聖十字の盾の勇者   作:makky

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明ける夜

 朝食を終えて四人は昨日国王が言っていた仲間のことを案内係の男に聞いた。

 国王には他の職務もあり、10時頃からを予定して謁見することになっていると説明された。

 来客室で待っていると、予定通り案内係が来て謁見の間に向かうこととなった。

 

 ―謁見の間―

 

「勇者様のご来場」

 

 謁見の間の扉が開くと其処には様々な服装をした男女が12人ほど集まっていた。

 

(見た限りだと、全員それなりの手練か)

 

 騎士の甲冑に身を包んだ者もおり、援助するという言葉に嘘偽りは無いようだ。

 四人は国王に(約一名内心で主に行うような感覚で)一礼し、話を聞く。

 

「前日の件で勇者の同行者として共に進もうという者を募った。どうやら皆の者も、同行したい勇者が居るようじゃ」

 

 単純に考えれば一人あたり三人ずつに別れることとなるが

 

(『悪魔』の話が事実なら、あまり期待しないほうがいいな)

 

 ある意味楽しそうに待つアンデルセンであった。

 

「さあ、未来の英雄達よ。仕えたい勇者と共に旅立つのだ」

 

 自分たちではなく希望者に決めさせるところにも、見世物にしようと言う悪意が見え隠れしているように感じる。

 そんな状況で別れた結果

 

 天木 錬   5人

 北村 元康  4人

 川澄 樹   3人

 アンデルセン 0人

 

「やれやれ、随分と嫌われているようだな」

 

 案の定アンデルセンのところには誰一人来なかった。だが一つ予想外だったのは

 

「う、うぬ。さすがにワシもこのような事態が起こるとは思いもせんかった」

 

 首謀者と思っていた国王が冷や汗をかいて驚いていたことだ。てっきり予想していたものと思ったが、一人くらい行くだろうとでも考えていたのだろうか。

 

「人望がありませんな」

 

 呆れ顔で大臣が切り捨てる。

 

「昨日来たばかりの人間に、人望を求めるのもおかしな話だがな」

 

 嫌味を言うと発言した大臣がムッとした顔になる。

 そこへローブを着た男が王様に内緒話をする。

 

「ふむ、そんな噂が広まっておるのか……」

「何かあったのですか?」

 

 キタムラが微妙な顔をして尋ねる。

 

「ふむ、実はの……勇者殿の中で盾の勇者はこの世界の理に疎いという噂が城内で囁かれているのだそうだ」

「それの何が問題なのだ?」

「伝承で、勇者とはこの世界の理を理解していると記されている。その条件を満たしていないのではないかとな」

 

 国王がそう言うと、隣りにいたキタムラが脇を肘で小突く。

 

「昨日の雑談、盗み聞きされていたんじゃないか?」

「だとしてどうしろと言うんだ?条件を満たしていないから勇者失格など、勝手に連れて来ておいてよくそんなことが言えたものだな」

 

 全くもって迷惑な連中だ、失格なら今すぐ辺獄に連れて行ってもらいたいものだ。

 

「まあ言い訳しても仕方がない、誰もいないのなら一人で行動する他有るまい」

 

 自分から付いて行きたい勇者を選んだのだ、今更変更する奴もいないだろう。不公平かもしれないが、無理やり仲間にすると士気が落ちかねない。事は一刻を争うのだから、どこかで妥協が必要だ。

 

「しかし…」

「なに、一番弱いと言っても勇者なのだから、自分の身ぐらいは守れる」

「そこまで言うのならば…」

 

 一人で行動すつことが決まりかけていたその時だった。

 

「あ、勇者様、私は盾の勇者様の下へ行っても良いですよ」

 

 キタムラのところにいた一人の女が片手を上げて立候補する。

 

「無理に来る必要はないぞ」

「私は大丈夫ですよ」

 

 セミロングの赤毛、幼い顔立ちの女は快諾した。

 

「他にアンデルセン殿の下に行っても良い者はおらんのか?」

 

 国王が最後の確認をするが、他に手を上げるものはいなかった。

 

「しょうがあるまい。アンデルセン殿はこれから自身で気に入った仲間をスカウトして人員を補充せよ、月々の援助金を配布するが代価として他の勇者よりも今回の援助金を増やすとしよう」

「妥当なところか、まあ善処しよう」

 

