私たちの「舞台」は始まったばかり。   作:かもにゃんこ

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さて、今回は本番当日の本番前のお話ですo(^-^)o

タイトル見てすぐわかると思いますが、『あの人』が登場します!

美結ちゃんといい、もうなかなか出さない、って書いてるとき思う人はすぐ出てくる謎(笑)


「・・・楽しく、だよ、竹下ちゃん!」

本番を迎える朝、俺は少し早く目が覚めた。早朝回ってくるであろう緊急連絡網がないかどうかどうしても気になったからである。

 

結局、回って来た連絡網は、停電は復旧し今日はいつも通りというもの。大丈夫大丈夫とは思っていたが、やっぱり連絡が来るまではちょっと不安ではあった。

 

登校しながらも、授業中も頭の中ではセリフなどを繰り返す。昨日リハーサルが中止になってしまったので稽古事態も丸々2日やっていないので色々不安(おとといは会場準備だった)。

 

一応最後の確認の場として昼休みを使うことにはなっているが、放送部と合わせたい場面だけだから実質ぶっつけ本番な感じ。

 

4時間目が移動教室だったため、少し遅れて体育館に行くと、放送部も含め他の人たちは全員揃っていた。

 

「ごめん、遅れた。時間ないのに」

 

亜由美に軽く謝る。

 

「いえ、気にしないで。優美も1回教室戻ってさっき来たばかりだから」

 

「え?どうしたの?」

 

優美の方を見てそう尋ねた。と、ここで違和感に気がつく。

 

制服のスカートの下に体操着のハーフパンツを履いている。そんな俺の目線に気がつくと苦笑いで答える優美。

 

「あ、うん、これ取りに教室行っててね。さすがにね、結構動くのに何も履かないのはヤバイんじゃない?って麻由美ちゃんに言われて・・・えへへ」

 

あ~、なるほど。だからそんなちょっと前の中学生みたいな格好なのか・・・。これいつも思うんだが、スカート脱いだ方がって思うのは俺だけでしょうか・・・!

 

「そっか」

 

あんまり余計なこと言うとまた麻由美に「セクハラ~!」とか言われそうなんで一言のみ。

 

「・・・やっぱし変かな?」

 

なぜか優美はそんなことを俺に尋ねる。いや別に変とかいいとかそういうことは全く思ってないんですがね。

 

それでも彼女は「じゃあこうするっ!」と言いながらハーフパンツの裾を折り曲げ、スカートから見えないようにした。「よしっ!」って勝手に納得しているけど、まああえて言うなら見映えはそれのがいいか。それするならスカート脱げよとは思ったけど。

 

「ほら、2人でイチャついてないで早く始めるわよ。時間ないのだから」

 

「ご、ごめん!」

 

「お、おう!」

 

こんな変なやりとりでもイチャついてるように見えるんか・・・確かに麻由美も放送部の2人もニヤニヤしてたけど。

 

「じゃあまずはスポットの位置を確認するわ。準備お願いします」

 

亜由美がそう指示し、放送部の2人は講堂後方へと向かう。ちょうど真後ろの上の方に音響やら照明やらを操作する小部屋がある。

 

到着した2人は合図を送り、スポットをつける。そのライトの中心に、舞台にいた優美が床にテープで印をつける。

 

地味な作業ではあるがこれはかなり重要。いきなり本番でスポットがうまく当たる位置なんてわからないからね。

 

それが終わると次はSEのタイミング確認を行う。

 

特に殺陣の場面。剣と剣がぶつかるタイミングで鳴らさないといけない。

 

俺も舞台に上がり、マクベス役の優美と剣を交わる。

 

一度目はタイミングがうまく合わず。終わってすぐに小部屋から音響担当の人が顔を出す。

 

「ごめん!ここからじゃその角度でやってると見にくいんだ!ちょっと見える場所に動いてもらってもいい?」

 

「そうね、見えなくては仕方ないものね。少し体を横向きにしてやってもらえるかしら?」

 

亜由美の指示に俺たちは動く。本番がすぐ後と言うのにこういう変更はなかなか堪えるな・・・。

 

「この辺かな?大丈夫かな?」

 

優美もちょっと不安気。こんなときこそ俺がしっかりしないと。

 

