チビちゃんと行く灰と幻想のグリムガル   作:amaあま雨音

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終わるXデー

 完全に日が落ちてからまだ間もないが、辺りには既にスケルトンやゾンビが徘徊し始めていた。

 

 夜、昼とは危険度が段違いだ……。

 

 マナトは廃屋の中に入るために開いた木戸を静かに閉じながら口の中でそう呟いた。

 

 不死の王(ノーライフキング)の呪いに晒されている天竜山脈から南側に位置する、いわゆる『辺境』と呼ばれるここオルタナ周辺の土地では日が落ちて暗くなると、何処からともなく現れたスケルトンやゾンビが彼の王への供物を求め徘徊する。

 勿論、夜詰めで警備を行っている街の内側なんかには出現しないがそれは裏を返せば『辺境』の中のそれ以外の場所では概ねスケルトンが徘徊していると言う事なのだ。

 そして、スケルトンが姿を見せ始める位の暗さになってくると、その時点でもう彼等の独壇場だ。

 夜、暗い場所での彼等は昼のゴブリンの何倍、場合によっては何十倍も危険だ。

 しかし、特段、種族的にゴブリンがスケルトンより何十倍も劣っていると言う訳ではない。

 だが、俺たち人間には覆せない事実がある。それは俺たち人間が()()()だと言う事だ。

 人間の脳の原始的な部分には暗闇に対しての恐怖と言う感情が元から備わっているし、普段から情報収集の大半を目に頼り切っているため視覚情報を遮断される事で暗闇に異常な警戒心を抱いてしまう。

 いわゆる幽霊の正体見たり枯れ尾花と言うものは人間やその他知的生命体の生存戦略的に、未知()に対して幾つものネガティブな可能性を予測する事で生存の可能性を高めようと脳を働かせているため枯れ尾花を幽霊(未知)に見立ててしまう事で起こる。

 しかし、その対処の仕方のせいで本当に危険な状況とそうでない状況を判断するための正常な思考を維持する事が非常に難しくなり、昼行性の生き物は夜には視覚情報を得られないと言う大きな減点に更に上乗せして状況の変化に対して適切な対処が遅れてしまいがちになるなどの減点も加わる。

 勿論、適切な訓練を積めば話は別だろうが、そもそも人間が不利な夜にスケルトンなどと言う旨味のない敵を狩る事に然程の意味はないためそんな努力は義勇兵にとって基本的に無意味だ。そう言うのは兵士や賞金稼ぎ(バウンティングハンター)の領分である。

 と、これらの理由から夜を自由に闊歩する彼等より夜と言う環境では不利にならざるを得ないのだ。

 故に義勇兵は日が暮れる前には安全な場所に引き上げる。

 のが常ではあるのだが……。

 

 ランタを探すにしても、戻るにしても夜明けまで待った方が賢明だろうな。

 

 辺りは既に暗く、スケルトンがそこかしこに蔓延っている。今動いては二次災害となりかねない。

 俺はそう判断して、このまま廃屋で夜を明かそうと考えたが、どうにも通りがうるさい。

 何だ……? スケルトンが何かを追いかけている……? まさか、ランタなんて事はないだろうな? ランタも夜はスケルトンが徘徊する事を知っている筈だ、恐らくどこかの廃屋で夜明けを待っているか、既にオルタナに帰還しているかしているだろう。

 だけど、もしもランタなら……?

 俺は木戸をほんの少しだけ開けて、通りを盗み見る。

 

 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ

 

 通りには足を引きずるようにして走る影が1つと、その影を追う無数の骨。

 雲が晴れ、下弦の月に照らされたその人影はまさしくランタだった。

 

 くそっ、ランタ……! なんて面倒な事になっているんだ!

 

 ランタは少しでもスケルトンを減らそうと剣で牽制しながらより入り組んだ道を選んで入って行く。今から追ってもスケルトンが邪魔でランタには追いつけないだろう。

 だが、あのまま動いていてもあのスケルトンだ。合流してもお互いスケルトンに追われる身となっていただけだっただろう。

 ならば、今ので正解だ。

 

 見た所、ランタは背中に矢を受けている、地面で輝く血を見るに背中の矢以外にもどこか怪我をしている事は間違いない。

 出来るならば直ぐにでも治療してやりたい。

 だが、果たしてこの動く骸骨が我が物顔で闊歩する街に出て、俺は無事にランタを探し当て、辿り着く事が出来るだろうか?

