東方楽曲伝×ラブライブ!   作:ホッシー@VTuber

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ちょっと手探り感が否めませんがとりあえずどうぞ。


第8話

 お昼休みになった。俺と真姫は何も言わずにお弁当を持って廊下を歩いている。向かう先は音楽室だ。東條に電話してお昼休み中、音楽室を使ってもいいか聞いたところ、手続きをしてくれることになった。俺が持っているお弁当も東條が作ったものだし、今度何かお礼をしよう。

「本当に……あなたって出鱈目ね」

 音楽室でお昼ご飯を食べようと言った時の真姫の言葉である。今回はたまたま知り合いに副会長がいただけだ。呆れられるのは少し心外である。

 音楽室に到着し、2人並んで座った。お弁当を食べてから話を聞くことになっている。

「お前の弁当、結構大きいな」

「そう?」

 首を傾げながらお弁当の蓋を開ける真姫。中身はなかなか豪勢だ。

「そっちは可愛らしいお弁当箱ね」

「あー……まぁ、そうだな」

 実はこのお弁当箱は東條が昨日買って来た物だったりする。今まで使っていたお弁当箱は少し古くなっていたようで『もっときちんとしなきゃ駄目だ』とお説教されてしまったのだ。まぁ、あのお弁当箱はこの世界に来る前から使っていた物だし、交換するいい機会だった。こんな可愛らしいお弁当箱を使うことになるとは思わなかったが。苦笑しながらお弁当箱の蓋を開けると目に入ったのはピンクのハートだった。

「「……」」

 真姫もそれを見たようで沈黙してしまう。何となくニシシと笑う東條の顔が思い浮かんだ。

「えっと……綺麗な、ハートね」

「気を使わなくていいから……全く」

 ため息を吐き、箸を持って桜でんぶで作られたハートをご飯ごと真っ二つに割いた。

「可愛らしいマ……お母さんね」

 くすくすと笑って真姫が感想を述べた。

「いや、俺親いないけど」

「……え?」

 俺の言葉を聞いた彼女は笑顔を凍りつかせる。少し軽率だったかもしれない。親がいないのは普通じゃないのだから。

「別々に、住んでるとか?」

「死んだ」

「その……ごめんなさい」

「気にすんなって」

 逆に謝られる方が嫌だ。もう、ずっと昔の話なのだから。

「じゃあ、これは……あなたが?」

「何で自分のお弁当にハートマーク作らなきゃならないんだよ……近所のお節介さんが作ってくれた。ほら、早く食べて話、聞かせてくれよ」

「え、ええ……」

 少しだけ気まずげに頷く真姫だったが、先ほどから箸を動かしていない。緊張でもしているのだろうか。

「……はぁ」

 それを見た俺はため息を吐きながら箸を置いた。真姫もそれだけで察したようでこちらに顔を向ける。その表情は強張っていた。

「それで? 医学を教えて欲しい理由って?」

「……西木野総合病院って知ってる?」

「知らない」

 まぁ、何となく予想はできるが。彼女は俺の言葉を聞いて少し目を見開きそっぽを向いた。俺が西木野総合病院を知っている前提で進めようとしていたらしい。

「お前の実家が経営してるのか?」

「……そうよ。それで私も将来、医者になってパパ……お父さんの病院を継ぎたいのよ」

 医者は肉体的にも精神的にもきつい仕事だ。特に精神面でやられてしまう人が多い。苦渋の決断をしなければならない時が必ず来るからだ。

「だから、俺に医学を? 別に大学に行ってから学んでも遅くないだろ」

「……」

 俺の指摘に対し、彼女は無言で答える。何か事情でもあるのだろうか。確かに医者になるのは大変だとは思う。しかし、それは他の人も同じだ。むしろ、真姫は親が医者だから他の人よりも有利だと言える。それなのにどうして焦っているのだろう。

「事情でもあるのか?」

「事情、って言っていいのかしら」

 自虐的な笑みを浮かべながら呟いた真姫は立ち上がってピアノの方へ歩いて行く。そして、ポーンと音を鳴らした。

「やっぱり……音楽をやりながら医大を目指すのは難しいと思うの。だから、音楽をやめて勉強に専念しようと決めた……決めたの」

 そう語る彼女だったが、顔を歪ませていた。彼女自身、やめたくはないのだろう。だが、音楽を続けながら医者を目指すのは容易なことではない。特にレベルの高い医大に入るためには相当勉強しなければならないはずだ。

「……」

 腕を組んでジッと真姫が触れているピアノを見る。音ノ木坂学院は伝統校だが、このピアノは綺麗だ。きっと、数年前に新品に取り換えたのだろう。だが、数年と言っても数多くの生徒がこのピアノを弾いたはずだ。一体、どのようなことを思いながら弾いたのだろうか。大会に出るために。悲しいことがあったから気晴らしに。ただ弾くのが好きだから。真姫はどうなのだろう。昨日、このピアノを弾いていた時、何を考えていたのだろう。

 きっと、彼女は音楽を続けたいと言う気持ちも、医者になりたいという気持ちも同じくらい強いものなのだろう。親が医者だからという義務感で医者を目指しているわけではないのだ。だからこそ、今みたいに苦しんでいる。音楽を取るか、医者という夢を取るか。そして、彼女が選んだのは夢だった。

