東方楽曲伝×ラブライブ!   作:ホッシー@VTuber

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投稿するならこの日しかないと思った。反省はしている、だが後悔はしていない。
続くか続かないかは神のみぞ知る。


……べ、別に投稿できなくてもエイプリルフール企画とか言って誤魔化せるとか思っているわけじゃないよ?


第1話

 この世界に来てからすでに数年が経った。ここまで長い間、一つの世界に留まったのは久しぶりだ。

「ふわぁ……」

 そんなことを思いながら俺は静まり返った夜道を走る。前の世界で受けた傷はほぼ完治している。異世界旅行を始めてから一番の大怪我を負った状態での転移だったからどうなるかと思ったが、この世界が平和な世界で助かった。もし、戦争中の世界に放り込まれていたら死んでいた自信がある。

『そんなことを思わないでください』

(悪い悪い)

 無意識の内に俺の手首に装着されている白黒の腕輪――桔梗に念話を送っていたようで素直に謝った。

『それにしてもいつになったら吸血鬼さんたちとお話しできるようになるのでしょう?』

(さぁな)

 俺の魂に住んでいる吸血鬼たちとはこの世界に来てから一度も話していない。おそらく、俺の地力不足のせいだ。この世界は大気中の霊力や魔力が極めて少ない。そのせいで食事や睡眠からでしか地力を吸収できず、常に地力不足に陥っている状態だ。その上、大気中の地力が少ないと言っても妖怪の類は時々出るので数少ない地力が妖怪退治で消費されるため、なかなか地力を回復できないし、この目を維持するだけでも常に地力を消費し続けるのだ。少しの無駄もできない。

『マスター、妖怪の反応が移動しました』

(どこに向かってる?)

 今も妖怪の元へ向かっている最中だ。飛べれば楽なのだが、それだけでも地力を大幅に消費するのでこうやって走って向かっている。

『今もなお、山中を彷徨っています』

(少しでも山から出そうになったら言ってくれ)

『わかりました』

 桔梗に探索を任せ、俺は空を見上げる。綺麗な星空が広がっていた。

(全く……入学式の前日ぐらいゆっくりさせろよな)

 この世界に来た時点で俺は中学生ほどの年齢に若返っていた。いつもの調整が入ったのだ。性別も女に固定されてしまったし、仕方なく中学生からやり直すことにしていつものように戸籍を偽造した。そして、ついこの間、中学校を卒業し、何度目になるかわからない高校生活が明日から始まる。別に学校は好きだからいいし、授業に関してはすでに授業内容は覚えてしまっているので睡眠時間に当てられる。問題は部活勧誘だ。こんな容姿だし、体育の授業で俺の身体能力の高さはすぐに露見する(これでも手加減はしている)ため、よく部活に勧誘されるのだ。中学校の時もかなり大変だった。部活以外にも面倒なことに巻き込まれたし。まぁ、あれは一度きりの約束だったし、もう勧誘しないと約束した上で同意したので安心できるだろうけれど。今から部活を断る理由を考えるのが面倒だ。

『マスター! 妖怪が山を出ようとしています!』

(わかった。急ぐぞ)

 幸い、妖怪がいる場所までもう少しだ。桔梗が導き出したルートを駆け抜ける。

『妖怪、山を出ました! 後数秒で見え……マスター、大変です! 近くに人がいます!』

「ちっ……」

 それを聞いて俺はすかさず人避けの結界を貼った。この結界は人を寄せ付けないようにするための結界で、弾き飛ばすのではなく、何となくこの場所へ近づかないように意識を操作する結界だ。

『ダメです。すでに結界内にいます』

 しかし、この結界の弱点はすでに結界内にいる人には効果がないことである。こうなれば妖怪がその人に近づく前に仕留めるしかない。

「いた」

 電柱の上に猿に似た妖怪の姿を発見した。その妖怪はまだ俺に気付いていない。何かをジッと見ているようだ。その視線の先には――人。

「桔梗!」

「はい!」

 腕輪だった桔梗が鎌へと変わり、それを掴んで一気に妖怪へと接近する。だが、俺が動き出すと同時に妖怪がその人へ襲い掛かった。

「伏せろ!」

「え?」

 俺の叫びを聞いて振り返った人――2本の長いおさげの女の子は迫り来る妖怪を見つけ、目を見開く。桔梗【鎌】を振るって衝撃刃を飛ばした。

「きゃっ」

 衝撃刃が妖怪に当たるが、硬いのか弾かれてしまう。その拍子に女の子はその場に尻餅を付く。桔梗【鎌】を桔梗【ワイヤー】にし、腰にワイヤーが収納された箱が装備される。

「掴まれ!」

 指示しながら女の子に向かってワイヤーを射出した。普通の人ならば妖怪を見たら恐怖で動けなくなるのだが、その女の子は意外と度胸があったのか俺の指示通り、ワイヤーを掴んでくれる。即座にワイヤーを回収して女の子を引っ張った。先ほどまで彼女がいた場所を妖怪の鋭い鉤爪が通り過ぎる。

