鷲巣-Washizu- 宿命の闘牌   作:園咲

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副将戦です。過去最長ですね...難産でした。


成長

 衣が対局室に姿を見せた時には他三校の選手が揃っていた。

 その中にはもちろん清澄の原村和もいる。腕に抱いているのは先程衣が届けたエトペンだ。和は驚きを隠せない様子だった。

 

「あなたが…天江衣さんですか?」

「うむ!天江衣だ!」

 

 和に聞かれそう言えば名乗っていなかったと思い出す。エトペンを渡した後、透華を見かけそのまま別れたのだった。そういえば友達になってくれとも言いそびれた。

透華が散々口にしていた原村和。聞けば昨年の全中王者らしい。なかなか楽しめそうだ…と衣は期待に胸を膨らませていた。

 

 会場に迷い込んだ子供かと思ってました…

 和はそう口走ってしまいそうだったが、寸前の所でそれを飲み込む。

よくよく考えてみれば今日は決勝戦進出の選手しか入れないようになっている。ならばこの少女も当然選手ということではないか。

この見た目でも昨年のインハイМVP。部長である竹井久からも要注意だと聞かされていた。

しかし誰が相手だろうが関係ない。自分は自分の麻雀を打って役目を全うするだけだと和は考えていた。

その割り切りが和にとって長所でもあり短所でもある。

場決めをし終わり、副将戦開始を告げるサイコロが回りだした。

 

副将戦前半戦東一局 親・清澄 ドラ・{9}

東家 風越女子  89700

南家 鶴賀学園 101400

西家 龍門渕   94200

北家 清澄   114700

 

『さあ始まりました副将戦!やはり注目は清澄の原村選手と龍門渕の天江選手ですか?』

『そうだな…この対局は原村がどこまで天江に対抗できるかが焦点となるだろうな。鶴賀と風越の苦戦は必至だろう。』

 

 観客も実況も藤田ですらも原村と天江のぶつかり合いだと思っていた。

しかし副将戦は予期せぬ方向に向かうこととなる。

 

衣配牌 

{一三赤五六3679⑦⑨⑨東北中} ツモ {1}  打 {北}

 

(む…配牌がよくない…)

 

 衣にしては悪い配牌。しかしそれも好都合かもしれない。というのも衣は序盤から上がっていく打ち手ではない。

元々序盤は見に徹し、原村和の打ち筋を確認するつもりでいた。

 

「リーチ」

 

その後鳴きも入らない静かな場であったが、八巡目親である風越女子深堀からリーチがかかる。

 

深堀(風越)捨牌

{中発19東八}

{⑤横⑧}

 

(高くはないな…攻めてもいいが…)

 

 衣が深堀の手から感じ取った気配は裏が乗ってやっと満貫に届くかどうか程度。

今回衣は他家の様子見のためオリることにした。ツモられてもすぐに取り返すことが出来る自信もある。

その後深堀は当たり牌をツモれず、ただただ順目だけが進んでいく。

 

「テンパイ」

「「「ノーテン」」」

 

 結局そのまま流局。手牌を倒したのは深堀のみ。衣の予想通り、ドラ雀頭の役なしリーチ。

守りに入った3人は固く、しっかりとオリきり振り込まなかった。

 

「ロン…1000は1300です」

 

和手牌 

{二三四七七⑥⑦} ロン {⑧} 副露 {横324} {7横77}

 

東一局一本場では原村和が浅い順目で鶴賀東横から出和了。二副露しての喰いタン。ドラもなく打点は低い。

 

『副将戦最初に和了を決めたのは清澄の原村選手!しかし地味と言わざるを得ない和了ですね』

『いや…リー棒供託もあったからな。あの酷い配牌からよく真っ先に上がれたもんだ』

 

 藤田は迷わず喰いタンを選んだ原村和を評価した。

確かにこの和了一見打点は低いが、リー棒と芝棒を加えると2300の収入。二翻分の価値がある。この局面では最良の判断だろう。

 続く東二局は全員互いが互いの手牌を警戒していたのか誰も上がれず再び流局。和のみのテンパイで親が流れる。

そしてこの三局を通して衣は原村和という雀士が見えてきた。

 

