鷲巣-Washizu- 宿命の闘牌   作:園咲

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決勝戦はもちろん大将戦メインに書きます。


決勝

 難なく決勝進出を決め帰路に着く龍門渕高校麻雀部。鷲巣は昨日同様龍門渕家に泊めてもらう手はずとなっていた。

夕食後今日出番のなかった衣が打ちたいと言い始める。流石に明日に差し支えるため透華が止めたのだが聞く耳を持たずどうしてもとだだをこねる衣。

しかし鷲巣が衣の提案に乗る。鷲巣も鬱憤が溜まっていた。しばらく言い合いが続いたが、結局透華が折れた。

 

「いいの?透華」

「仕方ありませんわ。調子を崩されても困りますし…2人は副将と大将ですから対局は午後からでしょう。いざとなったら午前中は仮眠室で寝かせます。」

「あの2人に限ってそんなことないと思うけどね…」

 

呆れたように話す透華と一。残り2人の生贄…ではなく打ち手は純と智紀がじゃんけんに負け、付き合うことになった。

そのまま夕食はお開きとなり難を逃れた透華と一は明日に備え、智紀がまとめた対戦校の資料を自室に持っていき確認し終わったあと就寝した。

 

翌日、昨日と同じようにハギヨシに送迎してもらっている一同。

 

「いや、酷い目にあったぜ…」

「本当に酷い…」

「智紀お前…この前逃げただろ」

「…」

 

「衣和緒!猛者がいるといいな!」

「ぬ…」

 

 車内で軽口を叩く純と智紀を見て思わず苦笑いする一。

一方隣では昨日危惧していた事態が起こっていた。

衣は大丈夫そうだが鷲巣が少し眠そうである。この2人純と智紀が自室に帰り寝たあとも打っていた。衣は一昨日より寝ていないはずなのにどういうことだろうか。

 

「はぁ…だから昨日あれほど…」

「透華!今日は衣たちに回してくれ!」

 

はいはい…とから返事をしつつ、ここまで頭に描いていた通りになるとはと呆れ気味の透華。衣がピンピンしているのは意外だったが。

 

「お嬢様、もうすぐ着きます」

「そうですか、では皆さん降りる準備を」

 

 運転席からハギヨシが話しかけてくる。いつの間にか結構時間が経っていたようだ。

会場に着くやいなやマスコミに取り囲まれ主に透華を中心に取材を受ける。

 昨日の飛ばし勝ちが印象に残ったのだろう。透華は上機嫌で取材に応じるが、マスコミ嫌いの衣がいつの間にか姿を消していた。

 副将戦の前には帰ってくると思うのだが…発信器を持たせてあるので大丈夫だろう。そして昨日と明らかに違う点が一つ。決勝進出校に控え室が用意されることだ。リラックスして対局に望めるようにという運営側の配慮だろう。

 

「ふぁ…」

「大丈夫…?」

「今のうちに仮眠室行っとけよ」

 

 観戦室に入ってから眠気を隠せないのか大あくびを欠く鷲巣。そんな鷲巣を智紀が心配し、純が少し寝たほうがいいと勧めてくる。

 確かに少し寝たほうがいいだろう。車内では衣が常に話しかけてくるため寝るに寝られなかった。と同時に先鋒戦が始まるアナウンスが流れた。

 

「と…ま、遊んでくるわ」

「儂は少し睡眠をとりにいく」

「いってらっしゃい…頑張って」

 

 智紀の激励と共に純が対局室へと向かい、鷲巣は真逆の方向にある仮眠室へと向かう。今日は決勝進出校の生徒しか出入り出来なくなっているらしく道中誰とも出会うことがなく仮眠室にも誰もいなかった。鷲巣は床に着きすぐにすっと眠りに引き込まれていった。

 

 それからしばらくして鷲巣は目を覚ました。深い眠りについていたのか眠気はすっかり取れていた。時計を確認したが、1時間程度しか経っていない。テレビでは先程まで先鋒戦が行われていたらしくダイジェストを流している。純はどうやら前半戦は奮闘していたものの、後半風越にまくられ結局原点近くで終えたようだ。観戦室まで戻ろうと立ち上がり仮眠室を出てすぐに清澄高校の制服を着た2人とすれ違う。

大将の宮永咲と副将の原村和である。鷲巣はこの後の対局の事を思い、つい口元を歪ませてその場を去っていった。

 

***

 

「うっ……」

「どうしましたか?宮永さん」

「いや…ちょっと寒気が」

 

 咲に正体不明の悪寒が襲う。体が冷えてしまったのだろうか。

 いずれにせよ体調を崩すわけにはいかないので早く布団の中に入ろうと仮眠室に入る。部屋の中央辺りにひと組の布団が敷かれていた。言うまでもなく先程まで鷲巣が寝ていた布団である。どうやら起きたあと畳まないまま出て行ったらしい。

