オリジナルの恋愛小説で、題名の通り演劇の要素も結構あります。なお、最初のうちは恋愛要素はなく10話くらいから主人公とヒロインの恋模様を描いてます(^O^)
※32話のあとがきにヒロイン、優美のイメージ絵を投稿。絵だけならネタバレには特になりませんのでよかったらそちらも見つつ話を読んで下さったら嬉しいです。
今、目の前に一人の女子生徒がいる。彼女は俺にこう言った。
「・・・手伝ってください」
× × ×
時間は少し遡る。まずは自分が何者かから始めよう。
俺の名前は「林崎 圭(はやしざき けい)」。とある高校の2年生で生徒会に属している。
生徒会では最近、生徒の悩みを解決しよう!という取り組みを始めた。
ざっくりとした概要は、毎日放課後に役員が一人ずつ生徒会室に残り悩みのある生徒がくれば話を聞き、後日他の役員たちとそれが解決出来る問題か話し合う、という感じである。
そして本日は俺が担当の日。
今日は二回目であるが、始めたはいいももの、前回は誰も来なかったこともあり、今日も誰も来ないだろうと踏んで本を読みながら時間が経つのを待っていた。
そうこうしているうちにあと10分までとなり、ああ、今日もなしか…。そう思ったときである。
コンコンと扉が叩かれる音。のち、「失礼します・・・」との声と共に扉が開く。
「生徒会で生徒の悩みを解決するみたいなことをやっているのですよね?」
目の前に現れた女子生徒は真面目な顔つきで、深刻な口振りでそう告げた。悩みに悩んだ上に最後の砦というような感じでここに来たようにも読み取れる。
「はい、解決出来るかどうかは内容にもよりますが…。まずはどんな内容か聞きますよ?
とりあえずそちらに座って下さい」
彼女は動揺した様子ではあるがとりあえず席に座ったら少し落ち着いた感じになった。
「じゃ、じゃあ早速なんですか・・・!」
「部員を増やすのを・・・手伝ってください!」
勢いに任せて依頼内容を言わせてしまったが、まず彼女が何者だかを聞いておくのが先であると思い冷静に対応。
「あ、ごめんなさい。依頼内容も大事ですがまず自己紹介を・・・」
「はっ!あ、そうですよね!ごめんなさい!つい焦っていたから…」
たはは、と笑い改めてという感じになり、
「2年F組の竹下 優美(たけした ゆみ)です。部活は演劇部に所属してまして…」
そこまで聞いて圭はなるほど、と思った。
「つまり演劇部の部員を増やすのを手伝えというわけで」
「まあ、そういうことですね・・・」
圭はここの学校の演劇部がどんな部員構成か知っている。生徒会役員だからということもあるが、春の公演を見に行ったからである。
「なるほど…。確かに2年生二人ではこれからが不安になりますよね」
「あら、それを知ってたんだ~。じゃあ話は早いかも!」
自分の部活を知ってもらって親近感が湧いたからなのか優美の口調はいつの間にかタメ口に。
「なんとなくわかるとは思うけどさすがに2人で活動は難しいからねぇ」
圭は今すぐいい案が出るとは考えにくいなあ、と思い、
「わかりました。依頼はひとまず持ち帰って考えてみることにします。他の役員にも一度相談しなくてはなりませんしね」
「うん、了解!いきなりでもなんか案が出るかな~?とか思ってたけどそううまくはいかないか~」
生徒会役員だからといっても別に頭がいいわけではないからそれは・・・(笑)
「参考までに聞いておきますけど、今まで何か自分たちで(部員を増やすために)やったことは?」
それを聞いた瞬間、優美の顔が曇った。
「実は・・・特に何もしてないの」
意外だった。彼女ほどの行動力があれば既に色々な手を打った上で最後の手段としてここに来たのかと思ったから。
「先輩が全然話し聞いてくれなくて。さすがに先輩無視して自分でアレコレやるのはマズいから・・・」
「・・・?普通自分の部活の部員が増えるのは嬉しいことなのでは?」
「普通はそうだと思うけど。まあ普通じゃあないのかなあ・・・?」
その後どうしてなのか詳しい話を聞いた。彼女によれば先輩たちはもともとそこまで熱心に活動がしたいわけではなく、自分たちが楽しければオーケー、そんな感じで活動をしているとのこと。なので新入部員募集に積極的ではなく、むしろ今の環境が変わって楽しく活動出来なくなるのがイヤらしい。
