特に言うことありません!
切ない最後になりそうな感じの、大会編の終盤です(*ノωノ)
「みんなお疲れ様」
大会終了後、外に集まり亜由美を中心に最後のあいさつをする。そう、よくよく考えれば2つの高校が一緒になるものは今日が最後なのである。
「成績的にはあまり満足できるものではなかったと思うけれども、私としてはこのチームで大会に出て全力を出し切って演技を出来たことがとても素晴らしいことだと思うわ」
「これからは別々に学校で活動をすると思うけれども、何かまたの機会があったら一緒に練習とか出来たら嬉しいわ。それじゃあ今日はお疲れ様でした」
亜由美の掛け声のより、おのおの解散となる。たった3か月とはいえ、ずっと一緒に練習した仲間と終わりというのは俺にとってもやっぱり寂しいもの。
最後のあいさつの後、俺と優美は亜由美に声をかけれらる。
「あ、林崎くん、優美。明日はお休みにするわ。これからのことはまた連絡するわ」
「うん、わかった!」
「了解」
まあ、さすがにいきなり、というもの疲れるしね。いい案だろう。
おのおの荷物を持ち、雑談をしながら会場から歩いて出る。と、美結から声をかけられた。
「林崎くん、林崎くん」
「うん?どうしたの?」
「さっきさ、明日の放課後は休みってあゆちゃん言ってたでしょ?」
「うん」
「あのさ、お願いがあってさ、学校終わった後にうちに来てほしいんだ」
美結曰く、例の舞台装置の解体をしなければならないらしい。明日の朝に、トラックでB高校で運ばれる。一日くらいなら適当なところに置いても大丈夫とのことであるが、さすがに何日も、となると怒られるらしい。
まあ、俺の案だし、作ったのもほぼほぼ俺だし他に特に用事もないしオーケーした。
「じゃあよろしくね。部室に来てくれればいいから」
「うん、了解」
事務的な会話ではあったが、いくぶん美結の声色がいつもと違う感じはした。
大会は個人的には大成功で終了したと言っていい。県大会へと出場は出来なかったのはもちろんのこと、最終的な順位は5チーム中4位。成績的にはまだまだ、というところではあるが、大会独特の緊張感や、他校に刺激されたこともあり、練習と変わらず、いや、それ以上のものを出せたと思う。
大会の本番はあくまで終わったが、俺たちの本番はこれから。4月に新入生を獲得できるかが勝負になるわけである。どんな演劇をするかとかは全然決まってはいないが、文化祭のときよりも個々の演技力は上がっているし、確実によいものは出来ると思う。
そして今日、大会終了後の翌日である月曜日は片付けを行うため、B高校へと放課後向かう。練習期間中は何度も何度も通ったB高校も、よくよく考えればもう通うこともなくなる。いや、まあ別に個人的に行っても全く問題はないけどね。
いつものように校門をくぐり、校舎の中へと入り目的の場所である、演劇部部室へと到着した。いつものようにドアをコンコンとたたく。
「はい」
いつものように美結の声がし、俺はガラガラとドアを開ける。
「どうも」
「こんにちは。寒い中わざわざありがとう」
「いや、作ったの俺だしさすがにな」
「あはは、何それ」
美結の見るともうジャージに着替えていた。机の上に制服が置かれているのを見ると俺が来る前にここで着替えた感じか。着替え中に入らなくてよかった(笑)
「じゃあ俺の準備するから」
カバンからジャージやらを出し、外へ出て行こうとすると・・・。
「あ、大丈夫だよ」
「え!?」
大丈夫というのはこのままここで着替えても大丈夫で、別にあなたの着替えを見たって私は気にしませんよ!って意味かと思って思わず声を上げてしまった。
それを聞いた美結はフクロウみたいに首を傾げた。
「あ、私が出て行くよって意味だよ。ごめんごめん、説明不足で。あ、別に林崎くんがいいなら私もここにいるけど。2次元ならそういうシーンは結構見てるしね」
美結はそう言いながら、ふふふと笑顔を浮かべた。この子、もしかしたらまだ17歳か16歳なのに18禁とかも・・・いや、なんでもない。
そんなことを考えていたら、じーっと見られた。
「なんか変なこと考えてない?」
「あ、いえ、全く」
「そう?ならいいけど?」
そう言いながら結局美結は廊下へと出て行く。亜由美や麻由美もそうだが、この子も俺の考えていることがすべて見通されてそうで怖い!
