頑張って魔法剣士になりたい元男に祝福を!   作:狭霧 蓮

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鋼の女騎士とキャベツとの乱戦を!

カエルに食われる体験を久々にした俺は、浴場に来ていた。 もはやおばちゃんとかの裸にいちいち反応しなくなったのは精神が完全に順応したからなのだろう。

カエルは鎧を着た獲物というか人を食わない。 基本的に嫌うのだが、寝ぼけていたのかそれとも飢えていたのか…俺とめぐみんのニコイチで量を優先したのかはわからないが食われた。

 

「やれやれ……酷い目にあったな、今日も」

「なんだかんだ言って、ハルヒもカエルに食べられるのね。 親近感を覚えるんですけど」

 

粘液まみれの俺たちは生臭い。 そのためか、カズマに追いやられるようにして俺たちは大衆浴場に来ていた。

まぁ屋敷を購入して以来、久々に大衆浴場を使う気がする…が。 めぐみんの視線が俺の胸元に突き刺さっていた。

 

「相変わらずの大きさですね…着痩せしてるんですか?」

「俺に言うな、聞くな。 なりたくてこの大きさにしたわけじゃない」

 

ちなみに、カズマが報酬を受け取ってくるとの事で冒険者カードを預けておいた。

 

「しかし、ハルヒト。 まだ中級職だったのですか?」

 

めぐみんが疑問を述べるので俺はそれに応えた。

 

「まぁな…アークウィザードにもなれるらしいが、俺は剣士になりたかったからさ…たとえ無理だとしても剣を使える方が懐に入られた時に対応できるし」

「なるほど。 アークウィザードでも剣は使えるはずですが…いずれ転職するのですか?」

「めぐみんがいるし、当分は魔法職は必要ないだろ」

 

そうですか……とあからさまにしょんぼりするめぐみんに後ろ髪を引かれる思いだが、俺は魔法使い系の職業に転職する気はない。

物理でダメなら魔法で!が売りな魔法と物理の合わさった職って便利だろう?

俺たちは身体を洗い、汚れを落とした後湯船に浸かる。

みんなと世間話をしていたらちょうどいい時間になった

 

「っぱぁ! さてと、私は先に上がるからね」

「おいよ、めぐみんはどうする?」

「私も上がりますよ……ハルヒトはまだ入るんですか?」

 

アクアが湯船から上がり、めぐみんに俺がどうするのかを聞くと、続くように立ち上がる。

 

「俺はもうちょい浸かるよ。 長風呂は文化だ」

「そうですか? のぼせないように注意してくださいね、では後で酒場で落ち合いましょう」

「はいよー」

 

俺はめぐみんに返事を返して、湯船に浸かる。

 

やはり、風呂はいい……身体を清潔に保つ事と、疲れが抜けていく感覚は日本人が好むことだ。

数分後に風呂から上がった俺は、清潔なタオルで体の水滴を拭き取る。

受付のおばちゃんに頼んでおいた速洗濯の代金を払って服を受け取り、着る。

この速洗濯は受付のおばちゃんに頼むと魔法を用いて洗濯から乾燥までを一瞬で終わらせるサービスである。

 

若干服が焦げるのが玉に瑕なのだが、今日はうまいことやってくれたらしい……焦げた匂いがしない。

依頼主の幸運の値に依存すると聞いているが、真偽は定かではない……ぶっちゃけると、二回ほど衣服が焦げた。

さてと、ギルドに向かいますか。

 

☆このすば!☆

 

「なぁ、スキルはどうやって覚えればいいんだ?」

 

カエル討伐の翌日、俺たちは遅めの昼食を取っていた。

 

俺の眼の前ではうちのパーティーに入るまでろくな物を食べることができなかったのだろう。

めぐみんが一心不乱に定食に食らいついており、俺の隣では近くの店員さんに定食のおかわりを頼むアクア……年頃の女とは思えない食いっぷりである。

 

「スキルの取り方か? 冒険者カードの習得可能スキル欄にある好きなスキルを……ってカズマは冒険者だったな」

「冒険者は誰かに、スキルを教えてもらう必要があるわ。 例えばハルヒの持つ〈狙撃〉を覚えたければまず目で見て、そしてスキルの使用方法を教えて貰えばいいわ。 教えて貰えばカードの習得可能スキル欄に、その項目が現れるからスキルポイントを使ってスキルを習得すればいいの」

 

俺の言葉をアクアが引き継いでくれたので俺も冒険者カードを見直す。

俺の持っているスキルでカズマでも使えそうなのは……狙撃と弓くらいか……あとは片手剣くらいだろうか?

