高校3年生の夏休みって、自分はどれくらい勉強したとかあんまり覚えてないね(笑)
夏休みは勉強しまくった。生徒会の活動はほとんどないし、アルバイトとかやっていないし、勉強以外やることもないしな。
まあ、一番の理由は志望校に合格したいから。1学期に行われた実力テストの判定はEランクで正直ヤバい。先生からも少し落とした方がと言われたが、自分が勉強したい学科は少なく、ワンランク落とすとかなり低めの大学になってしまうから。
だからとにかく勉強、勉強。
え?優美と少しくらい遊んだりしてないのかって?気になるみたいだから説明します。
× × ×
時間は少し遡り、終業式の帰り道。
「明日から夏休みだねえ」
「そうだな」
「行き帰りがちょっと寂しくなるね、あはは・・・」
優美は苦笑いでそう答えた。というのも、優美は文化祭に向けての稽古があるため、普通に平日は学校へ登校する。対する俺はというと基本的には学校への用事はない。生徒会も特に夏休み中は活動はないし。ってか、3年の夏休みに学校に用事がある生徒のが圧倒的に少ないけど。
「そう、だな・・・なんか、悪い」
「ううん、大丈夫!あ、大丈夫って言うのもなんか変だね」
「ってか・・・」
「うん?どうしたの?」
優美はキョトンという顔で俺を見る。
「いや、な、俺はもう受験勉強にガッツリ集中できるけどさ」
「うん」
「キミはさ、部活もあって凄く大変なんじゃないかって思って・・・」
前に少し聞いたのだが、優美も今の実力よりも少し上の大学に行きたがったいる。理由は俺と同じらしい。
「うーん、確かにそれは私も思ったかな。人より勉強しなきゃいけないはずなのに、最初から圧倒的に時間少ないなあって」
やっぱり彼女自身もそんなことを思っていた。そんな言葉に俺はなんて声をかければいいのか悩んでいると、優美は再度口を開く。
「でもね、私は頑張るよっ!だってさ、部活と勉強の2つに集中するために、今こうしてるんだからねっ!」
ニコっと笑い優美はそう俺に告げる。その言い方にある程度の覚悟がにじみ出ているのがわかる。あ、今こうしてるっていうの俺との関係のことだろう。
「だって今、部活は1番楽しい時間なんだもん!それなのに勉強のせいにしてとか私が許さないっ!」
そして最後に改めて、真面目な顔付きで・・・。
「私、頑張るから・・・!」
頑張るから、だから心配しないで自分のことに集中して欲しいってことなのだろう。そんな彼女に今かけられる言葉は1つしかない。
「俺も、頑張るよ」
「うんっ!ありがとう!」
俺はこの時、この場で言おうと思っていたことをやめた。
夏休み、さっきも言ったが基本的には俺たちは会うことない。会えるとしたらお互い時間を作り、プライベートでってことになる。
俺は1回だけでもいいから、会って欲しいってこの時言おうと思っていたのだ。また、メールや電話で連絡くらいなら、少しくらいなら優美の負担にならない程度なら、取りたいと思っていた。
だけど・・・彼女の決意を聞いた俺に、そんなこと言えなかった。きっとこの話をすれば優美は間違いなくオーケーする。でもそうなるからこそ、俺は言えなかった。だって、もし、余計なことをしたせいで、彼女がどちらか、またはどちらも失敗してしまったらなんて考えたら・・・。
「どうしたの?ボーっとしてるけど」
そんなことを考えていたら、声をかけられ自分の世界から戻る。
「あ、いや、大丈夫。キミはすごいなってちょっと考えていたんだ」
「あはは、全然そんなことないからっ!」
結局、優美からも夏休みについての話はなく、別れの時間となった。
「あ、もう!降りなきゃっ!じゃあ、また!」
「うん、また」
それだけの会話で優美とは別れた。次会うのは・・・っていう話もなかった。俺はその時、次は本当に2学期なんだろうと確信したのであった。
× × ×
そして冒頭へと戻る。今は8月ももう下旬、夏休みも後残り僅か。
結局、今の今まで優美から連絡が来ることもなかったし、俺から優美へ連絡するようなこともなかった。
最初のうちは自分で決めたことだし、しっかり守らなくては、と思っていたけれども、時間が経つにつれ、寂しくなるというか、彼女を思い出す回数が多くなるというか・・・少しくらいなら、連絡したいって気持ちも少なからず出ていた。
