書いては止まり書いては止まりだったためややハチャメチャですがとりあえず投稿するべきだと思い投稿しました。
最近魔女はさんの出番ない。魔女はさん書きたい
母親は失った子を求めた。
人形は母親に愛を求めた。
子は自身の姉妹を求めた。
『母娘奇憚』
暗闇の中、淡く光るポットに向けて一人の女性が歩みを進めている。その姿はまるで幻でも見ているようにフラフラとした覚束無い足取りのようで目的地に向けて真っ直ぐ進んでいるかのようにも捉えられる不思議なものだった。まるで砂漠の中で蜃気楼に霞むオアシスをただひたすらに目指しているような、そんな足取りであった。
「アリシア、いつまでも寝ているなんてお寝坊さんね」
「もう起きる時間よ。起きて。もうすぐ母さんとあなただけの幸せな生活が待っているわ」
女性は暗闇の中、唯一光る少女が眠る生体ポットに近づくとそのポットに自身の頬をピトリとつける。ポットの妙に暖かい感触が女性の頬を伝って彼女に伝わる。ポットの中の少女はめざめない。目を瞑ったまままるで母の胎の中で眠るように培養液の中で体を丸めていた。
「新しい生活を送りましょう。アルハザードで」
女性の手の中には数個の光る宝石が握られていた。全部を集める必要はない。これだけの数があれば楽園への道を切り開くには十分であろう。そう思い宝石にむけて女性は己が願いを伝えようとする。
「そこまでだ、プレシア・テスタロッサ」
二人だけのはずの世界に邪魔物の声が響いた。
◇◇◇
フェイトが気がついたときには先程までと変わらないアースラの一室の姿が目に飛び込んできた。わずかに残る湿っぽさが肌にべとっとした不快な質感を与えるがそれはじめじめした程度で先程の体が何かに溶けてしまうような滴るような水や床一面に広がっていた何かに飲み込まれてしまうような水溜まりは影も形もなくその場から消失していた。
周りは当たり障りのない館内の一室の風景であり包み込むような闇は消え失せ点滅するそぶりすら見せない灯りが眩しいくらいに室内を照らしていた。
フェイトを取り囲んでいたありしあ達はどこにもその姿が確認できずフェイト達がまるで白昼の中夢を見ていたようにすら思える。しかしそうではないことをフェイトの前にポツンと落ちている赤いにじみができている熊の人形が物語っていた。
「あっ⋯⋯」
声が出せるようになっていることにフェイトは安堵すると自身の身体をペタペタと触り自分の存在、形を再確認する。汗がにじんだように身体はべたついており手に何とも言えない感触を伝える。
「おねえちゃ」
自身を認識するとぽろっとそんな言葉が漏れる。虚空へと手を伸ばしてみるとぺたりとその場に座り込んでしまっている足が前に出るはずもなく水面のように柔らかくはない次元航空艦の床に顔をぶつける。
痛みがフェイトの頭を覚醒させクリアなものにしていく。
先ほどまで自分が見ていたもの、自分が抱いていた憎悪、自分を取り込もうとしたありしあ達、自分に笑いかけた顔の見えないおねえちゃん。
おねえちゃんに抱いていた憎悪はそうしないと私が形を保てないからだったんだ。だってみんなの中にも私の中にもおねえちゃんはいるのだから。私が完璧におねえちゃんならよかったんだけど生憎私はおねえちゃんにはなれなかった。
おねえちゃんになれないなら形がなくみんなみたいになるはずだったのに私の器はしっかりしており形が崩れることはなかった。だから私はフェイトという形を作った。そしてアリシアを憎むことによって自分の形をしっかりとしたものにしていたのだ。
「フェイトっ」
アルフに思いっきり抱き着かれる。うん。ちょっと痛いけど嬉しい。
「ねえアルフ、私は誰かな?」
「フェイトに決まっているだろう。フェイト・テスタロッサに決まっているじゃないか」
「うん、そうだね」
もうおねえちゃんを恨まなくていいのかな。
「ねえクロノ、全部話すから協力してくれない?」
フェイトはつきものの取れた顔でぽつりぽつりと話し出した。
母の事、自分の事、母の目的、自分の目的。
