅ、涼ってばドライすぎよ、おねーさんに素直に告白してもいいのよ?」
「誰がするか。つか、アンタはオレの姉じゃねーだろ」
「じゃあガールフレンド?」
「話が飛躍しすぎているしお断りだ」
「ひっどーい! 私のどこがダメなのよ?」
「俺が特殊部隊の元兵士仕込だって理由だけで何の根拠もなく出来ると断言し、ヘリボーンやらラペリングやら挙句の果てにはエアボーンするからだ」
「でもできたじゃない」
出来なきゃ大惨事だから成功させるっきゃねーだろ……! 悪びれずにこてんと首を傾げる鞠莉に、口にするのも面倒だから心の中でツッこんだ。
説明を受けただけで、練習無しのぶっつけ本番なんて普通やらねーよ。しかもラペリングにいたってはそのままホテルの外側から窓拭きまでさせられるし。(無論バイト代は出た。諭吉さんが30人とか言う高校生のバイト代としては桁が違う額だったけど。金持ちってほんっとにこえー)
「鞠莉さん……さっきから貴方は何をやっているんですの?」
「何って、リョウに熱烈アプローチだけど?」
「まったくアプローチになっていませんですわ……」
「じゃあダイヤがお手本見せてよー。このクール&ドライのツンデレをデレさせてみてよー」
「なぜわたくしがそんな事をしなければいけないんですかっ!」
そうそう、むしろダイヤさんはデレる側だろ。
「飼い主が来たんだからいい加減引っ付くな離れろ」
「誰が飼い主ですかっ! ほんっとーに口の悪さは直りませんわね!」
「涼が本音トークしてくれるまで離さない~!」
ガミガミと口煩く小言をマシンガントークするダイヤさんの話は適当に聞き流しつつ、腕にしがみついている鞠莉を引っぺがそうとするが、中々剥がれない。アンタそれ胸が当たってんだけど気づけよ。
が、鞠莉の背後に立ったねーちゃんがその首根っこを掴んで持ち上げると、猫みたいに宙吊り状態になった。
「鞠莉、その辺にしようか?」
「……イエス、マム」
「ダイヤも、今日くらいは大目に見てあげてね?」
「わ、わかりましたわ……」
ねーちゃんの鶴の一声で2人も完全に大人しくなって、そのまま3人は自分たちの席に戻る。そっか、本当の飼い主はねーちゃんか……しかし戻る途中、なんかねーちゃんがじっとこっちを見ていた気がするんだが、あれは何の意味があったんだろう。
……まぁ、何だっていいか。つーかあれだ、俺は大して関わっていないんだから、盛り上がるならお前たちで盛り上がればいいじゃ――
「リョ~ウ~~~~~っ!」
「はっ……!?」
やっと落ち着けると思った矢先、誰かが飛びついてやがった。
考え事をしていたせいで反応が遅れてしまい、飛びついてきた誰か諸共倒れこんでしまう。
いったい誰だ……としかめっ面で見上げると、涙目になった善子がオレの上に乗っかっていた。
「り、涼くん大丈夫!? よっちゃんも急にどうしたの!?」
「お願い、ガチャ引いてっ! 新宿のアヴェンジャー欲しいのっ!」
「……善子ちゃん、さっきから妙に静かだと思ったら……」
「ずっとゲームに集中していたずら」
いや、善子の大人しかった理由に関してはどうでもいいんだルビィにマルよ。むしろ大人しいならそれはそれでオレの心の平穏が保たれている証で……いや、それより新宿のアヴェンジャーってなんだ――ああ、FGOか。亜種特異点で出る新しいアヴェンジャーが通称そうだったっけ。
「自分で引けよそんなの……」
「引けないからこうして頼んでるんじゃないっ!」
「結果、お前の邪念が邪魔をして引けないパターンだな」
「む……無心になるわよ」
「煩悩の塊である廃課金プレイヤーが言っても説得力が……ああ、いや。そう言えばだな、前にFGOのラジオ聞いていた時にニトクリス役の人が踊ったら目当てのオルタニキを召喚した、って話があるぞ」
「それは本当なの!?――やるわ、今の私なら何でもやる!」
いや、それはまったくの偶然……マシュの中の人もラジオ終わってから踊って巌窟王を出した、って言うけどやっぱりそれはまったくの偶然引けただけだろうし。
しかし今の善子は完全に踊るつもりらしい。まあ、別に俺が課金して引くわけじゃないからいいか。
「新宿のアヴェンジャー……この堕天使ヨハネの元に、出ませい! 出ろ~出ろ~」
『』
……おい、それは何だ善子よ……。お前が普段やっているなんちゃって儀式か何かか? お前、昨日今日と横浜アリーナを満員にして全世界にライブビューイングを発信していたスクールアイドルだよな?
