仮面ライダー&プリキュア・オールスターズ~奇跡の出会い、運命の共闘~ 作:風森斗真
―8:00 p.m 空港―
雄介の言葉通り、みなみは警視庁捜査一課に所属する杉田刑事に連絡を回し、雄介に電話を変わった。
和気あいあいとした雰囲気で話が進んだが、途中から、少し離れたみなみたちにも聞こえるほどの大声が電話口から聞こえてきた。
『なにぃっ?!未確認がまた現れた?!』
「いってて……はい。あ、でも俺が変身して倒しました。滑走路の空いている場所にうまく誘導ででたので、まわりに被害はありません」
雄介がそう答えると、杉田は落ち着きを取り戻したのか、さきほどの怒鳴り声はもう聞こえなくなった。
それから五分もしないで、雄介は電話を切り、みなみに携帯を返した。
「ありがとうね。それと、事情を聞きたいって刑事さん言ってたから、たぶん、少ししたらくると思う」
「ど、どういたしまして……あの、さっき電話で"未確認"っていってましたけど、それってまさか"未確認生命体"のことですか?」
みなみの言葉に、その場にいたはるかたちはきょとんとした顔で、首を傾げた。
唯一、雄介だけは、驚愕の表情を浮かべていた。
未確認生命体、正式にはグロンギと呼ばれる戦闘民族によって起きた殺戮事件が起きたのは、約十五年前。
そして、つい三年前にも、未確認生命体による事件は起きた。
だが、その事件は余計な混乱を招くという、内閣官房調査室の意向とマスコミがまったく注目していないという点から、調査されていたこと自体、一般の人間には知られていない。
となると、彼女が言っているのは、十五年前の、最初に起きた連続事件のことだろう。
見たところ中学生くらいの彼女たちが、いや、一般の人間が今もその事件のことを覚えているとは、思い難かったのだ。
「……覚えて、るんだ……」
「深くは知りません。ただ、昔の新聞で、その記事があったことを思い出して……それに、もしかして、ですけど、その記事に出てた"第四号"というのは……」
「その話は、署の方でゆっくりしよう」
みなみの声を遮るように、男性の声が響いてきた。
声がした方へ振り向くと、そこにはやや小柄なスキンヘッドの男性と一回り若い女性がいた。
雄介は二人の姿を確認すると、明るい笑みを浮かべ、二人の元へ駆け寄った。
「お久しぶりです。杉田さん、実加ちゃん」
「あぁ。久しぶりだな、五代くん」
「お久しぶりです、五代さん。いつから日本に?」
「今さっきだよ。いや、ほんとまいっちゃったよ。着いたとたんに、これだから……まぁ、詳しい話は署の方でってことで!」
にっこりと笑いながら、刑事ドラマでよく耳にするセリフを言うと、杉田も実加も苦笑を浮かべた。
「それじゃ、俺はバイクで向かいますんで、あの子たちのこと、お願いします」
「あぁ、わかった。車を回すから、ついてきてくれ」
「はい!」
返事を返し、雄介はバイクがある駐輪場へと向かっていった。
その背中を見送り、杉田は警察手帳を取りだして、四人に見せた。
「警視庁の杉田だ。こちらは部下の」
「夏目実加です。あなたが、通報者の?」
「は、はい。海藤みなみ、です。この子たちは私の友人です」
「「「ごきげんよう」」」
みなみに紹介され、三人は優雅にお辞儀をした。
あまりに丁寧なあいさつに、刑事二人は少し面食らってしまったが、時間もあまりないため、杉田はさっそく、四人を車まで案内した。
六人乗りのミニバンに乗り込んで少し走ると、背後に一台のバイクがついてきている様子が、バックミラーに映っていた。
「……よし、五代くんはついてきてるな」
「ビートチェイサーやトライチェイサーじゃないのが、少し残念ですね」
「……無線で話しできないってのは確かに残念だが、追い抜かれたらたまったもんじゃないだろ……しかし、彼とは、もう三年ぶりか」
「あ、あの、ちょっとよろしいでしょうか?」
不意に、みなみが運転席の二人に問いかけてきた。
実加は運転中のため、杉田だけがみなみの方へ視線を向けてきた。
「あの人……五代雄介さんという方は、もしかして、未確認生命体第四号なんじゃ?」
「……なぜ、そう思うんだ?」
「私たちの目の前で変身したんです。五代さん」
みなみの言葉を引き継ぐかのように、後部座席の後ろの方にいたはるかが答えた。
