夜神月「デアスノテ。直訳で分からない」   作:ルシエド
<< 前の話 次の話 >>

2 / 5
深く関わると人間も死神も無念に死んでいく弥海砂とかいう本物の死神

 レイ・ペンバーは、駅のホームのベンチに座りながら、電車の中で六法全書を投げる夜神月と、閉じかけていた電車のドアの合間を飛んで来る六法全書を見ていた。
 どこか、他人事のように。

「さよならレイ・ペンバー」

 六法全書はレイ・ペンバーの頭蓋骨を陥没させ、跳ね返り、閉まる直前のドアの隙間を通過して電車の中の月のバッグの中に収まる。
 そうして目にも留まらぬ速さで、目撃者も証拠も残さず、月はレイ・ペンバーの抹殺を完了していた。

(これでFBIの全ての人間の脳天をかち割ったことになる。
 FBIの人間の名前なんて分かるわけがない。
 冷静に理詰めで考えれば、これが最善手中の最善手に決まってるんだ)

 連続殺人犯キラ。いまだその尻尾も掴ませていないそれを捕まえるため、LはFBIの人員を動かして捜査していた……が。
 その全員が、キラの手によって頭蓋骨陥没による死を迎えていた。
 全員が凶器を突きつけられて死の直前の行動を操られていたため、FBIのメンバーのリストの所持者やらあれやこれやで犯人を特定することはできない。

 頭脳犯キラは今日も絶好調だった。





 こいつはなんか怪しいな、といった感じのLのフィーリングで容疑者の中からピックアップされた夜神月君の部屋に監視カメラと盗聴器が仕掛けられてから数日が経っていた。
 崇高なる頭脳を持つ月はこれまでの犯罪で一切の証拠を残していなかったが、流石に金田一並みの直感力と死神力を持つLの直感から完全に逃れることはできない。
 探偵とは、行く先々で犯罪に出会う死神の別称。
 デスノートを地上に落とすのが死神なら、探偵もまた死神。
 その直感力はゴッドの域なのだ。

「結局、月君がキラだって証拠は何も見つかりませんでしたね」

 アホの松田が口を開く。
 顔出しをしてくれるようになったLが、その意見に同意した。

「そうですね。暇さえあれば六法全書を読んでいるくらいです……凶器はどこにあるのやら」

 盗撮記録映像の中では、夜神月が机に向かいつつ六法全書を熟読していた。
 彼が六法全書を読んでいる間も、犯罪者は裁かれ続けている。彼は部屋も出ていなければ、L視点では凶器を手にしてすらいない。
 もうこれ無罪ってことでええやん? せやな、といった流れに、捜査本部は傾いていた。

「これで息子の疑いは晴れたと考えていいのだろうか」

 夜神月の父、夜神総一郎がLに問いかける。
 普通ならば容疑者から夜神月を容疑者から外すであろうこの場面。
 しかしLは、理詰めの思考によって夜神月への疑いをいまだ外してはいなかった。

「いえ、日本にはニンジャのカゲブンシンがあると聞きます。
 それを考えれば、部屋に居ながら犯罪者を裁くことも難しくはないでしょう。
 月君がカメラの存在に気付きアリバイを確保しながら殺している可能性は十分にあります」

「むぅ」
「確かに」
「そう言われると、完璧なアリバイとは思えなくなってくるな……」

「とりあえず監視カメラと盗聴器は外しましょうか。クロでもシロでも意味無いですし」

 月の部屋に付けていたカメラと盗聴器を外し、あーでもないこーでもないと話し合いながら日々の時間を過ごしていたところ、第二のキラが出現し、ついでに宇生田が死んだ。





 第二のキラ登場!
 と世の中がハッスルマッスルし始めた頃。
 色々あれこれあって第二のキラ・弥海砂は夜神月の自宅を特定し、突撃していた。
 これには流石の月も苦笑い。
 もうちょっと思慮をもって慎重に行動してもらいたいものだ、と月は内心冷や汗をかいていた。

「何故、僕がキラだと分かった」

「あ、やっぱり死神の目の取り引きはしてないんですね」

「……目の取引?」

「やっべ、言うの忘れてた」

「……リューク?」

「俺達死神はノートの所有者の寿命の半分と引き換えに、死神の目をやれるんだ。
 うっかりすっかり忘れてたぜライト。正直すまんかった」

「うっかりすっかり?」

「うっかりすっかり」

「……」

 次やらかしたらリンゴでこいつのアナル拡張してやる、と夜神月は心に決めた。

「で、その死神の目とやらは何ができるんだ?」

「そこから先は、私が話そう」

「お前は……この子の死神の、レムと言ったか」

「そうだ」

「単刀直入に聞こう。死神の目は、何ができるんだ?」

 リュークが排気ガスにまみれた車を掃除した後の雑巾みたいな色の死神なら、レムはこぼした牛乳を拭いた後洗うのを忘れた雑巾みたいな色合いだな、なんて思いながら月はレムに問いかける。
 隠すことでもないので、レムは死神の目の取引について、彼に教えた。