善子のやっている筆舌にし難い奇妙な踊りを目撃し、気絶しているチカ以外の全員が絶句していた。無論、俺も名状しがたいそれには言葉を無くしていたが、我に返るとピックアップガチャを選択して10連を回す。
とりあえず演出諸々はスキップしていって……あ。
「おい、善子。おめでとう」
「っ! もしかして来たの!? 本当に!?!?」
「ああ、来たぞ――アラフィフおじさんが、な」
初老の紳士が映っている画面を見せつける。
新宿のアーチャー。通称アラフィフおじさん。期間限定の星5アーチャーが。
「――――――」(ぱたり
「善子ちゃん…膝から崩れ落ちちゃったよ……」
「そのまま真っ白になっちゃったずら……」
「アラフィフおじさんは期間限定なんだから喜べば良いだろ」
「何故、こんな時に限定鯖を引けるの……これが踊りの効果だというのデスカ」
いや、そう言ったのって結局タイミングが旨く重なった結果来たってだけだし迷信だろう。
確か色々あったよなー他にも……欲しいサーヴァントを描いたら出たとか、極大成功したら出た、マ○ィア梶田教に入ったら出たとか云々……。
まぁ、全部信じてないけどオレ。
「何はともあれ星5ゲットおめでとう」
「あんまり嬉しくない……わよ」
星5当たったのに我侭だなお前。お前は特に星5が欲しくてたまらなかっただろうに。
「今欲しいのは新宿のアヴェンジャー! アラフィフおじさんじゃないのっ! もちろん育てるけど!!!」
「なんだかんだ言いながらも喜んでるじゃねーか」
「とーぜんよ、星5アーチャーは男性特攻のオリオンだったし、使い勝手ならアラフィフおじさんの方が上なはずだし!」
そう言えばお前って星5弓枠はオリオンしかいなかったんだっけ。確かに局所的なオリオンよりは適応範囲は広そうだが。
「まあ、アレよ。不本意とは言え星5サーヴァントを引いてくれたし、お礼は言っておくわ。ありがと」
「へいへい……ほら、気合入れて育てるんだな」
「勿論よ。……何気に星4礼装も2つあるし。破音ってこれで限凸できたはずよね……コスト面で考えればリミゼロよりも……あ、エミヤやアルジュナと同じアーツ3枚構成なんだ。だったら……」
早速編成を考え出す辺り、コイツもう抜け出せねーよなぁ……かなり金も注ぎ込んでいるはずだし。
ライブに集中するために今までのプレイ時間から大幅に制限をかけて、最低限ウィークリーミッションとログボのみ回収することに専念してきた分、その枷から解放された今は思う存分やりたいんだろう。
「………………」
ふと視線を感じてそれを辿ると、またねーちゃんが俺を見ていた。
けど目が合うと、ふいとそっぽを向いて他との話に講じてしまう……さっきといい言いたい事があるなら言えっつーの。
※
打ち上げのどんちゃん騒ぎも終わり、ホテルに戻ると日付も変わろうかという時間だった。午前中は横浜を観光して、昼過ぎには電車に乗って沼津に帰る……って予定になっていた。
鞠莉とかが横浜観光しようとか誘っていたが、どうすっかなー。
「ねーちゃん、風呂は?」
「私はもう入ったから」
松浦姉弟と黒澤姉妹はそれぞれ同室になっていて、他も全員ツインで部屋を取ってある。
そも男女が一室に……って意見もあるが、そもそもオレたち血の繋がった姉弟だし。トリプルにしようがシングルにしようが結局1人余って、わざわざシングルを取るよりはツインの方が安く済むし。
それは兎も角として、そう言えばライブが終わって打ち上げ会場に行く前にホテルに戻って、各々シャワーだとか何とかってやったんだっけか。
「んじゃ、シャワー使うから」
「うん」
……やっぱりと言うか、ご機嫌斜めのねーちゃんに溜め息をつく。打ち上げの時からずっとこんな調子だよ。
訊いてみようとは思うが、先にシャワーを浴びてからにすっか……。
「――で、上がってきたらこうなってたわけだが」
誰に説明するでもなく呟いて、肩を落とす。シャワーから上がったら既にねーちゃんはベッドに横になっていた。
……っつーかそこ、俺の場所なんだが。
「おいねーちゃん寝るな。そこ俺の場所だっての」
「起きてるよ」
「なんだ、起きてたのかよ……寝るにしても歯を磨いてから寝ろって」
「別に、まだ寝るつもりじゃないし」
「……なぁ、ずっとふて腐れてるけどなんなんだよ?」
ずっと後回しにするつもりも無かったから率直に切り込んでいった。
