バカップルって周りから見るとホントどうしようもないなあって思いますが、自分がそうなると、仕方ないなあ、って納得出来てしまう(経験談)
買い出しに行った翌日、さっそく部活で殺陣の稽古を行った。もちろん、それだけではなく、まずはいつも通り基礎練を行い、続いて立ち稽古、そして最後に殺陣の稽古、という感じ。
殺陣の場面であるが、みんなで相談に、やっぱりせっかく盛り上がるので結構長い時間やろうという感じにした。
具体的にはラストの優美が演じるマクベスvs圭が演じるマクダフ、それとその前に、マクベスvs麻由美演じるマルカム王子も行う。
つまり優美が一番大変という感じかな。
まずはどう立ち回るかを決める。
「こっちからマルカムがいきなり出てきてまずは切りかかって」
亜由美が指示を出す。
「こういう感じ~?」
「そうね。マクベスは途中でマルカムの気配を察するような動きをして、剣で剣を止めて」
なかなか難しいことを要求するなあ・・・俺のところは出来れば簡単に・・・はいかないよなあ。
「こうかな?」
「ええ、そうそう。じゃあ今のを2人同時にやってみて」
亜由美の指示通りに2人は動こうとするが・・・。
「うわっ!」
「あっ!ごめ~ん!」
タイミングが合わず、マクベスはマルカムに斬られてしまう!マクダフ出る幕ないやんけ!
冗談はさておき、やっぱり殺陣は難しそうで、やる身としては本当に早く始められて良かったと思う。
マクベスとマルカムの練習は30分くらいで終わり、今度はマクベスとマクダフの番になる。
「どうしようかしら?打ち合いは何度もやりつつ間にセリフを挟む形がやっぱりいいわよね?」
と、ただでさえ殺陣は難しいのにかなり難しいことを亜由美は要求してきた。
「亜由美がそう言うなら私は頑張るよ!」
優美はやる気満々!なら俺も言うことは一つか。
「俺も。せっかくなら見栄えは言い方がいいよな」
というわけでそんな感じに。
「最初は2人で何度か打ち合い、つばぜり合いからのセリフという感じで。まずはそこまでをやれるように。そこから先の演出はまた考えるわ」
打ち合いは右から、とか、左下から、とか決め、5、6回やることに。
「とりあえずやるか」
「うん!」
まずスタートはゆっくり始める。小声でお互い確認しながら剣を合わせて行く。
自慢ではないが、優美とはやっぱりこういうのはうまく行く。前の公演もそうであったようになんとなくお互い意志疎通がうまく行くのはかなり嬉しい。
外から見ている麻由美も「お~!息ピッタリ!さすが~!」みたいな独り言を言っている。
「ちょっと速くしてみて」
亜由美にそう言われ、繰り返す度にペースを上げていく。
カツンカツン、がカンカンカン、と段々リズムが速くなる。
速くしてもうまくいったので俺は調子に乗ってちょっとカッコいいかなって思い、打ち合わせとは少し違う動きをした。優美なら大丈夫、優美なら大丈夫と思い込んでしまったのがいけなかった。
俺が振りかざした剣に対し、やっぱり優美は受け止められず当たりそうになってしまう。ヤバいと思いぶつかる寸前で止めたはいいがうまく体を制御出来ず、背中から倒れる。
自分だけが倒れればまだ良かったが、足が優美の足に当たってしまい優美も倒れる。
説明はかなり長いが、剣を振りかざしてから倒れるまで、この間わずか2、3秒だった。
背中から倒れたため、大した受け身は出来ずモロにダメージを食らった。
「・・・っ!」
声にならない声を出す俺。と、よく考えたら倒れながら両手で何かを抱いた気が・・・。
痛みを堪えながら状況を把握すると、俺は自分の上で優美を抱き締めていた。頭が俺の胸の当たりに丁度くるように。
顔を上げた優美と目が合う。
「「あ・・・」」
そのまま数秒間見つめあっていたら・・・。
「ホンット、2人はラブラブだね~!」
「どさくさに紛れて抱き締めるなんてさすがね」
と2人は煽ってきた。確かに抱き締めたのは事実だけどさすがに心配してくれよ・・・。
「ご、ごめん!」
優美は2人の言葉で我に帰り俺から離れる。幸い、抱き締めたおかげで彼女は全くの無傷で良かった。
俺も体を起こす。痛いけど、普通に動けるし軽く打っただけだな。
「ごめん・・・色々・・・」
まずは謝った。余計なことをした上に危ない思いをさせてしまったことを。
「ううん!気にしないで!全然大丈夫だから!」
優美は必死に身振り手振りを交え、大丈夫なことを伝えてくる。
とりあえずお互い色々大丈夫なことを確認した亜由美は俺たちに続けるか聞く。
「どう?続けても大丈夫そう?」
「私は大丈夫だよっ!」
「俺も。・・・なんかすいませんでした」
結局、それからは同じ場面を行いその日の練習は終了した。少し慎重になって取り組んだのは言うまでもない。
× × ×
「改めてさっきはごめん」
亜由美たちと別れた後、俺は優美に改めて謝罪をした。
「もうっ!気にしなくていいよって言ってるんだから大丈夫だよ~!それよりも体大丈夫?」
優美はやっぱり優しい。そう言う優しさは素直に受け取らなければと思う。
「大丈夫。あれで怪我したら笑いごとじゃないわな」
ほんとそれ。ふざけて怪我なんてしたらアホどころの騒ぎじゃあない。
「あははっ!確かに」
そこからは普通の俺たちに戻った。俺は少し聞きたいことがあったものの、なかなか聞けずにいた。
それから、いつものように電車に一緒に乗った。このまま聞かずにいてももやもやしてしまってどうにもならないなあと思った俺は意を決して(ってほどでもないが)聞くことに。
「・・・あのさ、昨日柳さんと会ったときさ」
「うん?」
「途中で君たち少しだけ席を外したじゃん?あのときなんの話してたのか気になって」
教えてくれるかどうかはわからないが、とりあえず聞いてみるだけ聞いてみた。
「あー、やっぱりバレちゃってた?私はただトイレに行ったってことにした感じだったんだけどね」
苦笑いで優美はそう答えた。あの態度でその言い訳は苦しすぎるわ!
