―王城 謁見の間―
王城に到着し、騎士たちが槍で拘束しようとすると
「寄るな」
宿屋の時と同じように睨まれたため、そのまま謁見の間へと連れて行く。
其処にはなにやら不機嫌そうな王様と大臣。
そして
「ほう、てっきり宿屋にいると思っていたんだがな。マイン嬢」
その他にも、キタムラとアマギ、カワスミとその仲間が集まっていた。
アンデルセンが声をかけるとキタムラの後ろに隠れて、こちらを睨んでいた。
「おや、どうやら嫌われてしまったようだな。どうしたのかな?」
微塵も思っていないのに、困ったかのように話す。
「本当に身に覚えが無いのか?」
キタムラ仁王立ちで詰問してくる。
「身に覚え…はて、なんのことだろうな?宿屋の俺の部屋から銀貨がごっそり無くなったことでないのなら、分からんな」
「お前、まさかこんな外道だったとは思いもしなかったぞ!」
「外道、か。まさか会って数日の人間にそんなことを言われるとは」
自分から見れば、盗まれた銀貨のほうが大事のように思えるが今はどうでもいいことのようだ。
「して、盾の勇者の罪状は?」
「俺としても、詳しく教えてもらいたいものだな」
「うぐ……ひぐ……盾の勇者様はお酒に酔った勢いで突然、私の部屋に入ってきたかと思ったら無理やり押し倒してきて」
「ふむ、それで?」
「盾の勇者様は、「まだ夜は明けてねえぜ」と言って私に迫り、無理やり服を脱がそうとして」
思わず笑ってしまいそうになるのを抑える。この俺が『まだ夜は明けてねえぜ』とはね。
「私、怖くなって……叫び声を上げながら命からがら部屋を出てモトヤス様に助けを求めたんです」
「そこでお前が出てくるのか、なあキタムラ」
昨日の晩は食事の後は別れてそれぞれの部屋で眠った。こういった所でこいつらは聞かないだろう。
「やれやれ、部屋で眠っていただけなのにまさか強姦魔扱いされるとは」
「嘘を吐きやがって、じゃあなんでマインはこんなに泣いてるんだよ」
「関係ないな、その女が泣いているからといってそれは真実ではないだろう」
この男は来客室で話していたように、女を多く侍らしていたらしい。大方、泣いている女が嘘などつくわけ無いとでも思っているのだろう。
「第一俺のほうが被害を訴えたいのだがな、犯人を探してくれないか、
「黙れ外道!」
嫌味たっぷりに国王に話しかけると国王は怒鳴って返事をした。
「嫌がる我が国民に性行為を強要するとは許されざる蛮行、勇者でなければ即刻処刑物だ!」
「これは驚いた、その国民の上に立つものがまさか証拠もなしに断罪しようとするとは」
今の発言で、この国王はただの愚か者であることが分かった。まあ、はじめからこうするのが目的だったのかもしれないが。
「異世界に来てまで仲間にそんな事をするなんてクズだな」
「そうですね。僕も同情の余地は無いと思います」
他の二人の勇者も断罪し始める。こいつらも女には弱いようだ。
「本当にどうしようもないな、そんなに言うなら新しい勇者でも呼んでそいつに任せたらどうだ?」
何度も言っていることだが、こいつらはアンデルセンを無理やり連れてきたのだ。その上冤罪をかぶせるとは、呆れ果てたものだ。
「都合が悪くなったら逃げるのか? 最低だな」
「そうですね。自分の責務をちゃんと果たさず、女性と無理やり関係を結ぼうとは……」
「帰れ帰れ! こんなことする奴を勇者仲間にしてられねえ!」
「…くく」
小さく漏れでてしまう。どこまでも愚かなその姿に
もうこらえきれはしなかった
「くははははははははははは、はっははははははははは、ヒャハハハハハハハハハハハハ」
謁見の間に響き渡る笑い声、隠そうともせずアンデルセンは嗤い続けた。
その場にいた者達は先程までの雰囲気と異なり、アンデルセンのその様子に驚愕していた。
