仮面ライダー&プリキュア・オールスターズ~奇跡の出会い、運命の共闘~   作:風森斗真

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「起動」

―久留間市運転免許センター 8:03 a.m―

 雄介が目を開けると、そこは見知らぬ天井だった。

 いや、見知らぬ、というのは多少語弊がある。正確には、見慣れない天井、だろう。

 今、雄介がいるのは久留間市運転免許センターにある仮眠室だ。

 昨晩、この運転免許センターを訪れて、一条と再会を果たし、今後の対策について、"仮面ライダー"と呼ばれている「特状課(とくじょうか)」の切り札、泊進ノ介巡査に協力を要請したのだが、本人の意思に任せる、という彼の上司、本願寺課長の言葉を受け、その場にいた進ノ介に、一晩だけ考えさせてほしい、といわれてしまい、結局その場は解散。

 雄介は課長の好意で免許センターの仮眠室を貸してもらうことになった。

 ベッドから身を起こし、雄介は寝ぼけた顔をしながら、お手洗いへと向かった。

 廊下に出て少し歩くと、背後から若い男性の声が雄介にかけられた。

 「あ、おはようございます。五代、雄介さん……でしたよね?」

 「Good Morning, Mr.Godai。今朝の目覚めはいかがかな?」

 「……ん?あぁ、おはようございます。はい、五代です」

 振り返るとそこには、二十代半ばほどの精悍な顔つきの青年がいた。

 その腰には、自分の腰に埋め込まれているアークルを連想させる、特徴的な形のベルトが巻かれていた。

 だが、もう一つ聞こえてきた声の主の姿がまったく見えない。

 そのことに気づいた雄介は、疑問符を浮かべながら、進ノ介に問いかけた。

 「あの、もしかして、お巡りさんって腹話術できます?」

 「腹話術?いや、俺はできませんけど」

 「……それじゃ、さっきの声は……」

 雄介が周囲を見渡していると、再び、姿なき声が聞こえてきた。

 「どうやら、私をお探しのようだね、Mr.Godai?」

 「……え?」

 「私はここだよ、Mr.Godai。進ノ介のベルトのあたりだ」

 いわれるがまま、雄介はベルトに視線を向けると、そこにはベルトのバックルが何かの顔のような形に光っていた。

 心なしか、笑っているようにも見える。

 「初めまして、Mr.Godai。私はクリム=スタイン=ベルト、進ノ介の相棒(パートナー)だ。お逢いできて光栄だよ(Nice to meet you)

 「あ、ご丁寧に。五代雄介です……って、ベルトがしゃべった?!」

 「……ふむ、いつ見てもこの光景は新鮮だね」

 雄介が驚愕すると、ベルトはなおも笑っているような顔で返した。

 どうやら、驚かれること自体になれていて、今ではむしろ、驚かれることを楽しんでいるようだ。

 「ベルトさん、人が悪いな……すみません。ちょっと事情があって、ベルトさん、今はこんな姿になってるんです」

 進ノ介が苦笑いを浮かべながらそう説明するが、細かなところは教えてくれないようだ。

 もっとも、雄介も相手の深い事情に立ちいるほど図々しくはないし、度胸があるわけでもない。

 そのため、これ以上、深く聞くつもりはなかった。

 「親しみを込めて、ベルトさんと呼んでくれたまえ」

 「じゃ、俺も雄介で。よろしく、ベルトさん」

 そういいながら、雄介は胸ポケットから名刺を取り出し、進ノ介とベルトに手渡した。

 もっとも、ベルトには手と呼べる部分がないので、二枚とも進ノ介に渡すことになるのだが。

 その名刺にかかれていた言葉に、進ノ介は眉をひそめた。

 「……"2000の技を持つ男、夢を追う男"?なんだ、こりゃ」

 「これこれ、進ノ介。本人を前に失礼だぞ?」

 「いや、いいですよ。夕べも同じようなこと言われましたから」

 「夕べ?」

 ベルトのフォローに、苦笑いを浮かべながら話す雄介の言葉に、進ノ介は疑問符を浮かべた。

 昨晩、ということは、空港での事故の後にこの名刺を誰かに渡した、ということになる。

 では、その誰か、とは誰なのか。

 その正体が、昨晩、雄介と一緒に保護されたノーブル学園に所属する三人の女子中学生と、ホープキングダムという国の王女だということに気づくまで、それほど時間はかからなかった。