 はっきり言って厳しい。

 しかし、ランタと生きて帰るならば早急な治療が必要だろう。

 

 俺は、1人きりでなく、みんなと一緒に歩いて行きたいんだ。

 ユメやシホル、モグゾー、それにランタとだってもっと本気で話して、ぶつかり合って、いつかわかり合えたら良いなって思うんだ。

 

 ……だからランタ、今度は俺の番だ。

 

 木戸を慎重に押し開ける。

 マナトは視界を得るには少し物足りない月明りを頼らない。

 ゴブリンから隠れながらもランタを探していた時に地道に作成していた簡易の地図を()()で広げる。

 音でランタが今、どの辺りを移動しているのかを探るつもりなのだ。

 

 今俺のいる通りは、俺たちがダムローに入る場所から北西の方向。橋が丁度南東、つまりあっちが詰め所でこっちに学舎、今音が聞こえてる方向がおおよそ西か。

 そして砂利……いや、瓦礫と土? 石畳が剥がれているのはここより2本西側の入り組んだ路地以外に無かった筈。

 そして、その路地を通って、石畳。つまりランタは今、南に曲がった筈だ。そしてその道の分岐は……。

 よし、最短で行くなら一旦東側にある廃屋を通り抜けた方が早そうだな。

 

 マナトは全力で、けれども極力スケルトンに見つからないように走り出した。

 

 

 あの後、俺が予測した場所をランタとスケルトン達は移動していた。

 俺は隊列が縦に伸びきっているスケルトンたちの横っ面を叩き、スケルトンの大半がこちらに食いついたことを確認してから撤退。完璧に撒いてからランタが通ったであろう場所を辿っていた。

 

 やっとだ。

 正確な位置までは流石に予測できなかったがランタは血を流している。

 確認する限りだとあの時俺が釣り損ねたスケルトンは2、3人だ。もしも撒けていなくても、それだけなら問題にならない。

 

 確かここの廃屋を通り抜けて……。

 

 そうして俺が出た通りには、まだ流れたばかりの真っ赤な血が赤い月の光を煌々と照り返していた。

 その赤く妖しい光を辿り歩いていると、なんだか少しヘンゼルとグレーテルのようだなと思った。

 

 ん? ヘンゼルとグレーテル? どうにも思い出せないな……。確かに、そう思ったんだけど。

 そもそもあの塔から現れた全員が記憶喪失と言う所がおかしい。そして、そんな重要な事が今の今まで意識の外だった事もおかしいのだ。

 何か、記憶、いや、意識か……? に飛び地のような所がある? 誰かの意思でもって画一的な処理を施された?

 まぁ、今考える事でもないか、後でゆっくり考えるべき案件だ。

 

 俺は血を辿って角を曲がる。

 

 

 あぁ? なんだ? 俺は天に召されちまったんじゃなかったのかぁ?

 

 ランタはガンガンと響く頭痛と耳鳴りにウンザリとしながらも目を覚ました。

 

 駄目だ、そもそも暗いってのもあるが殆ど何にも見えやしねぇ。だが、体の感覚が戻ってるって事はぁ、あれだな。多分、治ってる。

 

「ランタ、目が覚めたんだね」

 

 …………マナト、か?

 

「見つけた時は本当にビックリしたよ。もう助からないんじゃないかってね」クスクスと笑う声が聞こえてくる。マナトだ、この特徴的な笑い声、きっとムカつくほどにサラサラの髪の毛を揺らしながら陽だまりみてぇな柔らかい笑みを浮かべているに違いない。「もう少し寝てても良いよ。俺が見張りをしておくから」

 

 何だよ? あれか? 本当に、マナトの野郎なのか? ゴブリンの巣窟にたった1人で? 夜だからスケルトンも、いや、そもそも、こんな、異分子1人のために命張ったってのか?

 どう考えても理屈に合わねぇ。理屈に合ってねぇよ。

 

 ランタはもしかしたら、マナトは本当の価値に気づいてくれたんじゃないか? と考えた。

 もしかしたらカッコよく敵を引きつけ、鮮やかに仲間を逃がし切ったランタを見て、ようやく本当の価値に気づいたんじゃないかと。

 そうだとしたらどうだろうか? マナトは褒めてくれるだろうか? ランタを? この、どうしようもなく役立たずな自分を褒めてくれるだろうか?

 もしもそうだとしたらとても嬉しい事だと、ランタは思った。

 

 でも、マナトはただの義務感でランタを追ってきたんじゃないか? とも考えた。

 ランタはマナトの事を信じたかった。ランタの事を救うためだけに、なんの見返りもなくただランタを助けるためだけにマナトが助けに来てくれたのだと。

 しかし、ランタにとって他人とはいつも理不尽で卑怯な存在だと言うイメージがあった。

 簡単に信じて裏切られたらとてもではないが立ち直れそうにない。だから信じない方がきっと楽なのだと言う悲観的な考え方が行動の根本にあった。

 

 でも、あれだけの事をしたんだから嘘だろうとおべっかだろうと、褒めて欲しかった。

 いや、きっと褒めてくれるだろう。

 マナトがランタに『今日は助かったよ』と軽く一言そう言ってくれるのだ。きっとそれだけで全て報われたような気分になれるだろう。

 だったら、いいじゃないか。

 嘘だって、いいじゃないか。

 ランタはそう思う事にした。

 

「ふぅ……」マナトは何かを決心したように喋りだした。「ランタ、眠れないなら少し話をしないか」

 

「いいぜ……、話してやっても」

 

「なぁ、ランタ。今日はなんで殿なんかしようと思ったんだ」

 

「あ? わかんねー訳じゃねーだろ。あのままじゃ全滅だっただろーが」

 

