やはり俺の九校戦はまちがっている。   作:T・A・P

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九校戦編 肆

 放課後、司波達也は教室を出て部活連本部に向かった。

 比企谷はその後ろ姿を一瞥すると、一つ欠伸を漏らして立ち上がり荷物を背負い直して生徒会室に足を向ける。

最近は二人の連行がなく、一時の猶予が与えられた比企谷は生徒会室に行く前に途中の自販機からMAXコーヒーを一本購入し、ちびちびと口含み仕事前の休息を甘受していた。

「あ~働きたくねぇ」

 残り少なくなった中身を憂い、やらなければいけない生徒会の仕事に嘆きながら残りの中身を飲み干した。遅くなることはいいが、遅れすぎると面倒なのだ。

 少々急ぎ気味で生徒会室に移動し、

「一年E組、比企谷八幡です。開けてもらえますか」

 いつものようにパネルをタッチした。

 生徒会室の中に入ると、七草と中条の二人を除いた生徒会メンバーが集まっていた。ここで服部もいない、と言った方がいいのだろうがほとんどいないことが多いので割愛する。

 

 

 さて、いつものごとく生徒会の仕事を手伝っていると由比ヶ浜が、本当にふと思い出したかのように口を開いた。

「ねぇねぇゆきのん、会議どうなったんだろう」

「そうね、予定ではもう終わっているはずだけれど。やはり、司波くんがいる事に文句を言っている生徒がいそうね」

 そんな雪ノ下の言葉にピクリと、司波深雪が身体を反応させた。おそらく、兄である司波達也の状況を想像しているのだろう。徐々に周りの温度が下がり始め、その事に気がついた雪ノ下と由比ヶ浜はどうすればいいのか慌て始めた。

「まぁ、大丈夫だろ」

 そう、資料整理をしていた比企谷が自然な口調で言葉を発し、全員の目が背中に突き刺さる。比企谷は振り返り、突き刺さる視線にビクッと身体を震わせるとすぐに嫌な顔を浮かべて続きを話す。

「そもそも推薦してんのは会長だろ。つまり、なにが起きても対応できる位置にいるってことだ。なら、あいつがメンバーに入るのは確定事項でしかねぇだろ」

 事もなさげにさらっと口にする言葉に、雪ノ下、由比ヶ浜、それに市原は少し驚いた顔を比企谷に向けていた。そんななか司波深雪は少し微笑み、完全に機嫌が直って仕事に戻った。

 そのまま全員が仕事に戻るさなか、比企谷の端末に連絡が入る。

比企谷は億劫そうに端末を確認すると、時間が停止したかのように指を止め目をせわしなく動かし素早く端末を操作し始めた。一分もかからず操作を終え、端末をしまうと置いていた荷物をひっつかんで、

「雪ノ下、由比ヶ浜。俺はちっと用事ができたから先に帰るぞ!」

「え、ちょっと、ヒッキー!」

「い、いきなり叫ばないでくれるかしら」

 二人が止める間もなく比企谷は扉をくぐり、廊下を走り去っていく。二人が扉から顔を出した時にはもう後ろ姿さえ見えなかった。

「あの野郎、俺の理論を本当に現実化しやがったか」

 

 

 

 黒のフルフェイスのヘルメットを被り第一高校の制服を着た男が、これまた真っ黒なバイクで飛ばす姿があった。黒いバイクは速度を落とすことなく、とある場所に向かって一秒でも早くたどり着こうと急いでいた。

 他の車を追い抜き、近道をする為に細い路地を通り抜け、それはもう映画かと言わんばかりの急ぎようだった。そして、バイクは目的地に到着する。

バイクの目的地はSWT(スノー・ホワイト・テクノロジーズ)の研究所であった。

 フルフェイスを外した下は、当然ながら比企谷だ。ただ、その比企谷の表情は、いつもより幾分かテンションが上がっているように見えた。

乗っていたバイクを研究所横にある収納スペースに入れると、自動で開いた扉はなにも無かったかのように入口が消える。それを確認した比企谷は、ランダム周期で変わる解錠方法でドアを開き地下へと降りて行った。

