頑張って魔法剣士になりたい元男に祝福を!   作:狭霧 蓮

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カズマ達の付き添いを!

「おめぇら! 今日はもう上がっていいぞ!」

「ありがとうございましたー!」

『したー!』

 

大声が城壁の拡張工事現場に響き渡り、俺たちは親方から今日の日当をもらう。

 

「今日もよく働いたわね、私たち!」

「ああ、そうだな! 帰って飯食おうぜ! ……疲れた」

 

アクアの言葉に相槌を返して俺たちはとある屋敷へ足を進める。

門をくぐり、玄関をノックしてから鍵を使って扉の錠を開ける。

 

「ただいま〜! ハルヒ、ごはんできてる!?」

「今日も働いたぜ……疲れた」

「二人ともおつかれさん。 飯か風呂かどっちがいい?」

 

屋敷に入り、居間に向かうと、黒のエプロンをつけた赤髪をまとめて括った、いわゆるポニーテールの髪をした少女が俺たちに提案する。

この屋敷の主人のハルヒトと言う俺と同じ転生者だ。

見た目は赤髪で青目な蒼崎青子に似ているが、元は俺と同じ男だそうな。

 

「じゃあ、風呂には先に俺が入る。 アクアは後でいいよな?」

「そうね、ハルヒ。 私は先にご飯食べるわ!」

「了解だ。 そんじゃとっとと風呂済ましてきなよ、カズマ」

 

数分後、言われるがままに俺は風呂を済ませてアクアと交代。 晩飯にありついた。

 

「アクアはお金払ってたか?」

「いつもいってるが、いいんだぞ? そんなのは気にしなくて?」

「いや、さすがにタダ飯食うのは気がひけるんだよ。 1,000エリス払わしてもらうな、いつも通り」

「わーったよ。 あー、そうだ。空き部屋2つの掃除しといたから、自由に使ってくれ。 最低限の家具、ベットと机とかはあるからさ」

 

何から何まで申し訳ない気もするが、遠慮せずそうさせてもらうことにした。

 

「何から何までありがとうな、ハルヒト」

「なーに、俺の自己満足でしかないよ。 ちなみに、この先は資金貯めてホーム買うのか? しょーじき言って、うちにいてくれても構わないんだけど」

「俺がヒモになったらどうする気だ。 面倒見てくれるのか?」

「アホか。 お前がそんな風になるタマじゃないって俺の直感がそう言ってんだよ」

 

変わった奴だと思うが、この好意的なものに隠れて悪意も見当たらないからこのままで行こうか……いつまでも甘える気は無いが。

 

「そろそろ一週間経つんだよなぁ、こっちにきてから。 ハルヒトはいつも何やってんだ?」

「何やってると言われてもなぁ。 どう言う答えを望んでるんだ?」

「ああ、クエストだよ。 簡単に稼げるクエストとか知らないか?」

「初心者向けのクエストだと、カエル狩りかゴブリン狩りだな。 まぁ、まだ挑まない方が身のためだと思うぞ?」

「え、強いのか? カエルやゴブリン如きが」

 

素朴な疑問をハルヒトに聞くと、少しだけムッとした顔をしてハルヒトはこう答えてくれた。

 

「カエル如きって言っても、ジャイアント・トードは牛くらいの大きさをしてるし、ゴブリンは中級魔法で脅しても逃げないなかなかタフな精神力と群れて行動するから数の暴力を持つ魔物だ。 見た目に騙されて死ぬ駆け出しの冒険者を何人か見てきたから、舐めてかかると死ぬぞ? まず、ゲーム感覚で魔物を狩れると思うなら冒険者はやめるべきだな……カズマは魔王を倒す気でいるか?」

「え、マジか。 魔物が強いってこの街は駆け出しの街だよな? あと、質問に答えると日本に帰りたいって願いを叶えてもらいたいし、倒せるなら倒したいぜ?」

「そ、そうか。 切実な願いだな」

 

そりゃそうだろうと思う。 今でこそ労働の喜びを感じている以上、あんな部屋にこもってネットゲームに入り浸った不健康な生活はやりたく無い。 が、この世界には娯楽という娯楽が博打、カジノくらいしかない。

本はあるにあるが、一冊一冊が高い上に、ラノベ的なものは無い。

この世界そのものがファンタジーだから仕方ないと言えばそうかもしれないが、男として娯楽を求めたっていいじゃ無いか!?

だいたい、この世界は魔王軍に侵略されてやばいのではなかったのか? それに冒険者として、血肉湧き踊るようなやり取りはまだ一切やったことがない。 憧れると言えば憧れるけども、俺の貧弱なステータスで武器防具はまだ装備できないしなぁ……はぁ。

筋肉痛でガタガタの体を鞭打つようにしてがむしゃらに働いている今日この頃を見返して思う。 労働基準法のあった俺たちの故郷の日本がどれほど居心地のいい場所だったかをしみじみと思ったのだ。

バイトでも最低賃金は時給で750円↑が常識なんだから恐れ多い。

そんな労働基準法はこの世界じゃ何それおいしいの? 扱いで、存在すらしない。

ここはそんな世界なんだ、と諦観するのではなく、俺は前に向かって歩くことを選択することにしたから引く気もないけどな!