が、1度連絡をしてしまうと余計に優美が恋しくなってしまうんじゃないかと思い、気持ちを押し殺した。
今思うとはっきり言ってこれは果たして正しかったのかとも思う。結局、あのとき優美の本当の気持ちはわからず、あくまで俺の独断で決めたことだったから・・・。
と、夏休み中は鳴らなかった携帯が鳴る。もしかしたら・・・と少し期待しながら画面を見たのもつかぬ間、「小松亜由美」という表示を見て落胆したと同時に珍しいとも思った。もしかしたら何かあったのかと思い、少し緊張しながら電話に出る。
「もしもし?」
『お久しぶり林崎くん』
「久しぶりだな」
亜由美の至って普通の感じに少しホッとする。悪い話ではないだろう。
『今時間大丈夫かしら?』
「ああ」
『林崎くんが良かったら、なんだけど・・・』
内容はこんな感じだった。文化祭での舞台でちょい役で出てみないかという話。俺なんかが今さらいいのかと思ったが、何やら1年生たちの希望とのこと。
演劇部に所属していない春公演の舞台で一緒にやっていた人ともどうしても一緒に演劇をやりたいらしい。
「うん、全然大丈夫だけど。むしろそう言ってくれて俺は嬉しいよ」
『そう、ありがとう。1日だけくれば大丈夫なくらいしかセリフはないから明日だけ来て頂戴』
「了解」
ちなみに麻由美はすでに了解済みとのこと。
電話を切った後に気がついたが、よくよく考えれば優美にも会うってことだよな・・・。
会えるのは嬉しい。嬉しいのだが・・・正直1学期最後の別れ方がなんとも言えない感じだったし、ちょっとどういう感じになるか不安。それに彼女に初めて会ってから今日まで、これほど長い期間会ってない時間があるのは初めてだ。
明日よろしくとメールだけすることも少しだけ考えたが、返事がもし来なかったときのことを考えると余計不安になるからやめた。
× × ×
翌日、予定通り久しぶりに学校へと登校し、演劇部へと合流した。
この前まではそのまま入った部室も今日はノックをする。「はーい!」と中から元気のいい声。聞いたことはないから1年生だな。
「失礼します・・・」
なんとなく、少し遠慮がちにドアを開けた。中にはすでに噂に聞いていた1年生4人が揃っていた。
全員に注目され、一瞬時間が止まる。
「もしかして林崎センパイですか!?」
「・・・ああ、始めまして」
俺がそう言ってから数秒後、静かだったみんなが・・・。
「あのマクダフ役の!?」
「うわ、凄い!本物だよ!」
「本当に来た!これがあの噂の・・・!」
「うわあ!まさか会えるなんて!感激です!」
寄ってたかって色々言われる。何?キミたちにとっての俺って珍獣とか天然記念物みたいな感じなの!?
そんな感じに絡まれてたら、また部室の扉が開き、亜由美と麻由美が入って来た。
「亜由美センパイおはようござ・・・って今度は梅田センパイ!?」
「本当だ・・・!まさか2人と会えるなんて!」
「感激ッス!」
麻由美も1年生の洗礼(?)を浴びて困惑してる。その隣では亜由美が笑いを一生懸命堪えてた。
一旦落ち着いた後、簡単に自己紹介を済ませたが、何やら1年生はみんな緊張した感じに。そんなみんなを見た麻由美は苦笑いで話す。
「え~と、別にそんなに緊張しないでも大丈夫だけど?私も林崎くんも普通の人だし・・・」
麻由美の言う通り。何も有名人が来たわけじゃない。が、そんな俺らとは正反対の反応。
「いや、だってその、よくよく考えればこの学校の生徒会長と副会長がって凄いじゃないですか!」
「えーと・・・」
「それに2人って演劇部を救ってくれたんですよね!?なんか俺らにとっては英雄みたいな感じなんス!」
それを聞いた俺と麻由美は顔を見合わせる。
「「あー・・・」」
まあ、言ってることはわかる。でもそこまでレジェンドみたいに持ち上げられるようなことまではしてない。これはつまり誰かが俺たちがやったことを大袈裟に説明してしまった感じだろう。亜由美がそんなことするわけないし・・・。
「優美だね~」「竹下さんだな・・・」
稽古もしてないのに、いきなり疲れきった表情の俺と麻由美、後ろでずっと笑いを堪えてる亜由美、キラキラ目を輝かせて俺たちを見る新入生、そんな光景は摩訶不思議だった。
最後に優美の話はしましたが、結局あれからどうなったかは今回は描きませんでした。次回、どうなるか楽しみですね('ω')ノ