今回は舞台が始まるまでをお届けします(*^_^*)
現在時刻は朝6時。目覚ましはいつも通り6時半にしていたが、目が覚めてしまった。
舞台本番というのは意識しないようにはしているつもりではあったが、やはり嫌でも意識してしまっていたらしい。
× × ×
結局いつも通りに家出た。のはずなのにいつも通りじゃないことが起きた。
途中駅で優美と会った。
「竹下さん?おはよう」
俺の声に気がついた優美はこちらへ振り向く。
「あっ!おはようっ!これは三文の徳だね!」
「・・・?」
「いやあね、今日ちょっと早く起きちゃっていつもより一つ早い電車に乗ったの!そしたら林崎くんがいたらから」
あ、なるほどね。そう思ってくれるのは素直に嬉しい。
「俺も実は早く目が覚めたんだよね。やっぱり本番だからかな」
「そうなんだ!ぶっちゃけ私、もう緊張してたりする!」
「マジか~。でもいい緊張感じゃない?」
「そうだといいね!」
それからは昨日最後の練習で確認し合った部分を話したり、お互いのクラスのこととか話したりして学校へついた。
教室についた俺はまずクラスのシフトを確認した。麻由美が話した通り確かに午前には入っておらず、15時から文化祭終了(一般公開終了、その後後夜祭はある)までの16時半だった。
ちなみに、うちのクラスでは簡単なボーリングとストラックアウトをやるため、一度にそこまで人も必要ではないらしく、全員1時間半のシフトになっていた。
午前中まるまる時間が空くが、劇団けゆあでその時間に何をするかは決めてなかったため、文化祭が始まる前に優美たちのクラスへと向かった。
教室へ行き、ドアを覗いたら2人で話をしてた。ぶっちゃけもうかなりの頻度で最近はここに来てたので、普通に教室へと入る。慣れって怖いね!
「小松さんおはよう」
優美へは朝に会ってるため亜由美だけに挨拶をする。
「あれ?どうしたの?」
「あら?おはよう林崎くん」
優美が先に気がつき遅れて亜由美も気がつく。
「いやね、今日これから本番まではどうするのかなって思って。昨日は最後バタバタしてて決められなかったし」
「あ、丁度良かった!私たちもそれ決めてたの!それでそろそろ林崎くんも呼ぼうか!って話に」
なんという偶然!これは運命感じますね!(違う)
「そうなんだ。ちなみに今どんな感じ?」
そう聞くと亜由美が答える。
「さすがに文化祭やってる中で立ち稽古は出来ないし、読み合わせだけかしら?くらいまでしか話してないわ」
「なるほど・・・。稽古が出来ないのは俺も少し考えてたよ。場所もないし」
せっかく時間もらったのに、って感じではあるがまあ仕方ない。
と、優美がポツリと呟く。
「私ちょっと思ったんだけどさ、宣伝とかってしてないよね?パンフレットには書いてあるけど」
「だから午前中は宣伝なんてどうかな?」
ふむふむ、確かにその通りである。ぶっちゃけ稽古に全力を注ぎすぎて、宣伝は全然してない。せっかくいい演技しても、演劇に興味ある人が知らなくて見に来なかったら本末転倒である。
「「いいんじゃない?」かしら?」
俺と亜由美が同時に言うと、自然と目が合い3人とも笑顔になる。
「よし、決まりね。宣伝しましょう」
「でもどういう感じで宣伝するの?」
俺の疑問を優美が代弁してくれた。
するとすぐに亜由美が答えてくれる。
「中学の頃は人が集まる場所でおもっ切り叫んだりしたわ。演劇部ならではの宣伝ね」
なるほど。それは面白そう。ビラ配りよりもなんか効果ありそう。
「それいいね!採用!」
「林崎くんもそれでいいかしら?」
「うん、いいと思う。それと、俺からも少し提案があるんだけど」
今ちょっと思い付いたことで結構突拍子もないことだこと試しに言ってみた。
「午前中から野外ステージで色々イベントやってるじゃん?それの合間合間を狙ってステージ上で宣伝するとかなんだが」
「なる、ほど」
「おお~!面白そうっ!」
2人の反応はなかなか良さそう。
「それで、ただ宣伝するんじゃなくて即興をやって宣伝する感じで」
「いいんじゃないかしら?ちょっと怒られそうな気もするけど文化祭のノリでなんとかなりそうだわ」
亜由美が「ノリ」とか言ってるのはなんか新鮮である。亜由美も少し変わったみたい?
