頑張って魔法剣士になりたい元男に祝福を!   作:狭霧 蓮

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悪魔との会敵を!

ミツルギ御一行とともにアクセルの街を出て2日目。

俺たちは目的の場所である火山エリアの中継の街、アスナイによっていた。

アスナイ……明日がないとも読めるこの街の名前に俺は若干引いたが。 で、俺たちはアスナイの酒場にて夕食をとっていた。

 

「たかだか2日でレベル25になるとか思ってもみなかったよ。 一昨日までレベル15だったのに」

「はは、僕のレベルも1つ上がったよ。 ここら辺のモンスターの質が良すぎるんだろうね」

「キョウヤ、見て! 私もレベル上がったわ」

「あたしの槍さばきも上手くなったでしょう?」

 

キョウヤが相槌を返し、フィオがキョウヤに自身のレベルを見せてクレメアは槍さばきを自慢する。

アクセル付近もそこそこ強いモンスターがいると聞いていたが、一撃熊とマンティコアの縄張り争いにかち合って襲われた時に爆撃矢で迎撃、一撃熊の目を射ぬいたついでに起爆して頭部吹き飛ばして斃し、レベルが4上昇。

マンティコアの蝙蝠の羽付け根あたりに投擲ナイフを投げつつ起爆して羽をへし折り、撃墜。 ヘイト集めんのも嫌だったので、飛行するモンスターが総じて弱い火の魔法剣と氷の魔法剣のエンチャントを施して落下ダメージの抜けきっていなかったマンティコアに突撃。

首元執拗に狙い、氷属性付与の黄昏の剣を首に突き刺して爆破付与の爆破。 首と胴を別れさせてやり倒して、レベルが5上昇。

ちなみに、黄昏の剣は魔法耐性に強いので、爆破に使っても形が残っていて、刀身に軽くヒビが入る程度のダメージだった。

鞘に収めておけば勝手に周囲の魔力か俺の魔力を吸って自己修復する優れものだ。

ちなみに、この剣はハルナに貰ったものだけどな。

 

「ゴブリンの群れやらコボルトの群れに遭遇すればそりゃレベルも上がるわな」

「一体あの5日で君に何があったんだい。 魔物相手に躊躇いがないと言うか、絶対倒す意思と言うか」

「なーに、3日で白狼倒しまくって勘を鍛えたんだよ。 あと、殺らなきゃ殺られる世界だし」

 

魔物がどう動くのかを多角的に見て観察した上で、対策を練りつつどう動けば優位な立ち回りをできるかを考える努力をしているわけだ。

ちなみにだが、装備作成のためにアクセル付近の白狼を討伐もしくは追い払いまくったので、レベルを3日で15にした。

コツさえつかめば爆破で追っ払うのも、討伐するのも楽だった……初心者殺しと対峙して生き残ってる時点で俺もそこそこ運がいいみたいだ。 慢心だけはもうしたくないから、作戦に隙がないかとかは入念にチェックするようにしているが。

 

「やっぱり、初心者殺しを討伐寸前まで痛めつけた戦術眼はまぐれじゃなかったんだね」

「いや、俺だけじゃ死んでた。 間違いなくハルナが近くにいてくれたからとも言える」

 

ハルナの忠告に耳を傾けていれば、初心者殺しとの遭遇の危険性はなかったはずだ。

 

「あの時もハルナの一喝がなかったら、身動き取れぬまま初心者殺しの奴に首なり足なり折られて嬲り殺しにされていただろうさ」

 

俺はあの時の、初心者殺しとの殺り取りの顛末をキョウヤたちに話した。 生きるか死ぬかのやり取りのだったし。

 

「な、え……そんな過酷な状況で生き残れたのかい!?」

「おう、そだぞ? なんか問題でもあるのか?」

「ハルヒちゃんって意外と大物?」

「あたしだと諦めかねない状況だわ!?」

 

三者三様で驚くミツルギ御一行……当然の反応だよな。

 