(なるほど…透華が熱を上げるわけだ)

 

 衣は思考の海に潜る。これは鷲巣と打ってから心がけるようにしたことだ。今の衣はしっかりと相手の打ち筋を見極めることができる。

 その打ち筋は恐ろしい程牌効率に遵守している。まず強引に手役を追うことはしない。第一打に必ず少考して打っているのは配牌から最善の速さと打点を見極めているのだろう。

 衣がよく知る透華のデジタル打ちはぶれることが多いのでその差がよく分かる。まさに究極のデジタル打法と呼べるかもしれない。しかし衣は負ける気など毛頭しなかった。今宵は満月ではないため場の支配は使えないが…高打点で上がってしまえば良いだけの事。東三局は自分が親、様子見はもう終わりだ。

 

副将戦前半戦東三局流れ一本場 親・龍門渕 ドラ・{①}

西家 風越女子  90700

北家 鶴賀学園  98100

東家 龍門渕   92200

南家 清澄   119000

 

 東三局に入った途端衣から強烈なナニカが溢れ出る。それは肉眼では見えず特定の雀士のみ感じ取ることが出来るもの。

 室内で風などないはずなのに衣の金髪がなびき始める。しかし衣をよく知る者からすればまだまだ弱いと言うだろう。

 

衣配牌 

{三五六4①①①③⑤⑥東東南} ツモ {3} 打 {南}

 

 配牌からドラ3。鳴ける牌も多くどこからでも仕掛けにいける。

連荘し、一気に稼ぎたいこの場面では正に絶好。言うまでもなくこの好配牌は衣が引き寄せたものである。

数巡後和から東が切られる。衣は当然鳴いていく。

 

「ポン!」

 

衣手牌 

{五六七4①①①③⑤⑥⑦} 副露 {東東横東} 打 {4}

 

 無駄ヅモなしでダブ東ドラ3の親満テンパイ。変則2、3筒待ち。場にはまだ見えていない為ツモにも期待できる。と思っていたがすぐに深堀から3筒が切られる。順目も浅くまだ張っていない、もしくは連荘狙いで打点が低いと判断したのだろうか。

いずれにせよ不用意な打牌である。衣は思わず口元をつりあげた。

 

「ロン!12300!」

 

衣手牌 

{五六七①①①③⑤⑥⑦} ロン {③} 副露 {東東横東} 

 

西家 風越女子  84400(ー12300)

北家 鶴賀学園  98100

東家 龍門渕  104500(+12300)

南家 清澄   119000

 

(うっ…ドラ暗刻…)

 

 深堀としては予想外の親満放銃。こんなに早く手を仕上げているとは思わなかった。

12300点の支払いは余りにも痛い。元々深堀は決して打点の高い打ち手ではない。リスクを最小限に抑え、要所要所で上がっていくスタイルだ。

 ここまで動きがなかったので忘れていたが相手にしているのは()()天江衣である。何としてでも堪えなくてはならない。そして衣の突然の変貌については龍門渕高校一同のみが理解していた。

 

「始まりましたわね…」

「ああ…だが…」

 

 透華は純が言いたい事が手に取るように分かっていた。

今の衣はベストコンディションから程遠い。いつもの衣ならさらに高い手で上がっていただろう。しかしこれはしょうがない事だった。大会のタイミングが悪すぎた。

今日は新月であり、衣のバイオリティは最低である。さらにまだ外は明るい。部屋にある掛け時計はちょうど3時半を回ったところだ。

これまでの先鋒戦から中将戦まで大きな連荘もなく比較的早めに対局が進んでいった弊害がこんな形で出るとは。

 当初透華はこれまで通り衣に大将を任せ、鷲巣を先鋒に置くつもりだった。実際それがベストオーダーである。だが鷲巣の入部のただ一つの条件が自分を大将に据えることだった。よって破るわけにもいかず今回のオーダーになってしまったわけだ。

 透華は鷲巣に視線を向ける。自分が決めたこととはいえ衣に負担をかけさせることになった原因なのは間違いない。

 鷲巣はしばらくして透華の視線に気づき、鼻で笑いそっぽを向いた。

 

(ムキー!なんですのその態度は!)