地下の研究所につくと開口一番、

「材木座、よくやった!」

 そう、研究所内に響き渡るほどの大声を上げた。

「ようやく来たか八幡! プログラムの確認を頼むぞ!」

 すぐに走ってきた材木座は若干落ち着いているもののすくなからず高揚しているのだろう、かなり興奮気味で声の大きさが抑えられていなかった。

「ああ、デバイスはどのタイプを使った?」

「うむ、とりあえずH‐八型を使った専用デバイスと汎用型デバイスにプログラムを入れてある。八幡のテスト次第で別のデバイスに変更も考えておるぞ」

 材木座は白衣のポケットからブレスレット型のCADと少し歪曲した短冊型のCADを取り出し、その二つを比企谷は手に取り近くモニターに移動する。

「戦闘時を想定して使わねぇとデメリットにしかならねぇからな」

 慣れた手つきでキーボードを操作しプログラムをモニターに流すと、二人は数秒間目を離さず無言で目を鋭くしていた。

「……悪くねぇな。

 まだ少し無駄な部分があるが、テストに支障はなさそうだ」

「むぅ、我もまだまだというところか」

 比企谷の言葉に少々渋い表情を浮かべる材木座だったが、すぐに気を取り直したようで二人揃ってテスタールームへ移動を始めた。

 

 

 

 比企谷は短冊型のCADをベルトに取りつけ、プロテクターを装備した状態でテスタールームの真ん中に立っていた。

「八幡よ、こちらの準備は終わったぞ」

「んじゃ、始めるか」

 静かにサイオンをCADに流し込むと、空中に足を踏み出した。

「お、おお! 成功だ!」

「喜ぶのはまだ早ぇよ」

 喜色満面で喜びの声を上げる材木座に、比企谷は冷静に言葉を返す。

空中に立っている比企谷は一度大きく息を吐くと階段を上がるように二歩目を踏み出し、残っていた足を揃えることなくそのまま空間を踏み切り弾丸のように部屋の天井に向かって飛び出した。

「八幡!」

 このままでは天井に激突して大けがは免れない早さだ、それをガラス越しに見ていた材木座は慌ててマイクに向かって声をかけると、

「慌てんなよ」

 そんな、何でも無いかのような声が帰ってきた。

 天井にぶつかる寸前、比企谷は身体の向きを変え再び空間を蹴って今度は地面に向かって放たれる。再びぶつかる寸前に体勢を整えて地面に当たるギリギリに足をバネのようにしならせ、材木座の姿が見えるガラスへ向け方向を変えた。

 そこから数度、スピードを落とすことなく部屋内を縦横無尽に天地無用に、例えるならピンボールのように動きまわった後、動きを止めて空中に立つと部屋内を覗く材木座に目線を向ける。

「やっぱ若干発動タイミングが遅いな。後で見直さねぇと」

「ふむ、ではサイオンの消費率はどうなのだ?」

「俺が使う分にはいいが、お前らが使う事を想定すればもう少し効率性を上げた方がいいな」

「うむ、了解した」

 これで今後の方針が固まったのだろう、話し終わると急に立っていた足場が無くなったかのように比企谷は下へと落ちていくが、難なく着地をすると防具を外しテストルームを出て開発室へと足を向けた。

 

 さて、彼らが新しく開発した魔法、それは『空中歩行術式』である。

 それは、戦闘時に空中というアドバンテージを得るために開発した術式なのだが、ここでふと思ってしまう。なぜ『飛行術式』ではないのか。

 比企谷曰く、飛行だと咄嗟の事態に反応しきれない場合があるだろう。だが、歩行だと自身が動きたいように体を動かす事ができるんじゃねぇの、とのことだ。

 

 

 


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