なお、その隣にいたきららは、聞こえない程度の小声で、まぁ、私たちも人のこと言えないんだけど、とつぶやいていたが、杉田と実加には届かなかった。
「……なら、隠しても仕方ないな。まさか、夏目くんと同じような状況で四号のことを知る人間が増えるとはな……」
杉田は諦めたかのようにため息をつき、未確認生命体第四号が五代雄介であることを、そして、かつて彼と未確認生命体対策本部が協力して未確認生命体との苦戦を繰り広げていたことを話した。
むろん、その先にあった結末も。
その話を聞いたはるかたちは、苦しい思いをして戦ってきたのは、自分たちを含めたプリキュアだけではないことを知り、唖然とした。
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―9:00 p.m 警視庁―
杉田の要請で、小会議室を一つだけ、使わせてもらうことになり、はるかたち四人と、雄介、杉田、実加の七人だけがその場にいた。
「さて、改めて……久しぶりだな、五代くん。何の連絡もなかったから、心配したぞ?」
「すみません。三年前の事件の後、一条さんとちゃんとお別れしてから、もう一度、海外に行っちゃったので」
杉田の拗ねたような目で睨まれた雄介は、苦笑を浮かべながら、今まで自分が何をしていたのか、簡潔に説明した。
だが、その数字に疑問を持った人間が一人いた。
「え?三年前って、その時にはすでに未確認生命体の事件は解決していたんじゃ……」
「あぁ、そうか……これは、オフレコでお願いしたいんだが……」
杉田は四人が三年前の事件を知らないことを思い出し、三年前に何が起こったのか、そのあらましを説明した。
その話を聞き、驚愕しないほど、はるかたちは大人ではなかった。
だが、杉田はそんなことはお構いなしに、話を続けた。
「さて、話が少しそれたな……そんなわけだから、未確認生命体のことについては伏せておきたいんだ。けど、こっちとしても調査しないわけにはいかないから、詳しく、事情を聞かせてくれ」
調査しないわけにはいかない、それはつまり、今後も、未確認生命体による犯行が発生する可能性があるということだ。
人の命が、ただの快楽のためだけに奪われる。
そんなことを許すわけにはいかない。
はるかたちの想いは、一つだった。
「……わかりました。ただ、ショックが大きかったこともあるので、思い出せる範囲でのお話になりますが……」
「かまわない。むしろ、嫌なことを思い出させてしまい、申し訳ない」
自分たちがプリキュアであることは隠さなければならない。
その思いがあってか、杉田の言葉にトワが受け応えた。
その意図を察したはるかたちは、無言でうなずいた。
杉田と実加はその言葉を、当然のものとして受け止めていたが、雄介だけは、黙って彼女たちの話を聞いていた。
トワたちが話し終わり、杉田と実加が調書をまとめあげたとき、会議室に突然、二人を呼び出す内線がつながった。
その呼びだしに応じ、杉田は、雄介にはまだ聞きたいことがあるし、はるかたちも保護者に迎えに来てもらう都合があるため、ここで待機するように、と言い残すと、実加を連れて、会議室を出た。
彼らを見送ると、雄介はトワたちの方へ視線を向けた。
「そういえば、自己紹介まだだったね?俺は、五代雄介。杉田さんと実加ちゃんから聞いた通り、"未確認生命体第四号"だ……けど、長いし言いにくいから、俺は"クウガ"って言ってる」
「"クウガ"、ですか……」
「古代の言葉で、"戦士"って意味なんだってさ。ほら、これがそう」
そういって、雄介は自分の着ているTシャツに記された紋章を指さした。
そこには、二本の角が生えた虫の顔のようなマークがあった。
「で、君たちは?」
人懐っこい笑顔を見せながら、雄介ははるかたちに問いかけた。
その笑顔に毒気を抜かれたのか、はるかたちは立ちあがり、優雅にお辞儀をしながら名乗った。
「ノーブル学園中等部二年、春野はるかです」
「同じく、中等部三年、海藤みなみです」
「ノーブル学園中等部二年、天乃川きららです。ただ、今はモデルの仕事で休学中だけどね」
「ホープキングダムの王女、プリンセス・ホープ・ディライト・トワと申します。先ほどは危ないところを助けていただき、ありがとうございました」
あまりに優雅で、上品なあいさつに、雄介は面食らってしまい、驚きのあまり沈黙してしまった。
