頑張って魔法剣士になりたい元男に祝福を!   作:狭霧 蓮

4 / 13
投稿位置間違いで訂正投稿!


この巡り会いに祝福を! 強敵からの逃走を!

俺のあたりには、血の匂いが充満している。 土のシミとなったゴブリンだったものを見ながら一言。

 

「ゔぶ、嫌な匂いだ」

「独特の血の匂いは好きになれませんねー。 大丈夫ですか、マスター?」

「これが殺すってことなんだな。 この世界で」

「他者の命を奪わないと強くなれないのはこの世界での自然な摂理ですよ。 弱者は強者の餌になって当然な命の軽い世界ですよ。 この世界の過酷さを知ってもなお、前に進めますか? マスター」

 

俺に問いかける星霊の目には慈愛が見えた。 それはまるで、「ここで逃げ出しても誰も責めませんよ?」と問いかけるような瞳で俺を捉えるハルナは俺を心配してくれていた。

俺が、本当に魔物を殺せるのか、斃せるのかと。

 

「お前が血煙に吹き飛ばした奴に、俺さが殺した2匹に黙祷を――俺の魂の糧として、お前たちの魂を受け賜るっ!」

 

俺の中で覚悟が芽生えた。 本気でこの世界で生きよう、真剣に魔物を斃し、強くなった果てに魔王を倒そうと。

冒険者カードを見て見ると、俺が斃した魔物の履歴が記されていた。 ゴブリン2匹とゴブリン隊長の経験値を確認すると意外と多かったのか、俺のレベルが1上昇していた。

 

「お前が斃しても、俺の経験値に加算れるんだな」

「ええ、私とマスターの契約は魂を共有しているという形です。 リミッターの許容範囲であれば私も魔力を使い、精霊魔法を使っての支援ができるのですよ」

「〈テンペスト・ブレイク〉だったか? かなり強力な魔法だろこれ」

 

言いながら俺は、平原にできた窪みを見る。 圧縮された暴虐なる鉄槌はゴブリンを消しとばすには充分過ぎる、オーバーキルな規格外の一撃だった。

高密度な真空刃の塊は一瞬でゴブリンの体を数ミクロンよりも細かく切り削り、バラバラに解体させたのだ。当然、あたりの地形も削り取られて土煙となり、風に流されていった。

 

「そこまで魔力使ってないんで、多分問題ありませんよ。 加減したつもりだったですけど、やりすぎちゃいました」

「可愛こぶってんじゃねーよ!? 二次被害で地形破壊すんな!」

「地形修復は簡単ですよ?」

 

パチンッとハルナが指を鳴らすと、窪んだ大地が蠢動して穴が埋まった。

土の精霊に働きかけて大地を埋め立てたようだ。

 

「さぁ帰りましょうか、マスター」

「そうだな、ギルドに行けば討伐報酬出る筈だし今日はうまいもん食おうぜ」

「賛成です! 私はスモークリザードのハンバーグの定食が食べたいです!」

「賛成、あれは美味いしな! 逸品物のジャイアント・トードの唐揚げも追加してな!」

「わーい! パーっとやりましょう!」

 

大量の食材はこいつの小さな体のどこに収まるのかとかは突っ込むべきじゃない。 星霊だからと俺は勝手に納得してる。 ちなみにだが、ゴブリン討伐で得た小遣いはハルナの胃袋を満たすために頼んだ晩飯代に消え去った。

それから、オヤジとお袋。 異世界で、女になっちまったけど俺は楽しく生きてます。

こうして俺は初めてのレベルアップ、戦闘をこなしてアクセルの街に戻った。

 

☆ こ の す ば !! ☆

 

初の戦闘から少したったある日、俺は最近の日課になりつつあるゴブリン狩りの依頼を受けにギルドに来ていた。

 

「ゴブリンの群れが最近沸いてるよな」

「初心者殺しに追われてきたんじゃないのか?」

 

冒険者のそんな会話を聞き流しながら、俺はクエストボードに出ていたゴブリンの群れの討滅を受注した。

 

「マスター、何度も言いますけど初心者殺しには十分注意してくださいよ?」

「出会わなけりゃ問題ない。 違うか?」

「出会う可能性があるから注意するのですよ!」

 

狩場に向かう道中、ハルナにはさんざ注意された。

初心者殺しなんてヘンテコな名前のモンスターだが、出会ったことがない。 なので、出会うはずがないと俺はタカをくくっていたのだ。 正直に言うと、かのAUOと同じく「慢心」していた。 舐めプしていたのだこの世界を。

そしてアクセルの街から少し離れた場所で俺はゴブリンの群れを見つけて数を把握した。

俺は弓に魔力を通わせて矢を装填する。 そしてキリキリと魔力で編んだ弦を引く。 矢弾に魔力を通わせて……放つ。

矢の着弾とともに閃光と轟音が鳴る。 土煙を巻き上げて十数匹のゴブリンが吹き飛んだ。

これは魔法を矢弾に付与して限界ギリギリまで魔力を溜め込み、放つ矢を爆発させる武器自壊の付与だ。手持ちの矢12本を全て使い切り、倒したゴブリンの数は29匹。

 