 なんだぁ? 説教か? だとしたらクソつまんねー事考えるもんだな、マナトの野郎も。

 

「だからだよ、ランタ」

 

「あぁ?」

 

 何言ってやがる? あのままだと全滅だったから俺が殿引き受けたんじゃねーか。何もおかしくないだろ。

 

「俺たち全員で戦っても全滅してたかも知れない敵を、ランタは1人で受け持った。普通だったら死んじゃうんじゃないかって思う筈だよ」

 

「なんだよ、そんな事かよ。あん時も言ったが俺が1番適任だったから殿を引き受けただけだ」ランタは皮肉っぽく鼻を鳴らす。「まぁ、パーティ内での役割? って奴を果たしただけだな。ビジネスライクって奴。まぁ感謝したいってんなら幾らでもしてくれよ」

 

 ほら、褒めろよ。

 俺、お前等の事命懸けで救ってやったんだぜ? 崇めろよ、褒め称えろよ。

 

「ランタ、お前はあの時俺たちと一緒に逃げるべきだったんだよ」

 

 クソッ、もどかしい。

 なんで褒めてくれないんだよ? 出し惜しみなんかしなくてもいいじゃねーかよ……。

 

「まぁーな! お、俺は無敵だかんよぉ! なに? 殿? この程度の事あれだな、逃げるとか逃げないとか関係ないし? 感謝される内にも入らねーっていうか……」

 

 なんで、こんな話しになってんだよ? 馬鹿みてぇだな。

 

「ランタ、嘘なんて吐かなくても良いんだ」

 

 マナトは笑う。

 

「はぁ? 俺がいつ嘘吐いたって言うんだよ」

 

「今だって吐いてる筈さ、だって、パーティの役割を果たして死んだりしちゃったら意味ないだろ?」

 

 ランタは言外にマナトが『お前は俺たちの事が好きで好きで堪らなかったから助けたんだろ?』と言っているのだと思って、何故かそれを知られたら駄目だと思った。

 どうしても否定しなければならないと言う気持ちになってしまった。

 

「勝手に俺の事を忖度してんじゃねーよ……! パーティから追い出されちまったら野垂れ死にが目に見えてんだろ。だから俺はお前らに追い出されないようにパーティでの役割を果たしただけって話なんだよ」ランタは更に捲し立てる。「大体なぁ、俺は愛されキャラじゃねーってわかってんだよ。あのパーティで俺だけが異分子だって、そんな事はわかってるっつーの。だからよマナトォ、別に俺みたいな異分子に気ぃ使わなくてもちゃんと役割はこなすからよぉ、俺みたいな奴に構わなくてもいいんだぜ?」

 

 ランタは大きく息を吐く。

 

 ちょっと興奮しすぎたか?

 

「俺がランタを忖度してる……?」

 

 マナトは鼻を鳴らす。

 その音にはランタのさっきの発言を馬鹿にしたような響きが含まれていた。

 

 してるだろうが、忖度! 何だよ? 違うって言うつもりかよ? クソがっ!

 

「マナトォ、ちぃとばかし頭がいいからって調子に乗るのもいい加減にしとけよ……!」

 

 ランタは奥歯をギュッと噛みしめた。

 

「ランタがさ、俺の及びのつかないような事で悩んでいるのはなんとなくわかるんだけどさ」マナトは少し考えてから言った。「ランタはランタなんだよ」

 

「あぁ? わけのわかんねー事言いやがって……。煙に巻こうってか? バカにすんじゃねーよ」

 

「ランタって他人に対してあけすけにものを言うよね、後、奔放な所もある」

 

「勝手気ままのクソ野郎って言いたいんだろ」

 

「でも、俺たちの事は自分を犠牲にしてでも助けようとしてくれた」

 

「だから……!」

 

「ランタは一体何をそんなに恐れているんだい?」ランタの言葉に被せるようにして言ったマナトのその一言には力が籠っていた。「ランタは口は悪いし浅慮だけど、人間的に恥ずべき所なんかない筈だろ?」

 

 ランタは一瞬息を呑むが、どうにか持ち直して口を動かした。

 

「は……、ハッ! ようやく本性現しやがったなマナトォ! なんだ? あれだろ? そうやって誰にでも当て嵌まるような抽象的な言葉で『俺ちゃんはお前の事をわかってあげれるんだ』っつー雰囲気で距離を詰めて俺を操ろうって魂胆なんだろ?! いい加減にしろよ!!」

 

「いい加減にするのは、ランタの方だ」マナトはランタを鋭く睨む。「勝手に俺の事を、俺たちの事を……忖度しているのはランタじゃないのか?」

 

 マナトは続ける。

 

「ランタ、俺がいつお前の事を操ろうとしたんだ? それに、誤解を恐れず言うけど、もしも俺がランタを操るためにここまで助けに来たとして、ランタを操る事にそれだけの価値があると思う? 命張ってゴブリンの巣窟に1人で乗り込んで来るだけの見返りがランタを操る事で得られると思うか?」

 

