聖十字の盾の勇者   作:makky

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真意

―城の庭―

 

 松明に照らされた庭は、多くの見物人で溢れかえっていた。それまで宴会をしていた者達は、勇者同士の決闘を今か今かと待ち望んでいた。

 

 キタムラのプライドなのかは知らないが、一対一の決闘となった。

 

「では、これより槍の勇者と盾の勇者の決闘を開始する! 勝敗の有無はトドメを刺す寸前まで追い詰めるか、敗北を認めること」

 

 アンデルセンは構えをすることもなくキタムラを見据える。

 

「矛と盾が戦ったらどっちが勝つか、なんて話があるが……今回は余裕だな」

 

 蔑むような言葉をかけてくる。

 

「では――」

 

 くだらない理由で、くだらない決闘が始まる。こんなことをしている暇が本当にあるのだろうか益々疑問になってくる。

 

「勝負!」

「うおおおおおおおおおおおおお!」

「…ふんっ!」

 

 だが相手はやる気満々のようで、それならしっかりと相手するのが礼儀というものだろう。

 

 一直線にアンデルセンに突っ込んでくるキタムラ、最初の一撃で決める腹積もりのようだ。

 

「…せいぜいこの俺を」

 

 ゆっくりと両手を上げる。

 

「楽しませてくれよ?」

 

 狂信者は嗤った。

 ガキン!と音がしてキタムラの矛が何かに受け止められる。

 

「な!?ば、馬鹿な!お前、なんで!!」

「何を驚いているのだ、勇者殿?まるで信じられないものでも見たかのような声を上げて」

「ふざけるな!なんで

 なんでお前は伝説の武器以外の武器を使ってるんだよ!」

 

 短剣よりも大きな剣、銃剣を使い自身の武器を止めるアンデルセンにキタムラは驚愕し問い正した。

 

「ああ、そんなことか」

 

 器用に銃剣を使って矛を跳ね飛ばし、不敵にアンデルセンは嗤う。

 

「何度も言っていたではないか、盾を単体で使う馬鹿はおらんと。だから愛用しているこいつを使っているだけだ」

「そんなので納得できるか!伝説の武器を持っている勇者は…」

「『伝説の武器以外を使えない』だろ?」

「そうだろう!?だから…」

 

 

 

 

 

 

 

「そんなくだらないことがどうした」

 

 アンデルセンは銃剣を使い正十字を作り上げる。

 

「貴様らがなんと言おうがそれはお前たちの事情だろうが、異教徒共に指図なんぞ受けるわけがない。俺たちはそう言った存在だ」

「狂っていやがる、てめえは狂っている」

「ぬはははハハハハ、今更か?この程度のことすら見抜けずにお前は俺に戦いを挑んだのか?我々から見ればまさに児戯でしか無いな」

 

 

 

「久しぶりの楽しめそうな戦いだ。せいぜい頑張れよ、異教徒」

 

 

 

 

 

 

 

「乱れ突き!」

 

 矛が複数に分かれて飛んで来る。

 どうやらキタムラのスキルらしい。

 

「キィィィィィィァァァァァァァ!!!」

 

 銃剣で全てを受け流しながら地面を蹴り追撃する。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 

 突き上げるように矛で攻撃してくるが、左の銃剣で跳ね返す。

 

「遅いわ!!」

 

 そのまま右の銃剣で首元を狙う。

 しかし、流石勇者と言われるだけあるのか反対の方に咄嗟に逃げる。

 

「ハハハハハハ!!どうした!勇者の実力とはその程度のものか!!」

「クソが!!一体どんな前世過ごしていたんだ!」

「言う必要はないだろう!今は目の前の敵を仕留めることだけを考えるのだな!」

「殺せってか?!本当に狂っているぜ!!」

「何者かを打ち倒しに来たのならば、何者かに打ち倒される覚悟がいるのだ!」

 

 アンデルセンが宙を舞い、銃剣を振り下ろす。キタムラは矛でそれを弾き飛ばす。

 