 

 しかし言葉に出すことは出来ない。自分は殆ど現状維持となる+400。それに鷲巣の強さも嫌と言う程知っている。出番も終わってしまった今、衣とこのあとの鷲巣を見守ることしかできない。そんな自分がむずかゆかった。

 さて対局はオーラスまで進んでいた。透華が危惧していた通り衣にしてはいまいち波に乗りきれていないようだ。

それでもトップをまくるあたりは流石と言えるだろう。

 

副将戦前半戦南四局 親・清澄 ドラ・{西}

南家 風越女子  80200

西家 鶴賀学園  83100

北家 龍門渕  121700

東家 清澄   115000

 

三巡目

衣手牌 {四赤五七七八456④赤⑤⑥西西 ツモ 六} 

 

張った(テンパイ)…好形だ)

 

 予想よりあまり稼げていない衣は多少焦っていた。大物手は張っているのだがなかなか物に出来ない。風越と鶴賀が鳴きあってツモが飛ばされる。どうも二人共、場を早く流そうとしているようだ。清澄も清澄で鳴いて適度に和了ってくる。どうしても調子が万全だったらと悔やまれる。しかしこの局は浅い順目で高い手を張った。

リーチでメンピンドラ4で跳満確定。三、六、九萬待ち。高め三色で倍満までのびる。

 

「リーチ!」 打 {七}

 

衣捨牌

{北南横七}

 

(うっ…早い…)

(浅い順目のリーチですか…しょうがないですね…こういう時もあります)

 

 他家を足止めさせる為にもリーチをかける。

これで他家は結託して鳴きづらくなるだろう。鳴けば手牌が短くなるため当然振り込むリスクが高まる。他家からのテンパイ気配は感じない。まだ四巡目でありろくに手が進んでいないだろう。安牌も少ないため、手が煮詰まったら高めである九萬あたりが切られてもおかしくない。衣の予想通り、五巡後に深堀から高めとなる九萬が切られた。

 

(よし…案外かかったが…)

 

「ロン」

 

衣手牌 {四赤五六七八456④赤⑤⑥西西 ロン 九} 

 

 発声とともに手牌を倒す。しかしなにか様子がおかしい。端に控えていた審判が卓上と衣の手牌をしきりに確認している。

なぜこんなことをしているのか?理由が分からないのは、この場では和了った衣と振り込んだ深堀だけだった。

確認を終えた審判がこちらに近づいてきて声をかけてきた。なにか問題でもあったのだろうか。少なくとも衣にはまったく心当たりがない。

 

「なんだ」

「すいません…天江選手。言いにくいのですが…フリテンですね。鶴賀学園の東横選手が当たり牌を切っています」

「なんだと!フリテン!?」

 

 その言葉に衣と深堀は鶴賀学園東横桃子の捨牌に視線を向ける。

 

東横(鶴賀)捨牌

{東2中六98}

{①③}

 

(馬鹿な!衣が見逃したとでもいうのか!?)

(助かった…しかし六萬など切られていたか?)

 

 確かに衣の当たり牌である高めの六萬が切られている。それもリーチ一発目に。まごう事なきフリテンだ。和了は認められない。倍満の支払いを免れた深堀はほっと胸をなでおろした。罰符となる満貫分を支払いつつ、衣は自問自答を繰り返す。

見逃してしまったというよりは視界に入らなかった…思考から外れていた感じだ。もちろんこんな経験は一度たりともない。

 

南家 風越女子  82200(+2000)

西家 鶴賀学園  85100(+2000)

北家 龍門渕  113700(ー8000)

東家 清澄   119000(+4000)

 

副将戦前半戦南四局一本場 親・清澄 ドラ・{九}

 

チョンボでは場が進まないため南四局オーラスの仕切り直し。

この局で衣は手牌を作るよりも、鶴賀の捨牌を見ることを優先させた。衣が立てた仮説が合っているかを確かめるために。だがそれも虚しく九巡目に鶴賀が手牌を倒した。

 

「ツモっす。メンピンツモで…裏はなし。700・1300は800・1400。前半戦終了っすね」

 

東横手牌 {123三四六七八②②⑥⑦⑧} ツモ {二} 裏ドラ {北}

 

