ズルい、何がズルいのか、読んでのお楽しみです(^o^)/
「・・・私たち、大会に出てみようかと思っているのだけれど、どうかしら?」
亜由美がそう告げた瞬間、圭が飲んでいた飲み物の氷がカラン、と鳴った。ああ、アニメとかでよくそういうシーンあるよね、とか思う余裕はなかった。
「え・・・?大会・・・?」
「そう、大会、よ」
演劇部にも大会なんてあるんだ、と圭は思ったが、そんなこと言ったら亜由美に色々言われそうなんでそれは黙って置いた。
「なるほどな、いいんじゃないか?その、演劇の大会ってのがどういうのか知らないが・・・技術的には内内で発表するよりも磨けそうだし」
「そう」
亜由美はそう短く答えた。・・・アレ?もしかして今日呼び出されたのって大会出てもいい?の意思確認だけ?もう終わりなんすかね?
「えーと・・・」
「もうこれで今日は・・・」
そんなことを言っていたら亜由美が静かに話し出した。
「ねぇ、林崎くん」
「うん」
「大会に出るにはね、最低5人必要なのよ」
「は・・・?」
思わず変な声が出てしまった。
「いや、すまん。どう反応すればいいのかわからんかったが・・・。5人って普通に無理じゃないか」
俺は素直な感想を言った。ついこの間今は部員を増やすのは無理だって話したばっかりだし、亜由美もそれは納得していた。
その中で5人必要という大会に出たいというのは・・・。
「ええ、そんなの初めからわかっているわ。だから相談したのよ」
「私としては部活の活動としてもそういうのは出てみたいし、春にいい公演をするためのステップとしても大会には出てみたい。」
「だけど調べてみたら5人必要だった。いきなり私は諦めるしかないと思ったのよ。だからあなたに相談したわけ」
「なるほどね。理由も聞かないで変なこと言ってごめん」
だがしかし、部員を増やすに続いてとんでもない依頼が来たな・・・。
「ちなみに最初に聞いておきたいんだが、大会の概要を教えてくれるかな?」
「ええ、わかったわ」
それから亜由美が説明してくれたことをざっくり言うと、大会は1月中旬。自分たちでオリジナルの台本をつくる。公演時間は40分から50分ほど(以上以内というのはない)。出場募集の締め切りは10月いっぱい。という感じ。
「思ったよりも時間はある感じだな。ただ、オリジナルの台本となるとその時間も短く感じそうだなあ」
「台本に関しては私はなんとかしようと思ってるからそこの心配はないわ」
だが、人数が揃わない限りは台本だって書きにくいだろう。
「とにかく人をどうやって揃えるか、だな」
それを言ったあとは沈黙の時間になる。いきなり5人集めろと言っても、はい、これだ!って案は出る訳じゃない。優美の依頼のときもそうだったから。
それを察したのかどうかわからないが、
「今すぐ答えが出ないのはわかってるわ。総会に選挙に忙しいのはこちらももちろんわかっているし、無理承知のお願いだもの。答えが出せなくても絶対に文句は言わないわ」
と答えた。亜由美の表情から察するにその言葉に嘘偽りはないだろう。圭が忙しいのはわかっている、それでもお願いしたいということ。
正直圭はこういうのに弱い。難しいとはわかっていても、あそこまでお願いされるとやっぱりなんとかしてあげたいと思ってしまう。
「わかった。出来る限りはなんとかしてみる。時間はかかると思うけど・・・」
「そう言ってくれるだけでも嬉しいわ」
亜由美は笑顔で答える。優美の笑顔も可愛いがこの子の笑顔も素敵だと思った。
「・・・それと」
「え?まだ、何か?」
「いえ、依頼とかお願いの話ではないわ」
まだ何か頼まれるのではと思っていたため少しホッとした。
「依頼、続けて受けてくれたのは私としてはとても助かるわ」
「ありがとう」
やっぱり感謝されるのは単純に嬉しい。
「だけど林崎くんは本当に良かったのかしら?って私は思ったわ」