 

「それじゃあ、めぐみんに教えて貰えば俺でも〈爆裂魔法〉が使えるようになるってことか?」

「その通りなのです! 」

「うおっ!」

 

カズマの何気ない一言を拾っためぐみんが食いつく……爆裂魔法の同志を見つけたと言わんばかりだ。

 

「その通りですよカズマ! まぁ、習得に必要なポイントはバカみたいに必要ですが……。 冒険者は、アークウィザード以外で唯一爆裂魔法が使える職業です。 爆裂魔法を覚えたいならいくらでも教えてあげましょう。 と言うか、それ以外に価値のあるスキルなんてありますか? いいえ、ありませんとも! さあ、私と一緒に爆裂道を歩もうじゃないですか!」

 

めぐみんの熱弁、ずいと寄せる顔が近いのでカズマがテンパっていた。

 

「ちょ、ちょっと待て! おち、落ち着けロリっ子! つーか、スキルポイントってのは今3ポイントしかないんだが…」

「ろ、ロリっ子…⁉︎」

 

熱弁していためぐみんはカズマにロリっ子呼ばわりされためか意気消沈…相当ショックだったようだな。 いやまぁ、ロリには違いないが。

 

「冒険者が爆裂魔法を習得しようと思うなら、スキルポイントの10や20じゃ効かないわよ? 十年くらいかけてレベルを上げ続けて一切ポイントを使わず貯めれば、もしかしたら習得できるかも? ってくらい」

 

アクアがめぐみんの話を引き継いで説明をくれるが、十年でも取れるのは取れるんだな。

 

「待てるかそんなもん」

「…それでも、十年くらいで習得はできるんだな」

 

俺としては至極どうでもいい話なわけだが。

 

「ふ…。 この我がロリっ子…」

 

しょんぼり項垂れるめぐみんに俺はあとでネロイドをおごってやろうと思った。

 

「しかし、せっかく多彩なスキルを覚えることができる冒険者なんだからなぁ…。 色々覚えておきたいわけなんだが…アクア。 お前、なんか便利なスキル持ってないか? できれば習得ポイントが少ない方がいいんだが」

 

いや、アクアは確か〈宴会芸〉とか言う戦闘とは無関係なスキルをとっていた気がするが……

 

「……しょうがないわねー。 言っとくけど私のスキルは半端ないわよ? そう誰にでもホイホイ教えるもんじゃないんだからね?」

 

神妙な顔をして頷くカズマに満足したのかアクアは手に持っていた水の入ったコップを何を思ったのか頭に乗せる。

そして、ポケットから取り出した何かの種をテーブルに置く。

 

「このコップにこの種を指で弾いて、一発で入れるとあら不思議! コップの水を吸い上げた種はにょきにょきと……」

「誰が宴会芸スキル教えろって言ったこの駄女神!」

「って宴会芸じゃねぇか!? なんでそんなの取る余裕があるのさ!?」

「ええ――!?」

 

思わず俺も突っ込んだ…いや、立派な支援スキルなんだけどさ、宴会芸も。

俺とカズマに突っ込まれてショックを受けたのか、アクアはショボーンとしながらテーブルの上の種を指で弾いて転がし始めた。

いやまあ、自慢のスキルを教えようとして突っ込まれたら落ち込むかもしれないが…目立つから頭の上のコップを下ろしてほしい。

 

「ハルヒトのスキルはなんかいいのあるか?」

「うーん。 俺のスキルか…狙撃スキルと弓スキルでも覚えるか? 俺には関係のないが、使う場合は矢弾代がかかる」

 

カズマが俺にも聞いてきたので無難なやつを教えようかと思っていると、笑い声が聞こえた。

 

