頑張って魔法剣士になりたい元男に祝福を!   作:狭霧 蓮

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更新がGWなると言ったな…あれは嘘だ


第1章 出会いの秋!(あぁ駄女神さま)
この出会いに祝福を! ようこそ異世界へ!


部屋に差し込む朝日を浴びて俺は目を覚ます。

先日の轟龍モドキこと、スカルヘッド・ドラゴンの討伐のおりに出た報酬でとある屋敷を購入した。

その価格は2億エリスから値下げされて半額の1億エリスだったので迷わず購入した。

ちなみにだが、値下げの条件としてとある少女と同居状態にあるが。

 

「ふぁぁ…。 ん、おはよ。 アンナ」

《おはよう、ハルヒト。 今日は何をしに行くの?》

 

目の前の棚に置いてあるクマのぬいぐるみに声をかけると、挨拶が帰ってくる。

俺は軽く逡巡して今日の予定を立てる。 え? 誰と話してんのだって?

 

「そだなぁ……カエル狩りをして飯食って、狼退治をして風呂入って寝る。 こんなのだが?」

《えー、またカエル狩りなの? 私もさすがに飽きてきたのー!》

 

クマからぬぅっと少女が顔を出す。 むぅぅ、とむくれっ面をした宙に浮かぶ半透明な少女が俺にズズイっと顔を寄せてきた。

面白くないようだが、俺にも譲れない一線はある。

 

「バカヤロウ、お前は亡霊だから腹は減らんだろうが、俺は生きてる。 腹も減るし命も一つしかないだろ? 楽に稼げるならばそれに越したことはない」

 

相棒のハルナはまだ寝ているようで、無防備に臍を丸出しにして腹をボリボリとかく姿を見ていると、チート的存在とは思えないだらしなさだった。

白いワンピースを身に纏った小さな少女。 彼女はこの屋敷に憑いている幽霊のアンナ・フィランテ・エステロイドと言う。

俺は彼女を認識して視ることができて、話すことができる。 ぶっちゃけた話だが、ハルナの影響だろうと当たりをつけてはいるが、自信はない。

その要因は一切不明だからな。

アンナと雑談しながらナイトキャップを壁掛けに引っ掛けて、白の寝間着から普段着のジーンズと白のシャツに着替えると俺は園芸用の茶色のエプロンをかけて庭の片隅にある小さな石碑に向かう。

性懲りも無く生えて来ていた雑草の芽を摘み取ってから麻袋に入れて持って来ていたキレイな布で石碑、アンナの墓を拭いて掃除を済ませる。

 

「これでよしっと」

《ありがとうなの、ハルヒト!》

「別にいいさ。 気まぐれでやってるに過ぎないからな」

 

俺はこの子の墓守としてこの屋敷に住んでいる、と言うのは建前。 本音はまぁ、寂しがりなアンナを放っておけるわけもないから、だ。

いつかアンナが成仏するまで付き合ってやるつもりではあるが。

 

俺は日課となりつつある墓の手入れを終わらせて、朝食を摂り済ませ、ふと気がつくとアンナは屋敷のどこかに行ったようで姿は見えなかった。

そんでもってまだ時刻は8時であったが相棒のハルナを起こしに自室に戻ったら、クマのぬいぐるみが一人で動いていた。 軽いホラーである。

ぬいぐるみに憑依しているのはもちろんアンナ。 そのアンナ in ぬいぐるみはホタテのような貝殻にワタとバネを敷いて作られたベットのようなものの上で大の字で眠る小さな人をつつく。

 

《おーい、ハルナちゃーん、起ーきーろー。 8時なのー》

「ふぁい、おきましゅ〜……。 ただいまおきましゅ」

 

寝ぼけながら貝殻いっぱいに散らばった闇色の髪をまとめあげると手首に括り付けていた赤のリボンで括り、起き上がるのは星霊のハルナ。

かつての宇宙創生から今まで、悠久の時を生きる超越的な存在にしていくつもの世界を旅して巡る者。

二つ名、異名は数知れなくて謎の多い精霊の一種だ。

 

「おはようハルナ。 悪いが、今日も狩にいくぞ」

「了解です、マスター。 あ、アンナちゃん。 おはようございます」

《おはよーなの!》

 

クマのぬいぐるみの腕が動いてハルナとハイタッチを交わす姿はまるで滑らかに動く人形劇を見ているようだった。

ちなみにだがアンナはどんなぬいぐるみ、人形にも憑依できて関節がないにもかかわらずヌルヌル動ける。

その時は本当に気持ち悪いほどにヌルヌルとダンスを踊っていた。

この世には理解しがたい謎は多く溢れているのだから、なんとも言えないが。

 

ハルナの朝食が終わるのを待ちながら俺は身支度を整える。

シャツとジーンズを脱ぎ、畳んでしまうと戦闘服としている服に着替える。

黒のタンクトップに 赤いミニスカートと黒ニーソ。 それに赤い皮の強化ブーツを合わせて防具を身につけて赤のジャケットをはおる。

俺の赤髪に合わせるとどうしてもイメージが赤になってしまうが、今更だ。

黄昏の剣(トワライト・ソード)を手に取り鞘に収める。

黄昏の剣には自己修復能力があるのだが、夕日に当てるとさらに修復速度が早まる特殊な能力を持つ準神器だ。

切れ味も普通の剣と比べたら月とスッポンと言いたくなるほどの業物だが……神造兵装をお手本にハルナが作り出した原初の剣故に耐久性は高く、夕日を刀身に溜め込んで黄昏の焔を放つことも可能な剣だ(この事実は最近知った

