卒業式の途中、俺はついに意識が飛んだ。
というのも実は昨日は緊張し過ぎてなかなか寝れなかったからである。
え?なんでかって?そんなの言わなくてもわかるよね?
式の途中で寝たりしてしまっては、さすがに後で笑い話とかにもなるし、頑張っていたのだが・・・。
意識が一瞬飛んだと思って気がついたときは座り込み、周りのクラスメイトや保健の先生が心配そうに俺を見ていた。
なんだかんだあって、何故か優美と一瞬に保健室へと行くことになり、戸惑いつつも、やっぱり嬉しさもあった。
「大丈夫?」
隣で歩く優美は心配そう。自力で歩けないわけではないが、頭はボーッとする。
「大丈夫・・・って言いたいけど、あんなの見せちゃったら今さら言えないわな」
「そ、そうだよね、あはは・・・」
冗談言えるなら大丈夫か的なことを思ったのかわからないが、彼女がちょっと笑ってくれて良かった。
体育館から保健室は近く、少し歩いただけで到着。
「とりあえずベッドで寝た方がいいかな。先生は寝不足って言ってたから」
「ああ、ありがとう」
ここまで来て反論するわけにもいかないし、ここは素直に寝るのがいいか・・・。
そんなわけで優美を残して寝るのはどうかと思いつつも、ベッドに入った瞬間に眠ってしまった。
ベッドに入った林崎くんはすぐに寝てしまったみたいで、本当に凄い寝不足だったんだなあと思う。
しばらく、10分くらいかな?経ったとき、私は頭の中でふと疑問が浮かんだ。そもそもなんで彼は寝不足だったんだろう?受験も終わってるし・・・。
と、もしかしたら、それが本当だったら、私にとっては凄く嬉しい答えが頭に浮かび、ついついボソッと口にする。
「もしかして私のこと・・・?」
受験の結果を心配してくれたのかも知れない。あるいはその後にきっと訪れるであろう、私たちとっての大切な時間のことを考えてのことかも知れない。
嬉しい。本当かどうかなんかなんてわからないけど、彼ならきっと本当にそんなことを考えてくれていたのだろう。
私は眠る彼を見る。そう言えばこんなじっくりと見たことなかったなあ、と。一般的にカッコいいとかそんなことはないかも知れないけど、やっぱり好きな人の顔を身近で見るのは凄くドキドキする。
そんなことを思っていたからかも知れない。私はいつの間にか携帯電話を彼に向け、カメラのアプリを開き・・・。
「撮っちゃった・・・」
私の携帯の画面には寝顔の林崎くん。自然と笑みが浮かぶ。
さてこの写真をどうしようと思ったそのとき・・・。
「ん・・・」
カメラのシャッター音で目が覚めてしまったみたいで林崎くんがむくりとベッドから体を起こす。
「うわっ!」
まさか起きるなんて思わず、私はびっくりして声をあげてしまう。
「・・・?あれ、いつの間にか寝てたか・・・」
最初は変な反応をした私に疑問の顔を向けていたが、寝ぼけてたのが幸いか、全然気にならなかったみたいでちょっと安心。
「う、うん!ベッドに入ってすぐに寝ちゃってたよ。ホントに疲れてたみたいなんだね」
「そうか・・・どれくらい寝てた?」
「ええと、10分ちょっとかなあ?」
「そんなもん?それだけでも結構すっきりした感じ」
「そっか、良かった」
林崎くんの体調も良くなって私はホッと一息。そんな間にこっそりさっき撮った寝顔を保存保存。あとで見せたら反応とか面白そうだよね、ふふふ・・・!
「・・・卒業式、どうしようか」
「あー・・・どうしよう」
10分ほどしか経ってないとは言え、終わりももう近いだろいし、今さら戻るのもなんかなあ、という感じ。あ、そう言えば前にもこんなことあった。体育祭のときだったかな。
「うーん・・・あ、そう言えばさ、前にもこんなんあったよな」
「え?」
「体育祭のとき、2人で保健室にいてさ。ははは」
「う、うん!」
いつものことながら、やっぱり同じ気持ちになるのは嬉しい。
「あのときとは逆だよな。今日は俺が竹下さんに連れられて・・・」
苦笑いの林崎くん。男の子としたらやっぱり恥ずかしいみたいで。
「まあ、それは置いといて、今から戻るのもなんとも言えないし・・・あのときも戻らなかったし、っていうか俺的には2人きりでいたいかな、みたいな?」
ちょっと恥ずかしそうな林崎くん。それを聞いた私はすぐに返事する。
「私も、サボっちゃうことになっちゃうけど残りたいかなっ!なんてね!」
「良かったー!戻ろうとか言われたらちょっと不満だったわ。ってかサボるわけじゃないし。俺体調不良だしな!」
そんな元気に言われても説得力ないけどね(笑)
「ふふふ・・」「ははは・・・」
2人で見つめ合い笑い合う。と、林崎くんは何か思い出したかのように急に。
「あ!」
「どうしたの?」
「ほら、もう結果発表してるんじゃない?今日発表の日でしょ?」
「あっ!」
こんなことがありすっかり忘れてた!卒業式の間はなんかあんまり気にならなかったけど、言われると気になる。
携帯からでも発表は見れるってことだったので、私は検索をかけた。別に急いでるわけでもないけれど、やっぱり自然と焦る。
「ええと・・・あっ!あった!合格者一覧、と・・・」
見る前に私は林崎くんと顔を見合わせ2人で頷く。
「ええと・・・1592は・・・」
ページをスクロールし、だんだんと番号が近づいていく。
1585、とんで1589、1590・・・。
「「あ・・・」」
2人ともそう反応をしたから、私だけの見間違いではない。もう一度画面を見て、再度1592があったことを確認する。
2人でまた顔を見合わせ、そして私は一気に感情を表に出す。
「・・・あった!あったよ!林崎くん!!」
喜びのあまり、私は立ち上がると同時に彼の手をとりとにかく喜んだ。
「うん、あったあった!良かった、マジで良かったよ!いや、別に受かってないとか思ってなかったけどびっくりしたよ」
・・・いや!それって普通に考えて落ちてるかもって思ってたってことだよね!?