「あっはっは! 面白いねキミたち! ねぇ、キミがダクネスが入りたがってるパーティーの人? 有用なスキルが欲しいんだろ? 盗賊スキルなんてどうかな?」

 

隣のテーブルから明るい声が聞こえた。

反射的にそちらを見ると2人の女性がテーブルに腰掛けてこっちを見ていた。

1人は軽装で盗賊風、頬に小さな刀傷がある銀髪の美少女。

もう1人はカズマよりも身長が高そうな、フルプレートアーマーを身に付けた金髪の美女だ。

 

「えっと、盗賊スキル? どんなのがあるんでしょう?」

 

カズマの質問に上機嫌で盗賊風の少女は応える。

 

「よくぞ聞いてくれました。 盗賊スキル発動使えるよー。 罠の解除に敵感知、潜伏に窃盗。 持ってるだけでお得なスキルが盛りだくさんだよ。 キミ、職業の冒険者なんだろ? 盗賊のスキルは習得にかかるポイントも少ないしお得だよ? どうだい? 今ならクリムゾンビア一杯でいいよ?」

「安い……まぁ、どうするかはカズマ次第だな」

「よし、その話乗った!」

 

俺のつぶやき(後押し)にカズマは嬉々として店員を呼ぶ。

 

「すんませーん、こっちの人に冷えたクリムゾンビアを一つ!」

「あ、そうだ。 用事がらあるんだった。 また後でな」

 

そう言い残して俺は、席を後にする。

 

☆KONOSUBA☆

 

ハルヒトはとある道具屋を訪ねた。 カランコロン、とドアを変えた時に音がして、店の奥の方から「はぁ〜い」と彼女には聞き慣れたはずの声、間延びした声が聞こえた。

 

「いらっしゃいませ! ってアレ? マスターじゃないですか」

「んあ? なんでお前が店番してんだよ」

 

ここは〈ウィズ魔道具店〉。 色々な魔道具を扱う店で、店主のウィズは引退した歴戦の大魔導士、アークウィザードである…と、それは表向きの情報。 ウィズには裏向きの情報もあるが、ハルヒトはそのどちらも知っていたりする。

 

「えっと、ウィズが、蓄えの砂糖がなくなって栄養不足に、そのせいか自然成仏寸前で…私が繋ぎ止めてますけど」

「それを早く言ってくれよ!?」

 

ハルヒトはそう言うや否や、カウンターの奥の部屋に上がり込み、そこで目を回している、半透明になりかけた…茶髪の美女の肩を揺すった。

 

「おい、ウィズ! 三途の川を渡るにはまだ早いぞ! 〈ドレインタッチ〉して生命力を!」

「は、はひぃ…〈ドレインタッチ〉っ…」

 

ハルヒトが女性の手を取ると、淡くその手が光った。

すると、彼女は軽い倦怠感に襲われる。 が、それは彼女にとって、苦になるものではない。 しかし、だんだん目眩の感覚を覚えだして若干焦燥し始めた時に、美女…ウィズの身体ははっきりとした輪郭を取り戻し、半透明になりかけた体も元に戻っていた。

 

「ごめんなさい、大丈夫? ハルヒトさん」

「この程度なら問題ないさ…少しばかりクラクラするが」

「うう、ハルナ様から生命力を譲渡してもらえればいいんですが…」

「それをしたらウィズが成仏もとい強制昇天ものですから!? 私がものすっごいあと味悪いですから、やめてください!?」

 

ウィズはすこししょんぼりしていた。 先程から成仏だの昇天だのの単語が出ているが、ウィズはリッチーと呼ばれるアンデットである。

アンデットの王。 リッチーは〈ノーライフキング〉とも呼ばれる大魔導士が禁呪を用いて神の説く理を捨てて不死となった存在だ。

そんなリッチーがなぜこの街にいるか…まではハルヒトも把握していないが、詮索するつもりもなかった。

何せ、ウィズは人を襲わない。 それどころか集合墓地の迷える魂たちを天に導くプリーストの真似事までしているため、人類の味方であるとハルヒトは判断しているのだ。

 