 

「あっ…暖かい。ふかふか…」

「その布団で寝るんですか…?」

 

 当然鷲巣が寝ていたのでまだ熱が残っている。

 咲は都合がいいのでそのまま寝ることにした。抵抗などは特にないらしい。

和は新しく布団を敷き、2人は全国への思いを互いに口にした後仮眠に入った。

 

***

 

「…すっきりした」

「おかえりなさい。意外と早かったですわね」

 

 透華の出迎えを受けたあとテレビにて改めて点数を確認する。

一は次鋒戦に向かったらしく既にいなかった。

 

先鋒戦終了時

風越女子 148000(+48000)

龍門渕  101200(+1200)

清澄    82400(ー17600)

鶴賀学園  68400(ー31600)

 

 風越女子が頭一つ抜き出るスタートとなった。しかし他3校はまだ主力を残している。まだ勝負の行方は分からないと言っていいだろう。

 

「あーちくしょう…あの片目女」

「お疲れ様…」

 

 しばらくして愚痴りながら純が帰ってきた。前半に独走しながらも風越女子の福路にいいようにされたのが気に入らないのだろう。とんだ食わせ物だった。

 

「いや…原点を死守できただけでもなかなかですわ。…それにしてもあの女目立ってますわね…」

「はは…でも楽しかったな。個人戦が楽しみになったわ」

 

 透華にとっては点数より目立つ目立たないの方が重要らしく、後半稼いで一気にトップに立って目立っている福路にご立腹である。純は変わらない透華の調子を見て苦笑いして先程の対局を思い出す。

風越は言わずもがな清澄には爆発力があった。彼女たちともう一度打ちたいと純粋に思った純であった。

 

 次鋒戦が始まり透華たちは愕然とした。鶴賀の次鋒が明らかに素人なのだ。

 手元がおぼつかなく、捨牌の切り順もめちゃくちゃ。他家のリーチに対しても3シャンテンから一発で危険牌を切り振り込む始末だった。

 

「なんで決勝にあんな素人が紛れ込んでいるんですの!?」

「人数合わせじゃねえの。にしてもひでえな…よく決勝に上がってこれたな」

(いや…ただの素人ではない。なかなかの強運を持っている…)

 

 鶴賀学園は今大会初出場である。無名の高校で補欠の登録もなく5人きっかりなので数合わせの部員がいても不思議ではない。

 現に部員不足で数合わせに素人を入れて参加している高校はいくつもある。

 ただそういった高校の大半が早々に負けるので決勝まで残っているのは極めて稀であると言えるだろう。透華に続き純も人数合わせだと判断したが鷲巣の見解は少々違っていた。

 

 次鋒戦も終盤に差し掛かり、一は順調に点棒を稼いでいた。

 もうすでに親番を終え、大きい手に振り込まない限りはプラスで終えることが出来るだろう。

 

次鋒戦後半戦南三局 親・風越女子 ドラ・{七}

西家 龍門渕  117800(+16600)

北家 清澄   100800(+18400)

東家 風越女子 146200(ー1800)

南家 鶴賀学園  35200(ー33200)

 

(どどどどどうしようどうしよう!?)

 

 この上なく焦っているのは鶴賀学園の妹尾佳織である。

先鋒の津山睦月が予想以上に削られ、部長の蒲原から発破をかけられて臨んだ次鋒戦。

しかしここまで失点しっぱなしである。流石にこのままではまずい。

 

佳織配牌 

{一11345999④赤⑤⑥北} ツモ {2}

 

(えーと…これは…)

 

 比較的ソーズが多い配牌を見て佳織はひとまず赤5筒を切りつつ、かつて蒲原から役について教えられたことを思い出していた。

それはまだ佳織が入部してまもない頃。

 

***

 

「いいかー佳織。手を一つの数牌に統一した手をチンイツっていうんだ」

「数牌ってマンズソーズとあと…ピンズのことだったよね」

 

このあたりの知識もまだまだ乏しい佳織である。

 

「うん、そうだ。打点が高いから狙える時は狙っていくといいぞーワハハ」

 

***

 

(やってみよう…)

 

 もう点棒は4万点を切っている。上がるだけ上がろうととりあえず佳織はチンイツを狙う。

 

六巡目

佳織手牌 

{一11234567999⑥} ツモ {8} 打 {一}

 

七巡目

佳織手牌 

{112345678999⑥} ツモ {1} 打 {⑥}

 

(あ…一色になった。テンパイはしてるんだろうけど…何待ちだろう…?)