(また…いつの間にリーチをかけた?テンパイ気配すら感じなかった…)

 

 ダメだった。捨牌を見ていたはずなのに気づいたら意識があらぬ方向へと向いてしまっている。今のは自分が振り込んでいてもおかしくない。

衣の仮説通りやはり何らかの力が働いていると考えるのが自然だろう。しかし今のところ打開策が思いつかない。

自分がいうのもなんだが相手の捨牌が見えなかったら麻雀にならないではないか。

 

副将戦前半戦終了

南家 風越女子  81400(ー8300)

西家 鶴賀学園  88100(ー13300)

北家 龍門渕  112900(+18700)

東家 清澄   117600(+2900)

 

『前半戦終了しました。天江選手が追い上げていますが…あの見逃しは一体なんだったんでしょう』

『分からないな。天江が今更あんなミスをするとは思えない』

 

 実況解説席では先程の見逃しについて話し合っていた。

こちらの映像で見る限り違和感のある見逃し。あの時衣は鶴賀の捨牌に視線すら送っていなかった。

もしかするとあの鶴賀の副将もまた特殊な打ち手なのかもしれない。

藤田は後半戦の展開が読めなかった。

 

(気をつけろ衣…対策がないとこのままズルズルいってしまうぞ…)

 

***

 

「お疲れ、モモ。随分早く()()()じゃないか」

「点を減らしちゃって申し訳ないっす。でもここからステルスモモの独壇場っすよ!」

 

 一方鶴賀学園副将東横桃子は大将である加治木ゆみと合流していた。ちなみにモモというのは桃子の愛称である。

 しかし嬉しい誤算だったのが予想より早めに選手の視界から消えたことだ。

この東横桃子という雀士、極端に影が薄く対局中に消えることが出来る。もちろん物理的にではない。その証拠にカメラなどではその姿をはっきりと捉えることが出来る。選手たちの意識、視界から消えるということだ。

 元々この副将戦は清澄原村と龍門渕天江の直接対決とあってこの二人が目立っていて、その恩恵を受けた形となった。自分にとっては都合がいい。

 

「じゃあ後半戦も頑張ってくれ」

「はい!」

 

***

 

(どうする…どうすれば…)

「…衣」

「ひゃ!って…衣和緒か」

 

衣がモモのことについて考えていると突然声をかけられた。思わず変な声を上げてしまう。顔を上げると鷲巣の姿があった。なにかアドバイスでもくれるのだろうか。

 

「抜け道はある」

「…え?」

「…それだけだ」

 

 鷲巣は短い一言を言うと背中を向けて去ってしまった。歩いている方向からして控え室に戻るのだろう。

抜け道とは一体どういうことだろうか。でも鷲巣の言うことだ。なにか意味が有るに違いない。時計を見るともうそろそろ対局が再開される時間だ。衣は対局室へと戻って行った。

 

***

 

「衣和緒!衣は大丈夫でしたか!?」

「うぬ。まあ大丈夫だろう」

 

 鷲巣は控え室に戻ってすぐ透華に詰め寄られた。

元々衣の元には透華が行くつもりだったのだが、鷲巣がそれを押し切ったのである。

あんな衣のミスは見たことがない。卓上でなにかが起こっているのは明白だった。

それでも透華は心配そうに対局室に戻ってきた衣をテレビ越しに眺めていた。

 

***

 

 後半戦が始まって数局…そろそろ南入というところで、ようやく衣は鷲巣の言ったことを理解した。

それは鶴賀学園が衣の上家にいること。つまりリーチさえしなければフリテンはない。

そしてここまでモモの打ち筋を見ていて、ある違和感があったがその正体も分かった。そしてそれこそがステルスモモの弱点となりうる。

 

後半戦に入って一度も()()()()()()

 

 最初は点差もあり、面前で仕上げようとしているのかと思っていたが、どうにも様子が違う。

例えばこの東二局のこの形。この局は誰も和了ることなく流局し、衣とモモのみのテンパイとなりモモが開いた手牌である。

 

モモ手牌 

{二三四456①①③④⑤中中} ドラ {中}

 

