普通のタイトルにしようか、番外編にしようか迷いましたが、直接本編に関係あるかと言うとなんとも言えない部分がありますし、個人的に番外編にしたかったです(笑)
優美と、元演劇部部長が、別れを前にした、ちょっぴり切ないストーリーの前編です(*^_^*)
2月も終わり季節の上でも春となる3月へと。4月には入学式があり、新しい生徒が我が校にも入学してくる。
新たな出会いがあればもちろん別れもある。明日、3年生は卒業式を迎える。部活動や生徒会など、先輩との別れを惜しむ人達が多い一方、私に関しては先輩なんて正直あまり会いたくない存在。別れて清々する、まではさすがにいかないけども、特に寂しいとか悲しいとかそういう感情は一切ない。
・・・はずだった。今日の卒業式の予行練習の後にあった、「あること」がなければ・・・。
卒業式予行練習は私たちにはあまり関係のないイベント。ただただ時間が過ぎるのを待ち、放課後となりいつも通り部活をやるため、準備のために部室へと向かった。
鍵はなかったので、部室に誰かいる。ってまあ、亜由美と麻由美ちゃんは後から来るため林崎くんなのは確定なんだけどね。
やっぱり好きな人と2人きりになると嬉しいし、私はワクワクしながら部室のドアを開けた。
「お疲れ様~!」
と笑顔で挨拶したのもつかぬ間、そこにいたのは林崎くんではなかった・・・。
「あ・・・」
演劇部元部長、今は横田先輩と呼ぶのが正しい。彼女がそこにいた。
別に話せない、というわけではないけどもその場で固まってしまう。そんな私を見て先輩は自分から挨拶をしてきた。
「ごめん、ちょっと、最後にここには来たくて。明日は式の後に時間作れるかわからないし」
「い、いえ!構わないというかその・・・」
私はいきなり話しかけれ驚いたと同時に、先輩の言い回しに少し気になるところがあった。
『時間作れるかわからないし』
気にしすぎと言えばそうなのかも知れないが、少し引っ掛かる。いや、ただ一応、先輩にとっては3年間の思い出の場所に、少し来る時間もないというだけなのかもしれない。
とにかく、突っ立ってても仕方ない。荷物を適当に置き、適当な場所へと座る。
そんな私に対し、横田先輩はまた声をかけてきた。
「他のみんなは?」
「あ、たぶん用事があるんだと・・・」
「そうなんだ」
そこでまた沈黙。
先輩との会話はどうしても気まずくなってしまう。そりゃあ逆らって部活を一時的にやめた感じなのだからね。
そこでふと思う。
先輩は、私と話すのは気まずくないんだろうか・・・?
前に会話したのは・・・そう、文化祭当日の本番直前だったかな。先輩から声をかけられた。私はあのときもちょっと話しにくい感じはあったけれど、先輩の方はそんなことはなかったような気がする。
いや、そんなことないのかも知れない。上から目線になるのでこういうことはあまり言いたくはないけど、話しかけにくくても、話さないといけないと思うことだってある。
あのときだって少しのアドバイスを下さっただけだったけど、もしかしたら・・・。何か、何か大事なことを本当は話したいのかも知れない。それがもしかしたら部活が「ああなってしまった私が知らない理由」だったら・・・。
知りたい。もしかしたら理由なんてないかも知れない。それでもあるとしたら私は知らずに先輩とは疎遠になりたくない。
先輩も話す為に来たけど、いざ私を目の前にすると話しにくいのかも知れない。だから私は意を決し、先輩に尋ねた。
「あの・・・」
「うん?どうしたの?」
「あ、いえ、私の勘違いでしたら迷惑になるんですけども・・・」
ぐっとコブシに力を入れ、息を吸い、彼女の目をまっすぐ見て言う。
「私に・・・ご卒業される前に何か言いたいことあるのではないですか・・・?」
先輩はピクッと反応する。そんな態度の横田先輩を見た私は続けた。