 

「リ、リーチします!」

 

 佳織、何待ちか判断できないがとりあえずリーチをかける。これも蒲原の教えである。今回はリー棒も忘れない。

 

七巡目

一手牌 

{二三六八3赤568①②白白白} ツモ{東} 打{白}

 

(リーチかあ…ここまでかな)

 

一の配牌はかなり悪くここまで来てようやく字牌整理が終わった。

ツモも締まらず、この形から上がりを目指すのはさすがに無謀だろう。

点棒にも余裕が有るためノータイムで白の暗刻を崩し、下りる。序盤に1枚切られているため完全安牌である。

 

七巡目

まこ手牌 

{①②②③③④④⑥北北 副露 横南南南} ツモ {1}

 

(ぐっ…)

 

清澄次鋒の染谷まこは好形の混一色のイーシャンテン。しかしここで1索を引く。

 

佳織捨牌

{赤⑤北四④発一}

{横⑥}

 

 相変わらず訳の分からない河である。まこの長い麻雀歴でも見たことがなかった。

故に待ちが読めない。

 

(はっきりとは読めんが…強いて言うなら1枚も見えとらんソーズが怪しい…?)

 

上がりを目指すのなら1索ツモ切りである。

 2索が3枚見えているためワンチャンス。他のソーズと比べて切りやすいのは確かだが…少考の末まこは現物の北を切りリャンシャンテンに戻す。

シャボ待ち等を考慮し1索は切れないと判断、この手ではあまり打点も見込めない為下りを選択した。

 

八巡目

未春手牌 

{三四赤五七七③④⑤⑥⑦ 副露 2横22} ツモ {発} 打 {発}

 

親の風越女子の次鋒、吉留未春はすでに好形でテンパっていた。

2、5、8と三面待ちのタンヤオドラ3。

 

(この手を上がれば大きい。連荘できるし何よりプラス収支に転じる。こっちは3面張…引き合いで負ける気はしない!)

 

当たり牌はツモれなかったが幸い持ってきた発は佳織の現物。その後特に鳴きも入らず佳織のツモ番が回ってくる。

 

「…あ!す、すいません!ちょっと待って下さい」

(一発でツモったか…?)

 

 佳織がツモ牌を見るのと同時に声を上げた。手牌を区切り当たり牌かどうか確認する。明らかにマナーに反しているが他の3人は素人だと気づいているので何も言わなかった。

 

「3つずつ…3つずつ…ツ、ツモです!裏は…ありません」

「…手牌は?」

「あわわ…すいません!」

 

 確認が終わり間違いなく当たり牌だと確信した佳織はツモを宣言し、裏ドラをめくる。しかし先に手牌を倒さなかったためまこが指摘する。佳織はすっかり忘れていたようで慌ててパタパタと手牌を倒した。

 

佳織手牌 {1112345678999} ツモ {8}

 

「チンイツです…面前だからえーと…」

「なっ!?」

「九蓮宝燈じゃと…」

 

 チンイツどころではない佳織の手牌。上がった佳織はなぜ3人が呆然としているか分からなかった。

 

「ちゅ…九蓮宝燈ー!ここまで押されていた鶴賀学園に役満が出ましたー!」

「すごいな…流石に純正は見たことがない」

 

 この役満に藤田が思わず感服する。実況席はおろか観客席も湧いていた。

役満は麻雀の花であり、ましてその中でも滅多に見れない純正九蓮宝燈である。

そしてこの上がりで鶴賀学園が一気に盛り返す。

 

西家 龍門渕  109800(ー8000)

北家 清澄    92800(ー8000)

東家 風越女子 130200(ー16000)

南家 鶴賀学園  67200(+32000)

 

次鋒戦後半戦南四局 親・鶴賀学園 ドラ・{中}

 

佳織配牌 {2二⑧二13白534⑦⑨白二}

 

(早く理牌しないと。ってあれ…これってもしかして…)

 

 理牌を進めていた佳織が途中である事に気づく。

凡庸な配牌だと思っていたのだがどうにも様子が違う。

 

(まさか純正九蓮をあがってくるとはのう…始めて見たわ…)

 

 先程下りたおかげで難を逃れたまこは心中で愚痴を吐きつつ理牌を済ませる。

 配牌はいい。タンヤオ系の軽い手だった。しかし親である佳織からなかなか第1打が切られない。理牌は終わっているようなのだが遅い。ついにしびれを切らしたまこは佳織に問いかける。

 

「どうしたんじゃ?あんたが切らんと始まらんぞ?」

「あ、はい。すいません…大丈夫です!」

「そーかい。じゃあ早く切っ…「ツモ!」…は?」

 