「お前たちに足りないものはそれだ!自分たちは必ず勝てるなどと思い込み、負ける可能性を端から無くしている!そんな考えで、本当に世界が救えると思えるのか、ええ?」

「俺は、俺達は選ばれた勇者だ!効率よく戦っていけば、必ず勝てる!何も知らないお前と違ってな!」

 

 矛を前に構えてキタムラは走りだす。

 

「喰らえ!」

 

 先程と同じように突っ込んでくる。

 

「同じ戦法で勝てると思うな!」

 

 袖口から6本の銃剣を追加する。

 

「避けられるなら、避けてみせろ!」

 

 キタムラ目掛けて8本全て投げる。

 

「うわ!!」

 

 急停止して飛んできた銃剣を弾く。

 

「なにしやが…!!」

「遅い」

 

 投げた銃剣に気を取られている間に、アンデルセンは再び跳躍し気がつけばキタムラの目の前に来ていた。

 

「『詰み』だな?」

 

 そのまま地面へと引き倒した。

 

 

 

 

「がぁ…!!」

 

 受け身も取れず、頭から倒れこむ。

 

「く、そが!!」

「惨めだな、勝つ気でいたのだろうが蓋を開けてみればこのザマだ」

「ひ、きょうだぞ、お前!」

「そう思うか?」

 

 右手に構えた銃剣をキタムラの顔の横に突き刺す。周囲の観客が悲鳴を上げる。

 

「な…」

「お前は自分がどんな状況かをまだ把握していないようだな、負けが認められないか?勝ちにばかり気にしすぎていると簡単に命を落とす。お前にも守りたいものとやらがあるのだろう?」

 

 アンデルセンはキタムラに顔を近づける。

 

「俺はお前たち異教徒にも教えを説くような聖人ではない、どうなろうが知ったことではない。自分で考えろ」

「くっ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モトヤス様を守って!!」

「盾の勇者を捕縛せよ!!」

 

 ほぼ同時に響いたその声に、周りにいた兵士たちがアンデルセンに向かっていく。

 

「ははは、お守り役がいるとは良いご身分だな。えぇ?」

 

 銃剣を引き抜き立ち上がり、迫っていた兵士の槍を躱していく。

 

「くっ、この野郎…!」

「罵倒がしたいのなら勝手にしていろ、今のお前では俺の足元にも及ばんがな」

 

 狂喜の滲んだ笑みを向けてアンデルセンは言った。。元康は奥歯を噛み締めた。

 

「さて、大切な家族を返してもらうとするか」

「家族って、ラフタリアちゃんは…」

「そう言えば話していなかったな

 

 

 

 

 

 

 ラフタリアは奴隷ではないぞ?」

 

 

 

 

 

 

「…は?」

「誰から聞いたのかは知らんが、勘違いしているらしいな」

「だって、マルティがそうだって」

「マルティ?誰だそいつは、お前の取り巻きの女か?」

「お、お前が強姦した女の子だよ!」

「…アイツが?」

「ああ、そうだよ!マルティは王女様なんだよ!嘘をいうわけ無いだろ!」

「そのことについては色々と聞きたいことがあるが、今はいい。あの女がそう言っていたのだな?」

「だからそうだって…」

 

 

 

 

「――もう結構です」

 

 

 

 

 

「…時間だな」

「は?」

「我慢の限界、というやつだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風が、吹き荒れた

 

 

 

 

―数分前―

 

 国王とマインの二人がキタムラの保護とアンデルセンの捕縛を命じた時、ラフタリアの周りにいた兵士たちはラフタリアに槍を向けていた。

 

「…やり過ぎですよ、神父様」

 

 そんなことはどこ吹く風、ラフタリアは銃剣を使ってまでキタムラと戦ったアンデルセンに呆れていた。

 

「動くな!」

「一歩も動いていませんが?いきなり槍を向けるなんて常識を疑いますね」

「き、貴様!」

 

 激昂した兵士がラフタリアを睨む。

 