着替えも終了し、俺と美結は校舎の裏の方へと移動。そこに、例の舞台装置が置かれていた。
「なんかいざ壊すとなるとちょっと寂しいなあ・・・」
もう使わないとは言え、せっかく時間をかけて作ったんでなんかもったいない感もあるし。
「あはは、じゃあ持って帰ってもいいよ?」
「いや、それは無理だわ!やっぱり壊そう」
釘抜きやらハンマーやらを持ってさっそく取り掛かる。美結も「私もいつもこいういうのやってるから」ということで手伝ってくれる。作っていた時とは違う、雑談をしながらの作業となる。
「なあ、そっちの演劇部もさ、部員は2人しかいないけど、やっぱり4月の新入生が入るときに勧誘しまくるとかなのか?」
「あー、うん、しまくる、まではいかないけど、やっぱり2人じゃどうにもならないし、出来る限りのことはしようと思うよ」
「そっか。うちの部の事情は小松さんからあらかた聞いてるみたいだし、今更話す必要はないよね」
「うん、そうだね」
お互い、これからが大変な時期なのだろうなあ、と改めて俺は思う。
「ねえねえ、ちょっと聞いてもいい?」
「うん、内容にもよるけど」
まあ、とんでもないことはさすがに聞いてはこないか(笑)
「林崎くんはさ、どうするのかなって思って」
「というと?」
「うん。部員じゃないんでしょ?大会終わってその後はどうするのかって思って」
なるほど・・・。それについては亜由美からも聞いてなかったのね。
「今までと同じかな。そもそもは竹下さんからの依頼で手伝っているわけだし、彼女には依頼が達成出来るまで時間がある限り手伝うって言ってあるからね」
それを聞いた美結はうんうんと首を縦に振る。
「なるほどね。でもそこまでするならもう部活入っちゃってもいいんじゃないかと思うんだけど」
「それはまあ、色々考えたけどあくまで俺は手伝いってことでやってるわけだし、生徒会もそれなりに忙しいわけだし」
「そっか。私的には演劇向いてると思うけどな。結構好きでしょ、演劇」
そう言われると確かに演劇は好きである。ただもし、今更入るとなっても・・・って感じ。
「確かに好きは好きだよ。でも今更演劇部に入ってもすぐに引退になっちゃうしね」
「そうだね」
そんな感じで話しながら作業は進む。解体作業、およびその後の片付けを含め1時間ほどで終了した。
「今日はありがとう」
「いや、こちらこそ」
作業を終えた俺と美結は、前に2人で帰った時と同じように駅まで美結は一緒に着いて来てくれた。
周りは真っ暗で気温もかなり寒い。そのせいかお互い無言のまま歩く。ただ、後になって思えば、心地よい無言というよりは何か少し緊張感があるような無言であった。
駅前に着き、美結とはお別れとなる。
「それじゃあ、また。今日までありがとう。学校近いし簡単に会えると言えば会えるけどね」
「確かにそうだね」
そう言った美結はその場に固まる。すぐに別れの挨拶をしないということは、何か言いたいことがまだあるってことだろう。
「・・・何か話でもある?」
立ち尽くしてしまうってことは何か言いにくいことなのだろうと思い、俺の方から尋ねる。
「あ、うん、まあ、ね」
「別に急いでるわけじゃないし、言えるようになるまで待つよ?」
そう圭は聞いた。いったい何の話なのだろうと思う気持ちと、もしかしたら、と思うことが心の中を回る。
もしかしたらとは。そう、あくまで「もしかしたら」なのではあるが、美結は圭に・・・。前に一緒のホームセンターへ行ったときだったか。
『でもね、2人と会って、2人を見て、2人の関係が羨ましくなってね、私もまたリアルでも好きな人が欲しいなあって思って』
美結がこう言った後、彼女からの視線を感じた。あくまで2人にではなく。
そのときからだった、考え始めるようになったのは。仮に、本当にもし仮にだが、彼女が俺に好意を持っていてその気持ちを伝えられたらどうすればいいのかと考え始めたのは。
俺には優美という好きな人がいる。断るのは簡単だ。ただ、もしそうなったときは、美結自身も俺が優美を好きなことを知っている上で気持ちを伝えてくるわけで。それでも彼女が気持ちを伝えてくるのにどう答えればいいかと。
何回も言うが美結が好意を持ってくれているなんて、単なる俺の想像でしかない。今回もそんな話ではなく、別の話かもしれない。そもそも好意なんて持ってない可能性だって十分ある。
そんなことを考えていると、ついに彼女の口が開く。
「・・・聞いて欲しいんだ」
北風が吹く真冬の夜、圭と美結だけの「舞台の続き」が始まった。