インフィニット・ストラトス Re:Dead《完結》   作:ひわたり

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無くして得たもの

学園長は多忙だからと、千冬に連れられて職員達に挨拶を済ませる。

左目側の火傷跡と、無くなった左腕は注目を集めたが、それは致し方ないことだ。僕だってそういう人がいれば注目するだろう。

「臨時であるし、暫くは私と同じクラスを担当してもらう。此方は山田先生、副担任を務めている。私がいない時は彼女を頼れ」

「よ、宜しくお願いします」

小さい割に女性らしい体つきの眼鏡の女性。

「ご迷惑をおかけしますが、宜しくお願いします」

「いえ、此方こそ」

朝のHRで僕の事を紹介するからと案内される。そして、僕の左側には女性の制服を身に纏ったシャルロットがいた。

女として、改めて紹介するらしい。

「皆騒ぐんだろうな」

「それは覚悟してるし、仕方ないよ」

シャルロットは笑って言った。

僕の左側は目と腕を失ったおかけで完全に死角だ。シャルロットが意識的に左側にいるのは、僕のカバーをする為なのだろう。有難いが、何とも気恥ずかしい気持ちでもある。

「……あ、ラウラ」

シャルロットが前方にいる銀髪の女の子に気が付いた。

「おはようございます」

声に反応したラウラさんが振り返り、先生も含めて挨拶してくる。

「ボーデヴィッヒ、もうISを取りに行ったのか?」

千冬の質問に、ラウラはしっかりと頷く。

「はい。受取りに時間が掛かるかと思いましたが、ギリギリ始業時刻に間に合いました」

自然とラウラさんとやらが合流して教室へ向かう。

「ラウラ、ボクの姿を見ても驚かないんだね」

「一夏があの時にシャルロットと言っていたし、流石に男性操縦者がそう簡単に見つかるとも思えなかったしな。ある程度察しはついた。本名はシャルロットで良いのか?」

「うん、改めまして、シャルロットです」

で、こっちがとそのまま紹介へ入った。

「この人がシャルル。私の家族だよ」

僕は右手を出して握手を求めた。

「こんにちは、シャルルです。これから臨時教師としてお世話になります。えーと、ラウラ・ボーデヴィッヒさんで良いのかな?」

シャルロットと千冬さんの呼び名から彼女の名前を導き出した。

「はい、そうです。宜しくお願いします。ラウラ・ボーデヴィッヒ、ドイツ代表生で、軍に所属しています」

成程、軍人か。

通りで歩く姿に隙がないし、今の僕の姿を見ても自然体なわけだ。

「左目、見えないのですか?」

遠慮もなさそうだ。その方が有難いけど。

「うん、まあね」

「私の眼帯付けます?予備ありますけど」

「あ、貰えるなら欲しいな」

潰れた目を見せない為に瞼を閉じっ放しなのも疲れるので、貰えるなら有難い。医務室で眼帯は貰ったけど、使い捨てみたいなものだし。

そういえば、まだ医者に会ってないな。今度また礼を言わなきゃ。

「どうぞ」

「ありがとう」

ラウラさんから貰った眼帯を付けてみる。

「どう?」

「少し歪んでいますね。ちょっと特殊な形してますし、直すので屈んで頂けますか」

僕が身を屈めると、ラウラさんが小さな手で修正をしてくれた。

「出来ました」

「ありがとう」

うむ、ぴったりだ。

「お揃いだね」

あははと笑って言ってみたら、左頬が抓られた。

「痛い」

左を確認すれば、笑顔のシャルロットがそこにいた。黒いオーラを纏った、とても良い笑顔のシャルロットさんがそこにいた。

「……なに、ラウラに触られて喜んで、ペアルックで浮かれてるの?」

「そんなつもりは毛頭ありませんです……!」

何か知らないけどキツイっすシャルロットさん。マジ怖いっす。

怯える僕にラウラさんと山田先生がオロオロと慌てて、千冬さんが笑っていた。

 

 

「……というわけで、改めまして。シャルロット・デュノアです」

「臨時教師のシャルルです、宜しくお願いします」

男性操縦者と思ったら女性で、更に片腕のない男の教師がいたことで教室は結構ザワザワと騒いでいた。それはそうだろうけど、しかし、女性の声って結構響くね。

「一夏!シャルルが女ってどういうこと!?」

「教室へ戻りなさい」

「あ、はい」

何か途中からツインテールの女の子が乱入してきたけど、HR中だったので戻ってもらった。一夏くんの友達だろうか。

「……え、男!?誰ですか!?」

戻ってきた。

「臨時教師となったシャルルです」

「シャル……?へ、あれ?シャルルが、女の子で、シャルルが男?ん?」

「後で話すから戻りなさい」

「あ、はい」

相当混乱していたようだが、やはりHR中なので戻って貰った。

「……一夏は私の嫁とする!」

教室は教室で、ラウラは迷惑を掛けた謝罪の後にそんなことを宣言していた。

「ボーデヴィッヒさん、嫁は女性に対して使用する単語だよ」

どうやら日本語の勘違いをしていたようなので訂正しておく。

「へ、でも、クラリッサが……」

クラリッサ?はて、同僚か誰かだろうか。その人から日本語を学んだのかもしれないが、間違いは真違いなので修正しておかねばなるまい。

「男の場合、婿だね。あと、ボーデヴィッヒさんの年齢だとまだ結婚できないから、男女の関係でも、彼氏彼女が正しいかな。間違って覚えてたら後々困るから気を付けてね。分からなかったり曖昧だったら教えるから、遠慮しないで」

