インフィニット・ストラトス Re:Dead《完結》   作:ひわたり

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人の交流

一夏とシャルロットは食堂へと訪れた。

一夏から食券の買い方を習い、2人で食事を取りに行く。周りの女生徒達の視線が突き刺さるが敢えて気にしないことにした。

今日のランチを選んだシャルロットは受け取った後に窓際の席へ着く。向かい側に同じ物を頼んだ一夏が座った。焼き魚が中心のランチ。

偶にであったが、かつてセリーヌがシャルルの為に和食を作っていたのを思い出す。

「いただきます」

「いただきます」

シャルロットが箸を使って魚の身をほぐし始める。今更ながら、一夏はシャルロットが箸を使えるかどうかということに気付いた。

「そういえば、シャルルは箸が使えるのか?」

「うん、昔に凄く練習してね」

昔、シャルルが当たり前のように箸を使っていて、自分が使えなくて何となく悔しい思いをしたのを覚えている。でも結局は、シャルルに箸の使い方を教わったのだが。

「へぇ、凄いな」

「IS学園で外国の人も多いと思うけど、箸とかは大丈夫なのかな?」

「苦労してる人も多いらしいぞ。フォークもあるし、困ることはないだろうけど。俺の友達でも日本文化に苦労してる人がいるしな」

「あら、それは私のことでしょうか」

不意に会話から第三者の声が降りてきた。

視線を上げると、金髪の巻き髪が目に入る。プロポーションの良い体型に青色の目が印象的な少女だ。

「いや、別にセシリアのことでもないけどさ」

一夏が少しだけ慌てながら言い訳する。セシリアと呼ばれた少女はそんな一夏の様子がおかしいのか、クスクスと微笑んだ。

「まあ、構いませんけれど。ご一緒しても宜しいでしょうか?」

「ちょっとセシリア!抜け駆けしないでよ!」

そこに別の声が更に割って入る。

小柄でありながら活発そうな少女で、ツインテールが可愛らしい。その後ろにいる少女は真面目そうというか、硬そうな雰囲気を纏っており、やや憮然とした面持ちで立っている。

「あー、皆一緒で良いかな?」

「ボクは構わないよ」

断る理由もないだろうとシャルロットが頷く。

了承を得た少女三人は誰がどこに座るかでジャンケンを始める。やたら真剣な表情に、一人の男を愛するシャルロットは、この娘達は一夏が好きなのかと察した。分かり易い人達だと思って一夏の表情をチラリと窺って見れば、特に気付いている様子もなさそうである。彼は彼で好意に鈍感らしい。

