妄想族なアリスも異世界から来るそうですよ? 作:alienn
どうも、aliennでございます。いつもよりは早く投稿できました。最低でもこのペースで書きたいと思います。
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それではどうぞ。皆様の暇つぶしになれば幸いです。
「……さて。ギフトゲームはおんしの勝利で終わったわけだが……何か褒美を取らせてやらねばならんな」
「んー? そんなの別にいいのに。私にとっちゃ、楽しかったってのが一番の褒美なんだけどな」
白夜叉の言葉にそう答えを返したアリスだが、白夜叉は笑って首を横に振った。主催者として、星霊として試練をクリアしたものには
「そういえば、ギフト鑑定もせねばならんかったな?」
「そうですよ! すっかり忘れてましたけどギフト鑑定するために来たんじゃないですか!」
白夜叉の言葉に『いろいろありすぎて忘れてました!』と慌てる黒ウサギ。そんな黒ウサギに苦笑を返しつつ、白夜叉は着物の裾を引きずりながら四人に近づいた。かわるがわる両手で四人の顔をペタペタ触りながら観察する。
「どれどれ……ふむふむ……うむ。四人共素養が高いのは分かる。しかしこれではなんとも言えんな。おんしらは自分のギフトの力をどの程度に把握している?」
「企業秘密」
「右に同じ」
「以下同文」
「全略!」
「うおーい……いやまあ、仮にも対戦相手だったものにギフトを教えるのが怖いのは分かるが、それじゃ話は進まんだろうに」
「別に鑑定なんていらねえよ。人に値札貼られるのは趣味じゃない」
ハッキリと拒絶の言葉を発する十六夜と、同意するように頷く耀と飛鳥。ただ一人、アリスだけはへらへらと、
困ったように頭を掻く白夜叉は、突如妙案が浮かんだとばかりににやり、と笑った。
「しかし、なんにせよ"
白夜叉はパンパンと両手で乾いた音を鳴らす。すると四人の眼前に一枚ずつ、光り輝くカードが現れた。カードにはそれぞれの名前と、身体に宿るギフトの名が刻まれている。四人はそれぞれ思い思いにそれをつかみ、目を走らせた。
十六夜のカードの色はコバルトブルー。強く明るく深い、何色にも染まらないその色のカードに刻まれたギフトネームは"
飛鳥のカードの色はワインレッド。葡萄酒色とも称される高貴で力強いその色のカードに刻まれたギフトネームは"
耀のカードの色はパールエメラルド。優しさと叡智を象徴するその色のカードに刻まれたギフトネームは"
アリスのカードの色はローズグレー。薔薇のような美しさをほのかに漂わせながら、どこかつかみどころのないその色のカードに刻まれたギフトネームは"アリス・イン・ユートピア"、"
カードを受け取ったアリスは物珍しそうな顔でそのカードを白夜の太陽にかざして透かし見た。そこに黒ウサギが驚いたような、興奮したような声音で首を突っ込んでくる。
「ギフトカード!」
「お中元?」
「お歳暮?」
「お年玉?」
「年賀状?」
「ち、違います! というかなんで皆さんそんなに息が合ってるのです!? このギフトカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードですよ! 耀さんの"生命の目録"だって収納可能で、それも好きな時に顕現できるのですよ!」
「ほうほう……。確かにそれは……」
それは確かに便利だな、とアリスは思った。ギフトそのものである耀の木彫りが収納できるなら、ギフトによる産物であるアリスの妄想も、自由に収納できるかもしれない。つまり、詠唱しなくても強力なものを手にし、使うことが出来るかもしれない。妄想の手間も労力も、不要になるのかもしれない。
アリスの妄想の大きな弱点といえば、『瞬時に強力な妄想を生むことは難しい』こと。戦場の状況の変化に対応するには、いちいち詠唱なぞやっていられはしないのだが、詠唱なしで生んだものの強さなどたかが知れていることはアリス自身が一番よくわかっている。
このギフトカードを使えば、その弱点もなくなるかもしれない。それはアリスにとって、大きなメリットとなりえる。
"……かもしれない、かもしれない、ってか。そんなこと、
しかしそうであっても、アリスは心の中でそう断じた。確かに、もしもそれが出来るならとてもとても便利なことだろう。労力の削減になることだろう。人間は古来より無駄を嫌うものだ。だからこそあらゆるものを発明し、かける労力を削減し、生活を常に便利にしてきた。
人間の勤労意欲とは、人間が古来より持つ実に人間らしい性格である『無駄嫌い』が発展して発展して、昇華したものだとも言えるかもしれない。
―――だとするならば、アリスという女はその点においては全く人間らしくなかった。なんとなれば、彼女はギフトカードを使えば不要になるかもしれない妄想という『無駄』を愛し、自らの存在意義にまで昇華させているからだ。
妄想しない私など、私ではない。そこには一点の疑いも存在はしない。妄想している時の私が、
―――そう信じなければ、アリスは『夢』を追い続けることができなくなってしまうから。
アリスはもう一度、自らのギフトカードを見た。鈍く曇るローズグレーのカードに記された『アリス・イン・ユートピア』の文字。それは、彼女を表す言葉として最上級の言葉だ。アリスの力はすべて、彼女のユートピアのためにある。それは彼女の『夢』であり、妄想が彼女の存在意義である唯一にして無二の理由であり、そして―――