「まず」

 そっと息を吐いた俺は静かに口を開く。

「ッ……」

 だが、ビクッと肩を震わせた真姫の指が鍵盤に当たり、いくつかの音がピアノから響く。見事な不協和音である。それが何だかおかしくて笑ってしまった。

「わ、笑わないでよ……」

「悪い。それで答えなんだけど……医学は教えない」

「……そう」

 断られたからか彼女は唇を噛み締めて俯く。だが、まだ俺の話は終わっていない。

「その代わり、大学受験の勉強は教える」

「え?」

「そもそも医学ってのは勉強すればいいってもんじゃない。いや、勉強するのは大事だけどさ……やっぱり、経験も必要になって来るんだよ」

「それは、そうだけど」

「だから、今から医学を学ぶよりレベルの高い大学に行けるように受験勉強した方が早い。設備も研修もあるだろうからそっちの方がいい」

 はっきり言って知識に関して言うなら大学で学ぶより俺が教えた方がいいだろう。異世界の医学も教えられるから。だが、問題は真姫に経験を積ませられないことである。さすがに目の前で手術するところを見せるわけにも行かないし、そもそもそんな都合よく手術が必要になる人がいるとは思えない。この世界はいい意味でも悪い意味でも平和なのだから。

「……」

 しかし、まだ納得していないのか彼女はピアノの鍵盤を見つめながら考え込んでいる。おそらく本当に大学受験の勉強をして確実に医者になれるのか不安に思っているのだろう。自分の大好きな音楽を捨てるのだから慎重になるに決まっている。

「それともう1つ」

 だからまずはその焦りを失くす。覚悟を決めたのは素直に認めるが、そんな焦ったまま勉強しても身に入るわけがない。ましてや、夢が義務になるなど言語道断である。夢は夢であるべきだ。医者にならなければ、ではなく医者になりたい。これが一番大事なことだと思う。

「……何よ」

「音楽をやめるって言ったけど……後悔しない?」

「……」

「昨日、ピアノを弾いてるお前はすごく楽しそうだった。音楽をやめようとしてる人の顔じゃなかった。ただ弾くのが楽しくて、夢中になって弾いてた。本当に、後悔しないのか?」

「……なら、どうしろって言うのよ。レベルの高い大学を目指すってことはそれだけ勉強しなきゃならない。音楽を……ピアノをやってる暇なんてないの!」

 鋭い目をこちらに向ける真姫。しかし、その目には涙が溜まっていた。能力が発動しなくてもわかる。やめたくない。彼女の目からはそれだけしか伝わって来なかった。

「話は変わるけど」

「……は?」

 まさか話を変えられるとは思わなかったのか真姫は目を白黒させて間抜けな声を漏らした。

「大学受験の勉強の話。まず、中学校までの勉強を復習しながら高校1年生の勉強をする。これが高校1年生の間にする勉強。そして、高校2年生で高校1年から3年までの勉強を終わらせる。最後に3年生で応用とかセンター試験、大学受験用の勉強をひたすらする。ああ、高校1年から3年にかけて英検とかTOEICとか資格を取るのも忘れない」

「え、えっと?」

「まぁ、高校2年生の間に高校の勉強を全て終えるのは面倒だと思うが……すでに高校1年の勉強は終わってるし、高校2年は普通の授業で学ぶし、高校3年なんか範囲短いしな。さほど大変じゃないだろ。3年生の受験勉強は高校2年生までの成績で難易度は変わるが……俺がついてるんだ。よっぽどのことがない限り、大丈夫」

「……何が、言いたいの?」

「いや、別に。勉強のプランを立てただけだ……ただ、お前がどうしてもって言うなら音楽の勉強も入れられるけど? ほぼ実習だろうけどな」

 やっと言葉の意図がわかったのか彼女は見るからに動揺し始める。まぁ、諦めていた音楽を続けられると言われれば困惑するに違いない。だが、動揺したものの冷静な部分も残っていたのか深呼吸をした真姫が真剣な眼差しをこちらに向け、口を開いた。

「いくつか質問させて貰っても?」

「構わない」

「どうして、高校1年生で高校全ての勉強を終わらせないの?」

 確かに高校1年生で一気に勉強したら2年と3年は大学受験の勉強に専念できるだろう。だが、それだと問題も発生する。

「中学の勉強の復習に時間を取られるのと高校1年の勉強はじっくりと学ばせるつもりだから。何事も基礎が大事だからな。高校1年生の間に土台を作る」

 そう、高校1年生の勉強がおろそかになる可能性があるのだ。勉強とは何事も土台が必要となる。だから、中学や高校1年の勉強はしっかりとやっておくべきだ。

「なるほど……次に勉強の頻度は?」

「俺自身、そこまでついてあげられないからなぁ。宿題みたいなのを出してまとめて提出して貰って丸付けとかするんじゃないか? それで週1で勉強会みたいなのを開いてそこでわからないところとか教え込む」

「家庭教師みたいなシステムね。それで、最後に……さい、ごに」

 最後の質問をしようとした彼女だったが、抑え切れなくなったのかポロポロと涙を流し始める。黙って彼女が言葉を紡ぐのを待った。

「私……ピアノ、続けても、いいの?」

「お前次第だ。大変になるだろうけど……その覚悟はあるか?」

 

 

 

 

 

「当たり前よ!」

 

 

 

 

 

 力強く頷いた真姫は今までで一番綺麗な笑顔を浮かべていた。

 




真姫の事情ってこんな感じなのでしょうか?
アニメは見ましたが、こんなに悩んでいなかったようにも見えたので少し不安です。

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