雨がいまにも降り始めようとしているこの街に独りぼっちの女の子がいた。
その女の子は、フランス人形のように美しく、海を幻想させるような色をしているふわふわの髪に、
そんな少女は一体何者なのか、何故ここにいるのか、など様々な疑問が普通は湧いてくるだろうが、そんな疑問を吐き出そうとする前に、彼女がこちらを見つめて今にも泣きそうな顔をしだしたのだ。
(えっ、何?私、彼女に何かしたかしら。確かに霊装という怪しい恰好をしているけど、そんな泣かれるほどかしら……というか、初対面でしかも年下の子に泣かれるなんて、かなりショックなんだけど……とりあえず――)
「あのー、初めまし――「ひっ!」………(大丈夫。私の心はこんなことじゃ折れないわ。)」
実際のところ、結構折れかかっているのだが彼女が尋常ではない怯え方をしているのは何か理由があるはずだ。
ならば、優しくそして根気強く彼女に話しかけてみよう。
「大丈夫よ。私はあなたに危害を加えたりしないわ。私の名前は【
「あっ……よ、
「四糸乃ちゃんって言うのね、とてもいい名前ね。ところで、すごく怯えてるみたいだけど何か怖いことでもあったのかしら。もしそうだとしたら、あなたがよければだけど私に話してみない?できる限りの力になるわよ。」
こういう怯えてる子には頼りになる味方が必要なのだ。
それに、こういう可愛い子に怯えた顔は似合わない。似合うのはとびっきりの笑顔だろう。
そうして彼女の返答を待ってる私に、彼女が勇気を振り絞りこう言った。
「いたく、しません……か?」
「大丈夫、最初に言ったようにあなたに危害は加えないわ。それで、そういうことを聞くってことは誰かに痛めつけられてるの?」
「は……い。」
許せないわね。こんな幼気な少女を痛めつけるなんて万死に値するわ。
というか、こんな少女に誰が危害を……親か兄弟、あるいはクラスメイトかしら。
「ねぇ、あなたを痛めつけてる人はどんな人なのかしら?」
「そ、れは……いっぱい武器を……持った人たち……が。」
……武器を持った人たち?もしかしてその人たちって私を襲った組織かしら?もしそうだとするならば、その組織が狙うのは精霊、つまり彼女は――
「ねぇ、あなた?【精霊】言葉を聞いたことはないかしら?」
「えっ!そ、れは……」
どうやら聞き覚えがあるらしい。というより微かだけど彼女から霊力を感じることができる。とはいってもまだ力を使い慣れてないせいで、意識しなければわからなかったが……おそらく彼女の奇抜な格好も霊装なのだろう。というか、今まで気づかなかった私って……
とにかく、彼女が【精霊】であることはほぼ確実だろう。あれっ?ということは――
「えーっと……その人達なら私が退治しちゃったわ。というか私も精霊なのよ。」
「!?……お、姉さんも……ですか?」
「えぇ、そういった反応をみるにあなたも精霊みたいね。でも私、この街に来たの初めてなのよ。だから私と一緒に行動してくれればとても嬉しいのだけれども。」
「あっ、……わかりました。」
どうやら同じ精霊だということと、会話をし続けた結果、少しは彼女の怯えも和らいだみたいだ。
私としてもこうして話ができるような人間……もとい精霊ができて少し安心している。
正直このまま、一人見知らぬ土地で武器を持って追いかけられるのはあまりにも辛すぎる。
『いやー、【よしのん】もしかしてナンパされちゃった?よしのんモ・テ・モ・テ!』
「いえ、ナンパしたつもりじゃないんだけど。むしろ私がされたいというか、正直このまま白馬に乗った王子様あたりでも連れ去ってくれれば……ふ、腹話術!?」
『どうしたのー、あっ、もしかして緊張してるの?いやー、実はよしのんもこうして誰かとどこかに行くのは初めてなんだよねぇ~。これが噂の初体験!?』
それ絶対違うと思うわ。それよりも、いきなり四糸乃ちゃんがパペットを使って腹話術を始めてきた。というか、このよしのん?とかいうパペット、四糸乃ちゃんと代わってすごい馴れ馴れしいわね。まぁ、こういう態度は嫌いではない、むしろ好きな方だ。
しかし、こうもガラリと性格が変わるとなるとこのパペットに喋らせてるのが彼女の本心なのだろうか?それとも二重人格か……どちらにせよ、あまり触れない方がいいのは確かだろう。
私の直感(適当)もそう囁いてるし。
「とにかく、行きましょうか。あんまり時間が経つと――『あー……ごめんね。もう時間切れかも』……?それって――」
そういった瞬間、四糸乃とよしのんはまるでテレポートしたかのようにどこかへ消えていった……
「あぁ、これが
そうやってあたふたしてるうちに、どうやら例の組織に掛けていた【
とりあえず、さっさと【
「〈
これで、隠れることができたはずだ。あとはゆっくりと拠点を見つけよう……いっそ、本当に王子様か何か私をさらってくれたほうが、気が楽になる気がする。
などと考えている彼女には、実はこの出会いこそが王子様フラグ、もとい旦那様フラグだとはこの時はまだ気づいてはいなかった……