オレの言葉に一瞬、ねーちゃんの肩がピクリと震える。どんな表情をしているかはここから伺うことはできないが、図星を指されてふくれっ面にでもなってるだろう多分。
「………………」
のそのそと身体を起こし、そのまま膝を抱えて背を向けるねーちゃん。あー、本当に女って面倒くさいったらねーなー。
「あのさ、オレに言いたい事があるんだったらハッキリ言えっての。何も言わないでずっとチラ見されたりするこっちの身にもなってくれよな」
「……じゃあ言わせてもらうけど、涼ってずいぶんモテるようになったよね」
「……モテる? オレが?」
「チカも曜も仲がいいけど、どっちかって言うと家族みたいなものだし。けどマルと知らない間に仲良くなっていたし、最近だと善子や鞠莉とずいぶん仲がいいし」
「マルはそもそも世話になってる住職ンとこの孫娘だし、善子も鞠莉も遊び仲間みたいにしか思ってねーんだけど。え、つか何? ねーちゃんがご機嫌斜めになっていたのってそんな理由?」
「そりゃあ…涼にとっては些細なことかもしれないけどさ、姉としてはなんか複雑なの。ツーンだ」
「ツーン」ってなんだよ「ツーン」って……子供じゃあるまいし。いや、まだ未成年だけどそんな事やる歳でもねーだろ……。
大体、ねーちゃんのその言い分って横暴じゃね? そもそもスクールアイドルに巻き込んだのってねーちゃんたちだし、しかも浦女は女子高で顔合わせる相手は女子しかいねーんだし……。おまけに各々に抱いている印象も口にした通りだ。マルは世話になっている住職の孫娘だから必然オレが視える事を早くに知るし、善子はなんだかんだゲームの趣味が合うから気兼ねなく遊べる。鞠莉は……なんっか気に入られてるんだよなぁ。無理難題を嬉々として要求してくるから苦手なんだがオレ。
「っつーかなに? ねーちゃん嫉妬してんのかっと」
「別に、嫉妬なんてしてないから!」
ふと気づいた事を口にしかけると、振り向き様にねーちゃんは枕を掴んでオレに投げつける。けど身体を傾けてあっさり枕を避けると、空を切ったそれはそのままドアに当たって床に落っこちた。
耳まで赤くして、ムキになって否定って肯定しているようなモンだろ……つーかねーちゃん、普段のキャラが崩れてんぞ。
「んじゃーどうしろって? あいつらと距離でも取ればそれで満足?」
「そんなんじゃないよ……ただ、涼がなんだか遠くなったって言うか……」
「オレは特別何かが変わったとは思ってねーけど」
「……本人は無自覚、ってよく言ったものだよね。気づかない内に変わったのか変えられたのか……」
「オレは松浦涼で、ねーちゃんの弟。他に要るか?」
「うーん……やっぱり涼は涼、なのかなぁ」
だから言ってんじゃん、と首を傾げるねーちゃんに言い放ち、枕を拾いに行ってからベッドの縁に腰を下ろす。
いい加減自分のベッドに移ってほしいんだが……移る気は無さそうだ。
「ねーちゃん、昨日今日とライブで疲れてるだろ。さっさと寝たらどうだよ」
「んー、疲れてはいるけどもう指一本も動かないって程じゃないし」
「あー、確かにあと100曲はこなせるとか余裕こいてたからなー。まずAqoursには100曲も持ち歌無いのに」
「アレはまあ、例えみたいな物だよ。それより……」
「んだよ……あの、何してんですかねーちゃんは」
「何って、涼にハグしてるの」
「いや…なにゆえ?」
「そう言えば涼から感想貰ってなかったなって。私たちのライブはどうだった?」
「いや……だから普通としか……」
「千歌だけ本音漏らしたのに、姉には話してくれないんだ」
くっそ……勘付かれてる。うっかり漏らすんじゃなかった。
「だったらチカに聞けばいいだろっ」
「涼の口から直接聞きたいの。私たちあんなにがんばったんだから、素直な感想を言ってくれてもいいでしょ? 言ってくれるまでずっとハグしてるからね」
「~~~っ! わーったよ、言えばいいんだろっ! はいはい良かったですよ本当に! 心底から! これでいいだろ!?」
「本当にぃ~?」
「疑うならバカみかんにも言質取ってみろよ!」
「それなら後で聞いておこうかな。涼って本当に捻くれてるんだからなぁ」
「捻くれ者で悪かったな! それより離れ……って何で一層密着してんだよっ!」
「んー、お礼のハグ?」
「それはもういいっ!」
結局……ねーちゃんの機嫌は良くなった物の、おかげでしばらく離れようとしなかった。
何はともあれキャストの皆さんお疲れ様でした。ふりりん無理しないでゆっくりインフル治してね