 

「やれやれ。 俺の使ってたお古の剣でよけりゃ貸してやるぞ? 切れ味とかは保証しないが。 カエルについては金属製の防具を身につけていたら捕食されにくいからな」

「……へ?」

 

思考にはまっていたが、ふとハルヒトが俺に声をかけてきた。

 

「はぁ、俺も付き合ってやんよ。 明日は狩を休む気だったけどなぁ。 ――冒険したいんだろ?」

「いいのか!? すごい頼もしいが申し訳なくもあるんだけど、本当にいいのか?」

 

思わず声に出してハルヒトを見据える、否、見つめる。

 

「そ、そんなにみつめんなよ。 その代わり、ヤバくなるまで手を貸さないって条件を飲めるか?」

「わかった、ヤバくなったら助けてくれよな? まだ俺は駆け出しなんだしさ!?」

「わーってるって。 そんじゃ明日の昼にでも行こうか」

 

その条件を俺は飲んだことを次の日に後悔することになるとはつゆ知らず、俺は意気揚々とベットに入り眠るのだった。

明日は冒険だ!

 

☆ こ の す ば !! ☆

 

「だわぁぁぁ!? 助けてくれぇぇぇ!」

「おーい、カエルから逃げてばっかりだといつまでも倒せねーぞカズマ」

「こんなのがカエルな訳ねぇヨォォォォ!」

「プークスクス! やばい、超うけるんですけど! カズマったら、顔真っ赤で超必死なんですけど!」

 

カズマの魂底(たまそこ)からの叫びをさらりと流しながら俺は水筒の水を呷った。

俺は普段着の白シャツとジーンズを着てイチイの弓をベルトに引っ掛けてカズマの動きを観察していた。

黄昏の剣を腰に佩てはいるが、抜くつもりはない。

今日ここに、カエル狩りに来てるのは俺とカズマ、そして俺の隣で腹を抱えて笑うアクアの3人だ。

ハルナは多分食べ物の屋台巡りか、ウィズさんの店でお茶でもして世間話に花を咲かせていることだろう。

ちなみに、ハルナ。 最近信仰を集めるようになって来たようで、何人かの冒険者に加護を頼み込まれて幸運を高めるアミュレットを作り、授けたらしい。

信仰のない冒険者のほとんどが勝手に信仰し始めかけていて焦ってるらしい――話が逸れたか。

 

「こんなに逞しいカエルだなんて思ってもなかったんだヨォォォォ! 助けてくださいぃぃぃぃ――アクアー! アクアー‼︎ お前もいつまでも笑ってないで助けろよおおおお! ハルヒトォォォォ! マジでやばいから助けてくれぇぇぇ!」

「まずは、私をアクアさんと呼ぶところから始めてみましょうか」

「アクア様ー!」

 

カズマはプライドをかなぐり捨てて、アクアに助けを求める。 ちなみに、アクアはカエル相手に武器なんて振り回さなくてもいいと、素手である。

舐めプもいいところだが、なんとなくアクアの起こす顛末を読んだ上で、注意しなかったが。

そしてアクアが大声でご高説を垂れ始めるとその声に反応したのか、カズマを追っていたカエルがこちらにやって来た。

俺はとりあえず、巻き込まれるのも面倒だったので、ススッとその場所から離れた。

 

「しょうがないわねー! いいわ、助けてあげるわよヒキニート! その代わり、明日からはこの私を崇めなさい! 街に帰ったらアクシズ教に入信し、1日3回祈りを捧げること!それから、高いお酒を私に3日に一度奉納する――ヒュグッ!?」

「あ、喰われた」

「アクアー!? お、お前食われてんじゃねえよおおおお!?」

 

捕食して飲み込むために動きを止めたカエルにカズマは果敢に向かっていく。

仲間の女を救うために彼はひたすら走っていた。

そして俺のお古でもある鉄の剣を振り下ろして、カエルの頭蓋をカチ割って倒していた……お見事。

アクアの足を掴んで二人掛かりで引き抜いてやると、カエルの粘液でネトネトになったアクアが泣きじゃくりながら俺に抱きついて来た。 うわ、生臭え!?

