聖十字の盾の勇者   作:makky

16 / 19
新たなる家族

―武器屋―

 

「お、アンちゃん」

 

 アンデルセン達が来るのを待っていたようで店主が手を振る。

 

「何かあったのか?」

「おうよ。ちょっと待ってな」

 

 そう言うと店主は店を閉めて、三人を案内する。

 

 

 

 

―魔法屋―

 到着したのは『魔法屋』と看板が掲げられている店だった。

 

「あらあら」

 

 武器屋の店主に続いて店内に入ると店の店主と思われる老婆が出迎えた。

 

「盾の勇者様ね、お噂はかねがね」

「ああ…」

 

 どういった噂か気になるところだが、今は重要なことではない。

 

「ちょっと店の奥に来てくれるかい?」

「分かった、フィーロ付いてきなさい」

「はーい」

 

 魔法屋の奥に入るとそこは日常的に使っているらしい部屋と、作業場らしき部屋があった。

 案内されたのは作業場らしい部屋だ。

 天井がやや高く、3mくらいはある。

 床には魔方陣が書かれ、真ん中には透明の球体、恐らく水晶が鎮座している。

 

「ごめんねぇ、作業中だからちょっと狭くて」

「突然来たこちらが悪いからな、ここでフィーロの服を作ってくれるのか?」

「朝一で知り合いに尋ねてみたら魔法屋のおばちゃんが良いものがあるって言うからよ」

「そうなのよ~」

 

 魔法屋の店主は水晶を外して、台座に滑車と糸を取る紡錘が組み合わさった道具を用意する。

 

「あれは確か、糸巻き機でしたっけ?えーっと…」

「…『野薔薇姫』」

「え…」

 

 糸巻き機にフィーロが反応する。

 

「お姫様は魔女から15歳の誕生日に死んじゃう呪いを掛けられちゃうの。でも妖精さんが100年後に起きる魔法をかけてくれたの。15歳になった日に、お姫様は城の中で糸を紡ぐおばあさんに出会って、糸巻きの紡錘に触ってベッドの上で100年間の眠りについちゃうの。100年後野薔薇に包まれたお城にやって来た王子様のおかげでお姫様は目覚めて、二人は幸せに暮らすの。しんぷさまがお話してくれたの」

「…よく覚えていましたね、フィーロ」

 

 眠れない夜に、フィーロに聴かせていたグリム童話の話をしっかりと覚えていたようだ。

 

「その子、本当に魔物なのかしら?」

「ああ、今着ている服は羽織っているだけだから問題ないだろう。フィーロ、元の姿に戻りなさい」

「うん」

 

 羽織っていた神父服を外してフィーロは元のフィロリアルに戻った。

 

「あらあら、まあまあ」

 

 やはり始めて見たためだろう、魔法屋の店主は驚きの声を上げた。

 

「これでいい?しんぷさま」

「ええ、大丈夫ですよ」

 

 心配そうにフィーロは聞いてくる。周りに知らない人間が多いのだから仕方ないと言えば仕方ない。

 

「じゃあ服を作るかしらね」

「前提として破れない服が欲しいのだが、大丈夫なのか」

「そうねえ……厳密に言えば服と呼べるのか分からないけどね」

「と言うと?」

「勇者様は私が何に見えるかしら?」

「持っている知識の中で一番近いのは、魔女だな」

「そうよ。だから変身という事には多少の知識があるのよ」

 

 何が『だから』なのかはこの世界のことをあまり知らないアンデルセンには分からないが、そういうことらしい。

 

「まあ、動物に変身するというのは大体、面倒な手順と多大な魔力、そしてリスクが伴うのだけどね。変身が解ける度に服を着るのは面倒でしょう?」

 

 『出来る事』と『いつもしている事』が必ずしも一致しないのは、手間に見合う利点があるかどうかが一番の理由だろう。メリットとデメリットの関係と言うものだ。

 

「自分の家とかで元に戻れるのなら良いけど、見知らぬ場所で変身が解けたらそれこそ大変よね」

「目も当てられない事になるだろうな」

 

 人から動物になる時も、動物から人になる時も、問題となるのはやはり服のことだろう。変身するたびに着替えなんてしていられないのは分かる。

 

「だから変身しても大丈夫なようにそれ相応の服があるの、変身が解けると着ている便利な服がね」

「魔女、魔法使いが変身するとき向け、か」

 

 変身のたびに服の状態が切り替わる仕組みらしい。

 

「魔物のカテゴリーに入ってしまったりする亜人の一部にも伝わる技術なのよ。有名所だと吸血鬼のマントとか」

 

 ――吸血鬼

 

「…ふふ、ははは」

「おや、どうかしたのかい?」

「いや、懐かしい名前を聞いたのでな」

 

 アイツならば、服なんぞ簡単に変えられそうだな。

 

「で、これがその服の材料を作ってくれる糸巻き機よ」

「…只の糸を使うわけではないのか?」

「厳密に言えば服……とは言いがたい物かしら、服に見えるようにする力が正確ね」

 

 やはり特別な服を作るらしい。

 

「この道具は魔力を糸に変える道具なの、そして所持者が任意のタイミングで糸か、魔力に変えれる訳」

「分かりやすく言うと人型になった時、魔力を糸に変えれるようになるってことさ」

「なるほどな、だから糸巻きの段階から作るのか」

 

 武器屋の店主の補足で納得する。

 フィーロ自身の魔力で服を出したりなくしたり出来るようにするわけだ。

 