「うん、大丈夫だよ。動き自体は変わらないから今まで通りにしっかりやろう!」

 

そう声をかけると優美は笑顔で答えてくれた。

 

「うん!そうだねっ!ありがとう!」

 

「どういたしまして」

 

と、こんなやり取りをしていたら・・・。

 

「2人とも、時間ないんだからイチャイチャしないで頂戴」

 

冷たい目線で亜由美からクレームが・・・。

 

別にイチャイチャしてないよ!とは思ったけど、本当に時間はないので何も言わず、2回目に望んだ。

 

2回目はそこそこうまくいった。もう1回くらい同じ場面を、と思ったけど時間がないためここはこれで本番へ。その後はBGMの音量調節を確認しただけで、あっという間に昼休みは終わってしまった。

 

予鈴が鳴ると同時に俺たちは足早に会場を後に、教室へと戻った。もうこれで稽古は本当に終わり。心配事はいくらでも出てくるが泣いても笑っても後は本番を迎えるだけとなったのである。

 

 

× × ×

 

 

午後の授業、およびその後の清掃が終わりついに放課後となった。開演までは30分ほど。小道具なりは講堂の控え室まで運んであるが、衣装への着替えを行うため、時間があるようでない。

 

足早で講堂へ向かうとすでに俺以外の全員、演劇部と放送部、それと今回衣装チェンジが多く、それを手伝ってくれる優美の友達が2人。

 

全員に簡単に挨拶を済ませ、俺もまず衣装に着替える。自分の衣装を探すのに手間取っていると、優美が持って来てくれた。

 

「はい、これが林崎くんのだよっ!」

 

「ありがとう・・・ってキミもまだ着替えてないじゃん!」

 

よく見ると優美もまだ制服。

 

「あ、私はね、その・・・あっ!」

 

優美はそう言うと携帯をポケットから出し、何かを確認すると。

 

「ごめん、ちょっとだけ外すっ!」

 

と大きめの声でパタパタと控え室を後にした。

 

 

× × ×

 

 

控え室を後にするとき、亜由美が何か言ってるのが聞こえたけど・・・ごめん!今回だけは許してっ!

 

私は講堂の前にいる、私を呼んだ人に声をかける。

 

「横田先輩!」

 

そう、何故か先輩が今日来てくれていたの!

 

先輩は私に気がつくと笑顔で答える。

 

「あ、竹下ちゃん!時間もないのにわざわざ呼んじゃってごめん!」

 

「いえ!大丈夫・・・ではないですけど・・・まあ、大丈夫ですっ!」

 

「なにそれ!」

 

聞けば先輩は大学の授業を途中で抜け出してこっちに来たらしい。そんなことして大丈夫なの!?って思ったけど、先輩曰く「大学なんて自由だから」の一言で片付けられた。まあ、私が気にすることでもないかっ!

 

「まさかこんな早く先輩にまたお会い出来るなんてっ!」

 

「私も。って今は先輩じゃないよ~?横田さんだから」

 

あ、ついつい癖で。でもまぁ、卒業されても先輩は先輩なんだけどねっ!

 

「私にとっての先輩はずっと先輩ですからっ!なんてっ!」

 

「あはは、まあ、呼び方なんて気にしないけどね。でね、せっかく来たんだし本番前に優美ちゃんに会いたくて。ってもう時間ないよね、ごめん」

 

確かに時間はないし、あんまり外すのもダメだし・・・。でも私は一つだけ聞きたいことがあった。

 

「あの・・・」

 

「うん?」

 

「・・・何か、アドバイスいただけないでしょうか!」

 

そう、文化祭の時も先輩の一言でなんとなく気持ちが楽になって本番もうまくいった。だから今回も・・・!