「良かった」っていうのは察するにたぶん優美とのことだろう。俺からは直接言ってはいないが、優美からは何か聞いている感じか。
ただ「大丈夫」と答えただけでも彼女は納得はしないだろう。ある程度納得がいく説明をしなくてはな。
「色々悩んだよ。俺は竹下さんのことが好き。それは自分でもよくわかっているから」
「夏休みくらいに文化祭終わったら告白しよう考えていた。だけど依頼は達成出来なかった」
「依頼事態はどう頑張っても無理だったっていうのはこの間話した通り」
「ええ、そうね」
「だから『頑張った、だけど依頼が達成出来なかったのは仕方ない』で終わらせて、竹下さんに告白することも出来たよ。だけど・・・」
俺は改めて自分の気持ちと向き合い、言葉を続ける。
「だけどやっぱり今この状態で告白して、仮に付き合えることになっても絶対にうまくなんていかない。俺はもちろん、彼女だってうやむやのままじゃ嬉しくなんてない、だから依頼は続けて受けることにしたよ」
俺は今出来る精一杯の説明をした。
それを聞いた亜由美は柔らかな表情になる。
「良かったわ・・・。優美のこともちゃんと考えてくれての結論だったのね」
いつもの裏があるような笑みではなく、優しい笑みを亜由美は浮かべた。
それを見た圭はちゃんと考えて、考えて考えて、それで答えを出した意味はちゃんとあったんだと思った。
「そう言ってくれるとなんかこっちも嬉しくなるね」
「ふふふ、優美には言ってないみたいだけと、言ったら絶対喜ぶわよ」
そう話す亜由美はまたいつもの怪しげな笑いを浮かべた。
「私はあなたに話したいことは話したし聞きたいことは聞けたわ。どうもありがとう」
「こちらこそ、期待に添えなくてごめん」
亜由美は残っていたアイスティーを飲み、立ち上がる。遅れて圭もそれに続く。
お店の外を出るとまだ夕方にもなっていないのに辺りは暗くなっていた。
「うわあ、こりゃ一雨きそうだなあ。天気予報ではずっと晴れだったのに」
「ホントね・・・」
亜由美は空を見上げるとだんだんを暗い表情になる。
「・・・どうしたの?」
気になった圭は尋ねる。
「いやね、まさか降るとは思ってなかったから傘なんて持ってきてなかったのよ」
そういうことか。俺はちょっと考えたあと、自分のバッグから傘を取り出し亜由美へと渡す。
「家までそんな遠くないから貸すよ。たまたま入ってて良かったよ」
それに亜由美は驚く。
「え!?悪いわよ。大丈夫よ私は」
「いいよいいよ。学校で会ったら返してくれればいいから。濡れて風邪なんてひいたら大変だよ」
そこまで圭は言うが亜由美は傘を受け取らない。うーん、無駄に頑固なんだよなあ。
「じゃあこれ受け取らないと今日のことは白紙ね?」
圭は最後のカードを切った!亜由美はえっ!?とかなり驚いたあと観念したかのように傘を受け取った。
「・・・ズルいわそれ。それ言われちゃ受けとるしかないじゃない」
なんか言葉で亜由美に勝てたので嬉しい。
「じゃあこれで依頼はしっかり受けるよ」
亜由美はふーっと一息吐いた後、また優しい笑みを浮かべ、
「優美は幸せものね・・・」
そう短く圭に告げる。
俺は言葉の意味がわかると照れて顔を背ける。そんなこと、親友から言われたら嬉しくないわけない。
「ありがとう」
聞こえるか聞こえないか、それくらいの声で彼女に答えた。
「それじゃあ私は帰るわ。今日は色々ありがとう。傘は明日返すわね」
「こちらこそ。急がなくていいよ」
最後の言葉を交わし、圭は亜由美と別れた。
その後、歩き始めてすぐに突然の大雨に圭が襲われた話をしたら、亜由美に笑われたのは後日談。
今回、初めて優美を出しませんでした。理由は特にありませんが、たまにはいいかなと。
あ、別に亜由美が圭に惚れたとかないですし、ヒロイン変わったとかもないです( ̄ー+ ̄)