視える少年と新たに輝く少女たち   作:黒ニャンコ先生

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堕・天・降・臨!


極限の、戦い(堕天使編)

 チカがスクールアイドルなるものを立ち上げてたと聞いてから1週間ほど。今日の放課後はゲーセンに立ち寄っていた。日々勉強じゃ息が詰まるから息抜きがてらにってのが理由だ。

 内浦に帰っても地元に娯楽らしい娯楽は無い。いや、ダイビングとかそういう中々体験できない物はあるし、ねーちゃんたちは遊べる場所はたくさんある、と言うだろうが現代っ子から見れば無いに等しい。

 チカと言えば、作曲してくれる人材は何とか確保したという話をラインで教わったときは少し驚いたもんだ。

 着々と準備を進める中、今のところオレの日常に変化は無い。そもそもあいつらが本格的に始動した時からが仕事開始みたいなモンだし、当分は自分の方に都合を割けるだろう。

 っつーわけで、可能ならば1発で合格したいために気分をリフレッシュするためにゲーセンへ立ち寄ったワケだ。

 特に何かやりたいのがあったわけでもなく、まずはあちこち見て回って、お馴染みとなりつつあるアーケードゲームにやってくるとイスに座った。

 「機動戦士ガンダム EXTREME VS MAXI BOOST ON」――通称マキブオンって呼ばれている2on2の対戦ゲームで、結構なロングセラーらしいがオレはフルブ以前のは知らん。

 コインを投入し、操作する機体を……何にすっかなぁ。スサノオでいいか、慣れてるし。

 詳しい説明は省くが、オレが選んだ機体は格闘を主力としつつほんのちょっと射撃要素も加味した機体だ。少々クセはあるものの、オレには上手くハマるんだこれが。

 えっと、EXバーストはFにしてステージは……Dルートで進むか。

 ってーことで選んだルートの最初のステージを滞りなくクリアし、2つ目のステージで中盤に差し掛かった頃に唐突に誰かが割り込んできた。

 あー、このゲーム乱入とかむしろアーケードの宿命だからなぁ、なんて考えていると対戦相手は機体の選択を終えていよいよバトルに。

 

「ふっふっふ……この最強の堕天使であるヨハネに歯向かう愚か者は、我が裁きの光によって滅ぼされる運命(さだめ)なのよ……!」

 

 ……なんか、台の向こう側から痛々しい独り言が聞こえた気がするが気のせいだろう。

 

(相手は……あー、レギルスか。ちょい厄介だよなぁ)

 

 相手の選んだ機体はとにかく飛び道具が豊富で、その上最高コスト相応の性能も誇る……んだが、それも技量が伴わなければ宝の持ち腐れだ。

 なんだっけなぁ……確か「MSの性能の違いが、戦力の決定的な差ではないことを、教えてやる!」って台詞をどっかで聞いた覚えがあるんだけど。誰が言ったんだっけ?

 だがそれを思い出す間もなく対戦が始まったことで思考は片隅に追いやられるどころかどうでもいいと一蹴してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言って対戦相手はかなり強かった。機体特性を理解し、飛び道具の数と回転率を把握し駆使した戦術はスペック頼りではなく確かなプレイヤースキルを伴い機体性能を十全に引き出している。

 技術的には互角、機体性能で言えばコストが上がった分レギルスが有利……だが結果だけを言えばオレが勝った。

 最高コストの3000帯は性能が高い分、落とされた時のリスクも大きい。対する2500帯のスサノオは落とされても若干余裕がある。

 とはいえ最大の理由はこっちの反応速度に尽きた。おかげで僚機と自機を合わせて2落ちで勝てたし。

 ……つか、こっちが向こうの反応を上回る度に「なんでっ!?」とか、「まさかニュータイプ…いえXラウンダーなの!?」とか、「ちょ、っとま……ひぃーん!」ってリアクションが聞こえたんだが……気にしたら負けか。いちいちそんなリアクションしてたら勝てる勝負も勝てないんじゃなねぇの?

 ああいう落とされた時のリスクが怖いから3000コスってあまり使いたくないんだよなぁ……なんて思いつつ、そのままブランチバトルに戻ると順調にクリアして全ステージをクリアすると、連投なんてマナーの悪いことはせず席を空ける。

 さーて、次は何やるかねぇ……と辺りをうろついていると、クレーンゲームが並んでいるコーナーでふと足を止めた。

 いくつか並んでいるクレーンゲーム。その中に1つ、見覚えのあるキャラクターのぬいぐるみが積まれていて、それを熱心に取ろうとしている少女。

 

「今こそ堕天使ヨハネの真の力を……っ! てぇーいっ!」

 

 なんか変な独白を吐きつつ少女はボタンをポチポチ押してクレーンを動かし、饅頭みたいな形をしたブタのようなネコ――って言うかまんまニャンコ先生を取ろうとした。

 ダークブルーの髪に頭の右側に団子を結った整った顔立ちの少女。見覚えこそ無いが着ている制服が浦女のもので、リボンの色から1年生と言うことは判別できる。

 ……で、件のニャンコ先生は下半身をアームで掴まれ、ポケットまで運ばれていき――アームが開いてポケットに落下していくが、なんと途中で弾かれてポケットに入ることなく積まれた他のぬいぐるみたちの所に戻された。

