橘王花は焦っていた。徐々に下がっていく気温、凍っていく街、そしていま危機に陥ってるかもしれない四糸乃のことを考えると、悠長にはしていられなかった。もし四糸乃のことが単なる杞憂ですむのなら、その方がいいがそうでない場合を考えると一刻も彼女を早く救わなければならない。
(どこ!いったいどこに……あれは氷のドーム?……いえ、吹雪が渦巻いてそう見えるだけね。でもおそらくあそこが今回の騒動の中心!ならっ――!)
そう考えた私は、吹雪のドームがある方向に全速力で向かって行った。そして、ようやく目的の場所に到達した私だが、予想外の状況にかなり困惑していた。なぜならそこにいたのは、例の組織の隊員達だけではなく、【
(少女の方はおそらく精霊ね。ならあの子が今回の騒動の原因かしら?いえ、おそらく違うわね。どちらかというと、明らかに今回の騒動の中心はあのドームの中にあるわ。それにあの組織の人たちもまるであの少女の存在が予想外だという反応をしているし……なら、少年の方かしら?でも、あの子は人間のようだし、やはりあの中には別の精霊が……四糸乃ちゃんがいるはず……えっ?)
そう思考を巡らせていた最中、突如少年がドームに近づいて行ったのだ。あの中に入っていくのは単なる自殺行為である。無論人間はおろか精霊ですら無事ではすまないだろう。
そんな少年の行為を止めようと思ったが、私が止めるより少年がドームの中に入る方が早いと判断した私は焦って――
「――っ!?ら、〈
なんとか少年がドームの中に入る前に、カードの力を少年に付与することができたが、
「おまえも、奴らの仲間か?とにかくシドーの邪魔はさせんっ!」
「どきなさい!急がなければあの少年が――」
「少年?……シドーのことか?とにかくシドーは四糸乃という娘を助けに行くために頑張っている。その邪魔は「――ちょ、ちょっと待ちなさい!」……む、なんだ?」
「そのー……シドーとかいう少年は四糸乃ちゃんを助けるためにドームの中に入っていったのかしら?」
「む、おまえはあの娘の知り合いか?」
「えぇ、そうよ。ということは、やはりあの中には四糸乃ちゃんが……」
「大丈夫だ!きっとシドーが必ず何とかしてくれる。私のときのようにな!」
"大丈夫"、そう言い切った彼女の顔はどこか誇らしげのある顔をしていた。そんな誇らしげな顔をしている彼女を見ていると、私も彼がきっと四糸乃ちゃんを救ってくれると信じてみたくなるような気分になっていた。
実際のところ、おそらく策はあるのだろう。精霊の彼女ではなく、人間である少年の方がドームの中に入っていったのだ。どちらの方がより長く耐えれるかといったら、もちろん前者だ。しかし、わざわざ少年の方が入っていったということは、あの少年には吹雪の中を耐えれる策があるのだろう。そして四糸乃ちゃんの方にも……
「わかったわ、そのシドーくんのことを信じるわ。四糸乃ちゃんには力になるって約束をしたから……私にも何か貴方達の手伝うことはないかしら。」
「おぉ!手伝ってくれるのか。ならば奴らを止めるのを手伝ってくれ。」
「了解した――」
"了解したわ"そう言い終わる前に白いショートカットの髪をした少女が、光の刃を握りこちらへ突っ込んできた。
おそらく狙いは剣を持った彼女ではなく、私だろう。
(〈ディバイナー〉は直接戦闘するタイプではないはず。ならば、何かする前に一気に仕掛け――っ!?)
「甘いっ!」
こちらに向かってくる少女が刃を振るう前に、私は少女の懐に潜り込んで刃を振るおうとしていた腕を抑え、少女の胸に掌底を叩き込んだ。しかし彼女もわざと後ろに吹き飛ぶことにより、衝撃を流したようだ。とはいえ相応のダメージは負ったみたいだが。
「う、くっ……」
「あなた、少し油断してたわね。接近戦に持ち込めば何とかなると思ったのかしら?私、武術の経験はそれなりにあるのよ。それに、そちらも武術の経験があるみたいだけど、まだ私の方が腕は上みたいね。」
(けれども今日は【
それならば、あとはこの身一つで対処するしかない。
それに、私だけではなく頼もしい味方もいるのだから。少年が四糸乃ちゃんを助けるまで頑張るだけだ。
「というわけでよろしくね。あぁ、ちなみに私の名前は橘王花っていうのよ。よろしくね。」
「うむ、私の名前は【
「そう、十香っていうのね……とてもいい名前ね。さて、それじゃあ、私たちの戦争を始めましょうか。 」
結果を言うと、しばらく例の組織と戦っていたら、氷のドームは徐々に勢いを失い消えていった。おそらくシドーくんが四糸乃ちゃんを救ってくれたのだろう。その証拠にドームが消えた一瞬、少年と四糸乃ちゃんの二人が無事でいるのを確認できた。但し、四糸乃ちゃんが半裸状態なのは気になったが……それはともかく、いつの間にかシドー君と四糸乃ちゃんそして十香が消えていたので、私も組織に追われないようにさっさとその場から立ち去った。……といっても、十香ちゃんが白い髪の少女を相手取ってる間に、組織の人間を私がほとんど叩きのめしていたので追手などは対して来なかったが。
そんなわけで、私の濃い一日は終わりを迎えた――
その一方、最新鋭空中艦である〈
そこでは、十香、四糸乃そして士道の三人が顔を合わせて会話を始めていた。が、どうやら士道の陰に隠れている四糸乃を見ると十香に苦手意識を持っているらしい。
「大丈夫だ四糸乃。こいつは十香。俺と一緒に——お前を助けてくれたんだ。」
「……いや、私だけではない王花も一緒に手伝ってくれていた。」
「王、花さん……も?」
「王花?一体誰なんだ、その人って。」
「わ、たしと同じ……精霊で、す。」
「――っ!?……そういえば、結界の中に入っているとき俺の回復能力とは違う……まるで、心と体が暖かさに包まれたような不思議な感じがしたけど、もしかしてそれも……もし、そうだったらお礼をしないとな。」
「うむ、礼をする前にここに来てしまったからな。今度会った時は、必ず礼をしよう。」
そして、彼らの濃い一日もようやく終わりを迎えたようだった……もっとも、士道が一日を終えたのは、妹にたっぷりと説教されてからだったが……
とりあえず、2巻の大まかな内容はこれで終わりましたね……疲れましたが結構満足してます。
ちなみに、本編で書ききれなかったので補足しておきます。
まず、王花は四糸乃の霊力を読み取れなかったのか?ということなんですが、霊力を帯びていた雨が多数降っていたせいで、まるでチャフのような働きをしていた。ということに加え、まだ霊力探知に慣れていなかったせいだと考えてください。もしかしたらどこかで矛盾するかもしれませんがその時は……まぁ、王花も徐々に慣れることでしょう。
一応なんですが王花は精霊になってるので身体能力は通常の人間に比べると格段に上がっていますの。それに加えて王花の元々の戦闘技術が合わさって……ということでとても強くなっております。王花強すぎない?と思った方はそういう理由だと納得してくだされば幸いです。ツヨクシスギタカナー