「たく、いつでも頼ってくれてもいいって言ってるじゃねえか。 こっちかって頼るばっかりは嫌だって言うのに」

「す、すみません…」

「いや、そこは謝るところじゃないから…はぁ、まあいいや。 今日も例のアレを頼みに来た」

「あ、はい。 〈レベルドレイン〉ですか?」

「ああ、頼むよ」

 

集合墓地のゾンビの討伐の折にウィズと出会ったハルヒトはその人柄と行動を見て思わず「あんたは天使か」と突っ込んで以来の付き合いとなっている。 何より、ハルナが彼女をいたく気に入ってしまい、ハルナはよくこうしてウィズの店に遊びに来ているのだ。

そして、リッチーは最高位のアンデット故に強力なスキルを幾多も有している。 その中でも〈タッチ〉系は他者より生命力を奪ったり、魔力を奪うことも可能らしく、意識して相手に触れると、意識した状態異常を引き起こせるトンデモスキルなのだ。

そして、ハルヒトは定期的にウィズに〈レベルドレイン〉を行使してもらい、レベルを下げている。

実はレベルが下がるスキルや薬品がこの世には出回っている。 しかし出回っているが偽物だったり、高価だったりとおいそれと手を出せるものではない。 そこでハルヒトはリッチーのウィズにそれを聞き、定期的にレベルを下げらようになったのだ。

と言うのも、レベルが下がることに関して、デメリットが存在しないことにある。

レベルを上げれば、ステータスが上昇する。 そして上昇したステータスはレベルが下がっても変動しないのだ。

つまり、レベルを下げてまたレベルを上げれば、何度でもステータスが成長するのだ。

応じてスキルポイントも上昇するし、レベルを下げても蓄えたスキルポイントはそのぶん減らないのだ。

言い切ろう、メリットしかない。 リッチーの呪詛の類は確かに体内に流れ込むが、ハルナにそれを浄化して貰えば問題ないので、実際のところはハルヒトにしかできないことなのではあるが。

 

「今回もレベルを3下げればいいんですね?」

「おう、今日にでも上級職に成ろうと思ってさ…いい加減に中級職からクラスアップしてくださいとルナさんに泣き付かれた」

 

こうして、ハルヒトはクラスアップに必要なレベルを維持しながら、レベルをダウンさせてもらうのであった。

 

☆このすば!!☆

 

俺がギルドに戻ると、カズマもスキルを習得して戻ってきていた。

 

「公の場でいきなりぱんつ脱がされたからって、いつまでもメソメソしてもしょうがないね! よし、ダクネス。 あたし、悪いけど臨時で稼ぎのいいダンジョン探索してくるよ! 下着を人質にされてあり金失っちゃったしね!」

「おい、まてよ。 なんかすでにアクアとめぐみん以外の女性冒険者達の目まで冷たい物になってるから本当に待って」

 

早口で弁明するカズマの声…ぱんつを脱がしただと?

 

「戻ってきたらなんの騒ぎだ、何やったんだよカズマ…」

「ハルヒト!? どこ行ってたんだよ!」

 

とまぁ、カズマが経緯を俺に話すのだが…掻い摘んで、経緯をまとめると

 

「なるほど、スキルを習って実践して相手のものをランダムに取るスティールでクリスさんのぱんつを脱がし、彼女の有り金全部とぱんつを交換したってことか?」

 

神妙な顔して頷くカズマ…悪気はなかったと見るか。

 

「…すまなかった、クリスさん。 うちのバカがやらかしたことについては謝らせてくれ」

 

俺は彼女に深く頭をさげる…

 

「いいって、いいって! あたしが持ちかけた賭けみたいなものだったし…本当に、気にしないでね? でも、これくらいの逆襲はしたっていいでしょ?」

「は、はぁ…」

「それじゃあ、ちょっと稼いでくるから適当に遊んでいてダクネス! それじゃあ行ってみようかな!」

 

悪戯な笑みを残してクリスさんはメンバー募集掲示板を見に行ってすぐにパーティーを見つけたのだろう。

ダクネスと呼んだ人に手を振りながら、臨時パーティーと共にギルドを後にしていった。

 

「えっと、ダクネスさんは行かなくて良かったの?」

 

俺の座っている場所の真ん前に、自然に座るダクネスって人にカズマが訪ねていた。

 