「お前たちは相変わらずガキのような考えしかできていないようだな!ゲーム?知っている世界?そんなもの俺から言わせてもらえばガキの頭の中にしかない妄想の世界だ!」
「な、なんだと」
キタムラ激怒して言い返すが、アンデルセンは無視する。
「そうだ、その通りだ国王。気に入らないのなら新しく召喚すればいいではないか。初めて会った時から俺に対して良い感情を持っていなかったことは知っているのだ。何故その時しなかった?出来ない理由でもあるのか、ええ?」
そうだ、最初にここに連れてこられた時、『報酬と支援金』については確かに言っていた。
だが『元の世界へ帰れるか』については一言も触れていなかった。
「聞かれなかったからこれ幸いと話題をすり替えたのだろう?『波の襲来が終われば帰れるのか』ではなく、『波の襲来が終わるまではしっかりと援助するか』と。違うか?」
国王をしっかりと見据えアンデルセンは問い詰める。
「…こんな事をする勇者など即刻送還したい所だが、方法が無い。再召喚するには全ての勇者が死亡した時のみだと研究者は語っておる」
「……な、んだって」
「そんな……」
「う、嘘だろ……」
あっさりとバラした国王に他三人はうろたえた。
「くははははははははははは、だから貴様らはガキなのだ。そんな大事なことを確認もせずに、勇者ごっこを引き受けてしまうとはな!」
見通しの甘さ、状況判断の不足、そして思い込みによる契約の問題点を見逃す。自業自得としか言いようが無い。
「で? 俺に対する罰は何だ、国王?磔にでもするか?」
罪があるというのなら、然るべき罰を持ってして償う。当然のことをアンデルセンは問う。
「……今のところ、波に対する対抗手段として存在しておるから罪は無い。だが……既にお前の罪は国民に知れ渡っている。それが罰だ。我が国で職に就けると思うなよ」
「そんなものに、はなから興味はない。どうでもいい」
要するに恩赦としておくから、波にはしっかりと対抗しろというものらしい。国王が言った罪も、アンデルセンにとっては罪にすらなっていなかった。
「1ヵ月後の波には召集する。例え罪人でも貴様は盾の勇者なのだ。役目から逃れられん」
「ご高説痛みいるぞ、国王」
胸に手を当てて軽く会釈をする。もうここにいる理由もない。
「ああ、そういえばまだしていないことがあったな」
そう言うと持っている盾の中から銀貨を『30枚』取り出した。
「ほれ、これが欲しかったんだろう。勇者殿?」
そのままキタムラに投げつける。
「うわ! 何するんだ、お前――!」
キタムラの罵倒が聞こえてくるが知ったことではない。
謁見の間をでてそのまま城下町へと出る。
城を出ると道行く住民全てがヒソヒソと内緒話をしている。
その横を通りすぎてアンデルセンは城下町の外に向かった。
どうせこの街にいたとしても、住民がいい目を向けてくるはずもなく取引において足元を見られるのは火を見るより明らかだ。
拠点は街の中に構えるとして、今は自分の能力を少しでも上げるのが先決だった。
―草原―
「……」
草原に立ちながらアンデルセンは考えていた。かつて自分が愛用し、今でも神父服にしっかりと残っている、
「使えないなら、諦めるほかないか」
服に手を入れて、宿敵との戦い以来になる
その瞬間だった
『特殊武器が装備されました 伝説武器の規則事項「専用武器以外の所持」の一部を限定解除します』
目の前に現れた文字、その文字は決して長くはなく、しかし
「…主よ」
アンデルセンが待っていた文字に他ならなかった。
「感謝いたします」
膝をつき懺悔のような姿で祈りを捧げた。
『限定解除条件「主の微笑み」:特殊スキル「祝福儀礼」を施した武器に限り、自身の所有する伝説の武器以外の使用を許可します』