俺の彼女が人気アイドルなんて言えない   作:美宇宙

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俺の学園祭準備はこうして始まった/一方その頃

「ということで、試着よろしくね」

 

「既に着せているのにそのセリフはおかしいと思うんだけど、ねえ白兎」

 

「ああ、お前だけならともかく、なんで俺まで」

 

 学校は既に学園祭への準備を進め始め、我がクラスは昨日同様に活気に満ちている。

 男子達は今日も発声練習という名目の下坂本さんによって奇声を上げ、女子達はメニューやら内装やらを考えていた。

 その中で最も目立ってると言える自信がある。何故かと言われれば服装だと答えよう。

 黒を主色としたスーツのようで無いもの、試作品ではあるが執事の制服がたった1日で完成したのだ。このクラスの女子は優秀すぎか。

 授業時間を割いてできた時間に入った途端の制作者のあの獲物を捕らえたかのような眼はなかなかに怖く、昨日の飛鳥ほどではないにしろ少し恐怖を抱くに至り、現在である。

 

「織村はなかなかの素材だと思ってたけどまさかここまでなんてね。優しい感じがとてもいいし、眼鏡の奥に控えた金色の目もアクセントになっててそんじょそこらのアイドルなら1発KOできそうなぐらいのイケメン、爽やか系のイケメンね。対する蓮原はうさぎっぽさを主張する白と黒がマッチしているわ、目が赤ならもっと良かったのに、残念ねえ」

 

「……なあ、俺さりげに罵倒されてね?」

 

「気のせいじゃない?」

 

 この金色の目が褒められる日が来ようとは思わなんだ。

 カラーコンタクトでもないのに俺の眼はこんな色をしており、昔はよくそれが理由でいじめとかにあってたりしてたのだが、褒めてもらったのは飛鳥以降初めてかもしれない。

 

「それで、素材褒めよりも服はどうなんだ?」

 

「もうちょっと改造が必要かも。よりカッコ良さを引き立てないといけないし、それでいて清楚にもしたいのよね」

 

「それから女子側のメイド服の開発か? 流石に時間足りなくないか? 2週間切ってるぞ」

 

「そこは安心してほしい所、メイド服は男子の執事服をメイド服風にアレンジするだけだから」

 

「明らかアレンジで時間使うだろそれ、フリルとかもりもりにするんだろ?」

 

「まあそうなるかもしれないし、現代の奴よりも元祖のロングスカート式ならそれにならずに制作にかかるまでの時間短縮にはなりそう、余り凝った物にはならないだろうから」

 

「へえ、そんなものなの?」

 

「本来メイドはいらっしゃいませーするような職業じゃなくて家政婦だから。そんなことに金を費やすほど昔の人の脳はおかしくはないわ」

 

「おい待てその言い方だと現代人が悪いみたいだろ、素晴らしい文明だろ!? 実際こんなので嬉しがる客もいるんだぜ!?」

 

 両足を広げ何かを鷲掴みにせんと動かされる手にもはや執事の面影が微塵も感じない白兎の格好につい笑いが出てしまう。

 だが白兎が言っていることも少し心配だ、設計しつつホール側に決定した人数分、このクラスの半数くらいのを作り上げる必要性がある。それに加え料理の試作、加え内装などに人員を割くことによってこれに没頭する人間も限られてくる。ちょっとした難所と言ったところだろうか。

 

「そういえば快、料理出来るんだろ? なんか作ってくれよ」

 

「あのね、それはそもそも女子がやる事だし俺ホール組だからね?」

 

「いや、純粋に腹減った」

 

「……朝ご飯を食ってないね?」

 

「え、逆に朝飯って食うものなのか?」

 

「朝ごはんは1日の最初の活力源だよ? お昼までどうするつもりだったの?」

 

 そう言って話に割り込んできたのは女子委員長こと矢吹彩乃だ。

 学校の制服とはかけ離れた俺たちの執事服を女子ようにアレンジしたかのような、したかのような……。

 

「おいおい服製作委員会会長さん? なんで女子側の制服(メイド服)が完成してるんだ?」

 

「だれもできてないなんて言ってないでしょ? こっちの場合はどっちの方がいいかっていう意見も聞きたかったからロングスカートとは別に現代版メイド服も1着作ってる」

 

「なるほど」

 

 よく見ると坂本さんがそれを着ているのが見てわかる。

 1日4着とかどんだけ張り切ってたの、あれでしょ? 俺がせっきょ……ゲフンゲフン、接客術を習ってる間にでしょう? まさかの徹夜ですか?体に良くないからやめましょう。

