夜神月「デアスノテ。直訳で分からない」   作:ルシエド
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思い出の中のデスノコラを参考に、まったりゆったり連載していきます


シンセカイ・ゴッド

「デアス ノテ。直訳で……分からない」

 夜神月17歳。学生です。
 彼は類稀なる優秀な頭脳、冷静な判断力、極めて高い学力を持つ天才であった。
 全国模試も一位。彼より頭のいい人間はそうそう居まい。

「全部英語か……頭悪い奴は読めないだろうな。だが僕は違う」

 夜神月は凡人とは違うその頭脳を駆使して、帰宅するなりノートの文章をエキサイト翻訳にかける。普段はひらがな入力にしているキーボードも、今日ばかりはアルファベット入力無双だ。
 彼には凡人には真似できない凡庸力、否、汎用力があるのである。

「使い方……このノートに名前を書かれた人間は死ぬ……
 クソっ、ダメだ、ここまでしか解読できない……なんて難解なんだ……!」

 彼の優秀な頭脳をもってしても、そのノートに書かれている文面は理解できないようだ。
 だが、内容だけは理解できている様子。流石だ。
 このノートに名前を書かれた人間は死ぬ。それだけは確かなことなのだろう。

「まあいい。こんなものに頼る気はない」

 夜神月は躊躇いなくノートをゴミ箱に捨て、ベッドに横になり、天井のライトに重なるように携帯電話を掲げていじる。
 手が滑って顔に落ちた。
 ちょっと痛かった。





 その日の夜のこと。

「俺、渋井丸拓男。略してシブタク。へへ……付き合ってよおねーさん」

「ごめんなさい、私家訓で年収2000万以下の人と付き合ってはいけないことになってるの」

 コンビ二でからあげクンを買った帰り、月はコンビニ前で純朴そうな女性と、その女性に絡んでいる不潔そうなチーマーの男を発見する。
 月は渋井丸拓男なる男が名乗った名前を聞き、その発音から男の本名を十数パターン想像し、小脇に抱えていたバッグの中のデスノートに触れ、それを邪魔そうに端っこにどけた。

(奴の本名がどれか分からないな……仕方ない)

 そしてバッグの中から取り出されるは六法全書。
 月は周囲の人々の視界の合間を縫うように、渋井丸拓男の背後に忍び寄り、その脳天に六法全書を振り下ろす。そして再び人々の視界の合間を縫ってその場を立ち去った。
 その間、一秒あるかないか。
 振り下ろされる正義の鉄槌、法の裁き。
 誰も見ていない。どこにも証拠は残らない。ここに完全犯罪は成立する。

「た、タクー!」
「なんだ!? 何が起こったんだ!?」
「天狗じゃ! 天狗の仕業じゃ!」

 後には突如倒れたようにしか見えない、頭蓋骨が陥没した死体だけが残された。

(世の中は腐っている。
 腐っている奴は死んだ方がいい。そのために法の裁きが必要なんだ)

 顔と名前を知らなくても特に問題なく殺せる新世界の神が、ここに誕生した。

(デスノートと六法全書で、世の中を変えてやる!)

 死神が落とした死のノートは、とんでもないモンスターを生み出してしまったようだ。










 それからしばらく経った後、都内に設置された特別捜査本部にて。

「局長、これはいったい……」

 警察官達が皆揃って難しい顔をして、唸っている。
 彼らの悩み事は、最近起こっている通称『キラ』なる者が起こしている犯罪だ。
 ここ最近世界中のいたるところで、居場所の分からない指名手配犯、刑務所に留置されていた死刑囚、立てこもりなどを行っていた犯罪者などが頭蓋骨陥没で殺されていた。
 どう考えても不可能な犯罪に、世界で一番頭の良い探偵(この表現は頭が悪そう)と呼ばれる名探偵『L』が立つ。
 日本の警察は特別捜査本部を用意し、Lと共に捜査をしていたのだが……

「うむ……」

 ここに来て奇妙な事件が連発していた。
 厳重に警戒されていた刑務所内で犯罪者達が次々と死亡し、犯罪者達が死の直前に壁に不可思議な絵を書いたり意味不明な遺書を書いたりと、死の直前に不自然な行動を取っていたのだ。
 まだ秘密裏に動いていたLはこれを見て、ぴーんと来た。
 そしてパソコン越しに特別捜査本部の皆に語りかける。

『キラは死の前の行動を操れる可能性がありますね』

「どういうことですかL!」

『まず頭蓋骨を陥没させる凶器を犯罪者に突きつける。
 "言うことを聞かなければ殺す"と言って言うことを聞かせ、操る。
 そして犯罪者が特定の行動を取った後、殺す。
 キラの正体は、相当悪知恵に長ける厄介な知能犯であるということです……』