 ランタはカラカラの喉に力を入れて怒鳴る。

 

「あぁーそうだよ! そうなんだよ! どうせ俺はマナトが命張って助ける程の価値もねーゴミクズみたいな野郎だよ! そんなの俺が1番わかってるっつーの! けどよ、だからどうしたんだよ! 俺がお前等の事をどう思おうが俺の勝手だろーがよぉ!」ランタは絞り出すように言う。「俺に価値がねぇのも、俺の勝手じゃねぇのかよ……!」

 

「ランタ、そうやって自分の弱さを言い訳にするなよ。弱さにしがみ付いたままじゃ何も変わらない」ランタはマナトが何か決定的な事を言いそうな気がして、言葉を被せようとしたが、マナトの独特な迫力が、間の取り方が、それを許さなかった。「ランタ、お前は自分が傷つく事を極端に恐れているだけなんじゃないのか? 結局誰の事も信じきれない自分の弱さを世界の問題に、他の誰かの問題にすり替えてるだけなんじゃないのか?」

 

 うるさい、

 

「ランタ、実は俺もさ……、「うるせぇ……」」

 

 わかったように……! 何もかもわかってるように物言ってんじゃねーよ!

 

 ランタは感情に任せて怒鳴り散らす。

 

「うるせぇ! うるせぇうるせぇうるせぇうるせぇ!」ランタは剣を杖のようにして、よろめきながらも立ち上がる。「俺は! 何も! 恐くなんかねぇ! 弱くなんかねぇ! これは他人のせいなんかじゃありえねぇ! マナトォ! テメェの妄想には付き合ってらんねぇよ!」

 

 ランタは木戸を押し開け、夜の街を走り出す。

 

「っ!? ランタ……!」

 

 ランタの唐突な行動に驚き、一瞬対応の遅れてしまったマナトはランタに追いすがろうとするが、日中の疲労で足腰にすぐに力が入らずにランタを取り逃してしまった。

 

 少し結論を急ぎ過ぎたか……!

 

 マナトは自分の不甲斐なさと、恐らくどう頑張っても完璧に抑える事は出来ないだろう無意識に人を支配しようと動き出す思考にため息を吐く。

 

 とりあえず、反省は後だな。今は追いかけないと。

 

 マナトはスタッフを支えに立ち上がり、やはり夜の街に繰り出した。

 

 

 クソッ! クソッ! クソッ!

 もういい、抜けてやる。パーティなんて糞くらえだ! なーにが恐れているだ、なにが弱さだ、なにが……なにがすり替えだってんだよ!

 俺は暗黒騎士だから1人でも余裕だっつーのは今日で証明出来たしなぁ! なんならあのロリコン大王改めコンビハルヒロに頭下げてパーティに入れてもらってもいい。

 あのロリコンに土下座して頼み込む方がチームマナトに居るより100倍マシだ。

 

 ランタは下弦の月が赤く照らす大通りを全力で走っていた。

 視界がくるくると回っていて、頭が異常に重く感じられた。気を抜いたら倒れてしまいそうだった。目を瞑ったらそのままもう目が開かないような気もしている。

 このまま走り続けたら確実に体がどうにかなるという確信もあった。

 しかし、止まる訳にも行かなかった。

 マナトの顔なんて見たくないし、もし追いつかれたりなんかして、話の続きでも始められたら堪らないと思ったからだ。

 そうやって意地を張り続けるのはもうコリゴリだったし、はっきり言って疲れていたのでそんな何の意味もない意地を張り続けていたくはなかったけど、こればっかりはどうしても自分の意思で止められないのだ。

 

 あー、俺って本当にバカだよなぁ……。

 

「ランタ!」

 

 マナトかよ、追いついてきちまったのかよ。まぁ、そうだよな、そりゃそうだ。

 

 ランタはマナトの呼びかけに答えず、適当な路地に入ろうとした時だった。

 

「俺は最低の糞野郎なんだ!!」

 

 マナトが叫んだ。

 

 …………はぁ?

 

 ランタは余りにも予想外のマナトの発言に足を止め、思わず振り返ってしまった。

 

「無意識に人の事を支配してやろうって考えちゃうし、笑顔だって偽りだし、きっと過去の俺はろくでもない奴だったんだ!」

「でも、やり直せるって思ったんだ! 正直最初は短所ばっかり目に付いたし、俺が言わなきゃ誰も動かないし、散々だったけど! 俺、みんなとならやり直したいって! 一緒に歩いて行きたいって思えたんだ!」

「なぁ! ランタ! 俺はお前とも一緒に……!」

 

 知ったこっちゃねーよ。そんな事。

 恐れてる? 弱さにしがみ付く? 問題のすり替え……? ハッ、それ全部お前にも当て嵌まってんじゃねーかよ。

 なんだぁ? あれか? あれ全部自分の実体験入ってたのかよ、ダッセー。

 ダッセーよ、ダサ過ぎんぜマナトォ……。

 そんなダサい奴よりよぉ、俺の方がダサいって思うなんて、なんだかおかしいっつーの。おかしいよな?