 

「ああぁーっ! なんでよ、入ったでしょ? 今の完全に入ったでしょ!? もう1000円以上入れてるのになんで取れないのよー!」

(うわぁ、運わる…)

 

 よほどニャンコ先生にご執心だったのか、ガラスに張り付きながら悲痛に叫ぶ少女に心の中で呟く。

 ほしいと言う気持ちも分からなくもない。けど「偉い人が言ってた。UFOキャッチャーは貯金箱」って誰かが言ってた。ものの見事に貯金してるなあいつ……。

 まだぬいぐるみを諦めていないと言うか、意地でも取ろうと躍起になっていた彼女は財布からコインを出そうとする……が、チッと露骨に舌打ちして足元のカバンを掴むと足早にその場を立ち去った。諦めたわけじゃなくて小銭が尽きたから両替しに行ったらしい。

 その場にはオレ1人になり、ニャンコ先生が積まれているクレーンゲームに目をやる。確か去年、鞠莉が来た時欲しいとか言ってオレの黒ニャンコを強奪していこうとした事があったよなぁ……。

 

(まあ1回で獲れるほど甘くないだろ)

 

 誰に言い訳するでもなく、財布からコインを出してクレーンゲームに投入。起動音とポップなBGMが鳴り響き、あちこちから内部を観察して取れそうなターゲットに狙いを定めると、ボタンを押した。

 狙いは先ほどの少女が獲ろうとして弾き出されたニャンコ先生。位置的にこれがもっとも獲りやすいと結論付け、ボタンを押してクレーンの位置を操作し、狙いを定めるとボタンを離す。

 アームが下へと伸びて開いていき、丸い胴をしっかりと挟んで持ち上げた。

 問題はアームのパワーだが、パワーは足りているらしい。……すると何の抵抗も無く、クレーンはポケットまで移動するとアームを開き、ぬいぐるみは何かに阻まれること無くポケットを通って――ボスンと。

 

「…………………………」

 

 おいおい、マジかよ。1発で獲れたんだけど……なんか拍子抜け。位置取りとかが良かったって理由もあるんだろうけどさ。

 まあ獲れたものは獲れたんだし万々歳か。なんか適当な理由を並べて納得して、取り出し口からニャンコ先生のぬいぐるみを取り出すと――じーっと、視線を感じた。

 見るといつの間に戻ってきてたのだろうか、浦女の制服を着た例の女子がオレ(と抱えているニャンコ先生のぬいぐるみ)を虚ろな目で凝視していた。なんか目がこえーぞお前。

 

「……次、どーぞ」

「――待ちなさい天界の使徒」

 

 そそくさとその場を後にしようと足早に立ち去ろうとしたが、すかさず肩を掴まれた。

 

「何か用でも?」

「1度ならず2度までも……しかも今度は我が下僕(予定)を横から掠め取るとは……貴方、一体どういうつもり? それほどまでにヨハネの率いる悪魔の軍勢が強く大きくなるのが恐ろしいのかしら?」

 

 下僕ってなんだ。そもそも天界の使徒ってもしかしてオレを指してるのか?

 言っている意味はさっぱり理解不能だが、翻訳するとどうやらこの少女はオレが獲ったニャンコ先生に対して文句があるらしい。

 

「掠め取るも何も、台が空いていてきちんと金を入れて正式な手順を取って手に入れたんだが」

「空いていなかったわ……! 私が力を取り戻しに行った僅かな隙を突いて横取りしたのでしょう……」

「すみません日本語しか分からないんで日本語で話してくれる?」

「日本語よっ!」

 

 なんだこのメンドクサイ奴……これって中二病って言う残念な奴じゃなかったっけ? なんかオレのクラスにもそんなキャラの奴がいて、ヘンな部活だか同好会があったような……確か『極東魔術昼寝結社の夏』……とか言う何か良く分からないのが。良く分からないのといえば鳳凰院凶真とか自称している人が作った『未来ガジェット研究所』……とか言う妙な同好会も有名だったな。

 ……あれ。振り返ってみるとウチの学校ヘンな部活とか同好会多くね?

 

「と、とにかくこれはヨハネが見定めたリトルデーモンで、我が下僕に加えるはずだったの! けど中々堕天しなくて、力を高めるためにちょっと離れていただけなのよっ!」

「いや筐体の中にある時点で誰のものでもないし、強いて言えば店側が一時的に所有権を持ってるだけだろ」

 

 熱く捲くし立てる彼女の意見を一蹴すると、ぐぬぬ…なんて唸っていた。

 にしてもこの声、ごく最近聞いたような……いや気のせいか。

 

「じゃ、オレはこれで」

「待ちなさいよう! こうなったら……これで、どうっ!?」

 

 強引に立ち去ろうとしたオレを、少女は何とか食いついて離れず、財布から100円硬貨を取り出すとオレへと突き出す。……何のつもりだこれ?

