孤物語   作:星乃椿

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社畜の才能があることに気付く。働きたくないのに。最近は休みの使い方がわかないです。
前回の投稿は申し訳ありませんでした。当然お気に入りが減ってしまいましたが、それも致し方ありませんね。
低クオリティにも関わらず読んでいただいている皆様には感謝以外の言葉が思い浮かびません。ありがとうございます。
一応、012を編集しましたが、微修正しかしておりませんので気が向いた時にでも読んでいただければ幸いです。


013

 若干警戒レベルを引き下げつつも一挙一動に気を張り巡らせながら忍野と一緒に学習塾跡へと帰る。

 

 ぼっちにとって二人きりというのは身一つでサバイバルするようなものなのだが、考えてみれば今リアルに身一つでサバイバルの最中なので、そこまで苦にならなかった。というのは嘘で、忍野が相変わらず飄々と適当な話を振ってくるので気まずくならなかっただけなのだ。このとき心中で忍野に感謝したのだが、考えてみれば忍野と二人っきりなのはこいつのせいなのですぐに撤回した。

 

 「おお! 帰ったか!」

 

 なにこの子。超カワイイ。とりあえず忠誠の証を施しておく。忠臣に下心はない。いいな?

 というか、その笑顔やめてくれない? 出かけておいて当初の目的を成し遂げられずに、挙句、見知らぬおっさんを連れてきただけなんだから。

 

 「悪い。道中であの3人に襲われて必要なもん取ってこれなかったわ」

 「なんじゃ。何を取ってくるのか楽しみにいておったのにのう」

 「そんな大層なもんじゃないからね?」

 

 スマホの充電器とお金くらいだから。できれば寝袋とかも欲しいところだが、生憎ソロキャンプをするほどのプロボッチには至っていない。

 

 「で? あの3人と戦ったからには1人くらい倒しておろうな?」

 「いや、無理だから」

 「なにぃ?」

 「ごめんなさい!」

 

 この幼女超怖い。反射的に謝るくらい怖い。後ろで忍野が笑ってやがるし。覚えてろよ。

 

 「まったく・・・。儂の眷属ならあの程度どうにかせんか」

 「いや、3対1じゃ無理だから1対1にしようって話してたんじゃねぇかよ・・・」

 「ふん。1匹も3匹も変わらんじゃろうが。言っておろう? 殴って終わりじゃと」

 

 コイツ本当に見た目は幼女、頭脳は世紀末覇者だな。そもそも、出かける前に話したことほとんど忘れてるだろ。

 というか、本当に取り戻す気あんのかこの吸血鬼。自分の身体のことなんだからもっとちゃんと考えてほしいものである。

 

 そんな俺達を見ていた忍野が口を開く。

 

 「それなら僕が間に立ってあげようか?」

 「間に立つ?仲介するってことか? そんなことできるのかよ」

 

 とても人の話聞くようには思えないんだけど。そもそも、あいつらは俺のことを畜生程度にしか思っていない。そんなやつの条件など誰が聞くだろうか。

 

 「僕の専門はバランスを取ることだからね。中立の立場で交渉する、いわば、あちらとこちらの橋渡しをする交渉人なのさ」

 「交渉人・・・? てことは、何で交渉するんだ? まさか俺達がノーリスクでってわけにはいかないんだろ?」

 

 交渉というからには条件を提示しなくてはならない。もとより動けるのは俺しかいないため、あちら側には1対1という条件はメリットも何もない。むしろデメリットでしかない。

 故に、この条件を吞ませるためにはそれ相応の条件を提示しなくてはならない。

 

 「もちろんノーリスクとはいかないよ。で、どうするんだい?」

 

 もちろん、可能であるならお願いしたい。だがそうするにあたって大きな疑問を抱かざるを得ない。

 

 「お前はなんでこんなことに首を突っ込むんだ? お前にとってメリットないだろ」

 

 俺らに恩を売るっていうなら一応筋は通るが、それだったらやつらからキスショットの四肢を取り戻したほうが手っ取り早い。恐らく、こいつにはそれだけの力があるはずだ。

 あの3人に協力して俺らを嵌めるという考えもあるにはあるが、1対1にするメリットは皆無だ。闇討ちするという可能性も考えられるが、それだったら今ここで俺達を殺せばいいだけの話だ。

 

 「いっただろ。バランスを取ることが僕の仕事だって。このままだと些かバランスが悪いからね。これじゃあいじめみたいなもんだ」

 「バランス? なんのバランスを取るっていうんだよ」

 「そこらへんは今はまだ秘密ってことで」

 