「先輩!今さらになっていまうんですけども、先輩が理由もなしに部活をあんな状態にしないですよね!?・・・理由、絶対あるんですよね?聞かせてくれませんか・・・?」
私は言いたいことを言い切った。部活を抜けるときは全然考えなかったけど、抜けてからだんだんと、先輩の人柄的に理由もないというのはおかしいとずっと引っ掛かっていた。だから、私自身も実はずっと聞きたかったのかも知れない。
先輩はふーっと一息吐いた後、話を始めたのであった。
「最初は・・・みんな凄く真面目だった。私もね、そんな真面目で演劇に対し凄く真っ直ぐな先輩たちの演技を見て、演劇に惹かれ入部したの」
先輩は窓の方を見て話を続ける。私は黙って聞く。
「私が1年のときの3年の先輩は本当に凄かった。演技がとかではなく、何もかもが。本当になんでも出来ちゃう人たちだった。もちろん、厳しいところはすごく厳しかったけども、それを忘れるくらいの達成感とか楽しさはあったかな」
「文化祭が終わってね、3年生が引退した後からかな、歯車が狂ったのは。残った私たちはね、どうしてもそんな凄い先輩方と同じように出来ないのがだんだん辛くなってきたの」
「出来ないのはわかる。だって私たちは私たちであって彼らじゃないんだもの。そんな先輩の影を追い続ける、なんとも言えない時間が半年くらい経ったある日、ついに不満を爆発させた人が現れた」
先輩がそう言った瞬間、私は息を飲んだ。なんとなくだけど、話の続きがわかってくる。
先輩ももう一度、息を吸い、窓から目線を少し下に向け、淡々と話を続けた。
「いろいろ、いろいろなことがあったのだけどね、私も言うのも楽しいもんのじゃないし、竹下ちゃんもそうだと思うから結論だけ話すよ」
「先輩の姿を追い続けることに限界を感じた私たちは、何度も話し合いをした結果、『部活なんだしもっと楽しくやろう』という結論にたどり着いた」
「私もね、前のギスギスした雰囲気から解放されて最初はすごくいいかなって思ったの。でもいつしか『自分たちが楽しめればいい』っていう感じに変わってきて。このままじゃダメだ、とは思うようになったけど、でもみんなで決めたことだし、みんなは納得してやってるしそんなこと言えなくて・・・」
先輩は色々な負の感情が交わったような顔になっていた。そこまで聞いた私は何もかもがその時点で分かった。もう、もう・・・。
「もう、わかり、ました・・・。だからもう、そんなツライ顔で、続けないでください・・・!」
私は一瞬だけ聞かなければ良かったと思った。でも、聞かなかったら一生先輩は私に、私たちにとって悪者だった。だから、ツライ顔をされてまで話してくれた先輩に私はこう告げた。
「話をしてくださってありがとうございました。それと・・すいません・・・」
そんな私の話を聞いた先輩はほんの少しだけど、笑みを浮かべてくれた。
「え、なんで竹下ちゃんが謝るの。ふふふ、やっぱり面白い子だね」
それからの私たち2人はまるで春になって雪解けしたかのように、打ち解けあい、ほんのわずかな時間だったけど、ほんとに今更だけど、楽しく話した。そして数分後、先輩は友達に呼ばれてしまったため、部室を後にすることに。
「じゃあ私はこれで」
「はい、なんか色々ありがとうございましたっ!」
横田先輩は小さなカバンを持ち立ち上がり、部室を後にしようとしたとき、ふと呟く。
「竹下ちゃんと、ちゃんと演劇一緒にやりたかったなあ・・・なんてね、それじゃ」
そう言われた私は心で考えるよりも先に体が動き、先輩を引き止めた。
「待ってください!」
「え・・・?」
なぜ自分でもこんなことを思い、言ったのかわからない。けど、きっと、お互い望んでいることなのだろうと、そう思った。
「先輩さえよければ、なんですけど・・・明日の朝、まだみんなが来るまえに、やりませんか?」
かなーり前の話の伏線をようやく回収しました!まあ、もともとその予定でしたがね。
しっかし横田先輩が美結ちゃんっぽくなってしまったなあ・・・。まあ、許して下さい(笑)