 

「取引よ……貴方が払った対価と同じ分の対価を払うわ。これなら貴方も文句は無いでしょう。むしろヨハネの方が損してるじゃない?」

「お断りだバーカ」

「なんでよっ!? お金払うって言ってるじゃない!」

 

 仮にその取引に応じたとして、もう一度1発で取れる保障なんて無いだろうが。

 そもそもそこまで執着しているのにそんな狡いで手に入れて嬉しいのか。

 

「ぐっ……でも何が何でも欲しいのよ! こっちはもう1000円以上つぎ込んでるのに獲れないどころか弾かれるほど嫌われているし! かと思えばなんにも苦労せず1発で取った人間が目の前にいるし、しかもヨハネが狙っていたぬいぐるみだし!」

「あー……ドンマイ?」

 

 メンドクサイ手合いだなあコイツ……熱意だけは伝わったけど、それをオレにぶつけられた所でなぁ。

 

「うっ…ぐぐ……ぬぅぅ……!」

 

 そんな唸ってケモノか己は。怪獣は1匹で十分だぞ。

 のらりくらりと、あるいは論破されてぐぅの音も出てこなくなった少女は硬貨を握り締めたままブルブルと震え、

 

「これで勝ったと思うなよ~~~!」

 

 まるでどこかの負け犬のような捨て台詞を吐き捨て、こっちを指差しながら逃げ出していった。

 ……勝ったとか負けたとか、それ以前に勝負だったのかよコレ?

 首を傾げるがぬいぐるみはゲットできたんだからいいかと納得すると、カバンの中に押し込んでゲームセンターを後にして家路に着いた。

 

 

 

 

 ちなみにこの話、続くからな。




・ヨハネ

今回のニューカマー。一方的に涼を敵視してる。

マキブ(というかエクバシリーズ)で主に使用するのは3000コストのファンネル(ビット)を装備する機体。

プレイヤースキルは非常に高いが時折凡ミスや持ち前の幸運ランク:Eによるトラブルで形勢を覆されることが多いため、ハイリスクであるもののハイリターンの3000帯を用いたデメリットを覆せるだけの性能を用いて欠点をカバーしている。

後述の極東魔術昼寝結社の夏に所属する人とは仲良くなれそう(小並感

あとニャンコ先生が大好き。


・機動戦士ガンダム EXTREME VS MAXI BOOST ON

通称マキブオン。ゲーセンにだったら大抵置かれているガンダムゲー。

涼もよし……ごほん、ヨハネも得意とするゲーム。

なお2人とも原作のガンダム自体はよく知らない。

没ネタだが、スコアランキングのトップにはMなる謎のプレイヤーが常に君臨している予定だった。今後使うかは未定。

ちゃんと店舗のルールを守ってプレイしようね!


・「MSの性能の違いが、戦力の決定的な差ではないことを、教えてやる!」

ヨハネの使用機体を見て浮かんだ台詞。原点は初代ガンダムで赤い彗星と呼ばれるほどのエースパイロットで主人公のライバルが言った台詞。

準高コス(涼のスサノオ)と最高コス(ヨハネのレギルス)の性能差を鑑みて独白したが、実際台詞通りになった。


・涼

ヘンな相手(ヨハネ)に因縁つけられた。

ちなみに本人は知らないが、マキブオンでヨハネと対戦して勝った後顔を見られている。(1度ならず2度までも……と言うのはこのこと)

主に2500帯の格闘を主力とした機体を好んで使い、中でもスサノオが主力。3000コスは「落とされた時のリスクが大きい」と言うことであまり使わないがまれに使うこともある。

ヨハネが狙っていたニャンコ先生のぬいぐるみを横から1発で掻っ攫い、因縁をつけられるがのらりくらりととぼけて正論で論破し、見事ぬいぐるみをゲット。

こうして増えたニャンコ先生が後々の騒動の発端となるのは、別の話。


・涼の学校

普通の学校と思ったが「極東魔術昼寝結社の夏」とか「未来ガジェット研究所」とかみょうちくりんな同好会が乱立していることから普通じゃなくねと1年経って気づく。

前者は中二病でも恋がしたい!、後者はsteins;gateから。そりゃ普通じゃねー。


・ニャンコ先生

みんなに大人気のマスコット。おまいらもぬいぐるみを抱えて幸せそうな表情してるヨハネとかをイメージしてみろって。破壊力抜群だからマジで。


・「これで勝ったと思うなよ~~~!」

ヨハネが去り際に残した捨て台詞。元ネタはToHearts2のヒロインの1人、十波由真が去り際に放つ捨て台詞。由真かわいいよ由真。

正直、この回はヨハネにこれを言わせたいがために最後のシーンを盛り込んだ。後悔はしてry


・次回

またまたエクバを使った話になるよ! アイドル? なにそれ美味しいの?

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