 でももしも戻るんなら、変われるんなら、空気的に今しかないんじゃねーの?

 

「なぁ……マナ、」

 

 ガシャン!

 

 ランタは正直マナトの方に目を向けていたからよく見えなかったが。多分、あれだろう。これはあれのやってきた時の音だ。

 まだそれくらいの事がわかる程度には頭が働いていた。

 

 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカ

 

 振り返ると、背の高くてガッシリした骨格の如何にも強そうな戦士の骸骨が立っていた。

 

 どうにもそいつが剣を振り上げるのを見た瞬間に俺は悟ってしまった。

 

「すまねぇ、マナト」

 

 ほぉら、やっぱりなぁ。

 悶える程のダサさを我慢してあのバカの願いを叶えてやる一助になってやっても良いかなって思った途端だぜ?

 本当に、つくづく世界は俺に優しく出来てないっつーかよ? いや、元から知ってたし諦めはついてんだけどよ?

 あれだな、どうにもろくでもない人生しか送ってきてないっぽいし、マナトの野郎には1人で頑張って貰うとして。

 まぁ、仕方ねーってぇか? まぁ、受け入れるしかねぇよな。

 ……クソッたれ、もっと楽しく生きたかったなぁ。

 

 滲んでぼやけた視界でもしっかりととらえる事の出来る大剣の鈍い光。

 それが今、ランタに向かって振り下ろされる。

 

「ランタって、バカだよね」

 

 あ? 何? が起こったぁ? おぉ、あのデカい骨があっさりと……。

 ポカンと夜空とマナトを眺める俺に気づいたのかマナトが少し悪戯っぽく笑いながら言った。

 

「俺が一緒に歩いて行きたいって言ってるんだからさ、絶対そうなるんだよ。ほら、俺って頭いいから」

 

 マナトのいつもと変わらないその完璧な爽やかさと、何だかバカっぽい発言のミスマッチさからくるおかしみにランタは一瞬ポカンとする。

 

 それからじわじわとこみ上げてくる変な笑いに顔を歪めながらランタは言った。

 

「マナトォ! てめぇ実はバカなんだろ!」

 

 ランタもマナトも、腹の底から湧き上がる笑いを堪え切れず感情に従ってただ笑った。

 

 何故かマナトは倒れた。

 

 

「毒は浄化の光(ピューリーファイ)で解毒できたし、癒し手(キュア)で治療もしておいたから明日の朝には……」

 

「ユ、メなあ、ユメがばか過ぎるからなあ、みんな傷ついてしまうんやろ? そんなん、嫌やんかあ、だから、……ユメが、ちゃんとしてたら……みんな、助けにマナト、ランタ……」

 

 赤っぽい髪をお下げにした女の子、どうにもユメさんと言うらしい、が目を覚ましたみたいだ。

 

 …………? え?

 

「は……? 嘘でしょ? 普通じゃない……」

 

 メリイは純粋に驚いていた。毒に侵されてから、少なくとも1時間。体力はかなり削られている筈だ。それが、治した途端に起きだすなんてまずありえない。

 

「助けに……、行かないと……!」

 

 ユメさんが立ち上がる。

 どんな体の造りをしているのだろうか? 尋常じゃない。

 

「あなた、まだ治したばかりだし、さっきまで毒にうなされていたのよ? 安静にしてないと……」

 

「そんなの関係ない! ユメがあほなせいで誰かが死んでしまうなんて、絶対にいけないんや」

 

 ショートカットの魔法使い、シホルさんが急に取り乱す。

 

「マナト君は……! 死んでなんかない! きっと、生きてる……生きてる……」

 

 そう言ってシホルさんはしゃがみ込んでしまった。

 少し、いや、大いに事情が呑み込めない私に対して、大柄な彼、モグゾー君がおずおずと口を開く。

 

「僕たちには他に2人の仲間、ランタ君とマナト君が居るんです」モグゾーは少し俯きがちになりながらも続ける。「ランタ君は、僕たちがゴブリンの群れに囲まれた時に囮になって僕たちを逃がしてくれたんです。それでも付いてきたゴブリンを倒してから、マナト君はランタ君を探しに行くって言って……」

 

 メリイはミチキと、オグと、ムツミの事を思い出してしまった。

 何となく予想はできていたが、彼等のパーティはこの3人だけじゃない。

 他に2人、仲間が居たのだ。

 見た所彼等のパーティには神官が居ない。普通ではありえない事だ。

 つまり、彼等の神官は仲間を助けるために残ったのだろうか?

