東方楽曲伝×ラブライブ!   作:ホッシー@VTuber

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第7話

 フラフラしながら鞄を落とさないように歩く。昨日、音楽室でバイオリンを弾いたため、お昼寝できなかった。そのせいで睡眠時間が足りず、今にも寝てしまいそうだ。

「あ……」

 だが、今日の朝も東條が家に来て朝ごはんとお弁当を作ってくれたのは嬉しい誤算だった。昨日、あんなことがあったので心配して来てくれたらしい。東條が出かける頃になっても半分寝ていたのでろくに会話もできなかった。後でお礼を言おう。それと合鍵も返して貰わなければ。

「お、おはよう……響」

「へぁ?」

 そんなことを考えていると不意に横から誰かの声が聞こえる。そちらを見ると少しだけ不安そうにした真姫がいた。そう言えば、今日一緒に登校する約束をしていた。

「おー……まー」

「……もしかして、今の挨拶?」

 『おはよ、真姫』と言ったつもりだったが上手く言えなかったようで怪訝そうな表情を浮かべる真姫。

「ほら、しっかりして。そんなんじゃ事故に遭っちゃうわよ?」

「うん……」

「……まさか響がこんなに朝弱いなんて」

 生返事をする俺に呆れたのかため息交じりにそう呟く。その時、バランスを崩して真姫の方へ倒れてしまう。

「ちょっ!?」

 目を丸くしながら咄嗟に真姫が俺を支えてくれた。もし、支えてくれなかったら電柱に頭を打ちつけていただろう。

「本当に大丈夫なの?」

「だいじょうぶ……いつも通り」

 今日みたいに歩いている途中で転ぶこともあったし。転ぶ程度じゃ怪我などしない。周囲の人から変に思われるだけだ。

「いつも通りって危ないじゃない! 誰かと登校してなかったの!?」

 しかし、真姫は目を鋭くさせて問いかけて来た。心配してくれているらしい。彼女の問いかけに対して首を横に振って答える。中学校の頃は誰かと話すことさえ避けていたのだから当たり前である。

「なら、明日から私と登校すること! いいわね?」

「……あい」

 こうして、真姫と一緒に登校することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――う。響ってば」

「……ぁ?」

 真姫の声で目が覚めた。歩きながら寝ていたらしい。ぼやける視界の中、周囲を見渡すと学校の校門を発見した。真姫がここまで引っ張って来てくれたらしい。

「全くもう……そこまで眠いってちょっと異常じゃない?」

「あー、気にしないでくれ。こういう体質なんだ」

「……まぁ、いいわ。とにかく、もうちょっとシャキッとしてよ。今日から本格的に授業始まるんだから。すぐに置いて行かれちゃうわよ?」

「その点に関しては大丈夫だよ。高校の勉強は全部終わってるし」

 終わっていると言うより何度も勉強して来たのですっかり覚えてしまった、というのが正しい。これでも年齢と見た目が同じぐらいの時に大学を卒業しているし、それからも必要になれば勉強して来たのだ。

「……は? はぁ!?」

 俺の言葉を聞いた真姫は最初首を傾げ、やっと言葉の意味を理解したのか目を大きく見開いて叫んだ。高校入学3日ですでに高校の勉強を終えていると聞けば驚くに決まっている。

「ほら、行こうぜ」

 それをいち早く察知した俺は真姫を置いて校門を通り抜ける。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 だが、真姫に手を掴まれて止められてしまった。周囲にいる生徒たちが何事かと俺たちを見始める。それでも真姫は俺を目から視線を離さずに口を開いた。

「高校の勉強が終わってるってどういうこと?」

「言葉通りの意味だけど。中学の頃、暇だったからずっと勉強してたから」

 さすがに本当のことを言うわけにもいかないので何食わぬ顔で嘘を吐く。ジト目で俺を見ていた彼女だったが、納得してくれたのか手を離してくれた。

「……本当に、あなたって規格外と言うか、あり得ないと言うか」

「なんかすまん」

「別に気にしなくていいわ。でも、高校の勉強が終わってるなら余計、暇になるんじゃない? 大学の勉強とかするつもり?」

「……」

 歩きながら真姫が聞いて来るが答えられなかった。すでに大学レベルの勉強もできるなんて言えば何を思われるかわかったものじゃないから。

「……まさか大学も?」

「……まぁ、それなりに」

「……」

「……」

 真姫のさすがに言葉を失ってしまったようで玄関で靴を履きかえるまで沈黙が続いた。そもそも俺が高校に通うこと自体、おかしいのだ。疑似的な不老ならまだしも、世界を移動する度、見た目が変化するこの体質が憎い、というか面倒。しかし、この体質に何度も助けられたので要らないとは言えないのが何だか悔しい。

「学部は?」

 廊下を歩いているとやっと真姫が沈黙を破った。とても真剣で、何かを願っているかのような目を俺に向けて来る。

「学部?」

「大学って学部があるじゃない」

「あー……適当に気になった奴。物理学とか医学とか心理学とか」

 咄嗟に出たのは特に役に立ったと思えた3つだった。この3つは戦う時に役に立つのだ。特に医学。『超高速再生』を持っているが、傷口をどのように治すか考慮するだけで霊力の消費を抑えられるのだ。

 そんなことを考えていると後ろに引っ張られる。振り返ると顔を俯かせた真姫が俺の服を掴んでいた。

「真姫?」

「……医学、勉強してるの?」

「あ、ああ……」

「どれくらい?」

「え、えっと……診察とか簡単な手術はできると、思う。さすがにやったことはないけど。免許もないし」

 これも嘘だ。今までも世界を巡ってその時にできた仲間が怪我をした時、簡単な治療はもちろん、止むを得なかった時は俺が手術をしたことだってある。こんな平和な世界でそんな事態になる機会などほぼないため、誤魔化すしかなかったのだ。

「……私に、医学を教えて」

 俺の答えを聞いた彼女は顔を上げてそう頼んだ。不安そうに目を揺らし、期待で目を輝かせていた。

「――」

 その時、唐突に能力が発動し、“想い()”を見つける。

 諦めたくない。もっと続けていたい。なりたい。弾きたい。

 とても強い感情に思わず、目がチカチカする。それと同時に能力が発動したことによる地力の消費で体がふらついてしまった。咄嗟に真姫の肩に手を置いて体を支える。

「きょ、響?」

「すまん、眩暈がした……それで、医学の話なんだけど理由を聞かせて貰ってもいいか?」

「……後で話すわ」

 そう答えた彼女の視線を追うと俺たちの教室が見えた。確かにこんなところで話すような内容じゃない。

「それじゃ、お昼休みに」

「ええ」

 あそこまで強い想いを抱くような事情。昨日見た彼女の表情と何か関係があるのだろうか。まぁ、それもお昼休みにわかることだ。気持ちを切り替えて真姫を引き連れて教室に入る。

「……」

 だが、俺はそこで立ち止まってしまう。

「どうしたの?」

「……席、どこ?」

「……こっちよ」

 俺の言葉を聞いた真姫は呆れた様子で笑い、俺を追い越して席へと向かった。

 




・スキホ

前々回と前回で出て来たのに解説していなかったため、ここで解説します。
二つ折りの携帯で物を収納できる。いわば四次元ポケット。なお、収納した物は時間が停止するため、食材も腐らせることなく保存できる。


・超高速再生
響さんの体質。怪我した瞬間、自動的に霊力が流れ込み、怪我を治すことができる。また、医学の知識を持っていれば怪我をした部分に的確に霊力を流しこめるため、多少、霊力の消費を抑えることが可能。

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