「おや、こんな小娘相手にいい大人が言い負かされるんですか?呆れますね」

「奴隷の分際で!」

「そうだったとしても、関心しないことですね。まだ私の捕縛は命令されていませんよ?」

「お前は盾の勇者の奴隷だ!アイツが捕まえられるのなら、お前が捕まるのは当然のことだ!」

「そういうものですか…」

 

 大して興味無さそうにラフタリアは返した。眼前ではアンデルセンが兵士たちに取り囲まれ槍で攻撃されながら、槍の勇者と話しているところだった。

 

「なめやがって!」

 

 一人の兵士がラフタリアの対応に激怒し、槍で攻撃しようとする。

 

「まあ、野蛮なことをされますね」

 

 そんな攻撃を軽々しく避ける。

 

「兵士の方々というのは、何もしていない方を攻撃されるような人ばかりなのですか?驚きですね」

「ふざけるな!盾の勇者の、それも奴隷ごときが我々に楯突きおって!」

「ああ、盾の勇者と楯突くを掛けたのですね。意外と上手いですね」

「いい加減にしろ!この…!」

 

 別の兵士が、ラフタリアが頭に被っている頭巾を取ろうと手を伸ばす。

 

「あら、流石にそれは見過ごせませんね」

 

 伸ばしたてを掴み捻り上げる。

 

「がぁぁぁぁぁ!!」

「女性の身体に無許可で触れようとされるのは、男性として如何なものでしょう」

「お、のれぇぇぇ…」

 

 捻り上げていた手を離すと、掴まれていた兵士がうめき声を上げた。

 

「調子に乗りやがって、貴様らなんぞいなくても三人の勇者様方がこの国を守ってくださるのだ!勘違いするな!」

「こちらこそ、我々は別にこの国を守る義務も義理もありません。立ち去れと仰られるのなら神父様の事です、すぐに立ち去るでしょうね」

 

 その前に王城で血祭りが起きそうな気がするが。

 

「まあ、これ以上話しても無駄であることはよく分かりました」

「何を言って…」

 

 

 

 

「――もう結構です」

 

 

 

 

 

「島原抜刀流――

 

 

 

 

 

 

 

 

 『震電』」

 

 ラフタリアの右手が振るわれる。

 その瞬間、兵士たちは吹き飛ばされた。

 

「うわ!」

「な…!」

「ぐお!」

 

 ラフタリア以外が地面に伏せ、彼女は右手に銀色に輝く剣を構えていた。

 

「『震電』とは、稲妻が震えるが如し。何人足りとも捉えられず、避けることさえ儘ならない。私の奥義の一つです。ご安心下さい、吹き飛ばしただけですので怪我などはありません」

 

 剣を鞘に戻しながらラフタリアは微笑んだ。

 

「…待ってください、ラフタリアさん」

「おや?」

 

 呼び止められて振り返る。

 

「そのまま動かないで下さい」

「下手なことはしないほうがいいぜ?」

「確か、カワスミ様とアマギ様でしたね?どうかされましたか」

 

 それぞれの伝説の武器を構えながら二人は詰め寄ってくる。

 

「この国に召喚された勇者として今のは見過ごせません」

「一応王様から色々と融通されているんでな…おとなしく剣を置いてもらおうか」

「なるほど、勇者様方がそう仰られるのでしたら仕方ありませんね」

 

 腰から鞘ごと剣を抜く。

 

「――と口にするとでも思いましたか?」

「っ!!」

 

 咄嗟にアマギが剣を振るう。

 

「島原抜刀流――

 

 『秋水』」

 

 剣同士が弾き合い、金属がぶつかる音がした。

 

「おや、見切られてしまいましたか。流石は剣の勇者様」

(見切った?辛うじて右手が動くのが見えただけだぞ!なんであんな子が…)

「何故です、ラフタリアさん!何故攻撃するんですか!」

「…何故?簡単ですよ」

 

 抜いていた剣を再び鞘に収めて、二人を見据える。

 

「貴方がたはどうやら私のいえ、我々のと言った方がいいでしょうか。敵になられるおつもりのようでしたので」

「だから攻撃を?!」

「その通りです。我々に敵対するのならば

 

 

 

 

 

 

 