包み隠さず自分の意志でジュエルシードを求め、母を呪縛から解き放とうとしていたこと。母の心を独占する存在が許せなかったこと、それに代わり母の寵愛を一身に受けたいと思っていたこと、嫉妬を抱いていたこと。そして今理解した先ほど現れたありしあ様⋯⋯いや、母の実の娘であるアリシア・テスタロッサのクローンたちのこと。そして自分の事。フェイト・テスタロッサの事。
「事情はわかったよフェイト。話してくれてありがとう。捜査もはかどったしこれで事件の全容も見えてきた。君は時空管理局に身柄を拘束されてしかるべきところで司法の裁きを受けることになるだろう」
「なっ、アンタは!!」
フェイトは淡々としたクロノの言葉に首を垂れるように力なくうなずく。冷たいクロノの対応にアルフは立ち上がりクロノの首に向けて手を伸ばそうとする。ユーノはアルフを止めようと二人の間に入るとクロノは口を開いた。
「さて、あとは首謀者、プレシア・テスタロッサの確保をするだけだ。さて困った。僕らは彼女の居場所を知らないんだ。少し協力願えるかな、フェイト・テスタロッサ」
クロノはフェイトに向けてそう言う。キョトンとしたフェイトはそのままクロノを見つめて考える。その様子にクロノは続けて口を開く。
「情けをかけているわけじゃないさ。取引だよフェイト・テスタロッサ。何分不確定要素が強い。少しでも情報のある君に捜査協力の依頼をするのは自然だろう。それに、このまま気持ち悪い終わり方をするのは僕は認められない。プレシア・テスタロッサを捕らえてしっかりと事件を終わらせる。件の重要参考人の事も含めて」
◇◇◇
ああ、なんで私たちの邪魔をするの。私は娘を生き返らせたいだけなのに。ああ、なんで、なんで。その声が響くと部屋の中に多くの邪魔ものが無粋にも入ってくる。ふざけないで。ここは私とアリシアの世界を壊さないで。やめて、やめて。ここはお前らが入ってきていい場所じゃないの。
怒り任せに魔術を放つ。何人かは吹き飛ぶがどんどんと私たちを取り囲む邪魔者は増えていく。
「お母さんっ」
邪魔者の声が聞こえる。お母さん?私の娘はアリシアだけよ。じゃああなたはだれ?あら、あなたアリシアに似てるわね。髪の毛を伸ばしたらそっくりよ。
「お母さん。お母さん。おねえちゃんはそんなこと望んでないよ。やめよう、お母さん」
悲痛な顔でアリシアに似た子は叫ぶ。やめて。その顔でそんな顔をしないで。笑いなさい。笑って、ね。
「プレシア・テスタロッサ、貴方の身柄は時空管理局が預からせてもらう」
邪魔者がそう告げてくる。身柄を預かる?何を言っているんだろうか?
「貴方にはしかるべき治療を行い自身の罪に向き合ってもらう。絶対に捕まえてこの気持ち悪い事件をきっちりと終わらせる」
でももう時間切れよ。さあ一緒に行きましょうアリシア。
目の前が蒼く染まる。眩しい青が部屋の中を満たしたかと思うと黒が広がっていく。まるで青い光に目が焼かれたかのように黒が一面を支配する。闇が一面を支配する。何も聞こえない。ああ、これじゃあアリシアの声も聞こえないじゃない。アリシアの顔も見れないじゃない。
ペタペタ
ペタペタ
自身の身体を触る。何かを確かめるように触っていくと何か別のものに触れた。どろりとした粘性のそれに気づくとそれは自分の腕を、足を、体を、顔を、心の臓を覆っている気さえしてきた。
じしん覆っている粘性のある黒に沈んでいく。覆っていたそれが鼻から、口から、体の穴から自身の身体に入ってきているのを感じた。
そしてだんだん感覚がなくなってきた。ああ、生暖かい黒が自分を侵していく。ああ、アリシア、アリシアなのね。
アリシアを暗黒に感じれば自身の身体を侵されていることも、自身の身体がまるでなくなっていくことも受け入れられる。私はアリシアの一部になりアリシアは私の一部になるの。
おかえりなさい、アリシア。お母さんの中に。そして連れてってお母さんを。あなたの中へ。
海が鳴ると書いて海鳴。
地名には必ず意味がある。
鳴るとは大きな音が出ることを意味する。
「もうすぐ、貴女の声がみんなに届くよ。その綺麗な歌声が」
海鳴奇譚