昔なろうてほんのちょっとだけメルヘン×リリカル書いてたなんて知らないよね。一応パクり言われたら困るので自白しときます。
夜、私は家を抜け出して散歩をしていた。家のみんなは何も言わない。たまにお父さんやお兄ちゃんが私の事を寂しさの混じった目で見てくるけどどうしたんだろう。私は二人とも仲良く接してるはずなんだけどなぁ。
それはそうと夜の町はまた昼間と違った顔を見せてくれる。夜は向こうのみんなもやはり動き易いんだろう。理解はできないけど怪談なんかは基本的に夜の物語だし、暗くなった世界は何かを目で見るのは難しいし何かを見間違えたとしても不思議じゃない。だから物語が紡げるのだろうと思う。そんな風情を感じながら私は笑みを溢す。
「助けてって言ってるけど誰だろうね」
助けを求める声に私は笑顔になる。声がするということは誰かがいるという事だ。さてさてどんな子だろうか。友達が増えるということは良いことだ。寂しくなんかなくなるんだから。だから
「みんなも気づけば良いのにね。独りの時なんかないんだって」
ねっ!!と念を押すように私は傷ついたイタチさんに声をかける。
「こんばんは、イタチさん。そんなに傷ついて喧嘩でもしちゃったの?」
「君は?」
「私は高町なのは。魔法も使えないし、空も飛べないけどたくさんのお友達がいる魔女だよ。喋るイタチさん」
顔をしかめながら私に聞いてくるイタチさんに私は屈みながら笑顔で自己紹介をした。自己紹介は大切だ。名前を間違えたらみんな怒っちゃう。
「イタチさんのお名前は?」
「僕はユーノだけど……ってそんなことより」
「自己紹介は大事だよ?」
「大事だけど……危ないっ」
イタチさん、もといユーノ君の叫び声と同時に何かが私に飛びかかってくる。その衝撃に私の身体は飛ばされてなかなかの距離を宙に舞った。
「あはは。仲間外れにされて寂しかったのかな?」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。このままじゃ君も……かなり吹き飛んでたし」
私はゆらりと立ち上がりながら体当たりをしてきた黒い影を眺める。飛ばされた時に下敷きにしたであろう右腕がズキズキと痛い。それでも私は黒い影とユーノ君に笑顔を向け続ける。
「うふふ、君も寂しかったんだよね。遊び相手を私に取られてさ。だけど寂しくなんかないよ」
黒い影はなのはの言葉に警戒したかのようにその場で姿勢を低くする。ユーノは怪我をしてもなお笑顔を浮かべるなのはにうすら寒いものを感じていた。
「なのは、君は何を言って」
「だってあそこにはいっぱいお友達がいるもん。愛されて愛されて、ご主人様の愛に応えようと必死に生きようとした子、その逆に誰からも愛されずに倒れた所を誰かに拾われてここにきて倒れた子。みんなみんな、友達を待っているよ」
私が笑顔でそう言うと黒い影の丁度後ろ側にある動物病院から何かが黒い影を捕まえようとする。その姿にユーノ君はあとずさる。何でみんな恐れるんだろう?あれはみんな寂しいだけなんだから。
「ん、消えちゃった?いや違うかな。願望が大きくなったのかな」
それは突然だった。黒い影が動物病院から出てきた獣の形をした影達に取り込まれてから急にその力は強くなり、何もかも取り込もうとする願望の激流を感じた。
「えっ」
そしてそれはユーノ君を取り込もうと迫る。それは当たり前で獣という存在が獣であるユーノ君を取り込もうとするのは当たり前で、動物病院という場所がらもユーノ君に縁があるだろうからね。
「な、なのは。助けて」
「ふふ、恐れないで。彼らはユーノ君と友達になりたいだけなんだよ。だから怖がっちゃ可哀想だよ」
そう言ってその光景を愛しい物を見るようななのはの姿にユーノは絶望したような顔をした。今、ユーノの頭にあるのは使命感だとか義務感といった物は纏わりつく獣の影達によってドロドロに溶かされており、残っていたのは皮肉にも獣のような生存本能だった。
ガリガリと獣の歯を鳴らすような音が聞こえるとともにユーノの首筋に生暖かい吐息がかかるのを感じる。しかしそれとは逆にユーノの背中に冷たい水が走る。ガリガリとした音の中にガチガチという音が混ざりはじめるとともにユーノの覆われはじめた視界は左右に微妙に揺れている。
目の前に映るのはこの場において不釣り合いな白い服を纏った少女。その少女の笑みはこんな状態でなければ可愛いと思えるのにユーノはその笑みが怖かった。
ユーノは逃げ出したかった。この獣の影から、理不尽な状態から。だから手を伸ばした。ひどく短いその、フェレットの手を。
「願望が通じたのかな?」
私はそう呟く。ユーノ君を仲間に入れようと必死だった獣の影達は次の瞬間ユーノ君からその手を離すことになった。……まあ彼らも増幅された願望では不本意だろうからいいのかな?
燃え盛る炎により獣の影達はユーノ君から離れていった。元来生物、特に獣は昔から炎を本能的に怖がる性質がある。その炎、松明を振るうお兄ちゃんは私に厳しい目を向けている。
「なのはっ!!またお前は」
「お兄ちゃん、みんな寂しかっただけなんだよ。私と同じなの」
お兄ちゃんは私に怒ろうとするが私にはわからない。そんな私にお兄ちゃんは苦い顔をする。そんな話をしていると獣の影達は邪魔をしたお兄ちゃんに怒りの矛先を向けて襲いかかる。しかしお兄ちゃんは自分の刀で襲いかかる獣の影達を切り伏せる。
「なにっ!!」
しかし獣の影達は何度も起き上がる。お兄ちゃんの刀はけっこうみんなに対していつもよく効いていたから意外だ。
「ダメです。あれはジュエルシードの思念体で魔法で封印するしかありません」
「魔法?ジュエルシード?」
「とにかくこのままじゃまずい。なのは、協力して」
「いいよ」
ユーノ君の叫びにお兄ちゃんは疑問符を浮かべるもユーノ君は無視して私を見て少し考えたあと私にそう言った。もちろん私は2つ返事でOKした。二人ともすごく驚いているけどどうしたの?
「何を企んでいるんだ」
「誰だって痛いのはやだよね」
私の言葉に二人は理解できないのか首をかしげる。そんなに難しいこと言ってないよ。
「これを握って僕の言葉を繰り返して」
そう言ってユーノ君は赤い宝石を差し出してきた。私はそれを言われた通り握りしめる。
「いくよ。我、使命を受けし者なり」
「我、使命を受けし者なり」
「契約のもと、その力を解き放て」
「契約のもと、その力を解き放て」
「風は空に、星は天に、そして不屈の心は」
「風は空に、星は天に、そして不屈の心は」
「「この胸に」」
「「この手に魔法を。レイジングハート、セット アーーープ」」
ユーノ君の言葉に併せて言霊を紡ぐと光が溢れて私の姿が変わる。イメージしたのは魔女の姿。私に素晴らしい世界を教えてくれたお姉さん。詠子お姉さんのワンピースに近い姿がそこにあった。そして宝石を握っていた手には白い槍のような杖。
「そして手を伸ばして、なのは、ジュエルシード封印って」
ユーノ君の言われた通りに手を伸ばす。すると獣の影達の寂しさの嵐が私を襲う。それを受け入れ、微笑みながらまん中の青い宝石に手を伸ばす。
「ジュエルシード封印」
すると獣の影達は霧のように消えて私の手の上には青い宝石が転がっていた。
「ねえねえ、ありしあ様って知ってる」
―複製奇譚