理由ですが、単純に本番回のため、セリフが台本のセリフばかりでいいセリフがなかったということと、今回は美結目線でお届けするということでこういう感じにしました。
まあ、別にタイトルなんてどうでもいいでしょうけど(笑)
『お待たせいたしました。続いてはA高校B高校合同チームによる舞台「サトコとリサコ」です』
そうアナウンスが入り、数秒後明転する。私は袖での待機となるけど、やっぱり明転するといよいよ始まったんだなという気持ちになる。
舞台上では序章である、サトコが死んでしまうシーンが行われている。
緊張し過ぎて告白出来ないサトコを優美ちゃんはうまく演じている。私もいざああなったら緊張するのかなあ、と思いつつ。
「優美、頑張っているわね」
「そうだね。出だしは緊張して難しいけど、あれだけの演技なら凄いね」
私はあゆちゃんと袖でそんな話をする。優美ちゃんって演劇向いてると思うくらいにね。
車のブレーキのSEが入り、リサコは事故った。うん、倒れる演技もあゆちゃんからバッチリ仕込まれてるから完璧だね。
「じゃあ俺行くわ」
暗転し、案内人である林崎くんが舞台へと向かう。
「頑張って」
「いってらっしゃい」
舞台へと行く、彼の姿を私はじっと見つめ、色々なことを考えた。
場面は進みいよいよ私の出番が来る。
暗転した舞台から去る、案内人と入れ替わり、私とショウゴが舞台へ。袖口にて案内人とすれ違い様に小声で「頑張って」と言われた私はなんか自然をやる気が増した(私だけに声をかけたわけじゃないけど)。
場面は、サトコがリサコに憑依するところへ。このシーンからだ、めちゃくちゃ難しいのは。
「わかった。いい」
「ありがとう~!じゃあ早速今やってみるね~!」
「え?今!?」
「そうだよ?じゃあ行くよ!力抜いて~!」
「うん・・・あ・・・」
「わあ、ホントに体が!凄い!」
何が難しいっていうとね、実はリサコとサトコは同じ動きをしなくちゃならない。実際声を出すのはあの世(舞台でいうと少し高くなっている場所)にいるサトコなんだけど私も彼女に合わせて同じ動きをしなきゃいけないとう・・・。
始めはうまくいかなかったけど今ではばっちり。観客席からも「おお~」とか「なるほど」とか「凄い」とか声が上がる。あゆちゃんが考えた演出はやっぱり凄いね。
ちなみにだけど、リサコは心の中でサトコと会話するようなシーンもあり 、憑依されてるときでも一応私のセリフはある。
ここからの場面はリサコになったサトコがショウゴとの時間を過ごし、最終的にショウゴに告白し、オーケーをもらうシーンとなる。
「私、実はショウゴくんのことずっと前から好きで・・・なんて説明していいかわからないけど・・・お付き合い、して、下さい」
「・・・俺も」
「え・・・!?」
「俺も、その、好きだよ」
「え!?」
「だから好きなんだ。その、実は前までは他に好きな人がいて・・・でもその子には結局告白出来なくて・・・」
「ちょっと前まではリサコのことは仲のいい幼なじみにしか見えなかったけど・・・そういうこともあったし、それに最近リサコは変わったというか、自分が好きだったあの人に近づいてるようで・・・ってこんな話しても全然嬉しくないよね」
私は最近、このシーンをやると思ってしまうことがあった。でもそれは誰にも言えないような、残酷なことなんだよね。
舞台は進む。付き合うことになって嬉しいサトコ。最初は「ショウゴと一緒にいるときは心は半々で」と言っていたサトコであったが、結局、今の「サトコのリサコ」をショウゴは好きになったので、下手に出ると嫌われる可能性もあるとサトコは思い、最終的にはショウゴといるときにリサコの心は出ることなく話は進む。
「私、もう嫌・・・」
「なんで?ずっと大好きだったショウゴくんと一緒にいられてるのに?」
「わかってて言ってるんでしょ!!ふざけないでよ!!こんな状態で嬉しいわけないでしょ!!」
「うるさい!彼が好きになったのは私の心のリサコよ!もしあんたが出てきてフラれたらどうするのよ!!」
余計な口を聞くリサコを追い出したいサトコは、その方法はないのかと案内人のもとへと再び行く場面へと変わる。
この場面はサトコと案内人の2人だけのため、私は舞台からいったんハケる。
「「お疲れ様」です!」
舞台袖へと戻った私に出ていない2人から声をかけられた。
「サトコの憑依のシーン、かなりうまくい言ってるわよ。練習通り、いえ、それ以上に形になっているわ」
私はあゆちゃんに誉められて素直に嬉しい。
「ありがとう。こっからも頑張るよ」
私は笑顔でそう答え、2人と一緒に舞台を見る。