「――――ッ!」

 声にならない悲鳴を上げながらこちらへ飛んで来る女の子を片腕で受け止めて桔梗【盾】を装備する。そのまま妖怪の攻撃を受け止め、衝撃波で吹き飛ばした。

「もう少しだけ我慢してくれ」

 戦いが終われば、女の子の記憶を操作して今起きた出来事を忘れさせることができる。そう言いながら女の子を地面に降ろした後、桔梗【鎌】に変形させて妖怪を見据えた。吹き飛ばされたことが気に喰わなかったようで妖怪は耳を塞ぎたくなるほどの声量で絶叫する。女の子が両手で耳を塞いだ。

「来いよ」

 俺の挑発が聞えたのか妖怪が叫びながら突っ込んで来た。後ろにいる女の子を巻き込まないために俺も前に出る。

「ガッ!」

 妖怪が大きな右腕を振るった。それを鎌の柄で受け止め、足払いを仕掛ける。攻撃した直後でバランスを崩していたからか妖怪は簡単に転んだ。その隙を逃すはずもなく鎌を一閃。妖怪の右腕が飛んだ。妖怪が悲鳴を上げた。その間にもう一度、鎌で斬りつける。今度は妖怪の胸から血が迸った。よし、このまま痛みで怯んでいる間に奴の息の根を――。

「危ない!」

 後ろから女の子の声が聞こえた刹那、腹部に衝撃が走る。それから少し遅れて激痛が俺を襲った。腹部から先ほど斬り飛ばした妖怪の腕が生えている。どうやら、斬り飛ばした腕を動かせたようで背後から俺の腹部を貫いたらしい。自動的に霊力が傷を修復し始める。

(まずっ……)

「き、きょう……たの、むッ!」

 薄まる意識の中、桔梗【鎌】を妖怪に向かって投げた。鎌は明後日の方向に飛んで行ってしまったが桔梗が自分で軌道を操作してくれたようで妖怪の腹部に突き刺さる。そこまで見届けた後、その場に倒れてしまった。

「ね――ぶ!? ――ン!」

 最後に見たのは倒れている俺を見下ろしながら叫んでいる女の子の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 ゆっくりと意識が浮上していく。目を開けると見覚えのない天井が見えた。しかし、地力が足りていないのか起き上がることができない。

「あ、起きたん?」

 近くから声が聞こえ、そちらを見ると妖怪に襲われたあの女の子だった。

「ぁ……」

 ここはどこなのか聞こうとするが上手く声が出ない。それを察してくれたのか女の子はストローをペットボトルに差してこちらに差し出した。素直にストローを口にくわえてゆっくりと水を飲む。

「……あり、がと」

「うーん、喉が渇いてたわけやないんやね……大丈夫?」

 掠れた声でお礼を言うと少しだけ悲しそうな表情を浮かべた彼女が俺の様子を聞いて来た。軽く頷いてみせる。

「とりあえず、混乱してると思うから説明するね。ここはウチの家で君が気絶した後、ここまで運んで来たんよ」

「そっか……」

 返事をしながらチラリと壁に掛けられた時計を見た。時刻は午後11時。妖怪と対峙してからすでに2時間ほど経っていた。

(これじゃ記憶操作は難しいな)

 時間が経っている状態での記憶操作は他の記憶を消してしまう可能性があるので危険だ。さて、どうするか。

「あ、そうや。まだ自己紹介してなかったね……ウチは東條 希。君は?」

「……音無 響」

 あまりにも自然な態度に訝しげな表情を浮かべるがとりあえず、自分の名前を言った。

「響ちゃん、やね」

 東條はニコニコ笑いながら俺の頭を撫でた。これはもしかして年下扱いされているのだろうか。まぁ、確かに東條よりは年下に見えるだろうけれど。最後に頭を撫でられたのはいつだったか。何百年ほど前なのはわかるが具体的な数字までは出て来なかった。

「ありがと、響ちゃん。ウチを助けてくれて」

「……お前は、怖くないのか?」

「ん? 何が?」

「さっきの妖怪とか……俺とか」

 何度も世界を渡って来た俺だからこそ知っている。人間は未知の存在に遭遇すると大半がそれを拒絶する。俺だって何度も拒絶されて来た。前の世界で受けた傷だって拒絶した人たちから攻撃されたからだ。まさかマタタビを使って来るとは思わなかった。安易に自分の弱点を話すものではないな。