「……私はあまり使わないものかもしれないね」
―――ギフトカードの使用をあまりしないかもしれないと判断する理由でもあった。
*
―――朗々と、唄う。唄う。唄いあげる。
―――堂々と、踊る。踊る。踊り狂う。
そこは月夜の舞踏会場だった。天より墜ちる金の架け橋―――月の光に照らされて、紺色のセーラー服を纏った一人の長い黒髪の女性が唄い踊り、その指に従ってもう一つの影も舞う。間違ってもいい舞台だとは言えないでこぼこで雑草まみれの草原が、今の彼女の晴れ舞台だ。
月夜に濡れた草原のライブ。響き渡る歓声や輝くペンライトなどあるはずもなく、観客すらも一人もいない。駆け出しのアイドルの初仕事よりも、格段に寂しい舞踏会。もはやすべてがむなしくなってしまうかのような、そんな寂しい、舞踏会。
しかしそれでも、演者の彼女は今間違いなく『幸福』だった。幸せの絶頂とまでは言わずとも、今まで生きてきた時間の中ではこの瞬間こそが一番幸福な時である、と彼女は確信している。
だからこそ踊る。この幸福をとにかく何かで表したいから。
もしも見る者がいたならば、たとえその者が赤の他人であろうとも、きっと共に踊りだしていただろう。それほどまでに、彼女の踊りには活力があった。今までの彼女の人生がすべて凝縮されたような濃密な踊り。赤の他人をも引きこんでしまう謎の生命力が、この踊りにはある。
踊りがラストスパートに入った。彼女の四肢が鞭のようにしなり、長髪が振り乱され、表現したいものを形作る。彼女の指に真っ赤な糸でつながれたもう一つの影、巨大なからくり人形も、指の動きに従い、彼女の踊りを、表現したいものの創造を助けていた。
大地を踏みしめ、右腕を振り上げ、ダンスは終わる。演者は余韻に浸るかのように、そのポーズのまま固まった。数秒後、彼女はいきなり笑いだす。呵々大笑。夜空いっぱいに広がるような笑い声。見る人が見ればただの狂人にも見えるような、恥も外聞もない大笑いだった。
ひとしきり笑った彼女は、流れるように指を動かした。からくり人形がそれに従いしずしずと歩き、彼女に体を寄せてくる。騎士のようなごてごてした甲冑と鉄仮面に身を固め、腰に大剣を帯びたその人形の首に彼女は手を回し、女郎のようにしなだれかかった。性的で、官能的で、蠱惑的な動き。人形である彼女のパートナーが反応するわけもないのだが、彼女はなおも蠱惑的に、人形の耳元で囁いた。
「どうだ、『クリム』? いいダンスだっただろう?
彼女の言葉に、クリムと呼ばれた人形が頷く……というか、彼女が人形を操り、頷かせている。自分自身も演者に見立てた人形劇。コミュニケーションを取っているようでいて、その実は盛大な一人遊びだった。ぼっち、と形容するのは簡単すぎるが、この女はそれとはまた違う。何か言葉で表しにくい、どこか異様で、
強引に言葉で表すならば……『近寄りがたい』という雰囲気だろうか。だが、別に近づこうと思えば近づけるのだ。よくある『私に近寄るな』という雰囲気を纏い、実際に近づいた人間を拒絶し、排除するような人間では、彼女は間違いなくない。むしろ、近づけば丁寧に、それでいて陽気に、なごやかに対応してくれるであろう。紅茶の一杯も淹れてくれるであろうし、話だって弾むに違いない。
しかし。そこまで分かっていてもなお、彼女の纏う雰囲気は『近寄りがたい』と表すしかない。明らかにどこかが異質なのだ。自分が操る人形相手に大真面目に芝居をやってのけるその行動もそうだが、それとは違う『本質的なところ』でも、
人形の腕を自分で操作し、彼女は自らを抱きしめた。指を引き絞り、強く、強く。体が強く抱きしめれていくにつれ、彼女の肌は紅潮し、息も荒くなっていく。苦しそうな息ではない。むしろ、みだらな喘ぎ声のようなものだ。肌の紅潮と合わせて、女はどんどん色っぽくなっていく。
甲冑のとがったところが身に食い込もうが構いはしない。むしろ彼女は、甲冑が身に食い込むほど、甘く淫靡な喘ぎ声を上げた。食い込む痛みを、痛みともみなしていないかのような、実に甘い甘い喘ぎ声である。
もうお分かりになられるだろうが、彼女はこの行為に性的な興奮を覚えていた。自らが操るからくり人形に月夜の下で抱かれることで性的興奮を得る。言ってしまえば、お手製ラブドールを使った壮大な自慰行為。それを彼女は、野外でやらかしているわけだ。
―――早い話が、ド変態である。
「なあクリム。
荒い息のまま、彼女はからくり人形の耳元でなおも囁く。まるで恋人に愛を囁くように情熱的に。彼女が指を動かしていないのだから、物を語らず、昂ぶりもしない人形が反応することはないのだが、彼女はそれでも情熱的に、蠱惑的に語り掛け続ける。
「―――だから、あの小物のワータイガーには力を貸してやらねばな。
また人形が頷く。一人人形劇の終わりは見えない。むしろ、彼女が終わらせない。
「―――ああ、楽しみだ」
この人形劇は、彼女が『渇望』を叶えるまで、カーテンコールを聞きはしないだろう。
「―――久しぶりに交わろうではないか」
終幕の見えない人形劇。その幕を引くのは―――
「―――『我が仇』よ。そして『我が愛すべき愚妹』よ」
―――彼女なのか。それともまた別の誰かなのか。
今回の話は多少アリスの本質が垣間見えたり、新キャラ登場だったりで地味に重要な話かもですね。
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