聖十字の盾の勇者   作:makky

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 前回が少し短かったので本日は二回投稿いたします。


邂逅

―翌日―

 

 洗礼を終え、翌日二人はもう間もなく訪れる波のことを確認するために城下町へと赴いていた。

 

「街全体がなんだかピリピリしているようですね」

「前回の波がどれ程のものだったかは知らんが、見る限り大損害だったようだな」

 

 準備期間が僅か一ヶ月しか無いのでは、前回の波の損害を埋めることも難しいだろう。故に勇者に掛かる期待は大きいものである。

 

「とはいっても、どうしましょうか?私も波のことについては神父様にお話することがないくらい、詳しくないんですよね」

 

 洗礼の後から、ラフタリアはアンデルセンのことを『神父様』と呼び始めた。

 

「ならば知っている人間に聞けばよい話だ」

「心当たりが?」

「ある」

 

 そう言ってアンデルセンはある店を目指して大通りを歩き始めた。

 

 

―武器屋―

 

「あー、そういえばこちらの店長さんがいましたね」

「この街に住んでいるのだから、波のことも詳しいだろう」

 

 そう言って二人は中へと入っていった。

 

「いらっしゃい、ってアンタ達か。久しぶりだな!」

「お久しぶりです、店長さん」

「久しぶりだな」

 

 お互いに挨拶をし合う。

 

「んで、今日はどうした」

「もうすぐ波がやってくると思うんだが、生憎と詳しいことを教えてもらっていなくてな。詳しいことを知っていたら教えて欲しいんだが」

「なんだ、そんなことか。いいぜ、教えてやる」

 

 笑いながら店主は説明を始めた。

 

「広場の近くに大きな時計塔があるのは知っているか?」

「確か、城下町の端の方にあったと思いますが」

「それは『龍刻の砂時計』ていうんだ。勇者ってのは砂時計が落ちたとき、一緒に戦う仲間と共に厄災の波が起こった場所に飛ばされるらしいぜ」

「何とも便利なものだな」

 

 ココらへんの情報は事前に通達されるものだろうが、当然そんな情報は聞いていない。

 

「露骨に無視しているな、あの連中」

「ひどい話ですね、人の命とどちらが大事なのでしょうか?」

 

 いなくてもなんとかなると思っているのかもしれないな。

 

「何時ごろか分からないなら、見に行ってみれば良いんじゃないか?」

「そのほうが事前準備もしっかりと出来そうですね」

 

 詳しい時間がわかれば後はなんとでもなるだろう。

 

「では、また来る」

「おう、頑張ってくれよ!」

「失礼しました」

 

 礼を言って二人は教えられた龍刻の砂時計へと向かった。

 

 

―龍刻の砂時計―

 

 城下町の中で比較的高いところに位置する『龍刻の砂時計』、遠目からでも大きいことが分かったが、近くで見ればその大きさに圧倒された。

 バチカンの大聖堂を小さくして、その上に時計塔を足したような建物、正面の扉は開かれていて中から人が頻繁に出入りしている。

 受付にいる修道服のようなものに身を包んだ女性がこちらを見るなり怪訝な目をした。顔は知れ渡っているようだ。

 

「盾の勇者様ですね」

「『龍刻の砂時計』の確認に来た」

「ではこちらへ」

 

 そして案内されたのは、巨大な砂時計だった。

 赤い砂が少しずつ落ちていき、もうすぐ落ち切るのが感覚的に分かる。

 盾から音が聞こえ、一本の光りが龍刻の砂時計の中央にある宝石に届く。

 すると視界の隅に時計が現れた。

 

『20:12』

 

 しばらくすると『20:11』となった。

 

「つまりあと20時間と少しか」

「あまり余裕はありませんね」

 

 一日の猶予もないが、出来ることがないわけでもない。装備の点検に薬等の確認、今からでもしっかりとした準備ができる。

 

「ん? そこにいるのはアンデルセンじゃねえか?」

 

 一ヶ月ぶりとなる声が奥のほうから聞こえて来た。

 見ると女を多く連れた槍の勇者、キタムラが悠々と歩いて来る。

 

「おやおや、一ヶ月ぶりだなキタムラ。その後もあまり変わってはいないようだな」

「ああ、お前も波に備えて来たのか?」

 

 相手を見下す目でこちらを見てくる。その程度で勝ったつもりのようだ。

 

「呼ばれてから一ヶ月だからな、何が起こるのかの確認は必要だ」

「ははは、お前でもそのくらいは分かるか。て言うか、一ヶ月前とおんなじ装備で戦っているのか?」

 

 どうやら神父服を装備と勘違いしているようだ。

 

「そういうお前はこの一ヶ月で随分といいものを着込んでいるようだな」

 