 私とは違い、最後まで残って、そして、もしかしたら今もう1人の命も救っているかも知れない。

 メリイには出来なかった事だ。

 そう考えたら急に胸が苦しくなった。

 最近はマシになってきていた後悔と、喪失感と、自責の念が一気にメリイを責め立てる。

 

 辛いよ、なんであの時私はノコノコと生き残ってしまったのか。なんでうっかり助かってしまったりしたのだろうか? でも、ミチキたちの命を犠牲にして生き残った私がそんな事を思うなんてミチキたちに失礼だ。

 そう、だからこの苦しみは正当な罰なのだ……。

 

 そうやってへこんでいる所に、彼女、ユメさんが爆弾を投下した。

 

「今から、マナトとランタを迎えにいかないと……」

 

 

 あれから少し経った今。

 何故か私まで彼等に付いてきている。

 確か私が『もうすぐ夜よ!? 夜になったらゴブリンより遥かに危険度の高いスケルトンが……!』とか『入れ違いになる可能性も……』とかなんとか夜の危なさやその他考えられる危険性なんかを懇切丁寧に説明、説得を試みようとしたのだが、彼等……と言うか主にユメさんは聞く耳持たなかった。

 そしてユメさんの熱に当てられてシホルさんも、最終的にはモグゾー君までもが夜のダムローに突貫しようと言う話になってしまったのだが、スケルトンやゾンビなどへ特効のある神官もなしに夜の森を抜けようと言う浅はかさと、そもそも何故夜が危険なのかを殆ど理解出来ていないその間抜けさにため息が出た。

 でも、仲間を助けられなかった私だから彼等が仲間を助けたいと願う気持ちは、痛い程にわかっていた。

 だからだろうか? 私もいつの間にか付いて行くと言う事になっていた。

 それでもやはり夜に外に出るのは危険なので、深追いはしない。私が危険と判断したら捜索途中でもオルタナに帰る。と言う条件を付けて森に乗り込んだのだ。

 そして今、昼間は殆ど使われる事のない街道に出た。無論、ダムローとオルタナを繋ぐ街道なので整備なんてされていないが。

 それでも夜はこっちのルートの方が森の中を進むよりも安全だ、何より今夜は月が出ているので暗い森の中ではどうしても使わなければいけなかったランタンの火を消せるのが嬉しい。

 スケルトンや野生動物を無駄に引き寄せる心配がなくなるからだ。

 

 メリイは月の光が充分な事を確認してからランタンの火を消した。

 

 そして、ふと思う。もしかしたら、私は彼等を使って、あの時の再現、あの時のもしも。

 もしも、ミチキたちを救えていたら? と言うもしもを彼等を通して私も体験したいのかも知れないと。

 そう思った。

 

 実に愚かだ。

 真剣に仲間の無事を想う彼等に申し訳ない。

 

 そんな私の愚かさに、たまらずため息を1つ吐いて空を見上げた。

 

 空で燦然としている赤い月は、そんな私の愚かさをあざ笑っている様にも見えた。

 

 

「おーい、マナトォ。寝るんじゃねぇよ……」

 

 チッ、とランタは舌打ちを1つ打って立ち上がる。

 

 まぁな、俺がコイツ見捨てるなんてありえねぇしな……。

 ランタはマナトのぐずぐずになってしまっている神官服に顔を顰めながらマナトの脇の下に右肩を潜らせ立たせる。

 

 もう夜明けまでは待てない。

 ランタは暗黒魔法、悪霊招来(デイモンコール)を唱える。

 

「暗黒よ、悪徳の主よ、悪霊招来(デイモンコール)

 

 暗い紫色の雲が渦を巻いて形を成す。

 

(きひ……きひひひひひ……弱虫毛虫……毛虫毛虫毛虫……)

 

 ランタはマナトの位置を直しながら言った。

 

「ゾディアックん、頼んだぞ……」

 

 悪霊(デイモン)は暗黒魔法悪霊招来(デイモンコール)で呼び出す事の出来る暗黒神スカルヘルの眷属だ。

 ランタの悪霊(デイモン)ゾディアックんは首の無い人間の上半身みたいな形をしており、胸にあたる部分に穴みたいな目が2つあり、その下には裂けた口……丁度空に浮かんでいるあの赤い下弦の月みたいな口が付いている。

 そしてゾディアックんは小さい、大体手のひらサイズだ。

 そもそも今のLvでは夜しか呼ぶことは出来ないし、呼んでも敵の接近を教えてくれる程度の事しかしてくれない。しかも気が向いたらと言う注釈付きだ。

 悪徳(ヴァイス)(倒したモンスターの一部を暗黒神スカルヘルの祭壇に捧げる事で積むことが出来る)を一定以上積めばLvが上がり、どんどん大きくなり出来ることも増え、Lvが本来より2つ程下がってしまうが昼にも呼び出せるようになるため戦力として数える事も出来るのだが今ランタの悪徳(ヴァイス)は8。

 端的に言うとゾディアックんの悪霊(デイモン)としての格はLv1である。

 今日集めた分を祭壇に捧げる事が出来れば悪徳(ヴァイス)が11を超えてLv2になって、敵の耳元で囁いて妨害してくれるようになって居た筈だ。

 勿論、気が向いたらではあるが。

 

(きひっ……弱虫の癖に…………きひひ……きさまを殺さんとするものがいるぞ……)

 

 

 ゾディアックんのガイドは完璧だった。

 今までLv1だったので昼、日が出ている内は呼びだす事が出来なかったので()()()()()()と言うのがどの程度の頻度かわからなかったが、今のところ全部言い当ててくれている。