舞台上ではサトコと案内人である、優美ちゃんと林崎くんのシーン。
2人は舞台上でも普段のように相性の良さでうまく演じている印象。
掛け合いや間の取り方も絶妙で1+1が5くらいに感じる。そう言えば私が彼女らを初めて見た、あの文化祭ではシンデレラと王子だったなあと思い出し、ついつい思い出に浸っていたら、
「リサコ、もう場面が変わるわよ」
とあゆちゃんから突っ込まれてしまった。私は慌てて気合いを入れ直し、暗転とともに再び舞台へと上がった。
舞台は終盤を迎える。
色々はあったものの、最終的にはサトコはリサコからいなくなることを決め、彼女らが2人で話す最後の場面に。
「いざさ、あなたがいなくなるってなるとやっぱり寂しいかな」
「そっかー。ヒドいことばかりしたのにそんなこと思ってくれるんだ」
このシーン、設定ではまだ憑依しているが、サトコとリサコは別々に動く。2人の掛け合いのこの場面がこの作品の出来を決めると言っても過言ではない。
私は今までの練習以上に、リサコになりきり感情を込めて演じる。
「なんだかんだ、ショウゴくんと一緒にいられる時間は楽しかった」
「表には出れなかったけどね、気持ち的にはすっごく嬉しかった」
「だからね、もうそれが出来ないって思うとね、私・・・」
そういえば「私」ももうこの舞台が終わってしまったら・・・今の私もリサコみたいな気持ちなのかな・・・。
そう思った瞬間だった。セリフ的にはサトコのセリフ中に私の目に涙が浮かんだ。
この涙は果たして・・・。
サトコ、いや、優美ちゃんは私の涙に気がつくと少し驚いた表情を見せたが、すぐに集中しなおす。そんな姿を見た私も、必死に自分の感情からリサコの感情へと戻り演技を続けた。
「私がいなくなったってさ、頑張れ!好きなんでしょ?」
「え・・・?」
「これは私からの命令!絶対にショウゴくんとお付き合いしなさい!出来なくても出来るだけの努力をしなさい!」
「そんなの私じゃ無」
「無理じゃない。仮に駄目だったとしても努力しないで無理だったじゃ私が許さない。努力しない、出来ない、君はそんな人生を一生送ることになるよ」
「・・・って告白から逃げたしてそのまま死んだ人が言うのも説得力ないよね~!」
努力、ね。確かに努力しないで「出来ない」って言う人は駄目だと思う。でも少なからず努力したってどうにもならないことだってあるわけで。
どうにもならないことに対しての努力は無駄までとはいかないけど、ある意味それは努力の方向が間違ってるとも言えるわけで。
あゆちゃんの台本はこんな感じだけど私的にはこのシーンはそう思っていた。まあ、演じているときは役になりきるからそんなこと思ってやってるわけじゃないけど。
「じゃあね!」
「うん・・・」
フェードアウトしながら、サトコはあの世へといなくなる。
最後はリサコとショウゴの後日談で幕を閉じる。
リサコは諦めずに努力した結果、最後はショウゴと結ばれる。もちろん、サトコが生きていたらということもあるかも知れないけど、ショウゴにとってリサコがあまりにも身近な存在過ぎて実はわからなかっただけで、今思えばあの頃から本当に好きだったのはリサコだったのかな、そういう感じ。
「サトコちゃん、私ね、今の自分があるのはサトコちゃんのおかげだと思う」
「サトコちゃんに会ってねなかったらね、私は本当に努力しない人になっちゃってた気がするんだ。恋愛だけじゃなくて、他のことにもね」
「だからホントにありがとう。私はサトコちゃんの分まで頑張って生きるから・・・!」
最後は私の、リサコの独白で舞台は終わる。
× × ×
私はこの大会が終わったら、大事なことをどう終わらせるか、数日前から考えていた。
本番が終わり私はそれを決めた。私が演じたリサコは紆余曲折あったものの、好きな人と付き合えることになった。
あくまでこの話はファンタジー要素もあるし、フィクション。現実では他に好きな人がいる人の気持ちを振り向かせるなんて絶対にあり得ない。
私はリサコを演じ、後悔ばかりな人生を送りそうな彼女が物語を通して少しずつ変わっていくのを私に重ねてしまっていた。
私も前にああいうことがあって一時期は恋愛なんて・・・ってずっと思ってきた。でもある人との出会いで私もリサコみたいに少しずつ変わっていった。
だから絶対にあり得ないと思っていることだとしても、リサコに負けられない私は決めた。
彼に、林崎圭くんに気持ちを伝えることを。
「大会編」もあと2話です。つまり美結ちゃんの出番も・・・(´・ω・`)作者が一番寂しいです(笑)
では、波乱(?)の次話でお会いしましょう!