「初心者殺しは一刀で斬り伏せていたから、そこまで手強い相手とは思わなかった」

「よし、グラムじゃなくて鉄の剣で初心者殺しと殺りとりしてみようか!」

「ウエイトプリーズッ! 君の話を聞くと自信がなくなったから!」

 

そんな漫才以下の茶番はともかく、俺たちは本来の目的である、火山で何をするのかのうち合わせをする。

今回の火山に行く理由は鉱石の採取、それからこれから秋に変わるため生態系に変化の出る季節という事で、竜種の調査だ。

 

「この季節に火山にいる竜種と言えば、ファイヤードラゴン、ブレイズワイバーン、エンシェントドラゴンだね。 僕もドラゴン退治を何度かしているから、その種類のドラゴンは何体か討伐してる」

「さすが竜殺しの魔剣グラムだな」

「そうじゃないわ、ハルヒちゃん! キョウヤもすごいのよ!」

「まあまあ、クレメア。 落ち着いて」

 

グラムの竜殺しでドラゴン倒したんじゃーねーのか? と俺は茶々を入れた。

 

「でも、まぁとんだイレギュラーな存在もいる――骸竜が出たとか言う噂も聞いてる」

「骸竜?」

「鉱物を食べる竜で、正式な名称はスカルヘッド・ドラゴンだよ。 頭部に竜の髑髏を被ったような模様が特徴があるよ。 竜のランクとしては下位だけどね」

「そいつも間違いなく竜種の特性、龍壁(ドラゴン・ウォード)もあるんだっけ?」

 

俺は知識を交換する。 ちなみにハルナはたらふく食べて俺の頭の上で仰向けに張り付くような体勢で寝ている――お前はリスザルか。

龍壁(ドラゴン・ウォード)。 それは、下位ドラゴンであっても最強生命体たる格を与える能力である。

竜種はもともと下位だろうが膨大な魔力をその身に宿しているが、この龍壁はその膨大な魔力を障壁に変換、常時展開してその身の硬さを増している障壁なんだとか。

要するに、ドラゴンを狩るには龍殺し(ドラゴンキラー)の属性で龍壁を破壊、貫通させないといけないのだ。

もしくは大質量の魔力で龍壁ごと潰すかの二択だ。

龍壁の魔法耐性はセイバークラスの対魔力相当(あくまでもミツルギの話)なんだとか。

魔法にも、物理にも強いトンデモ生命体。 それがこの世界の竜種なのだ。

 

「まぁ、ドラゴンに遭遇してもすぐに撤退するよ。 さて、今回の納品指定鉱物はアダマンタイト。 希少鉱石に違いはないけど、この前の調査で大鉱脈が発見されたので、国有の鉱脈になってる。 で、今回の依頼は王室からの直々のものなので、ある一定量以下なら冒険者がその一部をもらっても構わないことになっているよ」

「なるほどな……火山の素材クエストG級ってわけか」

 

某モンハンのフィールドも鉱物の宝庫だったのを思い出す。 御守りの発掘にも精を出してたっけなぁ。

 

「じーきゅう? ナニソレ」

「あ、なんでもないぞ」

「さて、明日は火山に出発する! 各々準備と補給をキチンと済ませておくように! じゃあ解散!」

 

一応リーダーのキョウヤが解散の号令を出したので、俺たちは明日に備えて準備と物資の補給を終わらせて3日目の夜は暮れていった。

 

☆ こ の す ば !! ☆

 

「ハルヒちゃん! そっちの奴落として!」

「任せろ。 吹っ飛べ!」

 

フィオの要請で俺が狙撃した昆虫モンスター〈ドレイクビー〉の群れのど真ん中で、爆破付与した矢弾が無属性魔力を撒き散らしながら爆発して群れを吹き飛ばした。

ドレイクビーは大型化した鎌のような前脚を持つ巨大な肉食の昆虫だ。 本来なら1匹で行動することが多いが、近くに巣があるようで複数体の群れが行動していた。

 

バラバラと昆虫の足やら内臓が焼き滅ぼされて他にぼとぼとと落ちていく様はSAN値チェックのダイスを振りたくなるほどの様だった。

まぁ、ゲームじゃないんで現実逃避はできません!

