聖十字の盾の勇者   作:makky

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敵意なる者達

 

 ―城下町―

 

 魔物退治を早めに終わらせると、二人は城下町へと戻ってきた。

 先ほど訪れた武器屋に再び立ち寄ることにした。

 

「お、盾のあんちゃんじゃないか。他の勇者たちも顔を出してたぜ」

 

 どうやら他の面々もやってきていたようだ。

 

「魔物が落としたこいつが売れると聞いたんだが、ここで買い取りはしているのか?」

 

 所謂『素材』は売れるとマインは言っていた。ここは武器屋なのでおそらく素材の買い取りはしていないだろうが、一応聞いてみる。

 

「魔物の素材買取の店がある。そこへ持ち込めば大抵の物は買い取ってくれるぜ」

「そうか、分かった」

「で、次は何の用で来たんだ?」

「ああ、こいつの装備を買うことになってな」

 

 マインの方を見ると、二人の会話は聞いていなかったようで店内の装備品を食い入る様に見ていた。

 

「今回の予算額は?」

「手元に銀貨800枚あるが、どのくらいが良いマイン嬢?」

「……」

「聞いていないな」

 

 本気で選定しているらしく、相変わらず話は聞いていなかった。

 

「お連れさんの装備ねぇ……確かに良いものを着させた方が強くなれるだろうさ」

「まあな」

 

 まともに攻撃できるのがマインだけなので、彼女の強化は必要だろう。

 

「値下げ交渉なら受け付けるぞ」

「ほう、かなり値が張りそうな雰囲気だが良いのか?」

「雑談で時間を潰せたほうが良いだろう」

 

 暇つぶしのために利益を下げるのはいかがなものかとも思うが、本人がそれでいいなら受けて立とう。

 

「8割引だ」

「幾らなんでも酷すぎる! 2割増」

「交渉とは吹っ掛けていくものだぞ?後、それではこちらが損だろう。7割9分」

「商品を見せてねぇで値切る野郎には倍額でも惜しいぜ!」

「ははは、それもそうだな。9割引」

「チッ!2割1分増!」

「ほう、さらに増やしていくか?では、こちらは10割引だ」

「それはタダってんだ勇者様! しょうがねえ5分引き」

「まだまだだな、9割2分――」

 

 しばらくいい大人が二人で馬鹿して時間を潰していると、マインは選定を終えて帰ってきた。

 持ってきたのは女性が気に入りそうな鎧と、自分が進められた剣よりも高級そうな剣だった。

 

「勇者様、私はこのあたりが良いです」

「店主、合計でいくらだ? 6割引」

「オマケして銀貨480枚でさぁ、これ以上は負けられねえ5割9分だ」

「まあ、妥当だろう」

 

 それまでしていた値下げ交渉に決着がついた。

 これで残金は銀貨で320枚となる。

 

「これで頼む、店主」

「ありがとうございやした。まったく、とんでもねぇ勇者様だ」

「何があるか分からんからな、資金は残すのが吉だろう?」

 

 今後の行き先が不安定である以上無駄な出費は抑えなければいけないし、いざという時資金が足りない事態は避けなければならない。

 

 「ありがとう勇者様」

 

 ご機嫌なマインがアンデルセンの手にキスをした。

 一瞬顔が歪みそうになるがなんとか抑える。

 5割9分引になったとはいえ、元の値段は支援金として受け取った800枚を大きく上回っていた。

 

(冒険者らしくない金遣いの荒さ、それでいて俺に使う予算は自分より少ないと来た。これで疑わないほうが馬鹿というものだ)

 

 明らかにアンデルセンが何も考えていないことを前提にして動いている。見下しているとでも言えばいいだろうか。

 アンデルセンの中ではこの女に対する感情は、すでに最悪なものになっていた。

 

 

―宿屋―

 

 装備を新しくしたマインとアンデルセンは、城下町にある宿屋へと赴いていた。

 部屋数に関係なく、一泊一人あたり銅貨30枚だそうだ。

 

「二部屋でお願いします」

 

 この決定に問題はない。アンデルセンとしてもこの女と同じ部屋など虫酸が走る。

 