「……ず、ずいぶん、丁寧なあいさつだねぇ……もしかして、プリンセス・ホープ・ディライト・トワさん以外も、いいところのお嬢様だったり?」
「えっと、みなみさんは海藤グループの娘さんで、きららちゃんはボロロ・ボアンヌさんの専属モデルなんです……わたしは、至って普通の和菓子屋さんの子で……」
雄介の質問に答えたはるかは、一人だけ気まずそうに乾いた笑みを浮かべていた。
その様子がおかしかったのか、雄介はなおも微笑みを浮かべたまま、胸ポケットから名刺を四枚取り出して、はるかたちに手渡した。
「これ、俺が作った名刺。よかったら、持っておいて」
そこには、あったものは、"夢を追う男、2000の技を持つ男・五代 雄介"という文字と、笑顔でサムズアップをするキャラクターが描かれていた。
そこに書かれていた言葉に、はるかたちの頭には疑問符が浮かんでいた。
「夢を追うって?」
「あの、2000の技って、どういう……」
「てか、連絡先も職業も書いてないじゃん」
「……これは、どういったものなのでしょう?」
三者三様ならぬ、四者四様の反応に、またも雄介は笑顔を浮かべながら、書いてあることを説明し始めた。
「職業が書いてないのと、"夢を追う男"っていうのは、俺が冒険家だから。2000の技は本当だよ?ちなみに、1番目と2000番目の技はもう君たちに見せたよ」
「夢を追う、かぁ……なんだか、素敵ですね!」
雄介の言葉に、目をきらきらと輝かせながら、はるかがそういうと、他の三人は呆れたといわんばかりに苦笑していた。
そんな様子を眺めながら、久方ぶりに心が安らいでいくのを感じていた雄介だったが、一つだけ、気になったことがあり、問いかけてみようか、という考えがよぎった。
だが、自分から聞くのはやめよう、と考え、四人の様子を見守ることにした。
そのことに疑問を覚えたのは、雄介を最初から警戒していたみなみだった。
「……聞かないんですか?わたしたちのあの姿のこと」
「うん?まぁ、気になるっちゃ気になるけど、君たちも俺と同じで訳アリでしょ?」
ぽりぽりと頭を掻きながら、雄介はトワの問いかけに答えた。
「訳アリだったら、こっちから聞くのはちょっと気が引けるからさ。君たちが話す気になったらでいいよ……誰にだって、隠しておきたいことはあるしね」
そういいながら、雄介は自分の拳を掌で包んだ。
まるで、今も痛み続ける傷を包むかのようなそのしぐさが、雄介が隠しておきたいことを表しているかのように思えて、みなみはそれ以上、何も聞くことが出来なかった。
それから少しして、杉田が部屋に帰ってくると、はるかたちの保護者が迎えに来ていることと、今後のことについて、雄介に話しておきたいことがあるということだったので、はるかたちはその場から離れようとした。
だが、部屋を出る直前、みなみは雄介の前に立ち、頭を下げた。
「ごめんなさい!」
「え?何が??」
「わたし、あなたがあの化物と同じものだと思っていました」
最初こそ、なぜ謝罪されているのかわからなかった雄介だったが、どうやら、警戒して鋭い視線を飛ばしていたことについて謝罪しているらしいということに思い至った。
「……まぁ、仕方ないよ。あんな現場に居合わせたんじゃ、自分の知り合い以外はみんな敵だって思っちゃうだろうし……何より、目の前であんなことしちゃったらね。むしろ、俺の方こそ、ごめんなさい、かな」
「え?」
「怖い思い、させちゃったもんね。だから、ごめん」
雄介もそういいながら、頭を下げて謝罪した。
あの場では仕方がなかったとはいえ、あそこで変身しなければ、彼女たちがどうなっていたかはわからない。
最悪、死んでしまっていたかもしれない。
だが、怖い思いをさせてしまったことに変わりはないのだ。
「……ふふふっ、なんだか、お互い謝って、変な感じですね」
「そうだね……あっ!」
みなみのほほ笑む顔を見て、雄介は笑顔を浮かべながら、驚きの声を上げた。
その行動に疑問を感じたみなみだったが、雄介の次の一言で、なぜか納得してしまった。
「やっと、笑った!」
「なんですか、それ……ふふふ、五代さんって、おかしな人ですね」
そういいながらも、みなみは微笑みを絶やさず、それでは、と一礼してその場を立ち去った。
雄介はサムズアップをみなみに向けて見送り、杉田たちの方へと視線を向けた。