私は怪しげな視線を林崎くんに送る。じーっていう効果音が出そうなくらいに(笑)
「な、なに・・・?」
「・・・落ちてると思ったでしょ?」
「う・・・あ、いや!そんなことあるわけ・・・」
言い訳を言おうとした林崎くんに向けて、めちゃくちゃ笑顔でばっさりと言葉を挟む。
「嘘はだめだよー?」
「ぐっ・・・!」
彼は目を反らす。ふっふっふっ!弄られキャラの私が勝ったよ!
「勝ったー!言葉で勝てるなんて嬉しいなあ!」
「勝ったとか負けたとかないでしょ!別に俺嘘ついてたわけじゃないから!・・・まあ、とにかくおめでとう、だな」
「あ!うん!ありがとうっ!」
私がそう返事をすると、林崎くんはふーっと一息吐き、少し目を閉じたあと、真剣な表情で私の方に顔を向けた。
そんな圭の表情を見た優美もまた真剣な表情になる。
お互いに数秒間見つめ合う2人。言葉は全く発しない。でも2人ともお互いに何が言いたいのか、どんな言葉をかけて欲しいのか、そんなの言わなくてもわかるかのように、自然と手をとり合い笑顔になる。
静かな春の優しい日差しもそんな2人を祝福してるかのよう。優美は少しだけ体を圭に預け、今始まった幸せを感じていた。
× × ×
結局あれから卒業式はサボった俺たち。式が終わった後にそれぞれのクラスメイトが心配して来てくれたのだが、普通に雑談してしまっていたので対応がめちゃくちゃ大変でした。まあ、俺たちが悪いんだけど。
それから最後のホームルームを行い、放課後になる。
教室の中で仲間や先生と別れを惜しむものがいる中で、俺は先程ホームルームが終わった後に、優美とある場所で会う約束をしていた。
そう、俺と優美が初めて会い、言葉を交わしたあの場所に。別にどっちがとかそういうわけでなく、なんとなく流れで「思い出の場所」で最後に過ごしたい、そんな気がした。
彼女を待たせるのも悪いんで、俺はホームルームが終わった後、急いで生徒会室へ向かったが、10分経っても来ない。
どうしようかと思ったとき、扉がノックされる。
「はい」
まあ、一応返事。
ガラガラと開いた扉の先には優美がいたのだが、何やらいつもと態度が違う感じ。
「失礼します・・・」
「へっ?どうしたの・・・あ・・・」
なんでそんなよそよそしいの?と一瞬思ったが、優美のしたいことが一瞬で理解。俺も役者になるか。
「生徒会で生徒の悩みを解決するみたいなことをやっているのですよね?」
「はい、解決出来るかどうかは内容にもよりますが…。まずはどんな内容か聞きますよ?」
俺はあのとき言ったことを思い出して、優美にそう言う。ぶっちゃけこんなことになるなんて思ってもいなかったし、そもそもここからどういう質問をされるのか・・・。
優美は一度頷き、俺へと改めて顔を向ける。何を言われても絶対動じないぞ!
