デート・ア・ライブ 王花ディバイナー   作:メカレン

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4章

日下部燎子は拠点である陸上自衛隊・天宮駐屯地に部隊全員を引き連れて帰還していた。

あの新種の精霊が私たちに何かした瞬間、いきなり目の前から精霊が消えたのだ……いや、それだけではない、時間を確認してみると私たちが精霊と戦闘を開始しようとした時刻からかなりの時間が過ぎていたのだ。

まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……気分としては狐に――いや、精霊につままれた感覚だ。

すぐさま、新種の精霊を追跡しようとしたが、街の中からは精霊の反応が出なかった。おそらく、もう"消失"してしまったのだろう。一応、空間震による被害は出たがそれ以外は特に大きな被害はなかったため、ある意味実質的な目的である精霊による被害を抑えるという目的は果たされてはいたのだが……

 

「被害はなかったとはいえ、何もできなかった……か。」

 

とはいえ、「何もできませんでした」では報告はできないのである程度きちんとした報告はさっき上層部にはしておいたのだが。それよりも今私がすべきことは――

 

「何も……できなかったっ!!」

 

この荒れている部下を落ち着かせることだろう。

いつもは冷静で感情をめったに出さない彼女ではあるが、こと精霊に関しては憎悪を露わにするのだが……どうやら、今回のことに関してはなおさららしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女、【鳶一 折紙(とびいちおりがみ)】は荒れていた。それもそうだろう、いままでASTに入って精霊と戦ってきたのだ。〈プリンセス〉だって、消滅させるまでには至らなかったものの精霊と戦ってきたと彼女は自負していた。しかし、今回の精霊には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。まるで、立っているステージが違うかのようなそんな感覚に彼女は襲われていた。

 

「一応言っておくけれども折紙一人の責任じゃない。あんまり、思いつめると潰れるわよ。」

 

「問題ない。初見だから対処はできなかったが、次こそは……」

 

「だから……はぁ、まぁいいわ。――っと、そういえばついさっき新種の精霊の名前が決まったわ。識別名は〈()()()()()()〉に決定したわ。」

 

「〈()()()()()()〉?……占い師ということ?」

 

「えぇ、まぁ見た目やカード使ってる姿からそう決められたらしいわ……安直よね。」

 

「例え、どんな名前だろうと私には関係ない。今度こそ必ず……。」

 

そう必ず倒す。それこそが私がASTに入り、そして精霊をと戦う理由なのだから……

しかし、そんな彼女が闘志を燃やしている精霊は今――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「念願の拠点をゲットしたわ!()()()空き家があってよかったわ……しかも、家具まで残っているなんて最高だわ!さっすが私ぃ!!」

 

拠点を手に入れてはしゃいでいた。

とはいっても、さすがに電気や水は通ってはいなかったが拠点としては十分だろう。

えっ?不法侵入?そんなことは知らんなぁ……とはいわんばかりに彼女はくつろいでいた。

 

「正直この一日でいろんなことが起こりすぎよ……疲れたわぁ。」

 

この見知らぬ世界にやってきて、武器を持った連中に追い回されて、妙に怯えている精霊にで会ったのだ。なかなかに濃い一日であっただろう。

 

「とりあえず、今日はもう寝るとして当面の問題はお金かしら。どこか雇ってもらえるところを探さないと。」

 

とはいうものの、精霊の力を行使すればほとんどの問題が解決できるのだが頼りすぎると自分の中の論理感が崩れてしまいそうな気がしたのだ。そもそも不法侵入してる時点でもう手遅れだって?……気にしない気にしない。

 

「というわけで、おやすみなさい――」

 

と彼女は誰に言うわけでもなくそう呟いて眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燃えるように赤い髪をした少女は今、まるでSF映画やアニメに出てくるような艦の中で部下からの報告を受けていた。

 

「新たに精霊が出現したようです。それで、つけられた名前は〈ディバイナー〉だそうです。」

 

「〈ディバイナー〉ねぇ……ちなみに、その精霊の画像とかはないのかしら?」

 

「それが今のところないようです。ただ紫色のフード付きドレスを纏っているとの報告が。司令……彼にこのことは?」

 

「話してないわ。ただでさえ今は〈ハーミット〉だけで精いっぱいなのにもう一人となるとさすがにきついわ。それにその〈ディバイナー〉は好戦的な精霊ではないのでしょう?」

 

「えぇ、ですが噂によれば総合危険度はAAAだと判断されたようです。」

 