「うむ。 私は前衛職だからな前衛職なんてどこにでも有り余っている。 でも、盗賊はダンジョンに必須な割に地味だからなり手があまり多くない職業だ。 クリスの需要ならいくらでもある」

 

なるぼど…職業によって需要があるないはやっぱりあるんだな。

めぐみんの話ではダンジョン探索は朝一からで…おそらく、クリスさん達はダンジョン前でキャンプするのだろうと。

 

「それはそうと、カズマは無事にスキルを覚えられたのですか?」

 

めぐみんがカズマにそう聞くと、ニヤリと不敵に笑う。

 

「ふふん、まあ見てろよ? 行くぜ! スティール!」

 

カズマが右手を突き出すように構えるとその手には黒い布が握られていた。

 

ぱんつだった

 

「なんですか? レベルが上がってステータスが上がったら、冒険者から変態にジョブチェンジしたのですか? …あの、スースーするのでぱんつ返してください」

 

てか、めぐみん…意外と過激な下着を身につけてるんだな。 黒とは驚いた。

 

「本当に故意でやってないんだよな?」

 

やった当の本人の慌てぶりからわざとじゃないとは思いたいが、ぱんつを返すカズマは一層小さくなっていた。

 

「あ、あれ⁉︎ お、おかしいなー…こんなはずじゃ…。 ランダムで何かを奪い取るスキルのはずなのに!」

 

周りの女性からの視線は零下を超えた凍える眼差し…全てがカズマに向けられている。

と、突然バンとテーブルが叩かれた。

椅子を蹴って立ち上がったのはダクネスさん…なぜにそんなに目を爛々と輝かせているんだ?

 

「やはり、やはり私の目に狂いはなかった! こんな幼げな少女の下着を公衆の前で剝ぎ取るなんて、何という鬼畜…! 是非とも、是非とも私をこのパーティーにいれて欲しい!」

「いらない」

「んんっ…⁉︎ くっ…!」

 

カズマの即答に頬を赤らめて体を震わせる…まさかこの人、M(マゾ)ッ気をお持ちで?

 

「ねぇ、カズマ。 この人誰? この人が昨日言ってた、私たちがお風呂に入ってる間に面接に来た人?」

「ちょっと、この方クルセイダーではないですか。 断る理由なんてないのでは?」

 

カズマがしまったという顔をする。

 

「…何か問題でもあるのか?」

 

俺がカズマに直球で聞くと手招きしてきたのでそっちに行くと、ひそひそと

 

「めぐみん、アクアだけでも大変なんだぞ、これから…問題児がこれ以上増えたら俺とお前にかなりの負担になるだろ!?」

 

こんなことを言ってきた…まぁダメなところもあればいいところもあるのが人だ…が、うちの面々はそれの振り切り方が極端ってわけなのだろう。

 

「組むだけ組んでみたらどうだ?」

 

とりあえず組んでみてダメなら断る…これでいいだろうとカズマに言う。

するとカズマは裏切り者と言いたげな顔で意を決したように表情を引き締めた。

 

「実はなダクネス。 俺たちはこう見えて、ガチで魔王を倒したいと考えている」

 

カズマの意図を察した俺は口を出さず見守ることにした。

 

「ちょうどいい機会だ、めぐみんも聞いてくれ。 俺たちはどうあっても魔王を倒したい。 そう、俺はそのために冒険者になったんだ。 と、言うわけで。 俺たちの冒険は過酷なものになるだろう……特にダクネス。 女騎士のあんたなんて、魔王に捕まったらそれはもうとんでもない目に遭わされる役どころだよな?」

「ああ、全くその通りだ! 昔から、魔王にいやらしい目に遭わされるのは女騎士の仕事と相場は決まっているからな! それだけでも行く価値はある!」

「「えッ⁉︎」」

「む? 何かおかしなことを私は口走ったか?」

 

強い同意のダクネスさんに驚いた俺とカズマの声がハモる…同意するところじゃない気がするのだが、あれ? おかしいのは俺たちの方なのか?