「……」

 俺の質問を聞いた彼女は目を伏せる。いつの間にか頭を撫でていた手が震えていた。

「うん……多分、怖いんやと思う。あの妖怪も、響ちゃんのことも」

「なら、動けるようになったらすぐに――」

 そこまで言ったところで東條の人差し指が俺の唇に触れる。最後まで聞けと言いたいらしい。

「確かに怖いけど……それでもウチは響ちゃんにお礼を言いたかった。だって、響ちゃんはウチの命の恩人やろ? 感謝しないのは罰当たりやと思うんよ」

「……そうか」

「それに実は知ってたんよ。君のこと」

「え?」

「今日の夜、運命的な出会いをするって、その時に少しだけ危険な目に遭うって……カードが教えてくれたんや」

 そう言って東條はタロットカードを見せてくれた。カードは星の正位置と魔術師の逆位置。意味は『希望』と『トラブル』。

「なぁ、響ちゃん。これも何かの縁や。色々教えてくれへん? お腹の傷が治ったわけとか」

「……はぁ」

 ここまで来てはぐらかすのは拒絶せずに俺にお礼を言ってくれた東條に失礼だ。しかし、全て話すわけにもいかない。特に俺が元男で一時的に女の体になっていることとか。絶対、変態だと思われる。さて、どうするか。

「そう言えば、妖怪はどうなった?」

「響ちゃんの……鎌、やったかな。あれが突き刺さった後、苦しみ出してそのまま消えちゃったんよ。その後、鎌が勝手に動いて響ちゃんの手首にくっ付いたと思ったら腕輪になっちゃって」

「あー……まぁ、腕輪のことはいいや。俺の武器だって思ってくれれば」

 『へー、あんな物もあるんやね』と東條は呟きながら感心していた。

「それで傷が治ったわけだったか……そうだな。うん、これが一番わかりやすいか」

 そこで言葉を区切って東條を見る。緊張でもしているのか彼女はごくっと生唾を飲みこんだ。

 

 

 

 

 

 

「俺は……ただのしがない魔法使いさ」

 

 

 

 

 

 こうして俺はこの世界でも嘘を吐いた。




解説


・音無 響
異世界を旅している男の娘。今では自由に体を男にも女にもできる両性類。
でも、心はいつでも男の子。髪型はポニーテールにしているけれど、心はいつでも男の子。そこらへんにいる女の子より女子力は高いけれど、心はいつでも男の子。
魂の中に吸血鬼を始め、翠炎、トール、猫、闇など数人の魂が住んでいる。よくわからない人は『東方楽曲伝』を読んでください。正直言ってこの魂に住んでいる人たちはこの小説に登場しないので読まなくてもおkです。時々、名前が出る程度ですね。
翠炎に関しては少し重要なので後述。
地力が足りないので1日の大半を寝て過ごしている。学校には通っているが、授業中は先生にばれないように気配を消して寝ているレベル。本編の時間軸は高校入学前日。学年は次話で明らかに。
これからも戦闘があるかも、と思っているかもしれませんが、実は戦闘シーンは今回のお話以降、無い予定。あってもナレーションベースです。
異能の力を使う時はできるだけわかりやすく地の文で解説しますのでよろしくお願いします。


・翠炎
響さんの魂に住んでいる人の1人。字の如く、緑色の炎。詳しくは『東方楽曲伝』にて。
翠炎の能力は『矛盾を焼き尽くす』というものでこの矛盾と言うのは魂波長を基準とし、ずれている波長を焼き尽くして元の魂波長に戻すという能力。
まぁ、言ってしまえば体に起きた変化をなかったことにする感じ。
そのため、年齢を重ねた瞬間、その時間がなかったことになり、疑似的な不老を可能とする。なお、死亡した際も1日に1回だけその死をなかったことにできるなんともチートな能力となっている。
この小説を読む際、何で響さんは何百何千年と生きていられたとかということだけ抑えておけばおkです。



・桔梗
完全自律型人形。響さんが桔梗を作った時に能力が発動して自我を持つようになった。
能力は『変形する程度の能力』と『振動を操る程度の能力』。
素材となる物を食べればそれを元にした変形や能力を得ることができる。
普段は白黒の腕輪となって響さんの傍にいる。これから描写していなくても常に腕輪となって響さんの傍にいる。おそらく、数話に一度しか台詞ないけど常に響さんの傍にいる。
基本的にアホの子。



・世界
異世界を転移する際、響さんの体に変化が起こる可能性がある。今回のように体が若返ったり、女になったり。具体的に言うと某白い悪魔が登場する魔法少女の世界に行った時は小学3年生ほどまで縮んだり。行く世界によっては響さんが凄まじいほど弱体化してしまうこともある。
前述で響さんは男にも女にもなれると書いたが、行く世界によっては性別を固定化されてしまう。頑張れば男に戻れないこともないが地力を消費してしまうため、今回の小説ではずっと女のままである。

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