 「なるほど。ノーブル学園の彼女たちにも渡したんですね?」

 「えぇ。初対面の人には渡すことにしてるんです」

 雄介は微笑みを浮かべながら、進ノ介にそう答えた。

 同時に、どちらからだろうか、空腹を告げる音が聞こえてきた。

 「ふむ。どうやら、話の続きは朝食を食べてから、ということになりそうだね」

 呆れた、という表情なのだろうか、目を八の字にしたベルトがそう告げると、どちらからとなく賛成し、食堂へと向かって行った。

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―警視庁地下 秘密階 8:48 a.m―

 警視庁の地下にある、一般人はおろか、一般の職員(・・・・・)にすら公開されていない秘密の階層。

 そこにあるシミュレーションルームでは、青い外装の鎧を身に着けた人間が立っていた。

 右肩には、「G3-X」と黄色い文字が記されている。その顔に取りつけられた仮面、いやヘルメットの赤い複眼は、未確認生命体第四号の姿を彷彿させた。

 『G3-X、動作試験、開始します』

 機械音が響くと、シミュレーションルームの壁の一部が開き、そこから鉄球がいくつも同時に飛び出してきた。

 その大きさは、砲丸投げで用いられる鉄球を二回り以上の大きさはあった。

 こんなものがぶつかれば、生身の人間はもちろん、一般の乗用車も大破は免れない。

 その鉄球を、青い装甲の装着員は紙一重で回避した。

 回避された鉄球は、背後の壁に半分以上がのめりこんだ。

 それでもなお、鉄球は休みなく装甲者に向かって向かってきた。

 だが、装着員は腰に差していた拳銃のような武器を引き抜き、鉄球に向かって引き金を引いた。

 拳銃から発射された弾丸は、全弾、鉄球に命中し、粉々に粉砕した。

 すべての鉄球が、弾丸によって破壊されると、動作試験終了の合図であるブザーが鳴り響いた。

 『動作試験を終了します』

 「お疲れ様、氷川くん」

 機械音が試験終了をアナウンスすると、オペレーターを務めている女性が、装着員にねぎらいの言葉を贈った。

 その言葉を聞き、氷川、と呼ばれた装着員はヘルメットを外し、オペレーションルームに視線を向け、うなずいた。

 ここは、警視庁地下に設けられた未確認生命体対策班、通称「G3ユニット」のオペレーションルームだ。

 クウガ、すなわち、未確認生命体第四号の活躍により、未確認生命体の首魁と思われる存在、第0号が消滅し、終息を迎えた未確認生命体による大量虐殺事件だが、まだ未確認生命体がどこかで活動している可能性が考慮され、急きょ、組織された、いわば未確認生命体の対策に特化した特殊急襲部隊(S.A.T)といったところだろう。

 だが、その初陣は当初予定されていた未確認生命体との戦闘ではなく、未確認生命体と同等あるいはそれ以上の能力を秘めた謎の生命体、通称アンノウンと呼ばれる存在との戦闘となり、敗北という、不名誉な結果となった。

 それから数々のアンノウンとの戦闘を経て、チームを巡る庁内での紆余曲折を経て、当初のプロトタイプだったG3を改良し、誕生したシステムが、さきほど動作試験を行ったG3-Xだ。

 そして、今、このG3-Xの動作試験を行っていた装着員が、当時、G3ユニットの装着員として抜擢された氷川誠だ。

 だが現在、アンノウンによる事件が終息を迎えたために、G3ユニットは解散、G3システムも封印が決定されたため、正式には(・・・・)この部隊はすでに存在していない。

 ここ数年の間に再び現れた、未確認生命体ともアンノウンとも異なる存在、通称「機械生命体」への対策として、再びG3システムの復活が秘密裏に決定され、こうしてメンテナンス後の動作試験が行われる運びとなったのだ。

 オペレーションルームに戻った誠は、オペレーターの小沢澄子の背後に歩み寄った。

 その気配を背中で感じ取ったのか、澄子は振り返ることなく、誠に語りかけた。

 「問題なさそうね。あとは、例の機械生命体が発生させるっていう"どんより"への対策だけれど……こればかりは、特状課に任せるしかないんじゃないかしら?それにしても久しぶりね、氷川くん。相変わらず警官やってるんだ?」

 「小沢さんもお変わりないようで。ですが、よかったんですか?大学の方は放っておいても」

 アンノウンの事件が終息したのち、澄子は警察を辞職し、ロンドンの大学で教授を務めているはずだった。

 しかし、日本での事件をネットで知り、警視庁からの要請もあったことから、こうして呼び戻され、現在は警察官としてではなく、あくまでG3システムのSV(スーパーバイザー)として活動している。

 「大丈夫よ。これも仕事だから、大学側が少し時間をくれたの……それより、氷川くん、やっぱり少し老けた?」

 「そりゃ、あれから十年も経ってますからね。まだ現役のつもりですけど」

 「そうでなかったら困るわ。今のところ、あなた以外にこのシステムを任せていいって思える警官がいないんだもの……北条のバカなんてもってのほかね」

 なお、澄子と犬猿の中である北条透は、現在、警視庁捜査一課の課長の席に就いている。

 むろん、彼の耳にも今回の未確認生命体関連と思われる事件は耳に入っているが、参事官から関わるな、ときつく言い渡されているため、関与しない方針を取るらしいというものが、もっぱらの庁内の噂だ。

 もっとも、誠も澄子も、おとなしくしているとは思えない、という、共通の認識があるのだが、いまそれを考えていても仕方がない。

 思考を切り替えるためか、誠は別のことを澄子に問いかけた。

 「そういえば、聞きましたか?また未確認(マルエム)が現れたって」

 「聞いたわ。四号も復活したとか言っていたけど、正直、私は信じない。自分の眼で確かめない限りは、ね」

 基本的に科学者であるためか、簡単には噂を信じないという気質なのだろう。

 澄子はそういって、これ以上、この話は無駄、といいたげに話を切った。

 この時、澄子は十年という時を超えて、自分が生み出したG3システムが本来の目的である未確認生命体との対決を、それもデザインのモデルとなっている第四号と共闘という形で行うことになるとは、全く予想だにしていなかった。


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