「んー、別に話しちゃいけないとは言われてないし・・・ってかそこまでの話でもなかったりするよ?」
とは言え気にはなる。
「まあ話してくれるなら教えて欲しい」
「じゃあ話すね。まず麻由美ちゃんから聞いたのは、柳さんとの関係のことかな」
「麻由美ちゃんも『これは林崎くんも知ってるから』って言ってたからそもまんまだと思うよ」
さらりと優美が説明してくれたことは確かに俺がこの間生徒会で聞いたこととまるで一緒だった。
「後はね、麻由美ちゃんが言ってたのは『林崎くんとたかくんを2人きりしたら、私には言えないけど私が知りたい話をたかくんがするんじゃないかな~?と思って抜けたの~!』って。それでそれなりの時間になったから、私たちは戻ったの」
「え、それだけ?」
まさかの展開だった。本当に俺が改めて知ることは全くなかった。
「うん、だからそこまでの話でもないって。で!私も柳さんと2人で何を話してたのか聞いてもいいかなー?」
優美は「小悪魔優美」の顔になり俺にそうお願いをしてきた。
「あ、ちなみにだけど林崎くんがさっきの質問しなくても私はこのこと聞いたよっ?」
今度はいつもの無邪気な優美の表情に戻る。こんな連続攻撃されたら言わない訳にはいかないじゃないですか(笑)
と、言うわけで簡潔にわかりやすく彼女に何を話したか説明した。
話を聞いた優美の第一声は俺が感じたことと同じことだった。
「そっかあ。なんか話だけ聞いてると普通に両思いだよね。なんかお互いが意識し過ぎって感じ。何かきっかけがあれば噛み合うかもね」
「俺も同じことを思ったよ。まあ柳さん本人は恋愛の意味で好きかどうかはわからないって言ってるからもしかしたらってことはあるけど」
そうは言っても彼の態度からはどう見ても「ラブの好き」には見えた。
「確かにそれはあるかもだけどね」
優美は続ける。
「私たちとはまた違った感じだねぇ」
たはは、と今度は苦笑いでそう言う。状況が同じなら少しくらいは助けやすかったかもしれないってことか。
両思いでも付き合っていないケースは一緒だけど、理由は違うから難しいってことだよなあ。ましてや片方は年上だし、なかなか難しい。
「あの子にこのことを手伝って欲しいって言われたのももちろんあるんだけど、単純に知り合いが、結ばれて欲しいってのはあるなあ。ましてや普通にいい子だしな」
「私も同じこと思ったよ。私たちのこともいっぱい助けてくれてるし、今度は私たちが助ける番だよね!」
優美はいつものとびっきりの笑顔でそう言う。
「そうだな・・・出来る限り2人で頑張ってみようか」
「うん!」
今までは俺が優美に対して手助けをする側であった。今度は一緒になって手助けるする側になれたことが俺は嬉しかった。麻由美たちの恋が成就することになって、俺たちの仲も更に深まれたらこれ以上のことはない。
『次は~##(駅名)~##』
あ、次俺の降りる駅だ。・・・っとあれ?
車内放送を聞いてお互い顔を見合わせる。
「「あ・・・」」
話に夢中で優美が下りるはずだった駅が過ぎてしまっていたような、いなかったような。それはまた別の話。
殺陣の場面の稽古を文字に起こすってなかなか難しいものですねえ・・・(*´з`)
ちなみですが、優美のが圭よりも学校に近い駅が最寄り駅なのは1話にもしっかり表現されております!ここでそのネタを使うとは思いませんでしたが(笑)というか1話でああいう演出をしたかったがために、こういう設定にしたんですがね(^^♪
では、また次話で!