「じゃあそれも採用で~!はいは~い!私もいいかな?」
「どうぞ?」
「音響関係でさ、放送部と親しくなったじゃん?で、文化祭中もどこで何をやってるとか放送するでしょ?そこで放送ジャックとかしようよ!」
優美もまた面白いことを提案してきた。これもならではと言った感じだ。
「放送部に確認はする必要はあるけどいい案だわ。後で部長に聞いてみるわ」
「良かった~!林崎くんもいいよね?」
「うちに負はないし大丈夫じゃない?」
「じゃあ私はまだ時間もあるし今から放送部部長さんのところへ行ってくるわ。2人でどういう感じでやるか決めておいて頂戴」
そう言いながら亜由美は教室を後にした。
「どうしよっか?」
「そうだね、野外ステージのスケジュールにあわせて宣伝はすればいいかな?」
「宣伝とか即興とかはどうしよ?」
「無理にこうだとは決めなくていいんじゃないかな?宣伝は自分の言いたいことを言う、即興は即興なんだからその場のノリで」
「なるほどなるほど!服装とかはどう?」
「制服でいいんじゃない?衣装でもいいけどせっかくだし本番までとっときたいし」
「そうだね~!目立つかなって思ったけどあんなことしてる時点で目立ちまくりか~」
そんな感じで2人で話していたら、視線を感じた。
クラスの人がこちらをチラチラ見てニヤニヤしてる。
あ~、なるほど・・・。結構有名になっているんだね。
その中に文実で外していいるであろう麻由美の姿はいなかったのは救いだった。
× × ×
ホームルームが終わりいよいよ文化祭が始まった。俺たち劇団けゆあはさっそく動き出した。
校内をぐるぐる周りながら人が集まっているところを探し、3人で交代で宣伝した。
それから時間を見て野外ステージへ移動。野外ステージでは物まね大会が終わろうとしていた。
「さあ、優勝は・・・!」
「終わりそうだね、終わったと同時に行くぞ!」
優勝者が発表され、観客からは歓声があがる。それを聞いた俺たち3人はステージへ突撃する。ステージへ上がるや否や、優美は叫ぶ!
「みなさーん!劇団けゆあでーす!!今から劇をやりまーす!よかったら見てくださーい!!」
「あ、ちょっと君たち!」
司会がそんなことを言うが、会場からは歓声も上がる。これはいける!
「即興、テーマはうちの高校!」
え、そんなのやるんか!まあ即興だし適応するか。
「おらー、席につけー、始めるぞー」
俺は学校でも独特の話し方をする先生のマネをして劇の先陣を切った。生徒からはあ、〇〇先生だー!とか言う歓声があがる。掴みはOKだ!
と優美は弁当を食べる仕草をする。うちの高校名物授業中の早弁だ!
「おーい、お前-、弁当食うのやめろー」
「あ?いいじゃん別に?昼休みは練習っしょ!」
そんな感じで言うと一部から笑い声が聞こえる。多分だけど優美のクラスにそういう人がいるんだろう。
亜由美はというと居眠りを始めてた。お、これはチャンス!とばかり亜由美に近づき、机をカツカツとたたく。これもその先生のマネである。
「似てるー!」
「やるやる!」
またしても歓声は上がる。似ててよかったと俺はほっとする。
「しかたねーわなー、まー、授業始めるぞー」
俺はそういうながら黒板を書く動作をする。ちなみにこの先生の書き方を特徴をマネする。それに優美が反応。
「せんせー!見えないー!」
と、会場からは、
「あるあるわー、あの人書いたあともずっと黒板の前にいるんだもん!」
「あ、書いたやつをすぐ消した!あれもやるわ!」
観客は盛り上がり、劇を見ている。盛り上がりが最高になったところで劇を終わりの合図である、優美が手をたたく。
「はい、しゅうりょう~!楽しんでくれたみたいかな~!」
それに俺が続く、
「劇団けゆあ、本日13時より体育館ステージで舞台をやります!」
最後は亜由美が、
「演劇が興味ある人、ない人、お待ちしております!劇団けゆあ、でした!」
俺たちはぽかーんとしている司会を横目にステージを降り、人が少ない場所に移動するやいなや、3人で笑いあった。
「あはははっ!林崎くん、めっちゃ似すぎ~!」
「そういう優美だってうちのクラスの〇〇くんにそっくりだったわ!」
「ってかうちの学校とかいきなりないわ!」
そんな感じで演技した俺たちもめちゃくちゃ面白かった。
それから、放送部に了解を得ていたため、放送ジャック、また門の前などで宣伝、ステージの合間に即興を繰り返し、時間は過ぎていった。
お昼は食堂でとり、本番まであと30分。俺たち3人は衣装や小道具を持ち、体育館へと移動する。体育館では文実であり、劇団けゆあの一員でもある麻由美が仕事をしていた。
× × ×
今は体育館裏。時間通りに進行してるみたい。あと20分ほどで私たちの出番になる。