 この国に『悪魔』なんかの仲間に進んでなりたい奴がいるなら、是非見せてほしいものだ。

 そういう意味では、立候補した女は要注意しなくてはなるまい。 

 古今東西、政敵を貶すのに有効だったのは、女を充てがうことなのだから。

 

「アンデルセン殿には銀貨800枚、他の勇者殿には600枚用意した。これで装備を整え、旅立つが良い」

「「「「は!」」」」

 

 四人は国王に(約一名内心で嗤いながら)それぞれ敬礼し、謁見を終えた。

 それから謁見の間を出ると、それぞれの自己紹介を始める。

 

「えっと盾の勇者様、私の名前はマイン=スフィアと申します。これからよろしくね」

「よろしく頼む」

 

 親しみやすい感じで接してくる、人当たりがよいというのだろう。

 

「では行くとするか、マイン嬢」

「はーい」

 元気な声で返事をして、マインはアンデルセンの後ろを付いて城を出た。

 

―城下町―

 

 城門と跳ね橋を渡ると、古き良き中世時代の町並みが広がっていた。ますます自身の元いた場所が懐かしく思えてくる。

 

「これからどうします?」

「まずは武器の確保だ、伝説の武器が盾なら攻撃できる武器は必須だろう。防具は、マイン嬢の分だけでもいいが」

「勇者様は付けないんですか?」

「ああ、付けてもあまり意味は無さそうだからな」

「じゃあ私が知ってる良い店に案内しますね」

「お願いしようか」

「ええ」

 

 スキップするような足取りで、マインは武器屋に案内した。

 城を出て十分ほど歩くと、一際大きな剣の看板を掲げた店の前でマインは足を止めた。

 

「ここがオススメの店ですよ」

「実にわかりやすいな」

 

 店の扉から店内を見ると壁に武器が掛けられている。まさしく武器屋といった面持ちだ。

 他にも鎧などの冒険に必要そうな装備は一式取り扱っている様子。

 

「いらっしゃい」

 

 中に入ると、店主らしい男が声をかけてきた。筋骨隆々の身体は、どれほど鍛えればそうなるのかと思うほどに鍛え上げられていた。

 

「お、お客さん初めてだね。当店に入るたぁ目の付け所が違うね」

「ああ、彼女のおすすめらしいのでな」

 

そう言ってマインの方を見遣ると、マインは手を上げて軽く手を振る。

 

「ありがとうよお穣ちゃん」

「いえいえ~この辺りじゃ親父さんの店って有名だし」

「嬉しいこと言ってくれるねぇ。所でその変わった服装の彼氏は何者だい?」

 

 バチカン第13課(イスカリオテ)の時の服装だから仕方ないが、笑顔を維持し続けているアンデルセンはよく我慢している。

 

「親父さんも分かるでしょ?」

「となるとアンタは勇者様か! へー!」

 

 まじまじと店主はアンデルセンを凝視する。

 

「結構頼りになりそうな顔だな」

「やっぱりそう見えますか?」

 

 本心かどうかは知らないが、言われて悪い気はしない内容だった。

 

(ふん)

 

 相手がアンデルセンでなければ、だが。

 

「だが良いものを装備しなきゃ舐められるぜ」

 

 分相応のものを身につけることは、一種のステータスだ。見ただけでどういった人物かがわかるのだから。

 

「盾の勇者、アレクサンド・アンデルセンだ。色々と厄介になるかもしれん、よろしく頼む」

「アンデルセンねえ。まあお得意様になってくれるなら良い話しだ。よろしく!」

 

 アンデルセン自身は今回で関係が終わる気がしているが、小さなことだろう。

 

「ねえ親父さん。何か良い装備無い?」

 

 マインが店主に尋ねる。

 

「そうだなぁ……予算はどのくらいだ?」

「そうねぇ……」

 

 マインが値踏みするように見る。

 

「銀貨250枚の範囲かしら」

(相場の説明もなく勝手に決めるか)

 

 事前におおよそでも構わないから説明があると思ったが、他の勇者は確かな仲間がいたなと思い出す。

 

「お? それくらいとなると、この辺りか」

 

 店主はカウンターから乗り出し、店に飾られている武器を数本、持って来る。

 

「あんちゃん。得意な武器はあるかい?」

「あー、一応双剣?を扱ったことなら」

 

