「小夜ちゃん。鈴鳴が何処にいるか分かる?」
伊佐から逃げながら那須が通信した。
『はい。来馬先輩はマンションの奥ですね。太一くんはバッグワームを使ってるのか分かりません』
「ありがとう。後ろの伊佐くんを鈴鳴に食い合わせることは出来る?」
『やってみます』
そう通信している那須を追い掛ける伊佐。何を話していたのかは聞こえなかったが、大体相手の取る手は想像出来ていた。
(俺たちを鈴鳴と食い合わせるつもりだろうけど……)
そう分析していた時だ。伊佐は建物に隠れた。直後、自分の立っていたところに弾丸が通った。
「!狙撃……?鈴鳴の狙撃手か……!」
どうしようか迷ったものの、せっかく場所をバラしてくれた敵の狙撃手をここで逃す手はなかった。位置的にも、修や千佳より自分の方が近い。
「宇佐美さん。弾道の解析お願いします」
『はーい』
「三雲くん。鈴鳴の狙撃手見つけたから、俺取りに行くね」
『分かった。じゃあ、僕達は伊佐が来るまで那須先輩を抑える』
「うん。無理しないでね」
『おう』
伊佐は、宇佐美に弾道解析してもらった場所にハンドガンを向ける。しばらく狙いを定めたあと、引き金を引いた。
*
ランク戦会場。三上が実況を進めた。
『おーっと、伊佐隊員の狙撃が別役隊員に直撃!別役隊員、なんとかシールドで防ぎました!』
『おいおい……なんであの距離で当たるんだよ……。てかそれ以前にあれ完全に射程外だろ。どうやって届かせてんの?』
太刀川が呟いた。
『まぁ、ケンス……伊佐隊員は頭も良いですからね。何かしら工夫したんでしょう。聞いた話だと、学校の成績もキチガイじみてるとか』
『マジかー。俺も勉強教えてもらおっかなー』
『おい、それでいいのか大学生』
『二人とも』
三上の二度目の注意で、二人とも黙った。
「実際のとこさ、」
後ろの席の出水が綾辻に声を掛けた。
「ゲーセンとかのあの……銃ゲー?っていうの?あれ伊佐どのくらいなん?」
「うーんと……私が最後に見た時は、EXステージまで行って射撃命中率99.89%とか出てたような……」
「………それ限りなく100%じゃねぇか」
「なんか賢介くんにゲーム勝つのは無理な気がしてきた……」
「今更ですよ、国近先輩」
そんな事を言ってると、三上の声が響いた。
『おーっと、ここで西岸の日浦隊員が緊急脱出!玉狛第二空閑隊員の得点です!狙撃手が落ちたことで状況は一変!西岸の均衡が崩れた!』
西岸は村上、熊谷、空閑の3人のアタッカーのみとなった。
『熊谷隊員としては、空閑隊員が戻るのを待って、もう一度三つ巴にしたいところでしょうか』
『どうかなー。空閑の動きが読めないからな。腕一本なくした空閑じゃ村上と一対一はキツイだろうから、クマと村上が戦ってる隙を狙うんだろうな。と、思いがちだけど、むらかみより倒しやすいクマを狙って、そのまま逃げ切るパターンもある』
太刀川が解説し、続いて迅も口を開いた。
『誰を倒しても一点ですからね。倒しやすい相手を狙うのは基本です』
『2点取れば仕事としては充分ということですか?』
『そうだな。というか今の空閑の状況なら、むしろ村上とクマを放っといて、自分だけ東側に渡る可能性すらある』
*
その頃、東側。那須が修たちの方へ向かった。修は少しでも時間を稼げるように退がり気味に応戦する。
伊佐は太一を追って、メテオラでマンションをブッ壊した。徹底して鈴鳴を追いかけまわしている。
「うおお!過激だなあいつ……!」
そう言いながら民家の屋根に転がりながら着地する太一。その直後を伊佐は逃さなかった。マンションの瓦礫の間を潜り抜けながら、ハンドガンを向け、狙いを定める。
「まず、一人……!」
そうつぶやいて発砲した直後だ。太一の後ろにシールドが現れる。来馬が立っていた。
「太一、大丈夫か⁉︎」
「平気っす。助かりました来馬先輩」
「あの人は強い、二人がかりでやるよ。なんとか鋼が来るまで持ちこたえよう」
「了解です!」
そう言うと、二人は伊佐に銃を向けた。