「寿命の半分と引き換えに得た死神の目からは―――ビームが出る」

「───ビーム、だと」

「―――ビーム、だ」

 真顔でそういうレムを見て、月はそれが冗談でもなんでもないことを知る。

「ビームか」

 月は今日まで世界に正義を示してきた六法全書を見る。
 それが急に、とてつもなくショボい武器に見えてきた。

「ビームか……」

 月は片手で顔を覆い、天井を見上げた。
 ビーム。カッコいい。
 そういったランゲージが彼の脳裏を駆け巡り、彼に取引をするかしないかの選択を迷わせる。

「ライト、ライト、実際に見せようか?」

「えぇ……」

 そこにミサが畳み掛けるようにすり寄ってくる。
 実際に見せるといってもどうするべきか。
 月はデスノートを手に取り、もったいなくて使い捨てられなかった39800円の小型液晶テレビの電源をつける。
 すると画面の中に、顔を隠した銀行強盗の立てこもり犯の生中継が流れていた。

(この男は裁くべき悪だ……しかし名前が分からない……)

 月は役立たずノートをベッドに放り投げる。ベッドの脇に落ちるノート。どうでもいいと思っている内にどこに置いたか忘れ、ベッドの脇に落ちたという可能性もその内思い至らなくなってしまう、部屋の中での無くし物黄金パターンだ。
 月はノートの方に全く意識を割くことなく、ミサにテレビの人間を殺してみるよう頼み込む。

「あいつを殺ってみてくれないか?」

「あいあいさー。見てて、私の眼力!」

「眼力ってそりゃあ目からビームが出たら眼力(物理)だろうけどって何その目怖っ!」

 カッ、と目を見開くミサ。顔が怖い。
 彼女が窓の方を向くと、その目から放たれたビームが月の部屋の窓を融解させながら、夜空の彼方へとすっ飛んで行った。
 数秒の後、生中継中のテレビの中の映像に変化が起きる。

『皆様! 今の映像をご覧いただけましたでしょうか!?
 と、突如! 立てこもり犯が死亡しました!
 この抉れた頭! ま、まさかキラの仕業なのでしょうか!?』

 頭の抉れた犯罪者を見て、ニュースキャスターが喚いている。
 本物だ、と、月は風通しのよくなった窓を見ながら、虚しく思った。

「ライトー、褒めて褒めてー!」

「死神の目……顔を見ただけで殺せる力、か……ふふっ……寒っ……」

 月はミサに窓を弁償しろと言う。ミサは彼女にしてくれたら弁償すると返した。無論丁重にお断りしながら、月は軽く戦慄する。
 自分で窓を壊したにもかかわらずこう言える図々しさは、尋常なものではない。
 キチガイに刃物より、バカにビームの方がよっぽど怖い。世界の一つの真理であった。










「そういえば何故、僕がキラだと分かったのか、そこをまだ聞いてなかったな」

「死神の目のビームで撃たれても、ノート所有者は死なないの。
 だからあの日青山で、片っ端から撃っていこうとしたら、一発目で大当たり!」

「お前は魔女狩り当時の人間か何かか?」

 むかーしむかし、あるところに、魔女と疑いをかけられた人がいました。周囲の人はその人を紐で縛って「浮き上がってきたら魔女、浮き上がってこなかったら魔女ではない」と言って川に沈めました。浮かんできませんでした。終わり。
 実際に記録が残っている魔女狩りの一環である。
 月はミサにまたしても戦慄させられていた。

「どうどう? 私にメロメロになった?」

「家訓でね。バストが90以下の女性とは付き合ってはいけないことになってるんだ」

「なにそれこわい」

 ミサは無い胸をペタペタ触る。夢と希望で胸が膨らむだなんてほざいたのは誰だったか。
 ミサが90の大台に乗るには14cmも足りていない。彼女にデスノート、略してデストはあってもバストはない。ノーバストでナーバスとなるミサ。月の負けて死ね(パイツァ・バスト)宣言に、彼女は軽く打ちひしがれていた。

「うぅ……月のバカぁ……でも諦めない……最後にシェアで勝つのは低脂肪乳なんだから……」

「馬鹿話ばかりしていないで、いい加減前を向け」

 月とミサは今、夜景の見えるビルの屋上に居る。
 そして月が指差す方向に、もう一つのビルがあった。
 ミサはそのそのビルを見て目をカッと見開く。

「何その目怖っ……ミサ、薙ぎ払え」

「りょーかい!」

 閃光、崩壊、蒸発。
 そうしてミサの手により、"Lと警察の合同による捜査本部"は、跡形もなくビームによって消し飛ばされていた。
 夜神月の冷静かつ知的な頭脳は、既に『野生の勘』とでも言うべきスキルを発現させている。
 Lの居場所は分かっていたのだ。
 ただ、力技では入れないセキュリティがあったから攻めあぐねていただけで。

「L、僕の勝ちだ」

 お互いに顔も名前も全てが分からない相手を探し合い、先に見つかり特定された方が負けという知を競うデスゲーム。Lとのそれに勝利したことを確信し、月はその場を立ち去った。