 つまり、この結果は避けようがなかったのだ。

 

「ゾディアックん、今、何処にどれだけ居る……」

 

(きひひひ……バカランタ……そんな事わかるわけないだろ…………相対方位2時、5時、8時、11時……それ以上は……しらん……)

 

「包囲されてんじゃねーか」

 

 ゾディアックんのガイドに従って骨共の追撃をどうにかこうにか躱して森までは辿りつけたのだが、そろそろ向こうもこっちが相手の動きを読んで動いているという事に気づいた……訳ではないだろう、なんせ、知性はない筈だし。

 まぁ、でも囲まれてしまったと言う事は事実だ。奴等が連携を取っているのかは不明だが、固まって襲ってきているのだ。

 当然、その可能性は考慮しなければならない。

 

 なーにが知性がねぇだよ、獣並みには物考えれるじゃねーか……まぁ、元が人間だと考えたらかなり劣化してるがよ。

 

「マナトォ、もう少し、あと少しの辛抱だから、死ぬんじゃねぇぞ……!」

 

 マナトはあの時。あの、明らかに強そうな戦士の骸骨から俺を守った時に、1撃いいのを貰っていたみたいなのだ。

 2人でひとしきり笑った後にいきなりぶっ倒れちまったから、マジで胆が冷えたぜ。

 見た感じ血はそこまで流れてなかったから過労とか、斬られた時のショックとかで気絶しちまったんだろう。

 取りあえず破いた布でキツめに縛っておいたし多分大丈夫だとは思うんだが、それでも後1時間近く、いや、夜だから時間がかかって2時間、迷えば更にもっとだ。

 それだけの時間血が止まらなかったら? ランタはそう言う事に詳しくはないから良くわからないが、とりあえずよろしくはない。もしかしたら死ぬかも知れない。

 それくらいは想像できた。

 

「しつこい奴はもてねーんだとよぉ、だから、お前らも大概にしといた方がいいぞ?」

 

(きひひ……おまえには……誰も言われたくない……筈だ…………きひひひ)

 

 そう言ってゾディアックんは消えてしまった。どうやら30分を過ぎてしまったようだ。

 って事はあれからまだ30分しか経ってねぇのか。

 

 ランタは体中に響くような頭痛を押し殺し、剣を片手に構える。

 マナトにはスケルトン共を近づけない。

 出来れば各個撃破したいが、マナトから離れる訳には行かないから、結局は4人を同時に相手にしなきゃならないのかも知れない。

 

 ……詰んだかもな。

 ランタはぼんやりとした頭でそれでも2人で生き残る道筋を考える。

 まぁ、このどん詰まりの状況で勝てちまったりしたらスケルトンはとんでもない雑魚って事になっちまうよなぁ……。

 

 そんな事を思いながらもランタは辺りに目を光らせる。

 もう森の薄暗さにも慣れてきていた。しっかりとは言わないが、問題ないくらいには見える。

 

 いつ、いつ来る……。

 

 月に雲がかかったその時だった。

 

 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカ

 

 ッ……! こいつ等! 知性が駄目になってるとか真っ赤な嘘じゃねぇか!!

 

 ランタは月明りが隠れた事で視界が殆ど効かなくなっていた。恐らくこの暗さに目が慣れるまでに勝負は終わってしまっているだろう。

 

 音! 音だ……。冷静さを失うな! 暗闇で取り乱しちまったらそれだけで終わりだ。

 

 1、2、3、そこっ!

 

 ランタがタイミングを合わせて振るった剣が想像以上に根元の方で骸の振るったナイフを捉えた。

 

 うぉっ! 予想以上に近いじゃねーか!

 

 ナイフって事は、盗賊か。いや、もしかしたら鉈かも知れねーし、そしたら狩人。

 まぁ、どっちでも一緒なんだがなぁ!

 

 ランタはナイフを剣で絡めとり、脅威度の薄くなったスケルトンを前蹴りで吹き飛ばし、後ろから長剣を振るってきていたスケルトンと打ち合う。

 盾? ……多分盾を持ってっから、聖騎士だろうなぁ。

 聖騎士がスケルトンって、神官もそうだがなんだか笑えて来るな。

 光魔法とか使えんのかな? 使えたとしても本人がダメージ喰らっちまいそうだし、無いか。

 

 盾と剣を上手く使う聖騎士の後ろから入れ替わって前に出てくるのは、戦士。

 

 あー、こいつ等多分生前の連携覚えてやがるな……。うっとおしいったらねぇな。

 なんでこんだけ出来てゴブリン如きにやられちまったのか理解に苦しむぜ……。

 

 ランタは一旦下がり、憤慨突(アンガー)で一気に詰めて戦士の後ろに引っ込んでいた聖騎士の骨の頭蓋を串刺しにする。

 

 まずは1人。あの盗賊っぽいのは武器を飛ばして無力化したが、ここぞって時にうぜぇのが盗賊だし蹴とばしたのは失敗だったな。 

 

 そんな事を考えていると後方からほのかな光。恐らく魔法生物を呼び出す時の発光。それから程なくして氷結魔法(カノンマジック)が飛んできた。

 ランタはそれを織り込み済みで戦士と打ち合っていたので、危なげなく……いや、幾分か苦労しながら避けた。戦士を相手にしながら後ろに注意を払うと言うのが土台難しすぎたのだ。

 そうしてランタの態勢が崩れた所を狙って戦士が剣を振り上げる!