「私ちょっとお手洗い行ってくるね」
やっぱり本番に近くなればなるほど緊張はする。変な話だけど、緊張するとトイレも近くなるよね(笑)
体育館の中にあるトイレへと入り、用を足してトイレから出てきた私にどこからともなく声をかけられた。
「竹下ちゃん」
声の方を振り向くと見知った顔、だが久々の顔、会いたくない顔でもあった。
「・・・部長」
部長、そうこの学校の演劇部の部長である。私は何とも言えない複雑な気持ちになり、その場を後にしたくなる。だが、部長に続けて声をかけられる。
「舞台、やるんだってね」
「え?あ、はい、そうですけど」
「頑張ってね」
意外だった。私としては部活を裏切った身、何か嫌なことを言われるんじゃないかと思ったから。
「あ、その・・・」
「戸惑っちゃった?そうだよね、私なんかが頑張ってなんていうのおかしいよね」
彼女は笑いながらそんなことを言っていたが、どこか寂しそうな感じでもあった。
「いや、その、えっと・・・」
正直なんて答えればいいかなんてわからない。いきなり会って、いきなりそんなこと言われたら私じゃなくても戸惑うだろう。
「ははは、ごめんね。演劇部やめて、こんなことやってたなんてね。さっきのステージ上での即興といい頑張ってるんだね」
私は無言だった。わざと無言でいたわけじゃない、なんて返事をすればまったくわからなかったからだ。
「私もさー・・・いや、なんでもないかなー。一個だけ、アドバイス、してもいいかな?って、こんな人のアドバイスなんて聞きたく無いよね」
彼女がそう思うのは無理もない。私はやめるときに「もっと本気でやりたい」と言ってきてやめたのだから。でも私はなぜかわからないけど、
「いえ・・・聞きたいです」
そう答えたのだった。彼女は予想通りびっくりしてた。
「そっか。じゃあ言わせてもらうね」
「はい」
「自分が、楽しく」
「え?」
それだけ言い残して彼女は手を振り、じゃあ私も見るから、といい私から去った。
『自分が、楽しく』・・・どうやらこれがアドバイスだったらしい。アドバイス?自分がそう思って演劇をやっていからそう言っただけ・・・?だって彼女らの演劇は『自分たちが楽しめればいい』だから・・・。
でも、でも私は別のことも思っていた。部活を一緒にやっていたときとは明らかに雰囲気が違っていたから。そんなことを考えていたら、体育館裏に戻っていた。
「優美~!おかえり~!もう前のが終わりそうだよ~!」
麻由美ちゃんに声をかけられ我に返る。
「あ、うん、そうだね」
「どうしたの?なんかあった」
何かあったけど・・・話すほどでもないし。
「ううん、別に?ちょっと緊張してるだけかな」
「そっかあ~!そりゃあ緊張するよね、主役だし」
2人で話してたら亜由美と林崎くんも私の方へ来た。
「みんなでさ、頑張ろうってヤツ、やらない?」
林崎くんからそんな提案をされた。うん、いいかも!緊張もほぐれそうだし!
「私はいいよ~!」
と麻由美。
「ええ、せっかくだしやりましょう」
と亜由美。
「うん、私もやりたい!」
と私。
「よし、じゃあやろう!仕切るのはもちろん竹下さんだけどね」
「え!?私!?林崎くんが言うんじゃないの!?」
「いや、だって俺は手伝いしてるだけだし?」
「じゃあ亜由美は!?」
「優美が最初に林崎くんに頼んだのが始まりだし、私も優美がいいと思うわ」
麻由美ちゃーん・・・と言おうと思ったが、黒子だもんね・・・。
「ううう。こういうの初めてで全然慣れていないんだけど・・・。なんて言えば・・・」
どうしようと思った時、
「今自分が思っていることを素直に言えば大丈夫だと思うよ」
と林崎くん。今自分が思ってることか・・・。
「私は・・・」
「みんな、ありがとうって思ってるかな」
これが素直な気持ち。みんなの協力があったからこそここまでこれたんだもんね。
『自分が、楽しく』
ふと、さっき言われた言葉が頭に浮かぶ。楽しく、そうだね、お客さんを楽しませる演技をするのは自分が緊張とかしてちゃダメだよね、楽しまなきゃ、と自分なりに解釈をした。
「・・・楽しもう!!」
「全力で楽しんで、お客さんを楽しませよう!」
私が言った瞬間、みんなの手が自然と合わせる。最後はお決まりのセリフ言わなきゃね!!
「みんな、頑張ろう!!」
「おう!」
「ええ!」
「よっしゃ~!」
『続いて、有志団体「劇団けゆあ」の舞台「シンデレラ」となります。劇団けゆあのみなさん、どうぞ!!』
私たちの「舞台」が今始まる。
今回出てきた演劇部部長ですが、また出そうと思ってます。少し意味深な発言もありましたが、そこは後々拾っていきます(^o^)/