 

「め、めぐみんも聞いてくれ。 俺たちの相手は魔王だ。 この世で最強の存在に俺たちは喧嘩を売るつもりなんだ。 そんなパーティーに無理して残る必要は……」

 

それを聞いた途端にめぐみんがガタンと椅子を蹴って立ち上がる……椅子に恨みでもあるのか、この連中は。

 

「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操りし者! 我を差し置き最強を名乗る魔王! そんな存在は我が最強魔法で消し飛ばしてみせましょう!」

 

ギルド内の視線を集めて、めぐみんがそれはそれは見ていて清々しくも感じる厨二病宣言をした。

自信満々なドヤ顔してんじゃないよ……魔王が爆裂魔法一発でノックアウトできるとかどんなイージーモードだよ。

 

「ねぇカズマ、ハルヒ……」

 

がっくりと項垂れるカズマの袖をクイクイと引っ張るアクア。

 

「私、カズマの話を聞いたら何だか腰が引けてきたんですけど。 なんかこう、もっと楽して魔王討伐できる方法ない?」

 

アクアの発言にカズマがこめかみを押さえながら言った。

 

「むしろ、お前が一番やる気を出せ」

 

と、その時だった。

 

[緊急クエスト、緊急クエスト! 街の中にいる冒険者の各員は至急冒険者ギルドに集まってください! 繰り返します。 街の中にいる冒険者の各員は至急冒険者ギルドに集まってください!]

 

受付嬢ルナさんの声が街に響き渡る……大音量のアナウンスが流れてきた。

マジックアイテムで音声を増幅拡大しているのだろう。

 

「おい、緊急クエストってなんだ? モンスターが街に襲撃に来たのか?」

「もしそうなら緊急事態かもしれんが、おそらく〈キャベツ〉かな?」

 

カズマの疑問、普通のファンタジーな異世界なら通るベタなイベントだと思う。

しかし、俺やダクネスさん、めぐみんがどことなく嬉しそうな雰囲気で、不安を感じている様子はない。

 

「多分、キャベツの収穫だろう。 そろそろ収穫の時期だしな」

「は? キャベツ? キャベツってモンスターか何かか?」

 

カズマが呆然とそんなことを言う。

すると、ダクネスさんとめぐみんが彼をかわいそうな人を見る目で見つめていた…そういや、こいつ知らんよな。

 

「キャベツとは、緑色の丸いやつです。 食べられるものです」

「噛むとシャキシャキする歯ごたえの、美味しい野菜のことだ」

「そんなこと知っとるわぁぁぁ! じゃあなんだ? 緊急クエストだの騒いで、冒険者に農家のお手伝いさせようってのか? このギルドの連中は?」

「いや、サンマの収穫のお手伝いの方が簡単なお仕事だろう…」

 

カズマがとうとう頭がオーバーヒートしたのか、説明を求めるようにアクアを見ると

 

「あー…カズマは知らなくて当然よね。 ええっと、この世界のキャベツは…」

 

アクアがなんだか申し訳なさそうに説明をくれようとするのを遮るようにルナさんが大声で説明を始めた。

 

「みなさん、突然のお呼び出しすいません! もうすでに気がついている方もいらっしゃると思いますが、キャベツです! 今年も秋キャベツの収穫時期がやってまいりました! 今年の秋キャベツは出来が良く、一玉の収穫につき報酬は一万エリスです! すでに街中の住民の皆様には家に避難して頂きました! ではみなさん、できるだけ多くのキャベツを捕まえ、ここに納めてください! くれぐれもキャベツに逆襲されて怪我をなされないようお願い致します! なお人数が人数。 額が額なので、報酬の受け渡しは後日まとめてとなります!」

 

カズマの顔に怪訝なものを聞くような雰囲気が。 キャベツの収穫? キャベツに逆襲されて怪我をなされないよう? そんなことを考えているように見えるが。

 

「…は?」

 

彼の疑問はさておき、ギルドの冒険者連中は歓声をあげる。 連中を追うように、ギルドの建物を出ると…

街中を悠々と飛び回る緑色の丸いやつ…紛れもなくそれは…キャベツだった。

カズマがことを把握できずに立ち尽くしていると、いつの間にか彼の隣に来ていたアクアが厳かに告げる。

 

「この世界のキャベツは飛ぶわ。 味が濃縮してきて収穫の時期が近づくと、簡単に食われてたまるものかとばかりに。 街や草原を疾走する彼らは大陸を渡り、海を越え……最後には人知れぬ秘境の奥でひっそりと最期を迎えると言われているわ。 なら、私たちは彼らを一玉でも多く捕まえて美味しく食べてあげようってことよ」

「俺、屋敷に帰って寝ててもいいかな」

 

呆然とつぶやくカズマの隣を勇敢な冒険者達が気勢を上げて駆け抜けていく…彼らもキャベツの生き様に感化されて熱く滾る漢達なのだろうか?