「これだけ倒しておけば十分だろう」

「む……マスター、すぐに引き上げることを、早急の撤退を提案します!」

「ん? なんでだ?」

「今の連続爆破で気取られた可能性があります!」

 

春奈の忠告は、それはかなり必死な表情だった。

 

「グルオゥァァアッ!!」

 

その咆哮はどこからか……黒い影が間近に迫ったのをハルナとの模擬戦闘で養われた直感と紙一重の回避の感覚で体を少しだけ傾けて避けるがしかし、咄嗟のことで重心移動が甘かったのか、頬に鋭い痛みが走る。

 

「マスターッ!?」

「かすり傷だ! なんだこいつ!?」

 

クソッ、なんでこうなったんだ。 俺は再びこちらに飛びかかってくる黒い獣を見て戦慄した。 心の奥底から恐怖を感じた……ライオン、トラと同等の大きさで、力強い筋肉質な体の獣。

 

『マスター!! ボケッとしない! 回避行動とって!』

「!」

 

ハルナが直接頭に大声を叩き込んでくれたおかげで、獣の飛びかかりを充分に引きつけながら、俺は軽業のスキルで前転、その足元に潜り込む形に回避した。

 

『あの獣は〈初心者殺し〉! マスター、全力で逃げますよ! 今のマスターが勝てる相手じゃない』

「特徴を教えてくれ、ハルナ! こいつから逃げるためには効率的な行動が不可避だ!」

 

鋼の剣を鞘から抜き放ち、身体にエンハンスドを掛け筋力、敏捷を強化しながら俺は身構えた。

ハルナとのやり取りで得た情報。 まずは初心者殺しの名前、駆け出し冒険者の天敵でかなり高い知能と強力な身体を持つ狡猾で慎重な大型モンスター。

俺は投擲ナイフ3本を取り出すと、魔力充填を開始しながら奴さんの動き挙動を観察する。

俺の周りをゆっくりと旋回して、機を伺っている様子だが摺り足で体位置を調整しているから、お互いにスキを見せていない状態だ。

 

『く、マスターと目標との距離が近すぎます! 私の魔法での援護は不可能です』

「お前、かなり賢いな……俺とハルナを分断し、あいつが魔法使うと俺にも被害が来ると分かった上で俺から距離を取らないわけか」

 

ガルルと唸り、奴は嗤う。

 

「凍て付かせよ《アイクシル・ランサー》!」

 

鋒を向けて魔法を発動させる。 氷の槍が生成されて初心者殺しに向かう。

奴はひらりと魔法を躱しながら俺に飛びかかる。予測通りの挙動。 俺は迎撃に投擲ナイフを投げる。

片足を着地させて避けようとする初心者殺しの手前でナイフの内部から魔力が溢れ出し、爆発した。

本能的に身を引いたのか初心者殺しはその爆発から逃れていたためほぼ無傷だった。

 

「ナイフは後5本か」

 

俺は投擲ナイフ全てに魔力を込めた。

 

「そら、爆発すんぞ!」

 

一投。 初心者殺しのいた場所に突き刺さり、派手に爆発させて地形を削る。

二投。 予測していた場所に投げて爆破。 木を足場に飛びかかろうとしていた初心者殺しはそれを避ける。 爆発の衝撃で木がへし折られて倒れる。

初心者殺しから距離を取ろうと、後退しながらナイフを投げていた。 ハルナの力で奴を倒すのは容易。 でもそれだと、ここらの森を破壊しかねない。

それに、ハルナの力頼りなのは正直に言うと気分がよろしくない!

 

「慢心してたツケが回ってきたわけだ。 だから、こっからはマジでいくぞ」

 

ギルゥアァ! と吠えながら初心者殺しが俺を叩き潰そうと前脚を振り上げながら飛びかかる。 俺はそれを体を横にして回避しつつ軽やかに片手バック転で横薙ぎの爪を避ける。

避けながら初心者殺しの手前にナイフを投げて爆破。さっきよりも強めに魔力を充填していたからさらに派手な爆発が起こった。 破壊に秀でた魔力の塊なので当たれば被害は大きいのを見ただけで理解したのか? この獣は?

 

すぐに飛び退いてまたもや無傷の初心者殺し。 しなやかに着地しつつ俺に躍り掛かる。

どうやら、首を撥ねようとしてるようだが、俺かって死ぬ気はない!

 

「はっ!」

 

鋼の剣で凶爪を弾こうとすると、奴は前脚を引っ込めてそれを避ける。 交錯する視線、やられた。 フェイント使うのかよ!?