「あ、はい」

うん、素直なのは良いことだ。

「……予想外な抑止力だな」

千冬さんが何故かしみじみと呟いていた。

 

HR後、一夏くんが寄ってくる。

「シャルルさん、お久し振りです」

「やぁ、一夏くん。元気かい?」

握手を交わし、一夏くんは苦笑い気味に答えた。

「元気ですけど、色々と大変ですね。……シャルルさんも、大変だったようですが」

僕の事情は知らないだろうが、この左眼と左腕を見れば、大変だったと思うだろうな。

「大したことないよ」

今後の生活は何かと大変だろうが、まあ、行いの結果だ。大したことではない。

近くに寄ってきたポニーテールの女の子が頭を抑えながら会話に加わった。

「それで、えーと、結局、シャルロットは女の子で、この人がシャルルってことなんだよな?」

「混乱してしまいそうですわね」

「あたしは絶賛混乱中よ」

ガヤガヤと人が集まってくる。

名前が分からないので自己紹介を軽く行い、皆の名前を頭にインプットした。

「というか、一夏、気付いてたのか?」

「いや、本人に教えてもらえるまで気付かなかったよ」

「鈍いわね」

「いやだって、皆も気付いてなかったじゃないか」

浴びせられる白い目に一夏くんが必死に弁明していた。可哀想に。

「それ程、ボクの変装が完璧だったってことで」

「男に扮するっていうより、シャルルさんに扮してたって方が正しいしな」

当たり前だが、ここはIS学園なので皆日本語で話している。そこで違和感を一つ覚えた。

「シャルロット、一人称はボクなのか」

女なのに。

「シャルルは日本語だと僕だったでしょ。変かな?」

「使ってる人もいるし、変ではないけどね」

ただまあ、やっぱり女の子は私とかのイメージがある。

「大丈夫、シャルルの前だけは私って言うから!」

何が大丈夫なのだろう。サムズアップされても困る。取り敢えずサムズアップで返しておいた。

「……ところで、私は一夏のことをなんと呼べば良いんだ?」

嫁発言が封印されたラウラさんは別の意味で混乱中だ。今の所、一夏くんとの関係は友達なわけだし……。

「普通に名前とかで良いんじゃない?」

「そうなのか……」

軍事経験が長いらしく、どうも常識に疎いようだ。今度ちゃんと教えてあげよう。

ラウラさんがプルプル震えている。封印がそんなにキツイのか。

「なんか私のアイデンティティーが崩壊している気がする」

「そもそもキャラ変わってるしね。あの光の中で何があったのよ」

どうも、ラウラさんは来た時と今とで様子が違うらしい。あの時はすまなかったと素直に頭を下げているラウラさんに、彼女達も戸惑いながら受け入れたようだ。

「何があったって言っても、お互いのことを分かり合っただけだけどなぁ」

「一夏さん、発言には気をつけて下さいませ」

「?」

ポッと頬を染めるセシリアさんに対して一夏くんの頭に疑問符が浮かんでいた。

「キャラが変わったと言えば……」

全員の視線が僕の左腕に、正確に言うなら、そこに陣取るシャルロットに向けられた。

「ん?何?」

横から僕を抱き締め続けてるシャルロットに向けられていた。

両腕でガッチリ胴を掴んでいる。逃げられない。逃げないけど逃げられない。

「いや、何じゃなくて……」

「シャルルが女って判明しただけでもショックなのに……」

いきなり昨日の男が女になっていて、オマケに人目も憚らず人に、男に抱き着いていればそれはショックだろう。

甘えん坊な所はあったけど、どうもこの前の一件で箍が外れたらしい。隙あらば抱き着いてくるようになってしまった。離そうとしたら悲しそうな目で見てくるので質が悪い。

シャルロットを悲しませた罰だと甘んじて受け入れることにしたが、恥ずかしいは恥ずかしい。

「こうして見ると、どうして男と思ってたのか不思議なくらいですわね……」

チャイムが鳴ったので各々の場所へと戻る。シャルロットも離れたが、名残惜しそうな表情をされると、こっちが悪い事をした気分になってしまった。

初回は授業の様子を見ておけと、学生と同じように後ろの方で授業を受ける体制を取った。

だからシャルロットさん、こっちをチラチラ見てくるのはやめて下さい。

しかし、授業風景はこんなものなのかと、そんなことを思う。

学校など行った事がないので、正確にはその記憶がないので、かなり新鮮味を感じる。

これが女子だらけでなければ、よりその実感はあったのだろうが。

 

何でもないようなこの日常。

それを一番に望んでいたのは、果たして誰だったのだろうか。

僕か、シャルロットか。

 

それとも、霞みがかった、破けた記憶の中にある、あの少女だったのか。


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