 

「ぐすっ、うえええええっ! ぐすっあぐぅっ!」

「よーしよし、怖かったんだな。 よく頑張ったよお前は」

「びえええええッ!! 怖がったの、怖がったのぉぉ!」

 

俺の胸にすがりつくように、泣きついて来たアクアを邪険に振り払うを是、とはできなかった俺はひとしきり泣いて彼女が落ち着くのを待つことにした。

カエルの粘液でネチョネチョになって泣くアクアと、カエルの粘液塗れになりつつもそれを抱きとめる俺と言うひどい画図をイメージすると色々萎えるので頭から振り払った。

 

「ううっ……ぐずっ……ありがど……ありがどうね、カズマ……うわあああああん……!」

 

礼を言いながらも泣くと言うなんとも器用なことをしているアクアの、粘液まみれの頭をえらいえらいと撫でてやり、慰める。

そしてまぁ、カズマはと言うと申し訳なさそうな顔をして俺とアクアを見ていた……なんだ? 俺の胸あたりもガン見してるよーな。

俺はカズマの視線を追い下を見ると黒い下着が、ブラジャーがシャツの下からこんにちわをしていた。

 

「おい、カズマ。 目線が露骨にいやらしすぎだ……さすがに俺も怒るぞ?」

「あ、ごめん!(さすがにガン見しすぎた……でも、ハルヒトって本当にけしからん躰つきだな)」

 

反射的なカズマの謝罪、しかし、目を逸らさないこの童貞をどうしてくれようか。 一応俺にも羞恥心はある。

裸を見られたわけではないが、なぜか冒険者の男達からエロいものを見る視線をされる時が時たまあったことがあり、少しだけトラウマ化していたのだ。

とりあえずアクアが泣き止んだので制裁を加えることにした。

 

「いい加減にしろ!」

 

俺は立ち上がり、カズマの元にズカズカと歩み寄ると、尻を蹴り上げた。 顔を真っ赤に染めた俺を見てカズマも唖然としていたようだが、蹴られた直後に

 

「いってぇぇぇえええ!?」

 

尻を単に突き上げるようにしてカズマは突っ伏していた。

 

「エロい目で女の人見て無事で済むと思ってたの? 世の中そんなに甘いと思ってたの? プークスクス! 超うけるんですけど!」

「ぐぬぬ、正論だが言い方に腹がたつ!」

 

復活したアクアに小馬鹿にされながらも、カズマは己の非を認めて次には謝って来たので

 

「さすがに、デリカシーなかったな。 ごめん」

「次はないようにな?」

 

素直に謝って来たのと、蹴り上げたことでチャラにしてやろうと思った。

 

「今日のところは、帰ろう。 見てて思った。 今のお前らには危険すぎるよ、このカエルは」

「大丈夫だったか? ハルヒトの言うことに俺は賛成だ。 今日はもう帰ろう。 せめて冒険者に見える格好になってから再挑戦しよう」

「愚問ね! 女神がたかだかカエルにここまでの目に遭わされて、黙って引き下がれるもんですか! 私はもう汚されてしまったわ。 今の汚れた私を信者が見たら、信仰心なんてダダ下がりよ! これでカエル相手に引き下がったなんて知れたら、美しくも麗しいアクア様の名が廃るってものだわ!」

 

日頃大喜びで大量の荷物運んだり(と、カズマから聞いた)、風呂上がりの晩飯を楽しみにして、居間のテーブルに突っ伏しながらヨダレ垂らして寝るあの姿を見れば(少なくとも屋敷ではあられもない姿をしてる)今の、粘液塗れのアクアの姿なんて今更な気がする。 まぁ、アクシズ教徒の大元らしい主神だと思うが。

 

「あ、おい待てアクア!」

 

カズマの制止を振り切ってアクアは駆け出した。

 

 

「カズマ……武器出しとけ」

「……お、おう」

 

俺が弓を構えるのを見てカズマは鉄の剣を鞘から抜いた。

駆ける勢いのままにアクアはその手に光を宿らせてカエルの腹に殴りかかった。

 

「あなたに恨みほ無いわ! でも、あなたの同胞が私に与えた屈辱の恨みを代わりに受け取りなさい! 神の力を思い知れ! 私の前に立ち塞がったこと、そして神に牙を剥いたこと! 地獄で後悔しながら懺悔なさい! ゴッドブローッ! その効果、相手は死ぬぅぅぅぅぅぅっ!!」

 

かっこいい口上と共に放たれたアクアの拳はぶよんとカエルの柔らかい腹にめり込むが、殴られたカエルにダメージらしいダメージは無いようだった。

打撃系の攻撃はあまり効果がない。 カエルのあの柔らかい体は並みの打撃攻撃が効かないんだよなーと考えながら。

 

「……か、カエルってよく見ると可愛いと思うの」

 

アクアの呟きが俺の耳に届く頃にはカエルが獲物を飲み込もうとして動かなくなった。

俺はカズマに協力して二匹目のカエルを倒し、粘液まみれで泣きじゃくる女神を連れ、今日の討伐を終えた。

カズマ達の倒さないといけないカエルの数は3体である……先が思いやられる滑り出しだった。

 

(続く)




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