翌日、地形踏破訓練、隠密行動訓練、探知追跡訓練のトップ2を遊真と伊佐で独占した。
それでも、遊真の手の甲のポイントは1100。伊佐は最初から3000スタートだったので、3100だ。
「ふむ……これで訓練は一通りやったな。満点だと訓練一つで20点か……」
「4000点まで空閑くんはあと19週間」
「おっ、ありがとう。計算早いなケンスケ。でもそんなには待てんなぁ」
「なら、ランク戦で稼げばいいよ」
時枝が言った。
「ランク戦のやり方を教えるよ。空いてるブースに入ろう」
時枝に案内され、二人はブースに入った。
「やり方は簡単。このパネルに武器とポイントが出てるだろ?好きな相手を選んで押せば対戦できる。対戦を辞めたければブースを出ればオーケーだよ」
「なるべく早く稼ぎたいときは?」
「ポイントが高い相手に勝つほどたくさんもらえるよ。ふむ、なるほどね……」
ニヤリと笑うと、遊真は伊佐を見た。
「じゃあケンスケ、やろうぜ」
「………俺と?」
「ああ。強い奴とやれば、たくさんポイントもらえるんだろ?」
「………いいよ。時枝さん、他に空いてるブースある?」
「多分ね、こっち」
伊佐は時枝と出て行った。
*
そんなわけで、ランク戦開始。二人は「市街地A」に転送された。
『C級ランク戦開始』
その声の直後、遊真は伊佐の首を取りに行った。
「うおっ」
慌てて首を横に曲げて避ける伊佐。
「早ッ……!」
「!」
さらに遊真は手のスコーピオンを引っ込めて、肘から伸ばし、二撃目を放つ。慌ててしゃがんで躱すと、顔面に拳を叩き込んだ。
「ッ‼︎」
後ろに倒れそうになる遊真。その隙に伊佐は距離をとった。
「っぶねぇ……いきなり終わるところだった……」
とりあえず伊佐はそのまま距離を取った。
*
「逃げた………?」
演習の様子をモニターから見ていた木虎が呟いた。
「どうして?殴り飛ばしたなら、そこにアステロイドを叩き込めば良かったじゃない」
「いや、空閑なら避けるんじゃないかな。少しでも可能性があるから、逃げる事にした」
隣で時枝が言った。モニターでは、後ろに退がる伊佐と、それを追う遊真が移されていた。大きな道路に出た。相変わらずの追いかけっこだが、伊佐が足を止めた。
「っ!」
そして、振り返ってアステロイドをぶっ放つ。
「!」
だが、伊佐の攻撃は自分の右上と左上に三発ずつ。何を狙ったのかと思った直後、歩道橋が遊真と伊佐の間に降ってきた。
「っ!」
後ろに若干下がって回避した後、歩道橋を飛び越えて遊真は伊佐の方を見たが、姿はなかった。
「………正面からじゃ勝てないから、奇襲しようってわけね」
「でも、生半可な攻撃じゃ空閑は落とせないよ。武器はアステロイドだけ。少し、ガンナーには不利かな?」
「でも、彼にはその不利を覆す頭があります」
「珍しいね。木虎が同い年の子を褒めるなんて」
「時枝先輩が私のことをどう思ってるかよく分かったことは置いといて……そんなんじゃありませんよ。ただ、この前の作戦の時は、中々の指揮を取っていましたから、何となく気になってるだけです」
モニターの中では、遊真が伊佐を探して歩き回っていた。
「うーむ……いない……」
キョロキョロと探し回ってる時だ。右斜め前から弾丸が飛んで来た。
「!」
慌てて回避する遊真。頬を少し掠め、手で抑えながら飛んで来た方へ走った。
「見つけた………!」
そっちの方へ走って向かう。一方通行の道路に出た。直後、顔面に向かってさらに弾丸が飛んで来た。
「っ」
しゃがんで回避。だが、さらにその先にも弾丸が飛んで来ていた。それをスコーピオンでガードした。
「これは……避ける方向を予測して撃ってる?」
「そうだね。中々にえげつない」
伊佐は7メートルほど先にいるが、それでも弾丸が来て、伊佐の元へ届かない。
(予測なんてもんじゃないよこれ……ほとんど予知だよ)
弾丸を若干、上下左右に振って撃つことによって、次に相手が避ける方向を予測している。弾丸を無視しようにも、必ずと言っていいほど、トリオン供給機関か伝達系か頭を狙って来るので、無視できない。
「………仕方ない」
遊真は近くの電柱を斬り倒して盾にして逃げようとした。だが、伊佐の精密射撃はそれを逃さない。電柱がギリギリ当たらない隙間を狙って、壁に隠れようとした遊真と壁の間に弾丸が通る。
(…………意地でも逃がさない気か)
すると、遊真は覚悟を決めたように電柱から飛び出して、伊佐に突進した。
「ッ!」
すると、伊佐は遊真のおでこを狙って射撃。しゃがんで躱した直後、脚をめがけて弾丸が三発。
遊真は大きくジャンプして伊佐に飛び掛った。それを、読んでたように伊佐は空中の遊真にハンドガンを向ける。
「! 掛かった……!」
「空中じゃ身動きが取れない。伊佐くんの勝ちかな?」
木虎と時枝がそう言った時だ。遊真は自分の腕を切り落として、伊佐に投げ付けた。
(! 自分の腕を……?)
目眩しにしては小さいが、遊真の頭も首も胸も隠れるように投げ落とされる。だが、それでも遊真の頭のほんの一部ははみ出ている。伊佐は発砲した。その弾丸を遊真は首を捻って躱す。
「……! そうか。腕を投げたのは、伊佐くんの狙いを一点に絞るためだったのね」
「相手の正確な射撃を逆に利用するなんて……」
遊真はスコーピオンを振り下ろした。
「ッ!」
慌てて伊佐は後ろに倒れ込むと共に右脚を犠牲にしてなんとか死ぬことを逃れた。だが、それでも遊真の間合いだ。
遊真がさらにスコーピオンを振り上げた直後、上から遊真の頭の上に何かが降って来た。
「ッ………⁉︎」
「ビンゴ………!」
降って来たのは、看板だった。
(まさか、さっきのは空中にいた俺を狙ったんじゃなくて、俺の上の看板を……⁉︎)
だが、それでも遊真は立ち上がって、倒れてる伊佐にトドメを刺そうと斬りかかった。伊佐も倒れたまま銃を向ける。
放たれたアステロイドとスコーピオンが交差するように交わり、お互いの胸と頭に直撃した。
「………相打ちね」
「うん。良い試合だった……というより、C級の試合じゃなかったね」
木虎と時枝の感想はもっともなものだった。