「はいはい。ごひいきにお願いしますね」

 

 宿屋の店主が揉み手をしながら今日泊まる部屋を案内する。

 その後宿屋に並列している酒場で晩食を取る。

 別料金の食事銅貨5枚×2を注文した。

 

(頭の中に地図は叩き込んでおく必要があるな)

 

 草原からの帰りに購入した地図に目を通しながら考える。

 昨日の他三人の様子を見る限り、教えてくれる可能性は低いだろう。

 たとえ教えてくれたとしても、それが正しいか判断することが出来ない。

 

(今日いた草原の先に森があるな。明日行くとしたらその辺りか)

 

 そこまで広くない地図に大まかな道、山や川、森に林、そして村などが書き込まれている。

 潜入して命令を遂行することばかりだったので、記憶力は良いほうだ。

 

「そういえば勇者様はワインなどは飲まれないのですか?」

「ん?ああ、基本飲まんな」

 

 カトリックに断酒の掟はない。だが飲酒をすることで依存し、堕落してしまうことが多い。なので自主的に断酒するのが良いとされている。

 ちなみにアンデルセンは、堕落するからと言うより判断力が低下するので、基本的に飲むことはなかった。

 

「そうなんですか、でも一杯くらいなら」

「いや、無理に飲んで悪酔いしても困るだろう。遠慮しておこう」

「でも……」

「悪く思わんでくれ」

「そう、ですか」

 

 残念そうにマインはワインを引っ込めた。

 

「今日はお互い疲れただろう。明日に備えて早めに休むとしようか」

「はい、また明日」

 

 食事を終えた二人は騒がしい酒場を後にして割り当てられた部屋へと向かった。

 

 

―宿屋の部屋―

 

 部屋に戻ると、アンデルセンは袋の中に入った残り319枚の銀貨(宿泊代や地図代で1枚使用)のうち119枚を盾の中にしまう。

 

「…さて、何を仕掛けてくるだろうなあの女狐は?」

 

 酒場で酒を進めてきたのも今夜何かをするための布石にするためだろう。

 寝首をかくか、色仕掛けか、考えられることは多くない。

 どちらにせよ、今日できることはない。このまま連中の茶番に付き合うのも一種の暇つぶしになる。

 ベッドの上で座りながら、アンデルセンは眠りについた。

 

 チャリチャリ……

 小さな音がする、金属がお互いに当たるような音。

 ゴソゴソ……

 何かを探る音もしてくる。

 

「……」

 

―翌日―

 

 窓から入り込む陽の光がアンデルセンを照らしだす

 

「…ははは」

 

「ぎゃはははははははははは!!何をしてくるかと思えば、児戯にも劣るものだったな!」

 

 突然大笑いするアンデルセン、机の上においてあった銀貨の袋がないことをしっかりと確認すると部屋を出る。

 廊下に出て隣のマインの部屋を通り過ぎ、下へ続く階段に向かう。

 すると一階の方から誰かが上がってくる。

 見ると甲冑に身を包んだ騎士が数名アンデルセンの方に向かってくる。

 

「これはこれは、お早いご到着のようで」

 

「盾の勇者だな!」

「他のものに見えないのなら、そうだろうな」

 

 敵愾心を隠すこと無く話しかけてくる騎士にアンデルセンは答えた。

 

「王様から貴様に召集命令が下った。ご同行願おう」

「召集命令、か。断る理由はないな」

「さあ、さっさと着いて来い!」

 

 騎士の一人がアンデルセンの腕をつかむ。

 

「触るな」

 

 低い声で、騎士を見ながらアンデルセンは言った。

 

「っ?!」

 

 まるで首筋に刃物でも突き立てらてたかのように、騎士は思わず掴んでいた手を放す。

 

「…心配しなくても、きちんと付いて行く。案内してくれ」

「あ、ああ。分かった」

 

 宿屋の前には馬車が止まっていた。どうやらこれで王城へと向かうようだ。

 

「乗れ!」

 

 騎士に促され、アンデルセンは馬車へと乗り込む。

 全く動じないアンデルセンに少なくない恐怖を覚えながら、騎士たちは馬車とともに王城へと入っていった。


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