――墜ちていく、何もできずに深い闇へと墜ちていく――
――
――【変えられない過去】【受け入れられなかった自分】【何も確定していない未来】――
――過去は変えられない?未来は変えられる?……じゃあ、自分は変えられる?変わった?――
――不安と絶望でもがく自分に救いの手を差し伸べる人は果たして……――
「――ッ!!……なんて悪夢かしら……できれば二度と見たくはないわね。」
医務室のベットの上で悪夢から覚めた私は、ベットから体を起こして汗を拭っていた。
何もできずにもがくしかない身体、そして浅ましく希望に縋りつこうとする自身。
これはあくまでも
「弱気になってるのかしらね……そうだとしたら原因は――」
おそらくは彼……五河士道だろう。別に私は彼のことが嫌いではない。むしろその逆だ……しかし、好きだからこそ、期待してしまっているからこそ抱いてしまう不安……彼ならば私を――
「彼と話したのが二日前か……いますぐにでも話をしたい気分だけども。」
士道と話したのが一昨日。では一体、昨日は何をしていたかというと〈ラタトスク〉による検査を受けていた。一応、命に別状はないが病み上がりということもあって、数日は大事を取って安静にという結果を言い渡されてしまった。
そして、士道の方は現在、義妹である【
一応、私の力でなんとか抑えてるものの、正直のところいつまで持つかは私にもわからない。私自身の怪我に加えて、彼女を飲み込もうとする破壊衝動があまり強すぎるために、私が現在持つ全ての霊力を使っている状態だ。
「何事もなければいいのだけど……まぁ、何かあっても今の私だと足手まといにしかならないわね。」
正直、嫌な予感はするのだが、同時に嫌な予感を吹き飛ばしてくれるような安心感も感じている。
嫌な予感とは何なのか?安心感を感じるのは何故なのか?誰かに質問しても、返ってこないような疑問を胸に抱きながらも私は――
「とりあえず、ベットの上にある書類と格闘しましょうか……私が言い出したことだから、責任を持ってやらないと。」
そう言ったあと、私はベットの上にある書類と睨めっこしながらペンと手をひっきりなしと動かしていた。
これも、
夕日に照らされたビルの屋上には、一人の少女が……時崎狂三が屋上の縁に腰かけていた。
先日に琴里と王花と戦った彼女だが、現在はビルの中にいる人間達の『時間』を吸い取っていた。
とはいっても、死んでしまうくらいに『時間』を吸い上げて大量死をさせてしまったら、すぐに自分の仕業だと嗅ぎ付けられるだろう……そうすれば、ASTや赤い精霊そして王花ともう一度戦わなければならなくなる。
「さすがに万全の状態ではない現在では戦いたくありませんし……それにして、さすがに
先日に起こった戦闘では、琴里と王花の二人には『時間』を大量に消費させられてしまった。
さすが精霊という名は伊達ではない……などと考えていると、突然背後から『誰か』の気配を感じたのである。
警戒して慌てて後ろを振り返るとそれが誰なのかがわかったため、狂三は警戒を緩めて肩の力を抜いた。
【――どうだった?彼は】
そういって、こちらにそう尋ねてくる『誰か』だったが、その正体を狂三は掴めていなかった。
まるでノイズがかかっているように輪郭があいまいなために正体がつかめず、こちらにかけてきた声も言葉の内容は理解できるが男か女か、低い声なのか高いのか、それすらわからないような奇妙な声色をしていた。
「えぇ、あなたに教えてもらった通り素晴らしかったですわね。こうなったら、是が非でも士道さんを手に入れなければなりませんわね。」
【それはよかった。それじゃあ…………
「王花さんですか……あまり大した情報は得られませんでしたわ。ですが……彼女は
【神様か……ありがとう、これで取引は成立だ】
「えぇ……あなたが士道さんについての情報を与える代わりに王花さんについて探ってくる……確かに完了しましたわ。とはいっても、結構な痛手を負いましたが……」
【それはすまなかった……とはいっても彼女の方はこちらにとってもイレギュラーな存在でね。その為に君に探ってもらったんだ。】
この取引の為に王花と路地裏とデパートで相対しなければならなかったために、屋上では彼女と相対することになったが、彼女も士道と同じく自分の望みを叶えるために必要な存在だろう。
「士道さんも王花さんの持つ霊力は【
【時間遡行の弾……【
「【
【過去を……?】
「えぇ、私は30年前に初めて世界に現れた精霊……全ての精霊の根源となった精霊を『最初の精霊』をこの手で殺すために過去へ飛びますわ。そして、この世から精霊がいたという事実を消し去り、今この世界にいる全ての精霊をなかったことにする――」
――――それこそが私の悲願ですから――――