聖十字の盾の勇者   作:makky

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『伝説』の代償

 

 ―城外の草原―

 

 城門の外には広大な草原が広がっていた。

 これ程の平原は、アンデルセンがいた時代ではなかなか見ることのできないものだろう。

 

「さて、この近くに魔物がいるのだな?」

「はい、まずは弱い魔物でウォーミングアップをしましょうか」

「如何せん盾しか使えないからな、どの程度戦えるか試さないとな」

「頑張ってくださいね」

「うむ」

 

 どの道今回は一人で行動するつもりだ。自分の状況がどれほど切迫しているのか把握しなければならない。

 

「勇者様、居ました。あそこに居るのはオレンジバルーン……とても弱い魔物ですが好戦的です」

 

 名前がなんとも言えないものだ。だからといって侮るようなことはない。

 

「ほう、想像していたよりも小さいな」

 

 基本的に人型の化物(フリークス)を相手にしてきたため、目の前にいる風船くらいの魔物は当然小さい部類に入る。

 

「ガア!」

 

 鳴き声を上げて風船のような魔物はアンデルセンに向かってきた。

 

「頑張ってください勇者様!」

 

 マインが声援を送る。

 アンデルセンは右手にある盾を構えた。

 

「……」

 

 そして突っ込んできた敵を

 

 ガンッ

 

 盾で受け止めてから

 

「シイィィィィィィィィィィィ!!」

 

 おもいっきり蹴り飛ばした。

 

「ちょ、えぇぇぇぇぇ!?」

 

 後ろからマインの驚愕の声が聞こえてくる。

 

「ギィッ?!」

 

 そんなもの関係ないと言わんばかりに、魔物はそのまま蹴られた方向へと飛んでいってしまった。

 

「ふん、仕留め損ねたか」

「仕留め損ねたか、じゃないですよ!なんですか今の!なんで蹴りなんですか!」

「盾で攻撃などできるわけ無いだろう。大した攻撃が出来ないのだから時間がかかる。それなら使わないで、他の方法で攻撃した方が良いだろう?」

「なんと言う暴論、でも否定出来ない…!」

 

 蹴った時の感覚で、致命傷ではあるだろうがまだ生きていると予想した。

 

「蹴りではいかんな、素手でも難しいだろう。ますます厄介だな」 

「蹴っただけであれほど吹っ飛んでいるなら問題ないと思うの…」

 

 もう一撃を加えてとどめを刺すために魔物が飛んでいった方向へと向かう。

 予想通り瀕死ではあったが魔物はまだ息があった。

 

「どんな威力の蹴りをすれば、とても弱いと言っても魔物を一撃で瀕死にできるんですか」

「どんな生き物にも急所が存在する。それを素早く見抜いて攻撃を加えるだけだ」

「そんなさも当然みたいに言わないでよ…」

 

 何事もなかったかのようにアンデルセンは再び魔物を蹴り飛ばし、今度こそ仕留める。風船のような魔物は見た目通りに破裂した。

 ピコーンと音がしてEXP1という数字が見える。

 

「EXP?」

「それは経験値のことですよ、一定以上集まるとレベルが上ってステータスが上昇するんです」

「それが今回は1上がったのか」

 

 そんな話をしていると足音が聞こえてくる。

 

「あれは、アマギの組か」

 

 アマギが仲間を連れて走り去って行く。

 彼らの前に先ほどの魔物、オレンジバルーンが三体現れる。

 

 ズバァ!

 

 アマギが剣を横に一閃すると音を立てて三匹とも破裂した。

 

「やはり戦闘能力が違いすぎるな」

「インパクトなら盾の勇者様以上のものはないと思う」

 

 戦利品のオレンジバルーンの残骸を拾う。ピコーンと盾から音が聞こえる。

 徐に盾に近づけると淡い光となって吸い込まれた。

 『GET オレンジバルーン風船』

 そんな文字が浮かび上がり、ウェポンブックが点灯する。

 中を確認すると『オレンジスモールシールド』というアイコンが出ていた。

 まだ変化させるには足りないが、必要材料であるらしい。

 

「これが伝説武器の力ですか」

「ああ、これで武器を強化できるわけだ」

「なるほど」

「ところで、さっき魔物が落とした風船とやらは売れるのか?流石に支援金だけで活動するのは不自由だ」

「そうですね、大体銅貨1枚で売れれば良いくらいですね」

「大した金額にはならんようだな、ちなみに銀貨は銅貨何枚分だ?」

「銅貨の場合は100枚です、ちなみに銀貨100枚で金貨1枚になります」

 

 そうすると『金貨1枚=銀貨100枚=銅貨10000枚』となるわけである。

 

「通貨価値がわかりにくいな、何か目安はないか」

「うーん、先ほどの武器屋の標準的な鉄の剣が銀貨100枚前後ですね」

「益々分かりにくいな」

 

 どの道今後使っていくのだから、嫌でも覚えることにはなるからいいのだが。

 

 その後はマインが攻撃に回り、アンデルセンは防御に集中した。

 マインは剣での戦闘が得意なようで、オレンジバルーンを二振りで倒していた。

 

 やがて日が傾き、時間的にも遅くなり始めていた。

 

「もう少し進むと少し強力な魔物が出てくるのですが、そろそろ城に戻らないと日が暮れますね」

「なかなか多い数を倒したからな、明日から本格的に始めても遅くはないだろう」

 

 今日は最初に現れたオレンジバルーンと色違いのイエローバルーンのみだった。 

 

「今日は早めに帰って、もう一度武器屋を覘きましょうよ。私の装備品を買ったほうが明日には今日行くより先にいけますよ」

「そのほうがいいだろう」

 

 短時間だけでも戦ったことで把握できたことも多い。

 レベルを上げるには魔物を倒す必要があること。

 盾に吸収させられる素材の数には限りがあること。

 素材は売ることもできること。

 

(何より、盾だけでもある程度戦えることが分かった。他の武器が使えないのだから、銃剣(バイヨネット)の確認もしないとならんが、最悪の状況は免れそうだな)

 

 この女の目的もはっきりしないが、優秀なのは間違いない。妙な動きをしないのならこのまま行動をともにしても構わないだろう。

 

(大方あの王に何かを任されているのだろうが、裏でコソコソしてこの俺をごまかせるとは思わんことだ)

 

 こいつが何をしようが関係無い。

 

 主の怨敵を、ただ打倒さなければならないのだから。


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