覚えておいででしょうか。
しばらく更新をせずに申し訳ありませんでした。
そして、その中でも温かい感想を寄せてくれた皆様に深い感謝を。
この度、晴れてブラック企業を退社することができました。
皆様もブラック企業にはご注意を。
久しぶりということもあり、おかしな所が見受けられるとは思いますが、温かい目で読んでいただけると幸いです。
長くなりましたが、どうぞお楽しみください。
「ははっ。超ウケる」
登場して早々にどことなく黒歴史を彷彿させるセリフを言う男の名はエピソード。
ヴァンパイアハンターにしてハーフヴァンパイア。
ハーフ。つまり半分は人間の血を通わせている半吸血鬼である。
それだけ聞くと正真正銘の吸血鬼であったドラマツルギーに劣ってしまうように思えるが、そんなことは断じてない。
吸血鬼としての力を半分失う代わりに吸血鬼としての弱点を全て克服した、弱点らしい弱点のない
実際、彼はドラマツルギーと同様に霧に姿を変えて登場したし、肩には吸血鬼が苦手とする巨大な十字架を携えていた。
そんな彼は持ち前の三白眼で俺の全身を隈なく一瞥した後で更に口を開く。
「お前みたいな根暗そうなガキにドラマツルギーの旦那がやられるなんてよぉ・・・。本当に笑うしかねぇよな。どんだけ油断してたんだって話だっつーの。俺ァ吸血鬼が、吸血鬼退治してる奴らも含めて大嫌いだけど、それでもドラマツルギーの旦那だけは評価してたってのによ」
「・・・」
どうにも俺の評価は赤点らしい。真っ赤も真っ赤。落第まっしぐら。すみません。補習はありますか。死んでも受けたくないけど。
ついでドラマツルギーも道連れにしてしまったらしい。というか、ドラマツルギーだけは別ってなんなの? ツンデレなの? キマシタワー建設中なの? 工事は別のところで行ってください。ごめんなさいその目怖いのでやめてください死んでしまいます。
「で、ガキ。俺はどうすりゃいいんだ?」
「・・・は? どうするって戦いに来たんじゃねーのかよ」
「ああそうだよ。だけど何で勝負すりゃいいのかって聞いてんだ。別にバトらなくてもいいんだぜ?」
「マジか」
「マジだ」
ドラマツルギーは去り際に格好良く忠告していたが、蓋を明けてみればどうだろうか。
目の前の三白眼の男は、確かに戦いに来たのだろう。だが、やる気が微塵にも感じれない。
これはチャンスなのではないだろうか。
正直、戦うのは怖い。
だから、そのまま逃げれるのならそれにこしたことはないし、それでキスショットの足が、力が戻るというのなら万々歳ではないか。
「ははっ。超ウケる。なにマジになって考えてんだよ。まぁ、確かに、俺個人としちゃあ一々暴力沙汰にしなくても決着をつけてもいいんだけどよ。スポンサー様がお前は確実に殺すように言われちまっててな。恨むならハートアンダーブレードに眷属にされちまったことを恨むんだな」
そういってエピソードは十字架を投げつけてくる。
やり投げのように流れるようなフォームで投げつけられたそれは、金属という重さを感じさせることなく、ありえない速度で迫ってくる。
てっきり血腥い戦いを避けられるかと思っていた矢先の不意打ち、しかも、人外地味た攻撃に反応が遅れ片腕を持って行かれる。
「なんだよ。平和ボケしたガキかと思ってたのに、意外とイイ反応するじゃねーか。ははっ。超ウケる」
「全然ウケねぇんだよ!」
本当に全然ウケない。
なんで喧嘩すらしたことない、どころか運動すらもともにしてこなかった人間がいきなりこんな化物相手に殺し合いを演じなければならないのか。
でも、まあ。
あんな格好つけてここに挑んできた手前、そんなことを一々言っていては格好がつかないだろう。
痛いほど格好つけてここにいる。
なら、帰る時も痛いほど格好つけて帰ろう。
そう決意を固め、右手に槍を創造する。
そして、吸血鬼らしく血のような黒黒とした朱槍をエピソードに投げつける。
フォームもめちゃくちゃな素人の投擲は、我ながらありえない速度で武器を失ったエピソードの元へと駆けていく。
エピソードを貫くと思われたそれは、唐突に現れた霧を霧散させ、校庭のグランドにクレーターを作るという、運動部の皆様に申し訳ない結果を生み出すだけに終わってしまった。
「霧・・・?」
化物同士の殺し合い初心者の俺は失念していた。いや、油断していたと言っていいだろう。
だって、ドラマツルギーは戦いの最中に体を霧に変えることなどしなかったのだから。
体を何かに変えることは化物であってもかなりの集中力を使う。だから、ドラマツルギーのように戦闘に集中できるよう四肢のみを変身させたりと、局所的な変身しか行わない。
できるできないではなく、化物同士の殺し合いの最中に、相手から意識を割いたその瞬間に殺されてしまうから。
だが、目の前のヴァンパイアハーフはどうだろう。
先ほど投げた槍は速度的に見て、反射的に何かを行わなければ致命傷を負う場面で、よりにもよって体を霧へ変化させたのだ。
それはつまり、少なくとも”変化”という吸血鬼のスキルに関しては、ドラマツルギーや吸血鬼初心者の俺よりも練度が高いということだ。
そうこう考えているうちに霧は俺の近くで形作っていく。
そして、エピソードは流れるように俺を組み伏せ、巨大な十字架を俺の背中に押し当てた。
「ははっ。超ウケる。たかがあの程度当たらなかっただけでどんだけショック受けてんだよ。ナめてんのか?」
エピソードの三白眼が俺を射抜く。
そこには油断も驕りもなく、ただ淡々と仕事をこなす狩人のようであった。
考えろ。
こいつを倒すにはどうすればいい。
今俺にあるのは創造スキルを除けば、吸血鬼としての基本特性・エナジードレインと、他の吸血鬼を凌駕する再生力、そして化物染みた身体能力だ。
霧になる以上、ドラマツルギーにしたような檻の創造じゃ逃げられる。
霧になる以上、噛むこともできないからエナジードレインは発動できない。
となるとまずは霧を封じなければならない。
「なんかいろいろ考えてるようなツラしてるけどよぉ。俺がなんかさせるとも思ってんのか? ははっ。超ウケる。とりあえず、死んどけよ」
巨大な十字架が俺の心臓を貫いた。
次に四肢を弾き飛ばされる。
心臓を潰されたからだろうか。それとも、吸血鬼の天敵で潰されたからだろうか。再生速度が普段よりもひどく遅い。
ああ、キスショットもこんな感じだったのだろうか。
たしかに、死にたくないな。
ぐちゃぐちゃと血と肉が混ざり合って飛び散る音が耳に響く。
あんなに格好つけたのに勝負にすらならずに俺は負けるのか。
柄にもなくやる気なんて出したからいけなかったのだろうか。
どうやら俺の化物譚はここまでのようだ。
ーーーごめん。キスショット。