「私も去年入って、最初は楽しい雰囲気で馴染み易いし良かったなあって思ったけど、ずっとそんな調子で稽古とかもなんかテキトーな感じで・・・」
「そういえば・・・」
「ん・・・?どうしたの?」
「いや、演劇に興味あって春の公演を見たんですけど、初心者目から見てもお世辞にはうまいとは思わなかったなあ、と」
「あ~、やっぱりそうだよねぇ。私もさ、先輩たちには色々提案したの。自分たちが楽しくもいいけどお客さんを楽しませる演劇がしたいみたいなことを」
「・・・でもやっぱりダメだったの。自分たちのやり方がイヤなら辞めていいよ、みたいな感じも言われたし・・・」
辞めてしまえば良かったのでは?とも圭は思ったが、演劇をやりたい以上、演劇部に所属する以外ないし、なかなか難しいことなのかなあと考え少しためらった。
「なんとなく事情はわかりました。今の話も含めて持ち帰ってみますよ」
「お願い!もう頼りになるのは君だけだから!!私に協力して下さい!」
口説き文句みたいなこと言われて絶対なんとかしなきゃと思ったのは秘密です(笑)
「が、頑張りますね。他に今のうち何か言っておきたいことはあります?」
優美はうーんと考えてたあと、ひらめいた!みたいな顔をして、
「同じ学年なんだし、これからはタメ口でいいよ?むしろタメ口で!これから一緒に頑張っていくんだしねー!」
いやいや、まだ依頼を受けますとは言ってないが…。
「はあ、まあいいけど・・・」
「あ、今面倒くさい女だなあ~って思ったでしょ!?」
「思ってなかったけど今ソレ言われて思ったかな」
ぶーぶー、と優美は膨れていた。そういう仕草って普通に可愛いと思うのは俺だけかな?
「んまあとりあえず時間も時間だしここらで終わりにしますかね」
「あ、そうだった!時間ギリギリで来たんだもんね。ごめんごめん!」
「じゃあ、何かありましたらクラスの方へ行くんで」
「はーい!りょーかい!」
そんな会話をしながら二人で生徒会室を後にし、俺はと言えば生徒会室の鍵を返さなければいけないので昇降口とは逆の方向にある職員室を目指し歩き始めたがが、何やら後ろから人の足跡が。
「帰るなら昇降口あっちなんだけど?」
「え!?」
「え!?って、方向音痴・・・?」
「いやいや、せっかくだし一緒に返しに行こうかなってー。それに一人で駅まで帰るの寂しいし」
さっき会ったばっかりなのに凄く馴れ馴れしい。というかいきなり2人っきりで帰るとか普通はありえないよね!
「別にいいけど。俺も電車通学だから」
「はっ!よく考えたら自転車通学だったら意味なかったじゃん!」
優美はしまった~!と額に手を当てている。考えてなかったのかい(笑)
それからは職員室に鍵を返し、一緒に帰った。帰りながらお互いのことを色々話しているうちにいくつかわかったことがあった。
彼女は中学では合唱部に所属していて、演劇は3年のときに助っ人で部活に参加したら楽しくて高校では絶対に演劇部に入ろうと決めていたこと。やるからには本気で取り組みたいこと。もう1人の2年生部員も彼女を同じ悩みを抱えどうしていいのかわからなかったとのこと。
俺は、彼女を助けたい、改めて強く思った。
「じゃあ私ここの駅だから。色々話聞けて楽しかったよ」
次の駅の到着が近くなるアナウンスが流れる。まだまだ話していたかったが今日はここまでらしい。
「こちらこそ。なんか前から知り合いみたいな感じで楽しかったよ」
「あはは、なにそれ~!」
「あのさ・・・」
俺は改めた口調になった。どうしても今日伝えたいことがあったからだ。
「・・・どうしたの?改まって。」
「・・・。」
だがいざ口に出そうとすると言葉が出ない。うまく言えないとかそういうのではなく、決心がつかなかった。
まもなくすると電車は止まりドアが開く。優美はカバンを背負い向きを変える。
「じゃ、じゃあ何かあったらよろしくね」
そのセリフも先ほど俺が何か言いかけたせいか、言いにくそうだった。
このままじゃダメだ。何か不安を背負ったまま別れるのはイヤだ。俺は決心した。俺はあの子の悲しむ顔をみたくない・・・。
「だから・・・だから、生徒会でダメでも俺が・・・俺だけでも助けるから!」
そう告げた時には彼女はホームにいて、すぐに扉は閉まった。聞こえてたのだろうか?そう思った瞬間、優美は微笑んで手を振ってきた。