 結局こいつの思惑はわからないままだが、少なくとも行動理由はわかった。“バランスを取る”ということが何なのかは分からず終いだっただ、少なくともビジネスライクであるなら信用足るものと判断した。

 

 「わかった。詳しくは聞かないことにする。で、お前は俺達の味方ってことでいいんだな?」

 「違うって。味方でもないし、敵でもない」

 

 中立だよ、と忍野は続ける。

 

 「間に立つって言っただろ? つまり中に立つってことだ。そこから先は君達次第さ。僕がするのは場を整えることだけ。実際に働くのは君達だ。僕は原因にも結果にも関与しない。精々、経緯を調整するだけさ」

 「・・・・・・わかったよ」

 

 飄々と場を仕切っていく忍野に俺とキスショットは多少なりとも困惑はしたが、この場における意見は全員が一致していた。

 

 「いいよな? キスショット?」

 「構わん。そこの小僧のスキルは確かに本物のようじゃしな。従僕がそれでよいのなら儂は口出しつもりはない」

 「話は纏まったかい? それで。どうする?」

 

 わかっているうえで意地の悪そうな笑みを浮かべる忍野に若干の苛立ちを覚えたが、なんとか飲み込み告げた。

 

 「頼む」

 「まいどあり~」

 

 ・・・。まいどあり?

 

 「はっはー。当然、僕も仕事だからタダってわけにはいかないよ。うーん。じゃあ、200万くらいでどうだい?」

 「詐欺師かテメェは!!」

 

 本買いにいったら命と一緒に200万の借金背負うとかどんな人生だ。というか、高校生に詐欺まがいの商法とるなよ。

 

 「そう目を腐らせるなよ。悪いことしてる気分になっちゃうだろ。もちろん、子供の君に催促したりしないさ。それくらい要求しないと、それはそれでバランスが悪いからね」

 

 200万。

 額としては随分と大きい。けれど、あの3人と真っ向からやり合って生き残れるとは到底思えないので命を200万で買ったと考えることにした。

 

 それにキスショットは500年生きてるって言ったし、俺が500年生きれると仮定すればそれほど大きい借金ではない。ような気がする。いや、俺働かないから無理だわ。

 

「安心していいよ。僕はできないことは口に出さない主義なんだ」

 

 なんだろう。なんとなく失敗するフラグに思えてくる。

 

 「具体的なプランを聞かせてもらおうかの。交渉と言っても、容易ではあるまい。そう易々とあの3人を説得できるとは思えぬ」

 「そこは企業秘密さ」

 

 忍野の飄々とした態度が気に障ったのか少しむっとするキスショットは少し苛立ったように再度問い直す。

 

 「では条件くらいは聞かせてもらおうかの。それくらいは考えておろう?」

 「まだ考えてないよ」

 

 キスショットも俺も拍子抜けしたのは否めない。けれど、余裕を感じ、どことなく頼もしい感じがする。あくまでも感じがするなのだが。

 

 「僕にできることは、頭を下げてお願いするだけさ。誠意を込めてね。話せばわかりそうな連中だったからさ」

 「馬鹿をいうなよ。それができたなら俺は襲われちゃいねぇよ」

 

 問答無用だったわ。悪即斬って感じ。

 

 「当たり前だろ。きみは今ハートアンダーブレードの眷属なんだぜ? 退治対象の君の言葉に耳を傾けてちゃ彼らはプロ失格だ」

 「・・・そうだな」

 

 忍野は人間で、俺は化物。そこには明確な壁がある。そこに一抹の寂しさを感じたのは否めないことだった。

 

 「まずはあの3人をバラかすのが先だろうね。一人一人を相手にすれば問題ないってのが、ハートアンダーブレード、君の読みなんだろう? なら、それを実現させようじゃないか」

 

 当然、と忍野は続けた。

 

 「さっきも言ったけれどノーリスクとはいかない。君達にはある程度のリスクを冒してもらうようになるけれど、そこはどうか呑み込んでくれ」

 「端からそのつもりじゃ。覚悟は決めておる。儂は勿論、従僕もの」

 「いや待て」

 

 なんで俺の覚悟まで勝手に決められてんの? なんでそんなキメ顔なの? いや、まぁある程度のリスクぐらいは考えてはいたけれど。それでも覚悟までは決めてないんだけど。

 

 「なんじゃ、決まっておらんのか。早く決めんか。儂が格好悪いじゃろうが」

 「あーはいはい。決まりました主サマー」

 「うむ。それでよい」

 

 ない胸を張る主人に忠誠を誓う。

 こいつのためなら。そう思えるのはこいつに血を吸われたからなのだろうか。柄にもなくやる気に満ちている自分に苦笑してしまったが、たまにはこんなのも悪くない。

 そう思えた。

 


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