 

 いいや! まだだ! 俺はマナトを守らなきゃなんねぇ! 死ねねぇんだよ!

 

咎光(ブレイム)!」

 

 ランタが無理な体勢から、それでも向かい来る大剣を打ち払おうと剣を振るおうとした時だった。

 唐突に頭の無くなってしまった目の前の骨戦士と、近づいてくるランタンの光と、カタカタとうるさい複数の骨の音と、見覚えのあるメンバーと……と、目ぐるましく入れ替わっていく情景に血の足りない脳みそが理解を拒否してしまいそうになった。

 

「あら、丁度良かった。スケルトンに追われてるの、手伝ってくれない?」

 

 長い濃紺の髪を左側で括っている神官らしき美少女がそんな事をのたまった。

 

 一体全体何がどうなってんだっつーの……。

 

 ランタは気持ちよさそうに気絶しているマナトの事を少し忌々しく思った。

 

 

 なんでも聞いた話によると、メリイ……さんが俺たちの捜索のために街道に出た時に月明りだけで充分に視界を取れそうだったのでランタンの火を消した時、理由を説明していなかったからオイルが切れたのだと勘違いしたユメが減光カバーも何もつけていない素っ裸のランタンに明かりを入れてしまったので大騒ぎ。

 辺り一帯のスケルトンが街道に集中してしまったと言うのが事の顛末らしい。

 

 俺たちを助けようとして、逆に助けられてるとか、もう、俺からは何も言えねぇ、と言うか言う気も失せたな。

 まぁ、あの後は都合5人程のスケルトンを叩き潰した記憶がある。それ以降は殆ど覚えてない。

 どうもバッタバッタと敵をなぎ倒し、スケルトンが1人たりとも居なくなったと見るやそのまま貧血? 酸欠? まぁ、どっちでもいいか、で倒れて、気絶してしまったそうだ。

 自分の事ではあるが中々どうして気合が入ってたんじゃねぇかと思う。

 

 まぁ、その後はメリイがマナトの野郎を癒し手(キュア)で治してやり、目を覚ましたマナトにシホルが肩を貸し、俺がモグゾーに背負われて帰って来たらしい。

 なんとなーく、納得がいかねぇ気もしねぇが、

 

 

 

「ランタ、血が足りなくて辛いのはわかるけどもっとこっちにおいでよ」マナトは少し冗談っぽく笑う。「今日は昨日の13日目のダムロー事件を無事みんなで乗り越えたお祝いなんだからさ! 立役者のランタが壁の彩じゃぁ少しあべこべでしょ?」

 

「ったく、マナトォ、おめぇやっぱり本当はバカだろ? あん? そうなんだろ?」

 

「マナト君は、バカじゃない!」

 

「おうおう、シホルゥ? この13日目のダムロー事件の立役者のランタ様に盾突くつもりなのかよ? ぁあー?」

 

「ランタはなぁ、もっと素直になればくるくるぱーっぽくてかわいいと思うんやんかあ」

 

「あぁ!? それ駄目じゃねーか! バカに見えるって事じゃねーか! ってか俺の天パをごく自然にディスってんじゃねーぞ!」

 

「……うるさい、静かにして、ご飯が不味くなる」

 

「こえぇよ。なんで居るんだよお前?」

 

「お前……?」

 

「いえ……その、メリイ……さん」

 

「いい気味……」

 

「あぁ!? シホルてめえ鼻で笑いやがったな! お前もメリイにあんな風に応対されたらぜってー萎縮するに決まってんだからなぁ!」

 

「さん、は?」

 

「メリイ……さん!」

 

「なあランター、ユメの事も、ユメさん、って呼んでみてよ」

 

「はぁぁぁあ?! お前なんかちっぱいで充分なんだよ! このちっぱいちっぱいちっぱいがぁ! なぁーに裸のランタンにそのまま火入れてんだよ! ボケ!」

 

「んゆぅ? 裸のランタに触ったりしてないよ?」

 

「だから……どうやったらそうなるんだよ! おかしいだろ!」

 

「変態……」

 

「最低……、あのまま死んでたら良かったのに」

 

「てめぇらふざけるのもいい加減にしとけよ?! ランタ様は乳飲み子の頃から隠れた天才って有名だったんだからよぉ!」

 

「ランタ、それ、隠れてないよ」

 

 マナトが噴き出すと、みんなも変なツボに入ってしまったのか、笑いを堪えきれないようで笑い出した。

 

「俺様の才能が隠れる事すら許してくれなかったんだから仕方ねぇって事になるんじゃねーの」

 

 

 

 俺もお前等と変わって行けたらいいと、あの時確かに思えたんだよ。


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