 銃剣(バイヨネット)が双剣の扱いになるのかとか、そもそも扱い方(同時に八本まで持てる、突き刺して使う、投げる等)的に『双』剣じゃないとか、時々爆発していたとか色々あるが小さいことだ。

 

「となると扱いやすい剣を2つ持つのがいいかもしれないね」

 

 数本の剣がカウンターに並べられる。

 

「どれもブラッドクリーンコーティングが掛かってるからこの辺りがオススメかな」

「ブラッドクリーン…ああ、血糊対策か」

「あら、分かるの?」

「多少はな」

 

 言語は自動で翻訳されているらしいが、何故英語で翻訳されているのかについては不明だ。困ることもないから良いが。

 

「左から鉄、魔法鉄、魔法鋼鉄、銀鉄と高価になっていくが性能はお墨付きだよ」

「…銀鉄?」

「特殊な合金で出来ていてね、切れ味も強度も抜群だよ」

 

 純銀ではないが、銀製の武器があるのは助かる。と言うより、この世界に銀があったことが分かっただけでも十分だ。

 

「まだまだ上の武器があるけど総予算銀貨250枚だとこの辺りだ」

「ふむ、触ってもいいか」

「おう、落っことすなよ」

 

 店主の了承を取り付けると、銀鉄の剣を握る。

 

銃剣(バイヨネット)よりも軽いな。大きさもそうだが、鉄が混ざって軽くなっている。これは使いにくそうだな)

 

 バチンッ

 

「っ!」

 

 突然だった。持っていた剣が手から弾かれたように飛んでしまった。

 

「お?」

 

 店主とマインが不思議そうな顔でアンデルセンと剣を交互に見る。

 

「…まさか」

 

 落ちた剣をもう一度拾い直す。しばらく持ち続けていると

 

 バチンッ

 

 同じように飛んでいき床に落ちてしまう。

 

「…最悪だな、これは」

 

 しばらくすると、視界に何かが映り込んでくる。

 

『伝説武器の規則事項、専用武器以外の所持に触れました』

 

 すぐに該当しているヘルプを呼び出す。

 

『勇者は自分の所持する伝説武器以外を戦闘に使うことは出来ない』

 

「どうやら俺は、今後この盾以外の武器を使えないようだな」

 

 伝説の武器らしくとんだお転婆娘のようだと、内心笑ってしまう。

 

「どんな原理なんだ? 少し見せてくれないか?」

 

 腕から外せないのでそのまま店主の前まで持っていく。小声で何かを呟くと、小さな光のようなものが盾に飛んでいき弾けた。

 

「ふむ、一見するとスモールシールドだが、何かおかしいな……」

 

 どうやら武器の性能を確認できる呪文のようなものだったようだ。

 

「真ん中に核となる宝石が付いているだろ? ここに何か強力な力を感じる。鑑定の魔法で見てみたが……うまく見ることが出来なかった。呪いの類なら一発で分かるんだがな」

 

 先ほど使ったのは魔法というらしい。魔女裁判以来、カトリックでその名を聞くことはなくなったがこの世界では実在するものだった。

 

「面白いものを見せてもらったぜ、じゃあ防具でも買うかい?」

 

 見終わって満足したらしく、店主は防具について聞いてくる。

 

「俺は基本防具は付けん、マイン嬢の方に見繕ってくれるか」

「そのことなんですけど」

 

 マインが口を挟む。

 

「今のところ勇者様の実力を把握できていないので、確認してから防具は決めたいと思っているんですよ。本当に必要ありませんか?」

「ああ、付けるとむしろ動きにくくなる。昔から付けているならともかく今からではかえって不必要だ」

「では仕方ありませんね、すみませんね親父さん」

「いやいや、気が変わったらまた来てくれればいいよ。じゃあ頑張って」

「ああ」

「またねー」

 

 そう言って二人は店を出た。

 

「さっき言った通り、勇者様の実力を確認したいいんですが」

「なら城外で試しに戦ってみるか、モンスターとやらの確認もしたかったからな」

 

 アンデルセンにとって、使い慣れていない武器での初戦闘になる。この世界のモンスターは彼にとっての怨敵となるのだろうか。

 

 決して振り向いてはならない、塩の塊と化したくなければ前を向き続けなさい。

 

 

 


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