 という冗談はさて置き無事こうして試作品を着ているのだが。

 

「少し暑いね、生地が少し厚いかも」

 

「わかるぜ、確かに今の時期こんな長袖着てると気が滅入りそうだ」

 

 まあ実際学園祭当日となれば学校内のほとんどがエアコンでいい温度で客を満足させるついでに営業(こちら)側も快適に仕事ができるだろうがもう少し薄めにしても問題にはならないはずだ。

 

「なるほど、メイド服は?」

 

「そうだね、少しだけスカートを短くしてみるのもありかと思う。後謎的に露出させられてる背中を隠しているメイド服作成を強く望みます」

 

「そっちのが萌えると思うんだけどなあ」

 

「プライバシーの問題だよ」

 

「プライバシーなんて物に俺たちの夢が踏みにじられるなんて……!」

 

「俺たちってなに俺たちって」

 

 まるで俺も入ってるみたいじゃないか。

 なんというか、無駄に秋葉原に行ってないなこの男、メイド服バッチリ見てきた訳ではなさそうだが、このままだとなんかこいつの趣味が反映されかねない気がする。

 

「あ、話は戻って快、なんか作ってくれよ」

 

「本当に戻ったな……まあ別にいいけどさ。朝ごはんだろ? 簡単に目玉焼きとかにする?」

 

「いや、もう少し凝った物がいい。なんならオムライスとか!」

 

「朝からそれはきついでしょ」

 

「それもそうだけども」

 

「そもそも試食を朝ご飯にするのもどうかと思うよ?」

 

「ばっか、試食じゃなくて正真正銘の朝ごはんだよ」

 

「言い切らないでよ……」

 

 額に手を当てやれやれと言わんばかりのため息を吐く委員長はクラス右端にある料理をいろいろ試し見ている場所へと移動して料理を作り始めた。

 何を作ってるかはここからだとよくわからないが確か今ここにあるのは卵とその他もろもろだったから卵料理になるはずだが……。

 

「快、何がくると思う?」

 

「美味しいたまご料理と予想、でも朝ごはん用なら無難にスクランブルエッグとかじゃない?」

 

「それにしては少し時間を食い過ぎてるし、さっきパンを切ってるのも見えた」

 

「パン? となると……」

 

「答えはフレンチトースト。ほら」

 

 言われて出されたのは2分割にして皿の上に乗せられたフレンチトーストだ。

 匂いだけでも美味しいと分かり、すぐにでも食べてしまいそうなぐらいの誘惑を放つそれに白兎は限界なのかすぐに手掴みで食べ始めた。

 

「うっま! コンビニのレベル越してるぞこれ! 甘いし美味しい!」

 

「それはさすがに言い過ぎじゃないかな。コンビニのがどう調理してるかなんて知らないけどフレンチトーストは寝る前に卵につかした方が美味しいから。今回のはすぐ作ったからそこまでパンに卵が染み込んでないと思うから、砂糖と蜂蜜で甘さを出してみました。ごく一般的なフレンチトーストだね」

 

「それでも美味しいぜこれ……!」

 

 1枚目を食べ終えて2枚目にも手を出し始めた。

 よほど美味しかったのだろう、どんどんと口に運んでいきいつの間にか2枚目さえ既に白兎の胃の中だ。

 

「喜んでもらえたようで何よりだね、これで存分に働けると思うんだけど、どうかな?」

 

「なんでも言えよ、今日は働いてやるさ」

 

「これからもだろ?」

 

「いや違うな、学園祭までは全力だな」

 

「話を聞いてない、だと……?」

 

 その日、白兎の働きぶりに少しクラス中がびっくりしたりしなかったり。

 

 

 一方その頃。

 

 ある番組に出席する飛鳥は無意識にある行動を取っていた。

 彼女自身が取ろうと思ってなくても体が勝手に動いてとった行動には流石に彼女も抗えない。

 

「あれ飛鳥ちゃん、唇になんで手なんて当てて……まさか恋人とか?」

 

「え……ああ、違うんです」

 

 彼女自らが保有するスキルで悟られないように苦笑いを見せる。

 朝のあれが余りにもインパクトがありすぎて体が無意識にそれを1番感じた箇所に手を当ててしまう。それははたから見れば放心状態で唇に手を当てているようにしか見えず、今の返しを聞いたのは今日で3回目だ。

 

 

『帰ったらいっぱい甘えてやるんだから、バカ』

 

 原因である男に、彼女はそっと心の中で呟いた

 






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