1筒、中のシャボ待ち。とはいえモモがリーチしていた(流局時に気づいた)十一順目にはすでに中が切れていた。

 一枚目はまだしも二枚目は流石に鳴くだろう。ましてその中はドラ。鳴いて満貫を確定させるのが普通だ。対子でなかった可能性もあるが二枚目の中が切られたのは直前の十巡目。その線は薄い。つまり…鳴かないのではなく鳴けないと衣は結論を出した。

 

 よって残りの対局で心がけることは3つ。

まず鶴賀からの出和了を捨て、積極的に鳴いて素早くテンパイに持ち込むこと。

そして枚数の少ない待ちを避け、なるべく多面帳にすること。

最後に面前でテンパった場合リーチをしないことである。

 

 ここまで考えて衣は我に返り思わず笑った。かつて自分がここまで思考し、打ったことがあっただろうか。今までなら対策など考えず、能力に頼り力押ししていただろう。確かに感じる自分の成長ぶりをうれしく思った。

 

(衣の打ち筋が変わった…あいつなりに悩んで打っているのか…)

 

 そう思ったのは解説の藤田。かつてプロアマ交流戦で戦った時とは見違えるようだ。

いままで見られなかった衣の柔軟な麻雀。今衣と戦ったら勝てるかどうか分からんな…と藤田は考えていた。もちろん簡単に負けるつもりはないが。

 

「ツモ。1000・2000」

 

衣手牌 

{234四赤五五五} ツモ {六} 副露 {横867 ③横③③} ドラ {2}

 

 南場は特に大きな和了もなく点数の移動も小さいまま進んでいく。鳴いての早和了勝負となりどうしても打点が低くなる。

 衣の予想通りモモは鳴いたら目立つらしい。しかし鳴き場となり一人だけ面前で打っていてはとても追いつかない。モモはステルスを捨て、鳴くしかなかった。鳴いた瞬間に捨牌も見えるようになった。

 もうすでに南四局オーラス。最後は衣が和了。いつもの衣なら絶対にしないであろう二副露しての喰いタン。清澄を捲り切れなかったが仕方がない。これは団体戦だ。あとは鷲巣に託す。

 

副将戦終了

清澄   126600(+11900)

龍門渕  116400(+22200)

鶴賀学園  81000(ー20400)

風越女子  76000(ー13700)

 

『これで副将戦が終了…最も稼いだのはやはり龍門渕の天江衣!対して鶴賀学園が大きく後退してしまいました』

『清澄に狙われたな…あとツモ和了が異様に多かった』

『ついに決勝戦は大将戦を残すのみとなりました!まもなく始まります!』

 

 藤田が気になっていたのはやはり龍門渕の五人目。いったいどのような打ち手なのだろうか。見当もつかない。優勝を決めるのはどの高校なのか。大将戦から目が離せないな…と二杯目のカツ丼をたいらげながら思っていた。

 

 副将戦が終わって選手たちは挨拶を済ませる。

鳴き場となり、モモはステルスを捨て自力での勝負を強いられ原村和に軍配が上がった形となった。

衣は対局終了後引き上げようとする原村和に話しかけた。

 

「ノノカ!」

「私…ですか?」

「今日はなかなか楽しかった。また日を改めて打ちたいんだ。打ってくれるか?」

「…ええ。また打ちましょう」

 

 和は衣を快く受け入れた。衣は満面の笑顔を見せた。そのまま上機嫌で対局室を出て行く。しばらくして廊下で鷲巣とすれ違う。二人は言葉を交わす。

 

「…ここで負けるつもりは毛頭ない…勝ってくる」

「…うん。衣も全国にもう一度行きたい」

 

 鷲巣は衣の言葉に満足したのか満足げに笑う。そして二人は別れた。衣は控え室へと向かい、鷲巣は対局室へ向かう。すべてが決まる大将戦がいよいよ幕を開けようとしていた。




衣の全力のお披露目はまだ先です。副将戦を二話にしようと思いましたがやめました。早く大将戦に移りたかったので。後半駆け込み気味になってすいません。
モモのステルスの弱点は創作です。基本的に面前だったためこういうのもありかな…と。次回から大将戦開始です。しっかり全局描写します。

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