すぐに俺は前に向かってダイブから受け身取りながら空中前転で相手の位置を確認する。

ちらりと後ろを見ながら後脚を俺の背中のあった位置に置いていた。 判断が遅れていたら、脊骨を引きずり出されてたなありゃ。

 

「オーケイ、お前が厄介なのはよーく分かった。 だが、タダでお前の胃袋に収まってやる道理はねぇ!」

 

走り寄る獣に対して、俺は地に鋼の剣を突き刺して魔法を発動する。

 

「それらは穿つ槍! 《ストーン・ランサー》!」

 

大地に魔力を流しこむと、石の槍を生み出して剣山が針山のごとく俺を囲うように生える。 初心者殺しの挙動に注意しながら、残りの投擲ナイフ2本を投げつけ、地に突き立て爆破する。

奴はそれをことごとく躱す、そこまでは予測通り。

 

「切りきざめ! 《ヴィンド・スラッシャー》!」

 

剣から手を離し、俺は風の魔法を発動。 かまいたちが発生して飛びかかってきた初心者殺しの毛皮を切り裂くが大したダメージとはなっていないようだが、惹きつけるための罠……!

 

「我が身は疾風が焔がごとく!《エンハンスド・ツヴァイ》!」

 

ヴィンド・スラッシャーの効果中に詠唱して身体を2段階目の強化を施す。

獣は嗤う。 俺を仕留めたと気を緩めた。

俺はそれを嘲笑う。 剣に触れて魔法を制御する。 石槍を内側に反らせていく。 初心者殺しの牙を爪を死ぬ気で、決死紙一重の回避、本当のギリギリで回避して着地前の初心者殺しの頭を思いっきり蹴りつけて跳躍し、石槍が曲がり足場と成ったところに降りる手前で

 

「発破ァッ!」

 

鋼の剣を爆破させた。 地を縦に、大穴を穿つように指向性を持たせて。 鋼の剣の破片は初心者殺しの四肢を満遍なく傷つけただろう。 かなりの魔力を充填して置いたからな。

 

ギャオオンっ!?

 

唸り声、の後に地響き。 地面がいきなり消し飛んで穴の底に叩きつけられたダメージは如何なるものか、想像に容易い。

 

「仕上がり上場! 逃げるんだヨォォォォ!」

 

俺はそれを見届けると、飛んでいたハルナを捕まえて全力の逃走を開始した。

後ろの穴からは怒り狂う獣の咆哮が聞こえたが気にしない!

 

こうして命からがらアクセルの街に逃げ帰ったのだった。

 

 

「ふぅ、まぁこんなもんか」

 

あの日から数日過ぎた今日、俺は今までの服、ジーンズと白のシャツをハルナの異空間に思い出の品としてしまわせてもらった。

俺の今の姿は、ハルナの力で作り出した武具と服で揃えているわけで。 白のタンクトップにフード付きの赤いジャケットと赤いミニスカート、黒のオーバーニーソックスを履いている普段着だ。

鉄鉱石に魔力を溜め込んで加工した軽くて丈夫な魔法金属の胸当てを作り、白狼の毛皮からクローブを作ったり、マントを作ったりと色々作った。

 

リストにあげると

 

頭 疾風の羽根飾り

体 魔法金属の胸当て

右手 白狼の弽(魔法強化の魔符を編み込んだサポーター

左手 白狼のグローブ(魔法金属の籠手

腰 白狼の皮編みベルト(吊るす魔法金属の草摺りと矢筒(15本)、白い鞘と赤い鞘も引っ掛けていたり、ポーチも下げたりしている)

脚 レガース付き魔法金属の強化ブーツ

アクセサリー マギリング・マント

武器 右手 銀狼の剣

左手 黄昏の剣 (白樺の魔法弓)

サブアーム 投擲ナイフ 8本

 

とまぁ、こんなもんかな? もちろんこれらは、ハルナにはお金を払って作ってもらった。 軽くて丈夫な魔法金属を使っているから想像以上に軽い。 ちなみに、あいつが納得する金額を貯めるのにソロでゴブリンの群れを、白狼の群れを討伐しまくってしんどかったがな。

装備調達の資金を短期間で貯めるのはキツかった。 なおあの初心者殺しはかなりのダメージを負って、弱っていたところを討伐依頼を受けたとあるパーティーに討伐されたらしい。 初心者殺しの討伐の手助けをしたと言うことでお礼を言われた。

とまぁ、俺がここまでの用意をしているのにはきちんと理由がある。 初心者殺しを倒したそのとあるパーティーのお誘いを受けたのだ。

ソロでもやっていける自信はあったが、初心者殺しから教わった……「舐めプダメ、ゼッタイ」と。

 

「やぁ、ケンナシさん」

「おう、ミツルギ。 一時のパーティーとは言え、よろしく頼むぜ」

「こちらこそよろしく頼むよ、僕たちだけでもよかったけど、魔法を使える仲間を探したいと思っていたからさ……もしも気に入ってくれたなら僕たちのパーティーに来て欲しいんだけど」

「そいつはお前らをもうちょっと知ってからだよ」

 

青い鎧を着込んだイケメンこと、茶髪のミツルギキョウヤと言うこの男は俺と同じような転生者だ。 魔剣グラムをアクア様から賜り、この世界で生きている自称勇者なソードマスターだとか。

俺が転生者だと言うことも知った上でパーティーに誘ってくれていた。

 

これから一週間こいつらの世話になる。 見極めさせてもらいますか、勇者の実力とやらを。




と言うわけでマツルギと一緒に次回は冒険です。 まともにチーム戦できるのだろうかとか言わないで!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。