 鉄とは違う。銀のように輝く鎧で身を固め、その下には綺麗な新緑色の服を着ている。ご丁寧に鎧の間にくさりかたびらを着込み、防御を徹底的にしている。

 持っている伝説の槍は最初に会った時の頼り無さそうな槍ではなく、見ただけで攻撃力があるのが分かる矛になっていた。

 

「当たり前だ、お前と違って俺は優秀だからな」

「ハハハ、違い有るまい。せいぜい負けないよう、気をつけておくとしよう」

 

 相手のことを全く考えないで話をすすめるこいつに嫌味を言ってみる。

 

「何よその態度、モトヤス様が話しかけているのよ!」

 

 喧しい声で、かつての仲間だったマインが話しかけてくる。

 

「おや、てっきり男が怖くなって引っ込んでいるものばかりと思ったが。どうやら元気のようで何よりだ、マイン嬢?」

 

 強姦されかけたと主張していたのに、何とも手の早い女だ。

 

「神父様、こちらの方たちは?」

「ああ、そう言えば初対面だったな。前に話しただろう、槍の勇者とその仲間だ」

「ああ、あの方達ですか」

 

 納得したというふうにラフタリアが答えると

 

「あ、元康さんと……アンデルセンさん」

「……」

 

 取り繕ったような声を出したカワスミと、格好つけているような歩き方をするアマギもやって来た。

 

「こちらも久しぶりの再開だな、カワスミにアマギ」

 

 勇者とその仲間の合計17人が勢揃いする。

 

「誰だその子。すっごく可愛いな」

 

 キタムラがラフタリアを指差して聞いてくる。

 

「お初にお目にかかります。盾の勇者様ことアンデルセン様と共に行動させていただいております、ラフタリアと申します。以後お見知りおき下さい」

 

 会釈しながら挨拶をするラフタリア。

 

「始めましてお嬢さん。俺は異世界から召喚されし四人の勇者の一人、北村元康と言います。以後お見知りおきを」

「ご丁寧にありがとうございます、キタムラ・モトヤス様」

 

 丁寧な返しだが、頭を下げ返した時ほんの一瞬顔が歪んだのをアンデルセンは見逃さなかった。

 

(これだけ女を侍らしているのだ、異性として思うところはあるか)

 

 だがどんな時でも顔の形を変えるのは我慢しなければならないことだ。波が終わったら重点的に教えよう。

 

「それと大変失礼なのですが、いま来られたそちらのお二方も勇者様でしょうか?」

「ええ、僕は弓の勇者の川澄樹と言います」

「俺は剣の勇者の天木錬だ」

「カワスミ・イツキ様にアマギ・レン様ですね。どうぞよろしくお願いいたします」

 

 受け答えは完璧といったところだろう。訓練したかいがあるというものだ。

 

 気が付くとキタムラが怪訝な目で見ている。

 

「どうかしたのか」

「お前、こんな可愛い子を何処で勧誘したんだよ」

 

 どうやらラフタリアを何処で手に入れたのか気になっているようだ。

 

「お前はまだ女を囲わなければ気がすまないのか?そんなことしているとまた刺されるぞ」

「関係ねえだろう。てっきりお前は一人で参戦すると思っていたのに……ラフタリアお嬢さんの優しさに甘えているんだな」

「そう見えるのなら、それで構わん」

 

 こいつの人を見る目の無さは、前の世界もこちらの世界も変わっていないようだ。

 

「そろそろ御暇させてもらう、明日の波に向けて準備もせねばならんからな」

 

 これ以上ここにいても言い合いになりそうなので切り上げることにした。

 

「波で会いましょう」

「足手まといになるなよ」

 

 当たり障りのない返事をするカワスミと、挑発的な声をかけてくるアマギの横を通って外へと向かう。

 

「それでは皆様、また明日お会いいたしましょう」

 

 軽く会釈をしてラフタリアも外へと向かった。

 

 

 

―城下町―

 

「ラフタリア」

「なんですか神父様?」

「頬が引きつっているぞ」

「…お気になさらないで下さい」

 

 龍刻の砂時計を後にして城下町を歩いている間、ラフタリアの頬は引きつったままだった。

 

「勇者というのは初対面の異性に色目を使ってきたり、他人を貶す方達だったのですね。一つ勉強になりました。ええ、勉強になりましたよ!」

「俺も勇者なのだが?」

「神父様は違います!」

 

 事前に話をしていたとは言え、実際見てみるとよりひどいということは多々ある。

 

「あんな方達と一緒に戦うと思うと、今から気が重いですね」

「それも含めて明日のことを考えんと如何な」

 

 波というものがどのように発生して、どうすれば止まるのか全くと言っていいほど把握していない。

 あの三人はおそらく止め方を知っているだろうから、今回は任せても問題無いだろう。

 

「――化物(フリークス)はこちらで多く倒せるように、な」

 

 いよいよ始まる、波。

 

 彼らにとってそれは、どういった意味を孕むのだろうか

 

 


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