 容赦など致しません。相手が誰であれ、どの様なものであれです」

 

 微笑みながらラフタリアは言った。

 

 

 

 

 

 

 

―アンデルセン―

 

「嘘、だろう…?」

「ラフタリアには、特に剣の扱いを叩き込んだ。あいつが使った技は、俺が覚えている数少ない『島原抜刀流』の技だ」

「島原って、日本のか?」

「ああ、そうだ。お前たちの国では『伴天連』や『キリシタン』と呼ばれていたな。あの技は元々バチカンにいた日本のシスターが使っていたものだ」

「バチカンが、なんであんな技を…」

「――それを教える必要はないな、小僧」

 

 未だに続く兵士たちの攻撃を掻い潜りながら、不敵に笑った。

 

「俺に少しでも近づけたら、教えてやるかもしれんが今のままでは無理だろうな」

「なに!」

「事実だろう?先ほどの決闘で手も足も出なかったのだから。そう言えば決闘は一対一のはずだったのだが、とんだ邪魔が入ったな」

「あ…」

 

 言われて気付いたようで、会場は混乱の極みであった。

 

「ま、待ってくれみんな!!」

 

 モトヤスが大声を上げる。

 

「さっきの決闘は、俺の負けだ。これ以上はやめてくれ」

「な!モトヤスさま、何を仰っているのですか!」

「伝説の武器限定で戦う決まりじゃなかったはずだ、今回は俺の負けを認めよう」

 

 悔しそうにモトヤスは言った。

 

「…モトヤス殿がそう言われるのならば」

「アンデルセンも、それでいいか?」

「勝敗の決め方は相手を戦闘不能にさせるか敗北を認めさせることだろう?言い掛かりをつけてきたそちらがそう言うなら、別に構わん」

「ああ、王様頼む」

「むう、非常に残念な結果だが、致し方ない」

 

 国王は観客に宣言した。

 

「此度の決闘、モトヤス殿の降伏により盾の勇者の勝ちとする!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様でした、神父様」

「お前の方も、かなり無茶をしていたようだが?」

「お互い様ですよ」

 

 決闘騒動が収まり、観客や他の勇者たちは城内へと戻り会場だった中庭にはアンデルセンとラフタリアのみになっていた。

 

「思っていた以上に技は出来上がっていました、後は如何に完璧に近付けるかですが」

「それは実践の中で身に付けていけ、死と隣り合わせならば上達しやすいだろう」

「分かりました、神父様。それと、どうなりました?私の身の上の話は」

「ああ、そのことか。問題ない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 3週間前のあの日、アンデルセンは伸ばしたてで出された小皿を奴隷商に押し返した。

 

「しばらく待て」

「はぁ、よろしいですが」

 

 そう言ってラフタリアと向き合う。

 

「ラフタリア、これから貴女に大切なことを聴かなければいけません。いいですね?」

「は、はい…」

「貴女は選ぶことが出来る、貴女だけの人生を。

 

 貴女が奴隷を選ぶならば、私は貴女にほんの少しの事しか教えられません。貴女は私の物として戦うからです。

 

 貴女が友を選ぶのならば、私は貴女にあらゆること全てを教えましょう。貴女は剣となり、そして盾となる。

 

 選びなさい、ラフタリア。貴女が望む世界を」

 

 真っ直ぐと見つめてくるアンデルセン。

 

 私を奴隷として扱うか、共に戦う友人として扱うか、私がそれを選ぶ。

 

 両親を無くし、自分以外すべてを失った、そんな私に差し出された手

 

 私はその手を、握りしめたい。この手に支えて欲しい。

 

「わ、私を、友にして下さい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「簡単にはだが説明しておいた、納得したかどうかは知らんがな」

「十分でしょうね、きっと」

 

 納得なんて端から期待はしていない、ああいう連中は何かしらにつけて言い掛かりをしてくるものだ。

 

「明日も早い、そろそろ切り上げよう」

「そうですね、明日もきっと大変でしょうから」

 

 そう言って二人は城内へと戻り、城の一角の部屋で一夜を明かした。


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