「あの・・・カ、カレシが出来たんですけど、これから学校も卒業するしで色々不安で・・・どうすればいいですか・・・?」
一瞬固まる俺。うん、なんでわざわざ演技までして張本人にそんなこと聞くんですか優美さん。
最初はどうしようかと思ったが、優美が頑張って演技しているのを見て俺も演技を続ける。
「そうですね・・・あのたのその真面目そうな人柄から察するし、きっとカレシさんも真面目な方で」
何自分で自分のこと真面目とか言ってるんだ俺は!そんなことを思いつつも俺は続ける。
「あなたのことをいつも考えて、好きで好きでしょうがないって感じで、ずっと大切にしてくれるでしょうし・・・」
だんだんと、演技ではなく「自分」に戻りつつある俺。
「だから、だから・・・不安なんて・・・いや、不安なのはカレシさんも一緒で・・・ずっと待ってくれたのも今思えば不思議で・・・」
「キミは凄く優しいし、何事にも精一杯で全力で、大学生になってもきっとモテるだろうしで・・だから、だから・・・俺だって心配なんだよ・・・!」
もう完全に素の自分に戻っていた。こんな切り出し方だったからかも知れないが、自分が今思っていること彼女へ伝えた。
まっすぐに、嘘偽りなど絶対ないように、真剣な表情で。
そんな俺の言葉を聞いた優美は、少しの時間俺の顔を見続けた後、だんだんと笑顔になり、そして目に涙を浮かべ始めた。
「・・・一緒なんだね」
「・・・ああ」
「良かっ・・・た・・・」
きっと優美は最初から、こういうことを俺から聞き出したかったのだろう。でも普通に聞いたんじゃ言いにくいと思い、まあ、確かに流れで言えてしまった俺。演技をして「あんな聞き方」をしたんだろう。
そんな会話をしたこともあって、俺はあの日のことを思い出す。
あの日会えて、今こうしているのは運命?いや、違う。運命なんてない。
彼女がここに来たときに俺がいたのはただの偶然。そんな偶然を2人とも大切にしたからこそ、俺たちは今こうしていられる。
彼女の依頼という「舞台」の中で、様々な壁という「舞台」を乗り越え、依頼は達成された。
人生は大きな「舞台」だと俺は思う。その中にも更に色々な「舞台」ある。学校という「舞台」、受験という「舞台」、部活動という「舞台」・・・。
そして俺たち2人はこれから、恋人という「舞台」に2人でかけ上がったばかり。
しばらくそんなことを考えていた俺に、すっかり涙は消え笑顔になった優美に話しかけられる。
「ねぇ、はやしざ・・・圭、くん!」
「うん?今名字で呼び掛けたな?」
「あ、バレちゃった?なんかまだ慣れなくてね。あ、それでね私、今圭くんの思ってること当てるね?」
「おう、優美なんかにわかるのか?」
「またそうやってからかう~!まあ、いいけどねっ!」
「いいのか!あはは」
「あははっ!えっとね、・・・『恋人という舞台が始まったばかり』とか、じゃない?」
「え?」
「・・・なーんてっ!そんな演劇脳なこと考えてるのは私くらいだよねー!」
「いや、正解だ」
「え!?ホントに!?」
「うん、マジだよ。凄いな」
「やった~!ねぇ、圭くん!」
「うん」
「頑張ろうねっ!」「頑張ろうな!」
「私たちの恋人という新しい『舞台』・・私たちの『舞台』は始まったばかり、だもんね!」
ここまで、最後まで読んで下さり本当にありがとうございました。かなりの量になりますが、書きたいことを書きます。
まず、100話というものすごくキリの良い話数で終わったのは偶然と予定通りって感じです。もともとストーリー自体は圭たちの卒業までしか書くつもりはありませんでした。90話が終わったくらいからでしょうか?「あれ、これ100話ぴったりで終わらせなれるんじゃ・・・?」と思い、うまく残りの話をコントロールしてぴったり100話にしました、という感じです(^^♪
それから、この作品のタイトルや区切りで話のサブタイトルで使っている「私たちの『舞台』は始まったばかり」という言葉ですが、様々な意味で自分はこの物語の中で使ってきました。
最終回で圭も「人生は舞台」という言葉を使っていましたが、それは作者そのものの言葉って感じです。もちろん、この物語自体が演劇を題材にしているため、もともとはそこから来た言葉ではありますがね。
恋人同士になった、圭や優美たちのその後を気になる読者様もいらっしゃると思いますが、特に別作品にて続きは書く予定はありません。この物語、この登場人物による物語はこれで本当に終了です( ;∀;)
それと、この物語は完結まで書くことができたのが、自分にとって何よりも誇りです。このサイトでもそうですが、小説を自分で書き始めても終わりにならない物語は非常に多いと思います。自分の好きな物語がそういう形になってしますとやっぱり残念ですよね。だから自分は「とにかく途中で蒸発しない!」とモットーに書きました。
自分は物語をしっかり完結させるためには2つのことが大切かなと思います。
1つはリアルの環境が変わらないこと。進学やら就職やらで環境が変わるとどうしても書きにくくなったり、ほかに楽しいことが出来てしますと、放置しがちかなって思います。
もう1つは書き始めたラストをしっかり決めていること。もちろん、過程も大事ですが、ラストが決まっていることほど重要なものはないと思います。
・・・偉そうなこと言ってすいませんが、自分がオリジナルの作品、100話という長い長い作品を1年近くかけて完結させたから言えることかなって(^◇^)
では、これにて本当に終了となります。新しい物語を書くかどうかはわかりませんが、またお会い出来たら嬉しいです!読んでくださった方々、お気に入りを入れて下さった方々、本当に感謝感謝です!!
「さようなら」ではなく「またね」!