 

何かすぐにアドバイスを言って下さると思っていたけども、先輩はうーんと少し考えている。ちょっといきなり過ぎたかな・・・?と思い、「大丈夫です」と言おうしたとき、先輩の口が開く。

 

「悔いのないように頑張ってね・・・ってこれは竹下ちゃん一番よくわかってるか。なんて」

 

先輩はイタズラっぽい笑顔でそう言う。

 

「あのときも言ったけどさ、私はずっと後悔しちゃったからさ、竹下ちゃんたちにはそれだけはして欲しくないから」

 

「・・・先輩」

 

そう言う先輩の言葉は、凄く説得力があるというか、経験者は語るってわけじゃないけど、言葉は1つだけど、色々な意味があるんじゃないかと私は思い、心に刻んだ。

 

「よし、言いたいことは言えたかな?これで私も今回は後悔しないで済むね。じゃあ、客席から見てるから」

 

そう言いながら先輩は手を降り、私から立ち去って行く。

 

私が「ありがとうございました」と言おうとしたとき、先輩は「あっ」っと言って振り向き、私が忘れかけていたことをアドバイスしてくださった。

 

「・・・楽しく、だよ、竹下ちゃん!」

 

「あ・・・!はいっ!ありがとうございました!」

 

再度振り向き立ち去る先輩に、私は感謝の気持ちを伝えた。

 

この舞台で演劇部のこれからが決まってしまう上、リハーサルが中止になってしまい、どうしても緊張緊張で忘れかけていたそのこと。

 

私はそれも深く胸に刻み、控え室へと戻った。

 

 

× × ×

 

 

「ごめん!」

 

数分後、優美が戻ってきた。何があったのか少し気にはなったが今聞くわけにもいかないしな。

 

優美は亜由美や麻由美、お手伝いの友達に色々心配とかされてたみたいだけど、誰に聞かれても「なんでもないよ、大丈夫」と答えるだけ。優美は本当になんでもないような顔をしていたのでみんなもそれ以上は聞かなかったけど。

 

優美の準備が終わり少しの時間がたった後、自然とみんな部屋の真ん中へと集合し、本番前の円陣のようなものが始まった。

 

「まず、2人ともありがとう。本当に助かるわ」

 

亜由美は2人に向けて感謝の気持ちを伝える。2人とも笑顔を微笑む。

 

「それとここにはいないけど、放送部の2人にも感謝しなくてはね」

 

全員で頷く。

 

「それから今更言う必要もないと思うけれど、林崎くんに麻由美、2人にも本当にありがとうと伝えたい」

 

「いえいえ~!」

 

「こちらこそ」

 

彼女への感謝の言葉は、言葉ではなく演技で返すのが一番だよな。

 

「それ以外私からは特に言うことはないわ。とにかく頑張りましょう!・・・優美は何かある?」

 

「え!?私!?」

 

突然振られ驚く優美。

 

「え、うーん・・・あっ!」

 

何やら思いついたというよりも、思い出した感じか。みんな黙って彼女の次の言葉を聞く。

 

優美はいつにもなく真剣に、いや、その言葉だけでは言い表せない、「特別」と表すのが適切だろうか。とにかくそんな表情で話す。

 

「・・・終わった後にやり切った!って言えるように、悔いだけは残さないように・・・頑張ろう!」

 

と、一瞬の静寂。みんなで驚いたように顔を見合わせ・・・。

 

「うわっ!優美なのにすごく真面目なこと言った~!」

 

「優美らしくないわね。明日は雪よ雪」

 

「え!ちょっと2人ともひどい!!」

 

3人は笑顔ですっかり緊張なんてなくなった。それにつられ俺も緊張感がなくって行く。

 

優美のその性格、表情、気持ち・・・。みんなを笑顔にする、何か特別なものを持った・・・そんな彼女に俺はずっと惹かれ続けていくだろう。

 

「あっ!あとさ!」

 

「みんな楽しくやろうねっ!」

 

笑顔で、いつもの満面の笑顔で優美は付け足しでそう言った。

 

「これぞ優美って感じだね~!」

 

「そうね、さっきまでは別人格だったかしら?」

 

「やっぱりひどいよ~!」

 

そんな本番前とは思えないようなやり取りをいていると、放送部より始まりの合図が告げられる。

 

『お待たせしました。ただいまより演劇部による舞台、マクベス、開演致します』

 

圭の、麻由美の、亜由美の、そして優美の・・・みんなの、さまざまな思いが詰まった「舞台」が始まりを告げた。

 

 




自分で言うのもなんですが、優美って本当に愛されキャラですよね(*^_^*)
絶対これから大学生とか社会人になっても男から好かれそうで、圭は大変そう(笑)・・・ってまあ、圭もそんな感じですがね。

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