「よし!」

「くそう!」

「箒さん、女性がクソなどと言うべきでは……」

一夏の隣に座る権利は小柄の少女が得て、その隣をポニーテールの少女。シャルロットの隣にセシリアが座る。

「先ずは自己紹介ね。あたしは凰鈴音よ。言い難いだろうし鈴で良いわ。中国の代表候補生で、一夏の幼なじみよ」

「セカンドな」

鈴の自己紹介に隣の少女がツッコミを入れた。セカンドとは何かとシャルロットが一夏に目線で問えば、彼は変わらぬ笑顔で答えた。

「ああ、鈴とは小学五年からの幼なじみなんだ。その隣にいる篠ノ之箒がその前からの幼なじみだから、ファーストとセカンドってこと」

篠ノ之箒と呼ばれた少女は目を鋭くさせた。警戒が強まったのと機嫌が悪くなったのが分かる。

その理由は篠ノ之の性にあるとシャルロットは理解した。同じく、デュノアの性を背負うことになったシャルロットだからこそ分かることであった。

「そう、宜しく。鈴さん。……箒さんで良いかな?」

苗字の事を聞いてこなかった事も、呼び名を避けた事も箒にとっては意外だったようで、目を丸くする。箒は目を逸らして、さんはいらないとぶっきらぼうに呟いた。

「あたしも別にさん付けしなくて良いわよ」

鈴もそれに応じる。

「私はセシリア・オルコットと申します。未熟な身ですがイギリスの代表候補生として活動しております。私もセシリアと気軽にお呼び下さい」

セシリアが頭を下げる。上品な仕草に、良い所のお嬢様である雰囲気が醸し出されていた。

「ああ、そう言えば俺も君付けはいらないぞ」

「うん、分かった。皆宜しく。ボクはシャルル・デュノア。フランスの代表候補生。日本は初めてだから、色々と教えてくれると助かる」

一気に賑やかになったテーブルで、自然な流れで話が弾んだ。

「いやー、しかしセシリアも丸くなったよな。最初の頃は……」

「一夏さん、それはもう言わないで下さいまし……」

「セシリアと鈴って、今日、山田先生と戦ってたよね」

「あの姿は即刻忘れなさい」

「山田先生普通に強かったな」

一夏は周りが女性でも気兼ねする様子はない。元々慣れているのか、慣れざるを得ない状況だったのか。

「そういえば一夏、お前あのボーデヴィッヒって娘に何をしたんだ」

箒が一夏に問い掛ける。一夏が悪い事が決定しているような言い方であったが、誰もそれを否定しない。

「いや、本当に身に覚えがないんだって」

「本当に?何かで勘違いさせて怒らせたとかじゃないの?」

信用がない。日頃の女性への行いが透けて見えるようである。

「そ、それより、俺以外に男がISを動かせるなんて思ってなかったよ」

露骨に話を変えてきたが、勘弁してあげるかと追求はなかった。

「この調子だと、他にも男性操縦者が見つかるかもな」

「さぁ、それはどうだろうね」

シャルロットが苦笑いで答える。実際、シャルロットは女性であるし、本当の所は一夏しか動かせていない。

しかし、平和だなとシャルロットは魚の身を突きながら思った。

一夏に警戒心が足りないのではないかと思っていたが、日本という土地は予想以上に平和であり、学園自体も穏やかなものだ。勿論、教師達は目を光らせているだろうが、学生達は正しく学園生活を満喫している。

生徒の中にはシャルロットと同じように男性操縦者の情報を盗もうと動いている者もいるだろうが、それも悉く失敗しているのだろうと、状況で察することができた。

警戒するのが馬鹿馬鹿しく思える空気がここにはある。

「…………」

……違うか。これが普通の日常なんだ。私が非日常に触れてしまっただけなんだ。

考えてみれば、複数の人達と食事をすることもなかったし、話をすることもなかった。こうして穏やかに過ごすのも久し振りである。

『楽しんで』

シャルルの言葉を思い出す。

……楽しいよ、シャルル。私は楽しんでる。

でも、ここには、君がいない。

「なぁ、シャルル。フランスってシャルルって名前多いのか?」

一夏の質問に思考から現実へ引き戻された。

「ん?まあ、それなりかな。昔に王族で付けられたこともある名前だからね」

何でと聞くと、一夏は視線を宙へ移して、懐かしむ目で語った。

「いやさ、千冬姉に連れられてフランスに行ったことがあるんだけど、そこで日本人の人に会ったんだ」

ドクンと、心臓が跳ねた。

「日本人なんだけど、シャルルって名乗っててさ」

それは。

その人は。

「ハーフとかではありませんの?」

「今思うとそうだったかもな。外国で日本人に会ったっていうのと、左目側に火傷の跡があったからよく覚えてるけどさ。シャルルの名前でふと思い出したよ」

カシャンと、乾いた軽い音が鳴る。

シャルロットの手から箸が零れ落ちていた。箸を落とした音でシャルロットは我に帰る。

「あれ、大丈夫?制服汚してない?」

「大丈夫だよ」

箸を拾おうとした手が、微かに震えていた。

「大丈夫」

自分に言い聞かせるように、そう言った。

 

 

 

シャルロットと一夏は同じ男性ということで同部屋となった。

シャルロットとしては都合の良い状況だったが、上手く行き過ぎて逆に訝しむ。何か作為的な物を感じて、寮長は誰かと尋ねた所、一夏の姉である千冬だと返答が返ってきた。

「それがどうかしたか?」

「ううん、別に」

シャルロットの頭に過る一つの疑問。

……もしかして、既にバレている?