虫の群れはともかく、俺たちは火山内には立ち入らず、周辺の探索を行った。 アダマンタイトの鉱脈は火山の外周にあるのだとか。

 

「〈遠視〉でこの辺りを見て見たんですけど、どうやら一悶着ありそうですよ?」

 

呑気なハルナの声に俺は過剰反応しそうな心臓の早鐘を抑える。

 

「一悶着? なんだい、それは」

「あ、みなさん伏せてくださいねー」

 

一同が『は?』と言う顔になったら突如として遠方から炎の塊が――ってえ!?

俺の頭から飛び立ち、手を突き出してハルナは言葉を紡ぐ。

 

「曲がりに()がれ、次元よ曲がれ。 展開、次元歪曲フィールド」

 

ハルナのつぶやきの直後に空間が捻れる曲がる。 歪な湾曲した結界にその塊は直撃して閃光と轟音が響き渡った。

閃光の規模から見て、俺たちが立っていた場所の地面が消し飛ぶくらいの威力じゃないか、今のは!?

 

「な、なななな!?」

「なんなのよ、今のはぁぁ!?」

 

フィオかビビり、言葉にできないことを代弁するようにクレメアか絶叫した。

爆破魔法使うせいで、爆弾魔扱いの魔法剣士になりつつあるから、俺ははそこまでビビってないんだからね!?

 

「今のは一体?」

 

呆然と俺が言うとハルナがその疑問に応えてくれた。

 

「エンシェントドラゴンの老生体と強力な個体の、若いエンシェントドラゴンが縄張り争いをしてるみたいですよ? ここだとまた流れ火焔ブレスが飛んできますから、洞窟に避難しましょうか」

 

ハルナの提案に俺たちは素直に従い、洞窟に逃げ込んだ。

 

「それにしても、エンシェントドラゴンの老生体か。 彼らは年を重ねるごとに魔力が莫大なものになるとも聞くからさすがにグラムでも退治できなさそうだ」

「ちなみに、ドラゴンのブレスは全てを燃やし尽くす龍属性の魔力ですので、あの場で私が防がなかったら皆さんが問答無用で消し炭、灰燼に帰す惨状になってたかもです」

 

さらっと言うハルナの言葉に俺たちは青い顔になる。

 

「やっぱり火山も世知辛いな! これだからドラゴンとか嫌いなんだよ! ――もしかして、あの時は走っても逃げれなかったのか?」

「私が次元歪曲させて防いだのにもきちんと理由があります。 ドラゴンのブレスは人々の使う魔法をも焼き切りますので、結界や加護程度じゃ防げません。 マスターの言う通り、逃げたとしても理不尽すぎるその破壊力で周囲もろとも吹き飛ばされてたに違いないですので、私が防ぐしかなかったと」

 

……アクセルに帰りたい。 そう思った俺は悪くないだろう

 

「この辺にもアダマンタイトの鉱脈はあるはずだから、採取を済ませて街に戻ろうか。 さすがにドラゴン2体を相手取る勇気は僕にもないよ」

 

ミツルギは苦笑い(引き攣った無理な笑顔)しながら提案する。 それに俺たちは乗った。

そんで暫くして、洞窟の奥の方にてアダマンタイトの鉱脈を見つけた俺たちはツルハシで壁を叩き、指定量の鉱石を取ると、すぐにきた道を引き返す。

が、フィオがそれに待ったをかけた。

 

「敵探知に反応があるよ!」

「サイズは?」

「かーなーり、大きい……いやまって。 私たちの上にいるんですけど!?」

「! みんな、散開するんだ!」

 

キョウヤの指示に従い、俺たちは散った。

直後に轟音。 落ちてきたのは、がっちりとした四肢を持つドラゴンだった。

 

IGAAAAAッ!!

 

咆哮が洞窟に轟く、俺たちの前に立ちふさがるは骸龍、スカルヘッド・ドラゴンだった。


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