「なんてことだ……」
「死の直前の行動を操れるなんて……!」
「しかも目撃情報も証拠も残ってない……!」

『これは報道を控えた方がいいでしょう。
 キラが犯罪者の死の直前の行動をどこまで操れるか実験している可能性がある』

 夜神月ことキラと、世界の警察を動かせる名探偵Lの頭脳戦。
 今のところ、この戦いはキラ有利で進んでいるようだ。

『こちらからも仕掛ける必要がありますね』

「L? 何を……」

『私にいい考えがある』

 やられてばかりでは悔しいな、とでも言わんばかりに、Lは対キラ用の初手を打った。





 その日のテレビは、一部物凄い視聴率を誇ったという。

『私は全世界の警察を動かせる唯一の人間"リンド・L・テイラー"通称「L」です』

 Lと名乗るテレビに出て来て、キラを煽り始めたのだ。
 超がつくほど頭がよく、その頭脳で今日までキラとして活動してきた夜神月だが、彼にも欠点はある。煽り耐性がちょっとだけ低く、意味もない勝利宣言をしたがる、負けず嫌いであるということだ。
 デスノートを地上に落とした死神・リュークは、面白くなりそうな予感がしていた。

『キラ、お前がどのような考えでこのような事をしているのか大体想像はつく。
 しかしおまえのしている事は……悪だ!!』

「あーっと天才の僕も今のにはカチンと来ちゃったなー仕方ないなー」

「お前本当に煽り耐性ないのな」

 月はデスノートを開いてペンを持つ。

(リンド・L・テイラー……いや、偽名かもしれない。デスノートを使っては確実性に欠ける)

 そしてノートとペンを放り投げて六法全書を掴み、駆け出した。

「おい月、どこに行くんだ?」

 その後をリュークが追う。
 やがて月が部屋から出て行ってから数十秒後、テレビ画面が暗くなり、テレビを放映していた者達の困惑の声が響き始める。どうやら生放送だったようだ。

『うわーっ、停電だ!?』

 そして更に十数秒後、断末魔が響く。

『あべしっ』

 更に十数秒後、夜神月は自室に戻っていた。

「裁きは完了した」

「バカだ……バカだこいつ……」

 月が部屋を出てから一分強が経ったくらいの頃だろうか。
 テレビの中のスタジオにようやく電気がついた。
 そしてリンド・L・テイラーの頭蓋骨が陥没した死体を見て、スタジオの人間が悲鳴を上げる。

『きゃあああああ!』
『し、死んでる……』
『キラや! キラの仕業や!』

 無様な男の死体を見ながら、月は上機嫌にほくそ笑んだ。

「神の裁きだ。Lともあろう者が、間抜けすぎ――」

『し、信じられない……こんな短時間で迷わず殴り殺しに来るとは……』

「――な、に?」

『キラ、お前が殺したのは私ではない。
 今日死刑にされる予定だった犯罪者……私のカワリミだ。
 お前は瞬時にテレビ局に侵入し、停電を起こし、リンド・L・テイラーを殴殺した』

 だがその笑みはすぐにかき消え、月は本当に無様だったのが自分であったと気付く。

『ネットの速報性が蔓延しているこのご時世だ。時間差放送なんてやってられん。
 お前の犯行の手口から考え、全国各地の放映局を使い同時に別々のLがお前を煽っていた。
 その内の一人、関東担当の放送局の人間が消された。つまりお前は、関東に居る』

「……!」

「間抜けは見つかったようだな、ライト」

「うるさいぞリューク!」

『そしてもう一つはっきりした。
 やはり顔と名前と現在地が分からない人間は殺せないようだな、キラ』

 顔も出さずに笑うLがだんだんと上機嫌になっていき、月の顔がみるみる内に怒りで歪んでいく。

『違うというのなら、私をこの場で殺してみろ!』

「Lめ……この屈辱は、必ずこの手で……」

「おっ、ライト今度は拳で殴り殺しに行くのか?」

『どんな気持ち? どんな気持ちだキラ? 悔しいか? ん? ん?』

「ぶ っ 殺 す」

「そうそう、その調子だ。だから早く俺が落としたノート一回でいいから使ってくれよ……」

 リュークの懇願とチラチラ視界に入って来るデスノートをガン無視して、月は世界のどこかのLに、テレビの向こうでもLが世界のどこかのキラに、相手に聞こえない宣戦布告を行う。

「L……」
『キラ……』

「必ずお前を探し出して六法全書の染みにする!」
『必ずお前を探し出して始末する!』

「僕が」
『私が』

「正義だ!」
『正義だ!』

 ブツン、とテレビの映像が途切れる。
 それと同時、振り下ろされた六法全書が八つ当たり気味にテレビを粉砕した。
 頑丈なテレビが砕け、金属がちぎれる音が響き渡る。

「ククク……勝った方が正義か。面白くなってきたじゃないか、月」

「勝った者が正義だなんていうのは悪の言い分だよ、リューク。
 正義っていうのはもっと不動なものなんだ。揺らがないものなんだ。だから僕は正義なんだよ」

「お、おう」

 ライトは激怒した。
 必ず、かの刻舟求剣のLを除かなければならぬと決意した。
 ライトには政治がわからぬ。ライトはデスノートの所有者である。英語なんて読めなくても特に問題なく模試などは乗り切ってきた。彼は普通の範囲で優秀な人間であった。
 けれども自分の邪魔になりそうな人間に対しては、人一倍に敏感であった。

 今日も彼の手によって、法の裁きは鉄槌と成りて悪に振り下ろされていく。