その上で敢えて同室にしたということは、情報を持ち出す証拠を集めて捕まえる為か。或いは、いくら情報を集めても無意味ということか。

 

シャルロットは荷物を整理すると言って、先に一夏にシャワーを譲った。

まず、監視カメラや盗聴器の類を探る

。それらしい物は見つからないので一先ず安心した。

次に女とバレそうな物は全て鞄の中へしまい、ベッドの下へと潜り込ませる。ついでに一夏のベッドから彼の髪の毛を一本失敬した。DNAを調べるならコレで十分だが、これで男性操縦者の秘密が分かるならとっくの前から分かってるだろう。取り敢えず瓶に入れて保存しておく。

そこで風呂場から声が来た。

「ごめん、シャルル。シャンプーないから取ってくれないか」

「何処にあるの?」

「洗面所の戸棚の下」

シャルロットは洗面所へ赴きシャンプーの替えを取り出す。風呂場のドアをノックしてから開けて、手を伸ばして一夏に渡した。

「はい」

「サンキュー」

一夏の上半身が見えたが、シャルルで大分男慣れしているシャルロットは特に気にせずに、そのまま部屋へと戻った。

 

一夏がシャワーから上がったので変わってシャワーを浴びる。一夏には更衣室で同性にも見られたくないと言っていたので、気を遣って風呂場に近付いてくることはなかった。

「一夏って結構鍛えてる?」

風呂から上がったシャルロットは髪の毛を乾かしながら聞いた。シャルルと違って筋肉あるな、と思った故の率直な疑問だった。シャルルは筋肉がなかった上に体力もなかった。鍛えれば変わるだろうか。

「そこそこだな。IS学園へ入ってから鍛え直されてる感じかな」

「直すってことは、昔はスポーツやってたの?」

「剣道を少し。箒っていただろ?あいつの実家が道場でさ」

「ああ、確かに武道をしてる雰囲気はあったね」

そういえばと、あの場で出来なかった質問をしてみる。

「多分嫌がると思って聞かなかったけど、箒って、篠ノ之ってことはやっぱり関係あるの?」

篠ノ之束。ISを作った人物。

自由気ままな天災と呼ばれた女性。

「まあな。箒は束さんの妹だよ。あの人の性格とか行動でかなり苦労したみたいだからな……。政府の保護プログラムとかそんなので」

束の映像や写真は見たことがあるが、箒とは似ても似つかない。姉妹と言われてもいまいちピンと来なかった。

「大変そうだね、現在進行形で」

「そうだな。俺も束さんのことは正直苦手だし」

「篠ノ之博士って何処にいるんだろう」

「さあ、見当もつかないな。でも、千冬姉とは連絡を偶に取ってるらしい。俺の所にも非通知で電話来たりするし」

「自由人だね」

「自由を人間にしたような人だよ」

シャルロットは話しながら、内心溜息を吐いた。

やはり警戒心がない。ペラペラと喋っても良い情報でもないだろうに。しかし、千冬も束も口止めをしていないということは、別にバレても構わないのだろう。

……何処へ行っても誰かの掌の上な気がする。

その後、一夏にISを動かせた理由を聞いてみた。

受験会場を間違えてIS学園にきてしまい、そこにあったISに触れたら起動してしまったとのこと。何とも間抜けな理由で、動かせる理由も本人は知らなかった為、結局有意義な情報は得られなかった。

しかし、ISがそんなに無造作に置かれている筈もない。誰かの片付け忘れという線も捨て切れないが、一夏が嘘を吐いているか、誰かが仕組んだ線が濃厚だろう。

シャルロットとしては早く情報を集めてシャルルを解放したいだけに、先の重さに気が滅入るのだった。

 


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