「十香と同じ総合危険度……とりあえずこの件、()()には内緒にしておきなさい。今は〈ハーミット〉に対象を絞るわ。もちろん、あとで〈ディバイナー〉には必ず対処するわ。」

 

「わかりました。それでは司令これで失礼します。」

 

「えぇ、お疲れさま。ゆっくり休みなさい。」 「あと司令、寝る前に罵倒してくれま――」

 

そう部下の男が言い終わる前に通信を切った。いつものやり取りなのだが、どうしてこいつはこうなのだろうか。有能である=まともな人間ではないのを神様あたりに文句をつけそうになった……しかし、新しい精霊とは。どうにも私には悩みの種は尽きそうにないらしい。

 

 

 

そんな各々の決意や悩みをよそに夜は深く更けていくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、当然夜が更ければ、いずれ夜は明ける。

そんな濃い一日から数日たったその日、各方面で話題になっていた精霊はいま――

 

「3番のアジフライ定食できましたー!」

 

定食屋さんの厨房で料理を作っていた。なぜこんなことをしているかというと、無論お金のためである。

数日前に定めた、お金を稼ぐという目標のため私は働き口を探していたのだが、当然ながら戸籍がないのだから身分すら証明できないのだ。雇ってくれる所などどこにもあるまい……一応、精霊の力には頼りすぎないつもりでいたが、今の私にはこの精霊の力以外に持ってるものはなかった。

なので、今回は定食屋さんの店主さんに精霊の力――【悪魔(デビル)】の〈誘惑〉の力を使ってバイトの面接をしてもらったのだ。誤解のないように言っておくが、あくまでバイトの面接をしてもらっただけなので受かったのは自分の実力と公平な面接の結果である。

あと厨房という裏方担当なのであの組織の人間がお店に来ても気づかないだろうし、霊力は【隠者(ハーミット)】の〈秘匿〉により霊力だけを隠してる状態なので、おそらくあの組織にばれる心配はおそらくないだろう。

 

(そういえば、霊装を解除すれば代わりに服を構成できるのよね……私、何気に衣食住の全てがそろってないかしら?)

 

実はそうなのだ。霊装を解除することにより『衣』服を作れる、定食の賄や給料などで『食』料を確保、『住』居も……確保?しているが、一応、この世界に生活基盤を構築できたのだ。……しかし、生活基盤が整ったいま、冷静に考えてみると私にとって大変な深刻な問題が浮上してきたのだ。それは――

 

「私、戸籍がないと結婚できないんじゃ……いえ、そもそも今の状態じゃ碌に運命の相手を探すことすらできないわね……。最悪精霊の力を使って……えぇ、大丈夫よ悪いことするつもりはないんだから、むしろ一人の乙女が幸せになれるのだからむ問題ね、えぇ……。」

 

などと、"やっぱり論理感が振り切れてるのでは?"と疑いたくなるような事を口走っている最中、外からけたたましいほどの空間震警報が鳴り響いたのだ。空間震が起こるということは精霊が出現したということだろう……つまり――

 

「四糸乃ちゃんが現れたのかしら?……なら――」

 

「お客様!危ないのでシェルターの中に!王花ちゃんも危ないから早くシェルターに避難しな!」

 

「わかりました!いま避難しまっ――!」

 

シェルターの中に入ってあとで抜け出して四糸乃ちゃんの所に行こう。そう思ってシェルターの中に入ろうとした瞬間、店が……いや、店だけではない()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

こんなことができるのは超常的存在である精霊しかいないだろう。あの四糸乃ちゃんが自らの意志でやったとは考えにくい、つまり四糸乃ちゃんがこれを使わざるをえない状況に陥ってるか、もしくは他の第三の精霊のしわざか……どちらにせよ、あまり時間はなさそうだ。ならっ――!

 

「すいません店長さん並びにお客様方……〈神秘創造(ラドゥエリエル)〉【(ムーン)】〈()()〉……いまから、私はシェルターに入らずにあるところに行きますが、みなさんは気にしないでシェルターに避難を。」

 

正直使いたくなかった力の一つではあるが、背に腹は代えられない。

今は一刻も早くこの騒動の原因を探り対処しなければならない。そう考えた私は周りに人がいないことを確認したのち霊装を纏って人間離れしたスピードで騒動の中心へと向かっていった……そんな私と同じく、この騒動を止めようとしている少年のことなど知らないままに――


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