「それじゃあ、フィーロちゃんかしら? この道具のハンドルをゆっくりと回して」

「うん」

 

 魔法屋の店主に促されて、フィーロは糸巻き機の滑車横の取っ手を回し始める。

 すると糸が出始め、魔法屋の店主はそれを紡錘に巻きつける。糸が集まりだして、糸巻きになっていく。

 

「あれ? なんか力が抜けるような感じがするよ」

「魔力を糸に変えているからね。疲れるはずよ。だけどもうちょっと頑張って、服を作るにはまだ足りないわ」

「うう……おもしろくなーい」

 

 魔力を糸にしているためか、フィーロが不満を訴えてくる。

 

「でも、頑張る」

 

 フィーロが糸巻き機を回しだした。

 

「わぁ、がんばるわね」

 

 魔法屋の店主が感心している。

 

「そろそろ良いかしらね。回すのをやめて良いわよ」

 

 それからしばらくして、魔法屋の店主が糸巻き機を回すのをやめさせた。

 

「しんぷさまー、フィーロ頑張ったよ」

「よく出来ましたね、フィーロ」

 

 フィーロは魔物の姿でアンデルセンの所へ戻ってくる。

 

「ここを出るときは、人の姿になって出るんですよ。いいですね?」

「はーい」

 

 フィーロが良い返事をする。

 

「後はこれを布にして、服にすれば完成ね」

 

 魔法屋は出来上がった糸を見せる。

 

「なら、織機が出来る人間を探す必要があるな」

「そいつにはあてがある。付いてきな」

 

 武器屋の店主の勧めで、そのまま魔法屋を後にする。

 

「料金は後で武器屋から頂くわよ~」

「ちなみにどれくらいになりそうだ?」

 

 店主に確認する。

 

「魔力の糸化の事? 水晶がちょっと値が張るのよ、勇者様には原価で提供させてもらうけど銀貨50枚よ」

 

 原価で提供してくれるだけでもかなり良心的だが、やはり値が張ってしまうものらしい。

 

 そして武器屋の店主の案内で織機が出来る人間の所へ行き、糸を布にしてくれるという話になった。

 

「珍しい素材だから、こっちも色々とやらなきゃダメっぽいなぁ……たぶん、今日の夕方には出来上がるから、今のうちに洋裁屋に行ってサイズを測ると良いよ。後で届けとく」

 

 との事なので、そのまま洋裁屋に行く。

 

 

 

 

―洋裁屋―

 

「わぁ……凄くかわいい子ですね」

 

 洋裁屋には頭にスカーフを巻きメガネを掛けた女の子が店員をしていた。

 

「羽が生えていて天使みたい。亜人にも似たのがいるけど……それよりも整っているわね」

「そういうものなのか?」

 

 武器屋の店主に聞くと肩を上げられた。

 

「羽の生えた亜人さんは、足とか手とか、他の所にも鳥のような特徴があるのよ。だけどこの子、羽以外にそれらしいのは無くて凄いわ」

「ん~?」

 

 フィーロは首を傾けて洋裁屋の女の子を見上げる。

 

「フィーロは少し特殊でな、今は人だが元はフィロリアルなのだ。普通の服では破けてしまってな」

「へぇ……じゃあ依頼は魔物化する布の洋裁ね。面白いわぁ」

 

 妙に活き活きしている店員だ。

 

「素材が良いからシンプルにワンピースとかが良いかも、後は魔力化しても影響を受けそうに無いアクセントがあれば完璧!」

「??」

 

 捲し立てられて何を言っているのか、フィーロはよく分かっていないようだ。

 店員は神父服を着たまま上から巻き尺で寸法を測定し、衣装のデザインを始める。

 

「魔物化した時の姿が見たいわ!」

 

 フィーロが困り顔で見てくる。何と言うか、今まで出会ったことのない種類の人間だ。

 

「天井に大穴が空くかもしれんぞ」

 

 天井の高さが2m弱しかない洋裁屋ではフィーロが元に戻った時に天井に頭がぶつかり、最悪穴を空けかねない。

 

「座って戻る?」

「それなら大丈夫だろう」

 

 フィーロは天井を気にしながら魔物の姿に戻り、洋裁屋の店員を見つめる。

 

「おおー……ギャップが良いアクセントね!」

 

 フィロリアルになったことよりも心に来るものがあったらしい。

 

「となるとリボンが良いアクセントになるわ」

 

 フィーロの首回りを測定し、洋裁屋は服の設計を始めた。

 

「じゃあ素材が届くのを待っているから!」

 

 興奮気味に答えられる。

 

「コイツは良い職人なんだぜ」

「まあ、そうなんだろうな」

「この街にはいろんな人がいますね…」

 

 仕事に集中しやすい性格なのだろう、ハインケルや由美江がそうだったからなんとなくは分かる。

 

「ま、明日には完成しているだろうな」

「思ったより早いな、結局服を一着作るのに幾らくらい掛かりそうなんだ?」

「アンちゃんにはどれも原価で提供したとして……銀貨100枚って所だろうなぁ……」

 

 どうにもアンデルセンが仲間を増やすと出費がかさばる気がしてならない。これに武器代も加算しなければならない。

 

「まあ、仕方ないか。なんとか工面しよう」

「何をするにしてもお金が必要ですからね、どうにかしないと」

 

 支援金は打ち切られたが、収入がなくなったわけではない。なんとでも出来るだろう。

 

 こうして、新しい家族として一人の少女が加わったのだった。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。