そして、この前のスカルヘッド・ドラゴンとの戦いで折れはせずとも、刃がダメになった銀狼の剣をハルナに託してそれをベースに新たな剣を作り出してもらった。

その銘は聖暁の剣(サンライズ・ソード)

神造兵装である約束された勝利の剣(エクスカリバー)をモデルに設計されたらしいこの剣は日光を浴びると3日間かけて鍔に据えられた宝魔石に光を貯蔵する。

そして、最大まで光を貯蔵すると、この剣は光刃を放てるようになる。

輪転する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)とも違うが袈裟斬りに振り抜くと、光の波動斬を放てるわけではあるがその威力はまだ試していないため不明だ。

日当たりのいいかも窓際にかけてあったので、光の貯蔵はMAXまで溜まっているはずだった。

耐久性も抜群なので、試しに行った武器爆破魔法にも余裕で耐えていた。

 

新たな武器、新たな装いを立て鏡の前でチェックして不備がないかを調べたが問題はなさそうだった。

 

「よっし、準備完了だ。 アンナ、一緒に来るか?」

《はーい、私も行くの!》

 

言いながらアンナは俺の右手薬指にはめられた指輪に取り憑いた。

これはソウルリングといい、魂だけの存在となった幽霊を取り憑かせることができる魔導アイテムだ。

最も、取り憑けるのは無害な幽霊、亡霊に限るけどな。

 

自分の体の大きさの倍はあるはずのサンドイッチを食べきり、ご機嫌なハルナと合流した俺たちは屋敷を出た。

 

☆ こ の す ば !! ☆

 

カエルの討伐クエスト終わらせてほの達成報告のために俺はギルドに訪れた。 ハルナは何やらやることがあるとのことだったので、別行動である。

とまぁ、ギルドに訪れたのだが……アレってジャージだよな?

 

「おいこら、初っ端から挫かれたぞ」

「しょ、しょうがないじゃない。 急に転移させられてろくな用意もできなかったんだから!」

 

緑のジャージを着た茶髪の俺と同い年くらいの男が青髪の少女に食いついていた。 青髪の女についてはなんか見たことがある気がするんだが、気のせいか?

 

「――なぁ、アクア。 俺たち、なんかあの子にスッゲー見られてんだけど」

「え? カズマの自意識過剰じゃないの? クソニートがそんな自信もてるんですか? プークスクス! ちょーウケるんですけど!」

「なんだとこの駄女神が!? ニートじゃねえし! 出先で死んだからニートじゃないし!? …どうした、アクア?」

「匂うわ、アンデットじゃないけど。 迷える魂の匂いが!」

 

騒がしい連中だと俺は思った。 頼んでいたエール系の酒、クリムゾンビアを呷りジョッキを空にする。

そしておかわりを頼もうと、店員を呼ぼうとしたらあっちで話していた青髪の少女が後ろにいて俺の右手薬指にはめられたソウルリングを指差してこう言った。

心なしかリングが ビクゥッ! と震えた気もしたが。

 

「ちょっと、そこのあなた! お金貸してくれない!? じゃなくて、幽霊に憑かれてるわね?」

「おかわりたの……へ? 何言ってんだあんたは」

「私がすぐにその取り憑いてる幽霊を祓ってあげるから、2000エリス貸してください!」

「いや、まて。 大いに待て。 確かにこのソウルリングに友達を憑かしてるけど、害はないからお祓いは勘弁してくれ。 それとこれ。 連れの人と合わせて冒険者登録料は2000エリスだろう? 持っていきな」

 

とりあえずあまり深く関わらないほうがいいだろう。

 

「おい、アクア何してんだよ!? もらうわけないよなさすがに!?」

「アクア――まさか」

 

その名前を聞いて俺はピンと来た。 あった気がするわけだ、なるほどなと。

 

「アクシズ教の御神体がなんでこんなところにいるんですか? 女神アクア様」

「え、あなたあったこともないのになんで私のこと知ってるの!? ねぇ、なんで!?」

「だぁぁっ、何女神だってバラしてんだこのバカ!?」

「二人とも落ち着け、俺も転生者だ。 アクア様に関しては置いといて、ここに来たのやはいつだ? 日本人(・・・)くん?」

 

確信に近いものを持っていた俺はジャージの少年に尋ねて見た。

 

「てことは、あんたも日本人なのか……! って、蒼崎青子そっくりだな。 俺はカズマ。 佐藤カズマだ」

「よろしい。 俺はハルヒト。 剣無ハルヒト――こんななりだが、元男だ」

 

俺の自己紹介を受けて「え?」と言う目をしたカズマを殴りたい衝動に駆られたが、我慢した俺はアクア様改めてアクア、カズマ(カズマでいいと言われたので)の面倒をみることにした。

白状しとくと、同郷のカズマを見捨てることができなかったわけだ。

あと、アニオタ仲間は見捨てれるわけがないだろう? ……俺の価値観はそんなもんさ。

 

「ステータスが低すぎて、冒険者止まりだったんですけど……どうなってんだよこれ」

「崇め讃えなさい、カズマ! 私はアークプリーストよ!」

「とまぁ言うべきかこれは。 ようこそ地獄の入り口へ! なんてな」

 

こうして、俺は冒険者となったカズマと、レベル1のアークプリーストとなったアクアを自分の屋敷に居候させることにしたのだった……アンナが放って置けなくて購入したそこそこ大きな屋敷だったので、部屋は余ってるからな。

 

そして、1週間の時が流れるのはあっという間だったが

 

続く


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