俺はハルナに借りている倉庫(インベントリ)からイチイの弓と矢筒を呼び出すと矢筒を腰に固定して左手には弓を持つ。

矢筒には倉庫から一緒に呼び出された石の矢が詰まっている。

 

「よし、カズマ…。俺はキャベツの収穫に行ってくりゅうっ!」

 

おそらく俺の目は$になっているだろう…一万エリス…待ってろよぉぉぉ!

 

「あ、おい待てハルヒト! お、おいていくなぁぁぁ!?」

「あ、待ってよハルヒー!?」

 

あ、そうそう。

これは余談だが、ダクネスさんは…不器用だった…剣がなかなか当たらないクルセイダーというのも納得。

しかし、硬かった…最硬にな!

 

☆KONOSUBA☆

 

[キャベキャベキャベツ!]

 

キャベツの鳴き声がこだまするその戦場で、ハルヒトは踊る。 彼女が引きしぼる弓の弦はキリキリと不快な音響を鳴らす。

 

「……狙撃!」

 

ヒュッと放たれた矢はハルヒトに打撃を加えようとしていたキャベツを射抜き、地に落とす。

 

「狙撃!」

 

矢を番え、撃つ……番えて撃つ……

 

矢弾はハルヒトからしたら無限と言っても過言ではない。

倉庫には有り余るほどに備蓄されているためストックされた矢がまだまだあるのだ。

ハルヒトが矢を放つたびに転がるキャベツはゆうに八十玉を超えていた。

やがて矢筒の矢は尽きるが、ハルヒトは矢筒と反対側に吊るしてあった鋼の剣を抜くとそれを地に突き刺した。

 

「ちょうどいい……試すか」

 

ハルヒトは体内に棲まう存在、ハルナを通じて出会った精霊に呼びかける。

 

精霊回廊(プロムナード)を使うのは久々だが…いっちょやってみますか!」

 

地に刺した黄昏の剣を抜き、天に掲げるようにして構えてハルヒトは詠唱を唄った。

剣を右手に持ち、弓を倉庫に格納したハルヒトは左手を突き出す。

その突き出された手の先には赤い火球が宙に浮いていた。

 

「全てを焼き焦がす火炎の王よ。 汝に我は願う。 我を滅ぼそうと、我を倒そうとせん彼の敵に終焔を与えよう」

 

ハルヒトの手先の火球が小さく収縮していく。

 

「我の願いは汝の、汝の願いは我の願い。 永劫の時を焼却せし汝の咆哮を轟かせよう……!」

 

やがてその火球は徐々に大きくその魔力密度を増して行く……そして……ハルヒトは火炎の王の名と共にその終焔を解き放つ!

 

「〈ロアー・イフリート・クリムゾン〉ッ!」

 

解き放たれた焔が、辺りを赤く照らし出す!

 

着弾点を中心に巨大な火柱と大気が急加熱されたことにより上昇気流が発生…火柱に引き寄せられるようにしてキャベツ達は上昇気流に吸い寄せらていった。

 

中級魔法の〈クリムゾン〉にハルヒトは炎の大精霊、《炎王イフリート》の力を借り、それを上級魔法に近い威力に増幅させた。

その威力は火炎魔法の中で最強と謳われる〈インフェルノ〉には劣るが、引けを取らない威力になる。

紅蓮の焔が飛来するキャベツ達を包み、焼かれたキャベツ達はいい火加減で火を通されていたのであった。

 

「…後日が楽しみだ…!」

 

ハルヒトのつぶやきは近くで呆然と見守っていたカズマとアクアに聞こえることはなかった…。

 

(続く)


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