佳織手牌 {二二二123345⑦⑧⑨白白}

 

「「「…」」」

 

 もう言葉が出なかった。ありえない事態に頭が追いつかない。

実況席も観戦席も驚愕し、沈黙が場を覆っていた。

 

「て、天和です…鶴賀学園の妹尾選手、天和を上がりました…」

「いやもう…なんといえばいいか…ずるいな」

 

 しばらくして実況が我に返り職務を全うしようと説明を行う。

まさかの天和に藤田も呆れ気味に話す。

余りにも理不尽である。ずるいと言った藤田は決して間違ってはいない。

 

南家 龍門渕   93800(ー16000)

西家 清澄    76800(ー16000)

北家 風越女子 114200(ー16000)

東家 鶴賀学園 115200(+48000)

 

「オーラス…続行されますか?」

「ふぇ…あっもういいです!」

 

 佳織は連荘せず上がりやめを選択。これにより荒れに荒れた次鋒戦が終わった。

 

次鋒戦終了時

鶴賀学園 115200(+46800)

風越女子 114200(ー33800)

龍門渕   93800(ー7400)

清澄    76800(ー5600)

 

「次鋒戦終了ー!まさかの鶴賀学園の一人浮き!風越をまくりトップに立ちました!」

「鶴賀は最後の2局で一気に稼いだな…。まさか連続で役満を上がるとは」

 

 鶴賀学園以外は点を減らす結果となった。

 特に役満の親かぶりを食らった風越が大きく点を減らし、福路が作った貯金をかなり吐き出してしまった。

 

「……目立ちすぎですわー!!純正九蓮に天和!?ありえませんわ!」

「ごめんね…点減らしちゃって。て、やっぱり荒れてるね透華」

「おつかれ、まあ気にすんな。ありゃどうしようもねえよ…って早く行けよ透華。次お前だぞ」

「…!分かっています!」

 

 龍門渕高校の控え室では透華が喚いていた。一応純が咎めるが気持ちは痛いほど分かる。帰ってきた一もある程度予期していたようだ。鶴賀学園の妹尾佳織、途轍もない幸運の持ち主である。

だがそんな彼女のたった一つの不運は…

 

「ククク……カカカカカ…面白い…面白い小娘だ…」

 

鷲巣の興味を引いてしまったことだろう。

 

***

 

「佳織すごいな!大活躍じゃないか今日は!」

「あ、あれでよかったんですか?」

「いや…十分すぎる」

「うむ。途中までヒヤヒヤしてたが」

「稼ぎすぎっすよ…怖いくらいっす」

 

 一方佳織はそんな事は露知らず鶴賀学園の控え室に戻ってきていた。

収支は+46800と大幅なプラスとなり、風越を抑えトップになった事で盛り上がっていた。

 

「蒲原…分かっているな」

「もちろん。引き離せばいいんだろー風越を!」

 

 鶴賀学園中堅の部長、蒲原智美は状況判断力に優れておりどちらかというと守備型の打ち手である。少ない稼ぎながらも失点も抑えてくれるだろう。

 

「ところで…佳織。九蓮宝燈と天和を上がったよな」

「う、うん。そうみたいだけど」

「ダブルかー明日にでも死ぬかもなーワハハ」

「ええ!?私死ぬの!?」

 

 天和、九蓮宝燈は滅多に出ない役満である。純正九蓮ともなると更に珍しい。

上がってしまうと全ての運を使いきり死んでしまうという話もある。

 

「蒲原!…大丈夫だ妹尾。ただの迷信だ」

「…もう!智美ちゃん!」

「ワハハ!行ってくる!」

 

 流石に怯える佳織が可哀想になったのか蒲原を咎める加治木ゆみ。

からかわれたと知った佳織は怒ったが、蒲原は笑いつつ中堅戦に向かっていった。

 

***

 

「すまんの…凹んでもうた」

「ま、しょうがないわねあれは…じゃ行ってくるわ!」

「頑張ってください!」

 

 清澄の中堅は部長の竹井久。今のところ4位でかなり劣勢である。

久はできることを最大限にやろうと割り切っていた。ここで点差を詰め、後は1年生2人に託す。

 

「さあ決勝戦中堅戦が始まります!」

 

折り返しの中堅戦。まさにターニングポイントと言えるだろう。

ここを制することで流れが変わってくるかもしれない。

各校の中堅はそれぞれの役割を胸に勝負に挑む。




ここまでです。中堅戦終了まで書きたかったんですが文字数が予想以上に長くなりまして一旦区切りました。
かおりん大爆発。やりすぎた感がありますが…
鷲巣の出番が少ないのは許してください。団体戦が故どうしてもこうなってしまいました。
次回は中堅戦を予定しています。

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